第25話 魅了VS不正 Ⅰ
それから色々あって三本勝負の日が訪れた。色々なことがあったし、今日に関する重要な予知夢も見たがとりあえず最善の準備はした。そして俺たちは生徒会会議室という部屋に集められている。長机が方形に並べられていて黒板側に生徒会の人物が三人座り、俺たちが窓際に、魔術研究会の人々が廊下側に座っている。そして教室の後方には十人ほどの野次馬が詰めかけている。
「どうも、このたびは生徒会主催の異能力バトル三本勝負にお越しくださいまして本当にありがとうございます。進行は私生徒会の山下が行いますのでよろしくお願いします」
山下と名乗った男は眼鏡をかけてきっちり制服を着た優等生っぽい外見をしている。横に座る男女二人の生徒会員も似たような印象だ。
「前もって説明しておりました通り、超能力研究会と魔術研究会の二つの同好会は活動内容が被っているという意見が寄せられましたので公開の場で勝負を行い勝者が存続するということにしました。勝敗の判定は我々生徒会員の三人が行わせていただきます」
生徒会員の三人が頭を下げる。ちなみに、俺たちや魔術研究会の人々は今更なことなので静かに聞いているが野次馬たちは山下がしゃべっている間中こそこそとしゃべっている。まあ、生徒会がこんな頭の悪いことをまじめにやっているのだから当然だろうが。
「それではルール説明をさせていただきます。両会は先鋒、中堅、大将の三人を事前に届け出てポジションごとに三回勝負を行い、多く勝った方が勝利とします。詳細は配布資料をお読みください。それでは体育館に移動しましょう」
勝負はさすがに会議室ではなく体育館で行われる。俺たちがぞろぞろと移動すると、途中でいつの間に制服の上からフードがついた黒マントを羽織った見るからに怪しい人影が加わっていた。俺は体育館に入る直前に、ドアの脇にもう一人の黒マントとフードの人物がいるのを確認すると体育館に入った。
中に入ると、途中で野次馬らが加わりギャラリーの人数は少し増えていた。移動が終わると山下はおごそかに紙を読み上げる。
「ではこれより先鋒戦を開始します。超能力研究会の先鋒は佐倉輝帆!」
「はい」
うおおお、佐倉さん! と野次馬の一部から熱烈な声援が飛ぶ。相変わらず罪な女だ。そう言った声にいちいち笑顔で手を振ってあげているあたりがさらに罪なのだが。
「魔術研究会の先鋒は副会長の岩倉智樹!」
岩倉智樹。魔術研究会の副会長らしい。長身で眼鏡をかけた甘いマスクの優等生、というのがもっぱらの評判だ。龍凰院の調べによると生徒会は末期の後漢のように腐敗しており、もっぱら私情で色々決めているらしい。特に岩倉と山下は、岩倉が毎日購買に走ってパンを買いに行く、宿題とノートは毎日のように写させるなどひどい関係だったらしい。
「やつが能力者かどうかは知りませんが、おそらく山下は岩倉に有利な判定をするでしょう。岩倉はその筋では“卑劣の岩倉”とすら呼ばれています」
龍凰院が解説してくれるが、それは単なる悪口では?
「輝帆さんなら不正な判定をする余地もなくやっつけてくれるでしょうが、いざとなれば最終兵器があります」
いつの間にか輝帆さんとか呼ぶ仲になっていた。それはともかく、龍凰院は袖の中からちらっと図書カードを俺たちに見せる。
「……」
何というか、本当に最終兵器だった。それでも俺たちが「いくら何でもそれはないだろ」と言わなかったのには理由がある。
「山下さん、あれはいいんですか?」
佐倉さんは岩倉が取り出した木刀を指さして尋ねる。すると岩倉はきりっとした顔で答えた。
「あ、これ俺の超能力で出した物なので」
「そ、そうですね、超能力で出した武器はセーフです」
山下は佐倉さんから目をそらしながら答えた。さすがに野次馬からもブーイングが出るが、山下は目をそらし続けている。確かにこの光景を見ていると最終兵器の使用もやむなし、と思えた。というかすでに使うときではないかとすら思える。
龍凰院も最終兵器使用の合図なのか、佐倉さんに向かってわっかのようなものを挙げる。
「それ何?」
「これがあの有名な鴻門之会に出てくる玉玦ですよ。レプリカが売っていたのでつい通販で買っちゃいました」
龍凰院は少しうれしそうに語る。ちなみに鴻門之会は楚漢戦争の際の項羽と劉邦の会談で、項羽の軍師范増が項羽に劉邦を暗殺するよう促すのにこの玉玦を使ったらしい。が、佐倉さんは両手の人差し指をクロスさせて×印を作る。
「ふはは、この木刀の前にもうだめだということか? 痛い目を見る前に降伏するがいい」
岩倉は悪役然とした笑い声をあげて佐倉さんに襲い掛かる。こんなに三下感が漂う奴を俺は初めて見た。
「女子に木刀を振り上げて恥ずかしくないのか!」
「それのどこが能力だ!」
「死ね!」
すかさず野次馬から野次というかもはや罵詈雑言が投げかけられる。ちらっと魔術研究会の方を見るとさしものルナ様も目をそらしていた。
「うるさい! 降伏しないと言うならまじでやるぞ!」
岩倉は罵詈雑言をかき消すかのように絶叫すると木刀を振り上げて突進してくる。が、佐倉さんは堂々と立ったまま何かをポケットから取り出す。
「防げ。急急如律令」
佐倉さんが短く叫ぶと彼女の周辺に結界が広がった。岩倉は一瞬首をかしげたが「覚悟!」と叫びながら木刀を振り下ろす。多分全力で。しかし結界に阻まれて彼の木刀は軌道がそれる。結界と言ったが攻撃をはじいたから便宜上結界と言っただけで別に俺が結界の何たるかについて知っている訳ではない。あまりのことに岩倉をはじめ、野次馬まで体育館中がしんと静まる。
「な、何だこれは……」
ややあって岩倉が呟く。お前はこれがどういう勝負だか忘れたのか、という突っ込みが頭をよぎったが残念ながら驚いたのは俺も同じだった。
「まさかあいつも本物だったとは」
隣にいた神流川も同じく呆然としている。
「いや、だがこれはいいんじゃないか? 隠れた異能の力で人知れず妖怪とか化け物とかと戦う陰陽師物はありふれた異能力バトル物になってしまうが、異能の力で日常の理不尽をねじ伏せていくというのは新しいかもしれない」
そしてメモ帳にペンを猛烈な勢いで走らせ始めるのだった。それは新しいかもしれないけど、目の前で起こっていることにもう少し注目してもいいんじゃないか。
「さて、降参するなら今だけど」
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