第20話 VS超能力ストーカー Ⅲ
さて、何とか今回の襲撃は回避したが第二の襲撃がないとは限らない。というか、さっきのやつが諦めてくれたのかも不明である。それを考えると極めて危険ではあるが俺はストーカーを続けなければならない。ああ、今度ばれたら本当に終わりだな、と思いながら。
さて、ばれることが怖い俺は十分距離を置いてさらにイメージチェンジのために制服の上着を脱いで代わりにカーディガンを羽織って尾行することにした。ついでに、その辺の百均で買った帽子を被ってごまかしを試みる。向こうは俺がごまかしたせいか時折首をかしげているものの、本気で警戒している様子は見られない。本気で警戒して欲しいような、そしたら俺が尾行できなくて困るような、複雑な気持ちで俺は尾行する。
途中、買い物のためスーパーに入っていったときに見失ったものの出るときに再発見し、俺は学校のそこそこ近くにある一軒のマンションにたどり着いた。二人は仲良さげにエントランスに入っていくが、オートロックがあり距離を保ったままでは追い続けられない。
そこまで行って俺は考えた。佐倉さんを護衛するとしても家の中にいれば俺が手を出す隙はない。だとすると時々家の外に出るときか。しかし登下校の時間でもないので家から出入りする瞬間を狙って行動を起こすやつが果たしているのだろうか。いるとしたら、俺のようにこのマンションの近くで隙をうかがっているやつだろう。しかし俺が周りを歩き回ってみた感じではそんな人影はない。ということは俺はもう帰って明日の朝に待ち伏せを試みた方がいいのでは? と思ったときだった。俺の携帯が鳴る。神流川だ。
『すまん、突然打ち合わせがあって……それで今どんな感じだ?』
「ああ、佐倉さんと龍凰院が龍凰院の家にいったから俺は遠巻きに見守ってるけど……はっ」
俺は慌てて口を覆ったが、それで失言の内容までもが覆われる訳ではない。これではまるで「私はストーカーです」と宣言しているようなものではないか。神流川は俺の予知夢のこともさっき二人がストーカーにつけられていたことも(あれも俺だが)知らないだろう。俺が頭を抱えていると、
『そうか、ならすぐに行くから』
「え、いや、俺ももう帰ろうと思ってたところ……」
『ちょっと待たせるがそこで待っててくれ』
ぶちりという音とともに電話が切れる。
おい、俺も帰ろうと思ってたのに何で来るんだよ。というかこれはもう『ストーカーは絶対に許さない。制裁を加えてやるからその場を動かず待ってろ』ということなのだろうか。というか、その解釈の方が合理的な気すらしてきた。これから神流川に怒られるし、本来の目的であるストーカーは現れないし、いやまあ現れない方がいいんだろうが。
しかし、もしストーカーがマンション内で事を起こそうとしていた場合俺にはほぼどうにもならない。もしストーカーが明らかに怪しい恰好でマンションへの侵入を試みれば俺もそいつに続いてオートロックを抜けるという荒業がある。だが、そんな人がいるかいないかも分からないのに敷地に不法侵入するのもあまりしたくない。というか、神流川に申し開きがきかない。
ああ、犯人が分かりやすい恰好をしていてしかもマンションの外から超能力とかで佐倉さんを狙っていたら楽なんだが……ちょうどあそこの黒ローブを着て呪文をぶつぶつと唱えている男のように……っているじゃねえか!
確か佐倉さんがいた『救世の光』って本当に超能力者っぽい人がいるとも聞いている。これはもしかすると……俺はごくりと唾を飲み込む。が、残念ながらここからでは彼の呪文で佐倉さんがどうなっているかは分からない。俺はおもむろに携帯を取り出し龍凰院にかけてみ……ようとしたが番号が分からない。神流川なら知っているかもしれないな、と思いながら俺は再び神流川に電話をかける。
『もしもし、今向かっているんだが』
「すまない、ちょっと事情があって龍凰院の番号知りたいんだけど、知っているか?」
『まあ一応会長だから聞いているが……お前あいつのこと好きなのか? 何か家までストーカーしているらしいし』
「違う!」
ちなみにこうしている今でも目の前の怪しいやつは何らかの呪文を詠唱し続けている。これが長時間詠唱なのか短い詠唱を繰り返しているのかはちゃんと聞いていなかったのでよく分からない。そして違うとは言ったもののどう違うのかも説明できない。俺は無い知恵を絞って言い訳を考える。
「ほら、二人に何か間違えがあったら困るし、ここらで様子を確かめておこうかと」
『ま、間違えなんてある訳が……こほん、まあ会員同士連絡先を知っておかないと不便だからな』
どんだけ心配なんだよ。
「ありがとう」
俺は番号を聞くとやや一方的に電話を切る。何はともあれ今は佐倉さんだ。俺は急いで龍凰院に電話をかける。意外にも、電話はワンコールで繋がる。
「もしも……」
『先輩、佐倉さんが、佐倉さんが……』
龍凰院の悲痛な声が聞こえる。
「一体どうしたというんだ」
『于吉を殺した後の孫策みたいになってしまったんです!』
「は?……」
一般の人と持っている知識の分野が違うとこういうとき困るんだな。状況がまるで伝わってこない。孫策は孫権の兄だった気がするが、于吉って誰だっけ。
『えーっと……何というか幻覚を見て頭を抱えて転げまわってる感じですかね?』
まあ、孫策よりは大分分かった。最初からそう言って欲しい。
「まじかよ……とりあえずちょっとやってみたいことがあるから待っててくれ」
俺は携帯をポケットに突っ込むと明らかに怪しげなローブの男に無言で襲い掛かる。襲い掛かると言っても殴り掛かる度胸はないので詠唱をやめさせるために口をふさごうとするだけである。
「うおおおおおおっ」
「っ……誰だお前!」
男は振り向いて至極普通の反応をする。が、詠唱が止まるなら好都合だ。
「残念だがお前の好きにはさせない」
「な、なにを言ってるんだ」
男の方も動揺しているようで詠唱を再開しようとはしない。となれば確かめなければならない。この男が佐倉さんに仇なす能力者なのかただの変な人だったのか。
「どうだ龍凰院、佐倉さんの調子は!」
『あ、治ったみたいです。でもどうやって……』
「分かった、とりあえずいったん切るぞ」
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