第18話 VS超能力ストーカー Ⅰ

 が、事態は思わぬ方向に動く。その日俺は予知夢を見た。


 夢の中で俺は一人で歩いていたが突然携帯が鳴って電話に出る。そしてどこかに走っていくのだが、お腹を抑えてうずくまっている佐倉、逃げていく男、近づいてくるパトカーと救急車のサイレン、そして傍らで呆然と立ち尽くす龍凰院というイメージが広がる。


 俺は学校を遅刻することを覚悟してスマホで「サークルクラッシュ」という単語を調べた。ネット上の検索結果が事実ならあざとい仕草をする女性が人間関係慣れしていない集団に入ってくると男性は彼女を巡って争いになり、女性はそんな男性に嫌悪感を向けてサークルの雰囲気が悪くなり最悪解散に至るらしい。超能力も使わずにそんなことが出来るのか、と俺は疑いを抱きつつもさらに読んでいくとサークルクラッシュが原因で刃傷沙汰に至った事件もあったという。

 ということはやはり、あの襲撃事件は前に入っていた集団というのと関係があると思われる。しかしいくらサークルクラッシュが原因で事件が起きるからって、突然それを警戒し始めるのは無理がある。かと言って予知夢のことを話す訳にもいかず……俺が悩んでいるといつの間にか放課後になっていた。

 仕方なく俺は同好会の教室に行く。そこではすでに龍凰院と佐倉さんがいちゃいちゃしていた。

「私あなたのおすすめで三国志読んだの」

「本当!? 一日で読むのなんてすごいですね!」

「まあ子供向けのちょっと分量が薄いやつだけどね」

「大丈夫です。何から入ってもいずれは一周することになりますから」

 ……話してる内容は普通(?)なのだがお互い無意味に手を握り合っているせいでそっちに気を取られてしまう。


「あ、こんにちは」

「こんにちは~」

 しばらく雑談した後でようやく二人は俺の存在に気づく。いや、佐倉さんは気づいていながら龍凰院との会話を優先したのではないかとすら思えてくる。

「お、おう」

 俺はすごくいづらい空気を感じたが、今朝予知夢を見た以上聞かなければならないことがある。


「やあ」

 そんなことをしていると神流川が入ってくる。俺は二対一の空間から解放されたとほっとするが、なぜか神流川は不機嫌そうに龍凰院を見つめている。これ、別の二対一が始まってるだけじゃねえか。これは問題がこじれる前に俺が間に入らなければ。俺は雰囲気に圧倒されそうになるがそれを振り切って口を開く。


「ところで佐倉さんに聞きたいことがあるんだが」

「ん、何かな?」

 佐倉さんはこちらを見て人懐っこい笑みを浮かべる。龍凰院の手を握ったまま。何なんだこいつ、と思いながらも俺は尋ねる。龍凰院どころか神流川まで「くだらないことを聞いたら許さない」という目で見てきて怖い。

「前にいた団体ってどんなところだったんだ?」

「一つ目が『世界の真理を見る会』」

「何だその怪しげな名前は」

「うちでオカルト好きな人たちが何となく作った同好会なんだけど、私と男子四人だけの小所帯だった。でも、だんだん会長以外の三人の仲が険悪になって、まともに活動出来なくなったからか、解散した。そのとき、会長が私を誘ってくれて、学校外の『オカルトを研究する市民の集い』ていうところに入れてくれたの。そこはもう少し長く続いたんだけど、やっぱり他の人の人間関係が悪くなって、私もストーカーされたりして……で、主催の方のおすすめで脱会して次のところに行ったの」

 そう聞くと主催の方は思いやりのある人物に聞こえるが、単に厄介者を他の団体に送り付けただけである。

「ちなみに真理を見る会の会長は?」

「そう言えば、それ以来会ってないけど、どうなったんだろう?」

 佐倉さんは首をかしげる。そいつは佐倉さんが元凶だと気づいてそこで別れたのだろう。

「最後は『真実の光』ていう今思えば宗教系のところだったんだけどここが一番規模が大きくてしかもやばくて。ただのオカルト好きとかじゃなくて超能力持ってるらしい人とか、明らかに普通じゃないものがあったりして。でもそこも色々あって解散した。導師とかいう人に呼び出されて『お前が全ての元凶だ』とか言われたりもして、怖くなって最後はあんまりちゃんと行ってないけど」

 なるほど、話を聞く感じだと一番逆恨みして襲ってきそうなのは最後のところだな。それに先の二つは今更感もあるし。


「なるほど、そういうことでしたらうちに来ませんか?」

 唐突に龍凰院が口をはさんでくる。

「え?」

 これには佐倉さんも困惑する。それに、もっと本気で止めにいく人物もいる。

「なぜそうなる」

 神流川だ。が、龍凰院は熱意をもって語り掛ける。

「うちは一人暮らしなのでいきなり他の人が泊っても大丈夫です。佐倉さんも一人じゃ不安でしょう」

「いや、女子が一人から二人になっても危険度が変わらないし、かえって別の危険度が増している。その点うちなら親も……」

 しれっと自分も乗っかってくる神流川。が、龍凰院も引き下がる様子はない。

「別の危険って何ですか? はっきり言ってもらわないと分かりませんね」

「そ、そんな年頃の女子が一つ屋根の下二人きりになったらそりゃあ……」

 そこまで言うと神流川は顔を赤くして言いよどむ。自分でも言いたいことがよく分からなくなったのか、そういう系の想像をして言いよどんでいるのかは俺には分からないが。

「そりゃあ?」

 が、龍凰院は追撃を諦めない。ここで何となく勝った感じになっておいてそのまま佐倉さんをお持ち帰りしようとの魂胆に違いない。

「そりゃあ……」


 神流川が何かを言いかけたところで携帯が鳴る。神流川は「くっ」と悔しそうな表情になり電話に出る。

「もしもし、今危険が迫っていて……え? それは本当ですか? くっ、確かにそっちも危険ですね。……分かりました、遺憾ですが対策を練りましょう」

 神流川は断腸の表情で電話を切る。

「くそ……編集からだ。今日は急用が出来たから帰るが佐倉さんは渡さないからな!」

「渡すとか渡さないとかよく分からないですが、それなら急用とやらを優先してください」

 龍凰院は勝ち誇ったように言う。そう言えばあいつ小説を書いているとか言ってたが、プロだったのかよ。てっきり趣味で書いてるものかと思っていた。


 そして神流川が後ろ髪を引かれながら帰っていくのを尻目に佐倉さんは言う。

「うーん、もう何週か経ってるし怖くはないけど……でもお友達の家に泊まるのは楽しそう」

「やった!」

 これが勝ち馬に乗る作戦か。コミュニケーション力が高い奴はさすがだな。だがなるほど、こういう経緯で二人は夢の中で一緒にいたのか。


「ところで編集って?」

「確かに、私もそれ気になる」

 龍凰院と佐倉さんが首をかしげる。

「あいつ小説を書いてるらしいぞ」

「「へー、小説家……」」

 そのとき龍凰院の反応はただの感心だったが、佐倉さんの表情には興味が混ざっているように見て取れた。いや、まさか「小説家でお金持ってたら仲良くして貢がせよう」とかは思ってないよな?

 しかしそんな妄想はさておき龍凰院は大丈夫かな。そのうち神流川と関係が悪くなって同好会クラッシュとかしないといいが……しかし冷静に考えるとおかしいな。何で女子同士で仲良くなってクラッシュするのを俺が心配しないといけないんだ。普通逆だろう。というか、俺が佐倉さんにどきどきしないのは女子二人があまりにあんまりなのではたから見ていて逆に冷静になっているからではないか。

「じゃあ今日の夕ご飯どうします?」

「食べに行く? 一緒に作る?」

 二人はきゃっきゃうふふと楽しそうに会話している。

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