第22話 ダウジンガー Ⅰ

 さて、そんなことがあった翌日。俺たちはいつものように(佐倉さんはまだ来てから二日だが)集まった。例のごとくいちゃいちゃする龍凰院と佐倉さん、それを悔しそうに横目で見ながら原稿らしきものを書いている神流川。締め切りが近いのだろうか。そしてそんな光景を犯罪者のような目つきで眺めている先輩。


「あのさ、何か女の子になれる超能力とかないのか?」

 先輩は小声で俺に聞いてくる。

「男でも女でも、ストーカーチックなことするやつは相手にされないと思うが」

「それなら透明になるしかないなー」

 先輩はそう言って嘆息する。やはりこの人は頭がおかしい。

 まあ先輩は放っておくとしてもこのまま女子三人の三角関係を放っておくのもどうなのかな、これでうちもサークルクラッシュしたら嫌だが人間関係のことは俺はよく分からない。そんなことを考えていると今日も部屋のドアがノックされた。我ながら、こんな変な同好会なのにこんな人がくるとは思わず少しびっくりする。

「どうぞ」

 俺が言うと、ドアががらがらと開いて一人の男子生徒が現れた。両手にL字型の針金のようなものを持った。あれはいわゆるダウジングというものに使うとされる器具の形だ。これはまた、変なやつが来たな。しかし、ダウジングが使えることを言いに来たんなら部屋に入ってから見せればいいんじゃないか? これではまるで、何かをダウジングしてきてこの部屋にたどり着いたかのような……

 俺が超スピードで思考をめぐらせていると男は口を開いた。


「ふむ、この中か、超有名作家がいるというのは」

 何だよそのダウジングは。そんなキーワードでダウジングしてるやつなんて初めて聞いたぞ。ダウジングってもっとこう、落とし物とかお金とかでやるんじゃないのか? が、それはそれとして彼の言葉を聞いて部屋には緊張が走る。そう、知っての通り神流川は作家だからだ。言うか言うまいか。そんな沈黙が少し流れた後、神流川が答える。

「ほう、それをダウジングで知ったと言うのか?」

「まあそうなるな」

 男は何とも言えない表情で答える。何か事情があるのだろうか。

「しかし本当にダウジングで分かったという証拠はあるのか? 私が作家であるというのは別に隠してはないからな」

 すると男は彼女に針金を向ける。


「いや、君からは超有名作家の波動は感じない」


 波動って何だよと思ったがそれどころではなかった。

「おい」

 神流川は低い声を一声発すると男の肩をわしづかみにする。

「な、何だよ」

 男も神流川の態度に少しひるんだ様子で振り返る。まあ初対面だし地雷を踏んだことに気が付かなくても仕方ない。

「私のことを馬鹿にしているのか?」

「そ、そんなこと知るか。ていうか本当に作家なのか!?」

「……もういい」

 神流川の怒りが頂点に達した。こめかみのあたりがひくひくしていて怒マークが見えるようである。


「それなら誰が私より有名作家なのか教えてもらおうか」

「ひ、ひぃ」

 どうもそいつの様子を見るに主体的にダウジングしてきたというよりは何かしようと思ったら超有名作家をダウジングしてしまったように見える。今も誰が超有名作家か確信している訳ではなく、びくびくしている。


 しかし一体誰なんだ? とりあえず俺は違うし、こいつ曰く神流川ではないらしい。となると残るは先輩と龍凰院、佐倉さんの三人となる。先輩にまとまった文章が書けるようには見えない。龍凰院は確かに三国志武将列伝とか書いていてもおかしくはない。佐倉さんは……謎だ。書いているようには見えないが、彼女の私生活を知るほど俺は親しくない。


「じゃあまずあの人……は違うな」

 男は先輩に針金を向けようとしたがすぐに向きを変える。

「おい、何でだよ。ちょっと待て」

「いや、でも針金が何か拒絶するんだ」

 男も申し訳なさそうに言う。やっぱり先輩ではないんだな。安心した。


「くそ、どうせそんなのインチキ能力に決まってる」

 そんな捨て台詞を吐く先輩を無視して男は次に龍凰院に針金を向ける。

「んー、こりゃ普通だな」

「何ですか普通って。そう言われると何か嫌なんですけど」

「違う、単に作家レベルが普通ってだけなんだ。人間としてどうかは知らない!」

 男はすでに神流川に睨まれているせいかしどろもどろになりながら龍凰院に言い訳する。しかしこうしてみてみるとこのダウジング能力は下手に使うと顰蹙を買うな。いや、単にこいつがデリカシーがないだけか。

「へー。まあそれならいいですけど」

 となると残りは佐倉さんしかいない。男が佐倉さんの方に歩いていくと、俺たちにも分かるレベルで針金が震える。本当にそういう能力なのか男が動かしているのかは不明だが、とにかく動いてはいる。

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