第29話 暗雲
「超能力研究会本郷さん? の勝利!」
ルナ様というのが何者なのか知らなかったので不安はあったが、結局プロの能力者(?)の敵ではなかった。本郷はあらかじめ詠唱を準備しておき、バトル開始とともに呪いをかけてルナ様自慢の魔術を使わせずに勝利した。それだけである。
俺の計算によると、一戦目は佐倉さん(もしくは龍凰院の賄賂)でとり、二戦目はプロ能力者の力でとる。そして三戦のうち二戦勝利した方が勝つため、俺は真希と戦わなくて済むということになる。これが俺に出来る最強の真希対策といっても過言ではない。俺は計算通りにいったことに胸をなでおろした。
が。予知夢というのは蓋然性の高い未来を見る。その蓋然性の高さは俺が思っていたよりもっと高かったということを俺は思い知る。
「ちょっと待ったー!」
突然岩倉がつかつかと前に進み出る。何だ何だと思っていると、突然「大会規定」と書かれた書類を取り出し、後ろの方のページをめくる。
「これを見ろ!」
するとそこには細かい字で、「なお、最終戦は一戦で三戦分とカウントするものとする」ととても小さな読みづらい字で書かれていた。
「何だと!?」
俺は慌てて自分が配られた規定をめくる。もしかしたら岩倉が勝手に書き足しただけかもしれない、と思って。しかし面倒なことに全く同じ文言が俺の持つ書類にも書かれていた。
「どういうことだ」
神流川が鋭く山下を睨みつける。すると山下は力なくうなだれた。
「すまない、まさかこんなことになるなんて……」
察するに、岩倉は俺たちの想像を超える薄汚い人物だったのだ。二連敗することも考えてこの文言を入れるよう山下に言い、大将に絶対負けないであろう真希を配置した。それがルナ様でなかったのはちょっとひどい気もするが。そして、もし先に勝てばこの規定はなかったことにし、二連敗したら指摘する。恐るべき卑怯な保険である。山下は現在岩倉を気持ちの上では見捨てているが、規定を入れてしまった以上岩倉の言うことを聞かざるを得ない。過去の軽率な行動が命とりになるといういい例である。
「何だと、聞いてないぞ!?」「死ね岩倉」「こんなことが許されると思っているのか」「人間のごみクズ」
野次馬は当然の野次を飛ばすが岩倉は全く意に介さない。そんな彼の悪役ぶりに腕を組んだルナ様や、事態をいまいち把握していない真希も渋い顔をしている。
「すみません山下さん、これはどういうことですか?」
そしてルナ様は山下に声をかける。
「いや、それはその……手違いで……」
さりげなく自分の罪を手違いにしようとしていく山下。いける。この流れなら三戦目は消滅して超能力研究会の勝ちになるかもしれない。が。
「おいおい、そんな小細工で勝てると思っているのか?」
突然炎村先輩が不敵な笑みを浮かべる。最強の敵は有能な敵よりも無能な味方だと言う。
「は?」
その場にいた皆が怪訝な目で先輩を見る。
「真壁は我らの会長であり最強の能力者だ。それをあんなちびっこでどうにかなるとでも?」
あれ、この流れはまずくないか? 俺の中で急速に嫌な予感が膨らみ始める。俺の気のせいじゃなければこれは何だかんだあった末、「小細工など意味がないということを分からせてやろう」て勝負を受ける流れになるのでは?
「おい、適当なことを言うな」
俺は先輩に抗議するが先輩はにっこりと笑って親指を立てる。何だその仕草は。相変わらずこの人は他人の話を自分の都合のいいようにしか聞かない。
「その程度の小細工など意味がないということを分からせてやろう」
果たして先輩は俺の思っていた通りのことを言った。
「そうだそうだ!」「糞生徒会を見返してやれ!」「やつらに恥というものを教えてやるんだ!」
すかさず野次馬たちも同調する。まあ確かにこのまま二戦先取で終わったら野次馬的には全くおもしろくないというのは分かるが……。明らかに俺を応援してくれているのは分かるが、台詞の一つ一つが俺への逆境となっている。
「いや、そういうのは困るんだが」
そんなとき、神流川が毅然とした表情で登場する。
「不正は不正だから厳正に対処してもらわないと」
さすが神流川。まだ話してもないのに俺が真希に勝てなさそうということを分かっている。
「こっちもきちんと超能力の研究をしている訳だからいきなり潰されると困る」
が、岩倉は諦めなかった。神流川を見ると早口でまくしたってながら交渉を始める。
「分かった。じゃあこうしよう。今から第三戦をやってこっちが勝てばこれは不正ではなかったし、俺たちの勝ちになる。そっちが勝てばそっちの勝ちだし、ルナ様も超能力研究の手伝いをする」
「は? 私そんな往生際の悪いことをしてまで勝とうとは思わないんですが」
後ろでルナ様は文句を言っているが岩倉は必死で神流川に食い下がっている。
「ほら、こっちには本物の魔法使いがいる。これは超能力研究にも役に立つはずだ」
「だからそんなことは……」
ルナ様は文句を言っているが、この流れは非常にまずいのではないか。神流川はおもしろい小説を書くため俺たちと活動をともにしている。俺が負けたら超能力研究会が潰れてまずいからいったん無効を主張したが、相手がこちらに利のある提案をしてきたら……。しかも神流川にはまだ真希の脅威を詳しく話してない。何か劉備と曹操の例えのせいで同格みたいに思われていたら……
「なるほど、それなら受けてやろう」
「馬鹿! 何でそうなる!」
俺は地団駄を踏む。こうなったら残っている手は一つしかない。
「龍凰院、こうなったら買収して三戦目を消してこい」
突然の提案に龍凰院は目を白黒させる。
「でも、こちらが不正を糾弾する流れで買収はまずいです。野次馬の矛先がこちらに向きかねません」
「しかしこの流れはまずいぞ……」
「先輩も超能力研究会の劉備です。いくら相手が曹操のごとき強敵とはいえ、皆で協力し合えば勝つ方法もあるでしょう」
どうでもいいが、物語の都合で曹操と劉備は同格になっているだけで国力の差で言えば天と地ほどの差がある。
「いや、そういう問題じゃ……」
「大丈夫です。劉備も臣下の力を合わせて何とか曹操と渡り合いましたから。では私、ちょっとごねてきますのでその間に対策を話し合ってきてください」
「だから……」
しかし龍凰院は勢いよく飛び出していってしまった。そして山下や岩倉相手になぜか漢王朝成立について語っている。ていうか仲間がごねて時間稼ぎしている間に対策を話し合うって嫌な絵面だ。とはいえ、まずは情報を共有しないことには始まらない。俺は龍凰院以外のメンバーに話を始める。
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