第30話 結束
「皆簡単に言うが、真希は俺が知る中で最強の超能力者だ」
「でも今まで何とかなったんだろう?」
「それは幸運と偶然が続いただけで……とにかく彼女は透明の物体か何かを作り出してそれを自由に使いこなす。本気出したらどのくらい自由なのかは分からないが……」
「今まではどうやって対処してきたんだ?」
俺は過去二回の真希戦を思い出し、適切に言葉を選んで答える。あの勝ち方のせいできちんと事実を伝えられないのが大変残念だ。
「不意打ちに近い形だな。勝負と思ってないタイミングで仕掛ける的な。ただ、前もって自分の周りに展開しておくことは出来るような気がするし、こういう勝負で不意打ちは難しいと思う」
「しかし勝っているときは相手が能力を使ってないときで、能力を使われているときはそんな感じだと全然分からないな。とはいえ透明な物体を見極められるかもしれない案なら一つあるが、見えたとして対抗する方法は分からないな」
「あれ……これはまさか俺まずいことをしたのか?」
唐突に先輩がしまった、という表情をする。まあ、この流れになった元凶は先輩である以上本当にその通りである。
「今更気づいたのか」
「…………すまん、ちょっと二勝したから行けると思って」
むしろ最後勝てないから最初の二戦で勝てるように手を打ったのだが。普段は誰にも気を遣わない先輩も珍しく焦りの色を見せている。
「それについてはきちんと話してくれなかった真壁サイドにも非はあるが、まあいい。私は少し準備してくる」
神流川はそう言ってその場を離れる。
俺は途方に暮れた。龍凰院は協力し合えばと言ったがどう協力していいのかすら分からない。神流川は自分の献策の準備に走ったが、先ほども言った通り物体を把握するだけでは不十分だ。
「あの……どのくらい役に立つか分からないけどこれどうぞ」
今度は今まで黙っていた佐倉さんがおずおずとお札を差し出す。もしかしたら今までずっとこれを俺に渡すのかどうか考えていたのかも知れない。というか、こんなすごいものをもらってしまっていいのだろうか。ある意味超能力を譲渡しているのと変わらない気すらする。
「いいのか?」
「うん……もう、これを使う必要があることもないって信じているから」
佐倉さんの言葉に俺はずしりと重荷がのしかかるのを感じる。正直、全く勝てる予感はしないが佐倉さんの表情を見るとそうも言えない。
そんな俺の方へ今度は龍凰院が歩いてくる。
「先輩。もう準備できたんですね」
「おう」
俺は出来るだけ内心の不安を悟られないよう、短く答える。
「では私からはこれを」
龍凰院はポチ袋ぐらいの大きさの小さい布の包みを差し出す。
「これは?」
「困ったときに開けてください。本当は三つほど用意しておきたかったんですが、急いで作ったのでこれだけです」
「本当にそういうの好きだな。思うんだけどこれって絶対最初に読んだ方が適切なタイミングで策を実行出来ると思うんだが」
「えー、先輩はこのロマンが分からないんですか」
龍凰院は頬を膨らませる。
「だって勝たないといけないし……」
俺は当然のことを口にするが、龍凰院はむくれたままだ。
「はあ、仕方ないな。ピンチになるまで開けないでやるよ」
俺が諦めの声を漏らすと龍凰院の顔がぱあっと明るくなる。やはり俺の危機感はみんなに共有されてないな、と思ったが仕方ない。
そしてそこへ神流川が駆け戻ってくる。急いできたのか、普段は整えられている髪は乱れ、息も荒い。そして俺の目の前に持ってきたバケツをどさりと投げ捨てるように置いた。
「重い、こんな物持って走るとか本当ありえない」
そう言ってぜえぜえと息をする。しかしダッシュしたとはいえよくこんな短時間でこれを用意出来たな、と感心する。
「すまん、ありがとう」
俺はまた一つプレッシャーが増えるのを感じながらバケツを受け取る。バケツは俺への皆の期待を象徴しているかのように重かった。こうして俺は皆の期待を一身に背負って前に出る。
皆の期待もあるが、俺自身にも負けたくない、超能力研究会を解散したくない理由はあった。俺たちはみな少々残念な部分はあるがこれまで一緒に活動し、この勝負という目的を目指して一緒に準備もしてきた。そんな仲間を失いたくはない。元々は超能力仲間が欲しいという目的で作ったが、仲間であれば超能力が使えるかどうかは些細なことではないか。
「さて、待たせたな」
俺はさっそうと(しているように見えるように)前に進み出る。そこでは真希が不敵に笑いながら待っていた。
「随分時間稼いでくれたじゃない。にしても、危うくこの試合がなくなるところではらはらしたわ」
「戦わずして勝つ。これが俺の必勝の策だったんだがな」
「そしたら下校途中を闇討ちしていたところだったから。かえって良かったんじゃない?」
「……」
まあ闇討ちされるよりはこうして準備を整えて戦える方がいい。……いや、今までの二戦を振り返るに遭遇戦の方がいいかもしれない。まあ勝率はさておき負けても超能力研究会がなくならない下校途中戦の方が絶対いいに決まっているが。
「お前には関係ないが、この戦いには重要なものがかかってるんだ」
「……ところでその両手に抱えているバケツは?」
真希乃が痛いところをついてくる。まあ痛いもくそもこんなバケツを持っていたら誰だって聞いてくると思うが。
「これは超能力補助具だ。魔法使いが杖を持つみたいなものだ」
俺の口からは流れるように嘘が出てくる。
「まあいいんじゃないですかね」
審判の山下は目をそらしながら答えてくれる。一戦目で木刀がまかり通ってしまった以上大抵のことはだめとは言わないだろう。
「では三戦目を開始します」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。