第21話 VS超能力ストーカー Ⅳ

 こうして俺は一安心して電話を切る。そして男に向き直った。が、俺が電話している間に男もぼーっとしていた訳ではなかった。


「△?%♯◆〇あ!“¥」


「う、頭が……」

 男は今度は俺に向かって謎の呪文を唱える。その瞬間俺は突然頭が痛くなり、しかも目の前に謎の老人の幻覚が見える。頭に角が生え、背後からはまがまがしいオーラが出、目は怪しく光っている。

「そうか、お前が于吉なのか……」

「違うそれはお前が最も恐れているものを映し出す幻覚だ」

「確かによく見れば小さいころめっちゃ怖かったおじいちゃん……」

 どうやらおじいちゃんは俺のイメージではこんな感じになっていたらしい。それはさておき、男が俺に突っ込みを入れた瞬間幻覚は消える。やはりこの能力は呪文詠唱が途切れた瞬間に途切れるらしい。

「くらえええええ!」

 俺は渾身の拳を男に突き出す。

「ぐはっ!」

 胸に手ごたえはあるが、所詮運動部でもない俺の力では男をよろめかせることが精いっぱいだ。

「くそ、覚えてろよ!」

 と捨て台詞を残して男は走っていく。


「誰か、あの男を!」

 叫ぶが、辺りに人通りはない。というか人通りのあるところだったらあんなに怪しいことを白昼堂々出来ないが。俺も後を追うものの向こうの方が足が速かった。が。


「ぎゃああ」「きゃあああ!」


 突然悲鳴を上げて男は転ぶ。ついでに聞いたことのある声で悲鳴も聞こえる。

「おい、佐倉は大丈夫か? 龍凰院と間違えはないだろうな!?」

 そう言って男とぶつかったのを無視して走ってきたのは神流川だった。

「お、おお神流川! それよりその男を確保してくれ!」

「は? いきなり何を言っているんだ?」

 当然ながら状況を全く理解しない神流川。構わず俺は男めがけて走っていき、口を塞いで取り押さえる。すると状況を理解しないながらも神流川はかばんからはさみを取り出し、男ののど元に突きつける。こういう察しの良さと機転の利かせ方が俺は本当にすごいと思う。……まあ、冷静に考えると恐ろしいことを平然とやってのけているわけだが。

「下手に動いたら刺す」

「くそ、俺が一体何をしたって言うんだ」

 男の問いに神流川が困惑する。

「私が知りたい。話せ」

「仕方ない、話す。俺はただ公道のど真ん中で魔法使いごっこをしていただけだ。そしたら突然こいつが俺に絡んできて……」

「そうなのか?」

 神流川が俺を見る。正直彼女も大分混乱しているようだ。そして確かにいい歳して魔法使いごっこは恥ずかしい行為ではあるものの、他人に責められるいわれはない。

「確かに、このまま言い合っても埒が明かない。佐倉さんを呼ぼう」

「いや、言い合うも何も私はお前の主張を何も聞いてない訳だが……」

 俺は困惑している神流川を無視して、犯人っぽいやつを捕まえたと龍凰院に電話し、二人が来るまでにこいつが何らかの能力者っぽいということを神流川に話した。


「なるほど、確かにそれは超能力、なのか?」

 神流川は首をかしげる。それは当然だ。俺のように能力の存在を確信している人間と違って神流川にとって超能力はフィクションなのだから。

「違う、そんなものある訳ないだろ。これはただのごっこ遊びだ」

 男は必死になって否定するがいい年した男がごっこ遊びと主張するのも納得しがたい。神流川はどちらの言い分も確信出来ず首をかしげていたが、そこに龍凰院と佐倉さんがやってきた。二人とも切迫した様子だったが、特に佐倉さんの顔は蒼白で、今にも泣きだしそうなほどだった。そしてそんな佐倉さんと目が合った瞬間、彼女はたたたっと俺の方に駆け寄るなり抱き着いてきた。

「お、おい」

「だ、大丈夫ですか!?」

 佐倉さんは俺を見て叫ぶが女の子の柔らかい体が全身に触れてとても大丈夫ではない。何より、こうして密着して分かることだが佐倉さんは胸がでかい。これは重要なことだが、俺はその状態を楽しんでいたのではなく動揺のあまり五秒ほど無言になってしまっていた。その後ようやく

「わ、分かった、大丈夫だからいったん落ち着け」

 と言ったのであった。

「すみません、取り乱しちゃって」

 佐倉さんはそう言って俺から離れ、深呼吸する。一方、神流川と龍凰院は俺のことを胡乱げな目つきで眺めているがあえて気づかなかったことにする。


「というか、佐倉さんこそ大丈夫か? 呪い的な何かっぽかったが」

「う、うん……ごめん、今まで私が入った団体の人が色々不幸な目に遭ってきて、真壁君も同じ目に遭うんじゃないかって」

「……」

「特にあいつの力は本物っぽかったから」

 最後に小さな声で付け加えた言葉は俺にしか聞こえてないと思う。

 俺は微妙な目で見てくる二人を意識の外に追いやりつつ考える。やっぱり佐倉さんは超能力の存在を信じている。それ故に能力者と対峙した俺のことを心配している。だとしたらここで俺に彼女を慰めるために出来ることは何か。


「大丈夫だ……何せ俺も超能力者だからな。超能力者が襲って来ようと災厄の能力を持つ者が入ってこようが大したことはない」

 まあ、俺は今佐倉さんの危険さを実感して困っている訳ではあるが。心配してくれるのは嬉しいけどこんなことされたら前情報がなかったら勘違いしていただろう。

「でもあのテレキネシス嘘っぽかったし……」

「ほ、本当に使えるから」

「じゃあ見せてよ。私にだけ」

 「私にだけ」の部分をささやき声で言いながら佐倉さんはぐいっと身を乗り出してくる。正直、気の利いたことは思いつかないがこの流れになった以上やるしかない。

「なら見るがいい。あ、指が……」

 俺は右手の親指を左手でとるという小学生でも知ってる芸を披露した。

「は?」

 一秒ほど、佐倉さんが真顔になっていた時間は一分一時間にも感じたが、すぐに佐倉さんはぷっと噴き出してそしてお腹を抱えて笑い出した。

「あはははははは、まさかそんな子供騙しみたいなことして。そんな、指がとれる訳がないでしょwww」

 まあ、無言よりは大分ましな反応だ。そしてひとしきり笑った後、佐倉さんは笑顔で言った。


「でも、何か悩んでるのもばかばかしくなってきちゃった。ありがとう」

 こうして佐倉さん襲撃(?)事件は幕を降ろした。その後俺は「一緒に龍凰院の家に泊まろう」という佐倉さんの誘い(もちろん龍凰院は「ありえねーよ」という顔をしていた)を断り、一人で家に帰った。ちなみに神流川は誘われていなかったが強引に押しかけていった。

 自称魔法使いごっこをしていた男には本当は拷問にかけて口を割ってもらいたいところだったが、俺たちがやることではないので仕方なく解放した。普通に考えて襲撃対象とその仲間に自分が超能力者であることを話すとは思えない。

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