第19話 VS超能力ストーカー Ⅱ

 さて、どうしたものか。俺が悩んでいるといつの間にか隣に炎村先輩が姿を現している。

「先輩、来てたんですね」

 先輩はずっとぼけーっと佐倉さんを見つめている。お前もか。ただ、先輩は佐倉さんに全く相手にされていないのであの二人とは違う。もっと言えば俺たちも相手にしてない。

「何で佐倉さん、俺の方には笑いかけてくれないんだ……いや、でもそれでもいい。俺は佐倉さんを見ているだけで……」

 俺が先輩のことを無視しているとだんだん先輩の目が据わってくる。まるでストーカーのような。そこで俺ははっと気づいた。そうか、相手に納得してもらえないならストーカーして護衛すればいいじゃないか。予知夢は一番蓋然性の高い未来だから俺は先輩を止めたんだろう。だが、予知夢を見たことで俺の行動は変わった。先輩が一緒にストーカーするのは嫌だが、俺は未来を変える。


「じゃあ私たちは帰るから」

「お疲れ様です」

 二人が下校時間より早めに席を立つ。一応今の活動は佐倉さんのあれが超能力かどうかの検証ということになっているので仕方ないが、俺より超能力の先輩である真希の言によればあれは能力ではないらしい。これは不毛ではないかと思うが、佐倉さんが誰かと一緒にいることは彼女の身の安全のためにはいいことなのでしばらくは言及しないことにしておく。


 さて、二人が教室を出ると「ちょっとトイレ行ってくる」と先輩が荷物を持って教室の外に出ていくので、俺も慌てて後を追う。途中で部屋の鍵を先生に返していなかったことを思い出したが緊急事態なのでスルーする。

 こうしてなぜか腕を組みながら歩く仲が良すぎる女子高生と、それをばればれに尾行する不審者、そしてそんな先輩を隠れ蓑にしつつさらに尾行する俺、という構図が出来る。が、そんな構図がいつまでも続く訳がなくやがて佐倉さんはぴたりと足を止める。龍凰院は「ん?」と怪訝そうに佐倉さんを見て先輩は慌てて近くの電柱に、俺は慌てて角に隠れる。


「つけられてる……」

「え」

 佐倉さんの言葉にみるみる龍凰院の表情が変わる。

「もしかして本家の……」

 が、その表情はめざとく電柱に隠れている先輩を見つけて呆れに変わる。

「あ、ただの炎村先輩ですよ。何してるんですか、そんなところで」

「でもこの気配は今まで感じたストーカーのものなんだけど……」

 佐倉さんは表情をこわばらせたまま言う。くそ、先輩がいるせいで予知夢で見た犯人がすでに佐倉さんをストーカーしているのか単に先輩がストーカーのオーラを出しているのか見分けがつかない……。


「そ、そうだ、俺はストーカーから佐倉さんを守ってるんだ」

 おいやめろ。そんな「今考えました」みたいな感じでその言い訳使ったら俺が見つかったとき同じこと言ったら嘘だと思われるだろ。俺はどうでもいいところから計画が崩れていくのを感じていたが、すぐにそれどころではなくなる。

 なんと視界の端に予知夢で見た逃げ去る犯人の姿を見たのだ。予知夢のことがなければちょっとぼーっとしている何の変哲もない通行人なのだが、こうなった以上こうしてはいられない。


「すいませーん!」

 俺は大声で叫び名がら通行人の元へ駆け寄る。

「はい?」

 男は露骨に怪訝そうな顔でこちらを向く。

「ちょっと近くのバッティングセンターまで行きたいんですが、道に迷ってしまって。案内してもらえませんか?」

 どうだ、確か一番近くにあるバッティングセンターでもそこそこの距離があった気がするぞ。俺を案内すればその間に二人は家まで行けるはずだ。が、俺の策は二秒で撃沈する。

「すいません知りません」

「そんな……」

 そしてさらに事態は悪化する。ストーカー行為が見つかって逃げ出す口実を探していた先輩が俺を見つける。

「おお真壁じゃないか、バッティングセンターに行きたいのか。なら連れてってやるよ」


 違う! お前はまだこのままずっとストーカー行為について詰問されていた方がましなのに。ここで俺とお前がいなくなったら予知夢の通りになるじゃねえか! 

 俺は心の中で絶叫したがそれで先輩を倒せる訳でもない。更なる言い訳を考えようと思ったがとっさには思いつかない。かくなる上は自爆するしかない。ただしこいつも巻き込んで。

「そうだ、よく分かったな。確かに認めざるを得ない」

「……何が?」

 龍凰院が怪訝な目で俺を見る。

「俺も先輩と同じようにお前たちのストーカーだ」

「おい」

 先輩が俺を睨むが気にしない。お前のせいなんだからな。そして途端に軽蔑の眼差しになる龍凰院。が、佐倉さんは怪訝な表情になる。

「でも真壁君からはストーカーの気配は感じないけど……」

「いいところに気づいたな。それは俺がストーカー界では一番の雑魚だからだ」

「???」

 佐倉さんは俺の答えに混乱を深めている。

「つまり、俺以外にもストーカーはたくさんいるから気をつけろよってことだ」

「???????」

 さらに困惑が深まる二人。ここまで来たらもう破れかぶれだ。

「という訳でストーカーの俺たちは帰るぞ」

 そしてぽんぽん、と先輩の肩をたたき自然な流れで通行人の肩もたたく。するとやはりやましいところはあるのか一瞬びくっとする。そして先ほどの俺の不自然な声掛けにも思い至ったらしい。俺が歩いていくと、先輩と一緒についてきた。そして女子陣の視界から外れると逃げるように去っていったのであった。

「ふう、危機は去った」

「助かったよ真壁、お前のおかげで俺はストーカー疑惑を逃れられた」

 笑顔で俺の肩をぽんぽんしてくる先輩。いや、先輩も一緒にストーカーになったと思うが。とはいえ感謝される分には構わないので、俺はそれは口に出さずにあいまいに笑う。

「じゃ、俺はここで」

「おう、じゃあな」

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