第24話 魔術研究会との対決
翌日。俺が超能力研究会の教室に行くと、いつものように龍凰院と佐倉さんはいちゃついていて、それを横目に見ながら神流川が険しい表情で原稿を書いている。先輩は今日は『超能力入門』という本を熱心に読んでいる。その本を読んでも超能力が使えるようにはならないと思うが。平和な光景である。
俺は特にすることもないので情報収集のために超能力ものの小説を読むことにする。昨日は変な能力者が現れたが、そういうこともない日もある。しかしやつは本物の能力者っぽかったので一応クラスと名前だけは控えているが。
三十分ぐらい俺たちが教室でだらだらしていると不意にガラガラとドアが開く。
「誰だ」
「魔術研究会の吉野だ。前回うやむやになった対決の決着をつけに来た」
そこに立っていたのは例のシルフ使いである。
「いや、うやむやになっていたというかお前たちの負けだと思うんだが」
「こほん、細かいことはいい。とにかく、真の決着をつけるためにこのようなものを企画した」
うやむやにしてるのはお前じゃねえか。が、それを言う前に吉野は一枚のビラを俺たちに見せる。
『生徒会主催! 異能力バトル三本勝負 勝つのは魔術研究会か超能力研究会か!?』
生徒会は何てものを主催しているんだ。そういうのも生徒会の管轄なのか。
『生徒会のコメント:生徒の一部から魔術研究会と超能力研究会の二つもあって紛らわしい、似たような同好会が複数あるのは無駄ではないかとの意見が寄せられました。そのため、どちらがより優れた活動しているかを比べるため、公の場で対決をしていただくことにしました』
俺たちは別にバトルするサークルじゃないんだが。
『この勝負で勝った方の同好会のみ存続を認めることとします』
「いつの間に生徒会に手を回したんだ?」
今まで黙ってビラを読んでいた神流川が低い声で尋ねる。
「いや、俺は単に生徒会に超能力研究会なんて魔術研究会のパクリだからいらないって投書しただけだが」
生徒の一部ってお前かよ。
「それでその後どんな手を使ったらこうなるんだ?」
「いや……俺は本当に投書しただけだが」
「本当に分からないんですの? 生徒会は今この学校で増えていく超常的な力に関する団体の整理に躍起になっているのですわ」
そう言いながらやってきたのは現代日本ではまず見かけない縦ロールの髪型、周囲を見下すような鋭い視線、スタイルのいい体からは常時周囲を威圧するオーラを放っている謎の女子高生だった。こんな知り合いがいたらすぐ分かるし、後輩にしては態度がでかすぎるからおそらく三年だろう。
「今度は誰だ?」
「ご機嫌よう、超能力研究会の皆様。私が魔術研究会会長三日月流奈ですわ」
あれが噂のルナ様か。確かに様をつけたくなるような貫禄がある。
「しかしうちのような、私が言ってはなんだが弱小同好会が認められたのに本当に整理する気はあるのか?」
神流川はそんなルナ様にも物おじせず反論する。
「生徒会の考えることなんて私には分かりませんわ。私たちは勝手にあなた方と雌雄を決したかっただけで生徒会に頼むことなんてありませんもの」
「ほう、で、異能力バトル三本勝負ってあるがうちは別にバトルすることが目的の同好会じゃないんだが」
「心外ですわ。うちだってそんな野蛮な同好会ではありません」
つまり、この人が嘘をついていなければこの勝負は生徒会側から仕組んだということになるのか?
「じゃあやめようぜ。いくら生徒会が俺たちを戦わせたがっていても俺たちが両方とも辞退すればこんなバトルはつぶれるだろ」
するとルナは分かっていない、とばかりにふふんと笑う。
「確かにバトルが目的の同好会ではありませんが、私個人としてはあなた方との対決を望んでいますわ」
「そんな野蛮な……」
「何とでもいいなさい、今まで魔法を見せつけられる人が少なくてうっぷんがたまっていましたの」
能力者ってそんなやつらばっかじゃねえか。こいつら力見せびらかしたいからちょっとしたきっかけでべらべらしゃべる。正直俺には理解出来ないが、こいつらが超能力警察とかに捕まろうが知ったことではない。というか、意外とおおっぴらにしても大丈夫なのかとさえ思えてくる。だが、こんなバトルに無理やり巻き込まれるのは面倒だ。しかも負ければ超能力研究会は潰されてしまう。まあ、設立出来ただけでも奇跡なので元々という考え方もあるが。
「では楽しみにしていますわ」
そう言ってルナ様と吉野は帰っていくのだった。
「仕方ない真壁、こうなった以上勝つしかないだろう。なに、どうせあいつらもインチキ能力に決まってるさ。それさえ暴けば勝てる」
神流川はぽんぽんと俺の肩をたたく。いや、佐倉さんを呪っていたやつとかダウジング野郎とか色々本物っぽいやつはいたと思うが……ダウジングの方はいなかったことにしたのか。しかし俺はそいつらの他にも自分や真希という実例を知ってしまっているのでそうは思えない。
「だから私は原稿の方に集中するから。当日はおもしろそうだから行くけど」
なんか腹が立つ言い方だが、「相手は本当に魔術師かもしれないからまじめに対策しよう」とは言いづらい。第一相手が本当に魔術師だったとしてどんな対策したらいいのかが分からない。
「真壁君、私新しく出来たこの居場所、絶対に守ってみせるから」
神流川に代わってやってきたのは佐倉さんだった。
「守る?」
俺は彼女の言うことがよく分からずに問い返す。すると佐倉さんは自信ありげに笑う。
「私、三本勝負のうちどれかに出場する。それで、魔術研究会に勝つ」
「え、でも佐倉さんのあれは……」
そういえば佐倉さんは能力者ではなくおそらくただのあざとい振る舞いの人物であるということは本人には指摘してなかった気がする。すると佐倉さんは片目をつぶって人差し指で俺の唇を塞ぐ。
「それは秘密」
そして小悪魔めいた笑みを浮かべる。そんないたずらっぽいながらも自信に満ちた表情に俺は不覚にもどきりとしてしまう。……確かに、審判的な人にこの能力使えば勝てるかもしれないな、うん。それに実際問題勝負する人を三人は用意しなければいけないので一人は佐倉さんでいいだろう。
「それなら私は生徒会を調べてきます。突然こんなイベントが企画されるなんてやはり変です。二虎競食の計の可能性があります」
今度は龍凰院が言う。しかし生徒会にとって俺たちと魔術研究会が虎であるとは思えないんだが。こんな企画までして潰さなければならない相手なのか? 何にせよ、調べてくれるというのならばありがたい。
「ならば俺も勝負に備えて超能力を獲得してくる」
「ああ、先輩も勝負に出るんですか?」
「もちろん」
何がもちろんなのかはよく分からないが、先輩はぐっと親指を立ててみせる。正直いつもいつもこんなことを言ってて期待することは何もないが、他にして欲しいことは何もないのでいいだろう。
「じゃ、俺はこれで」
こうして突然降ってわいた勝負に俺たちの絆は少し深まったような深まらないような気がしたのだった。
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