第17話 VSガチ超能力少女

 まさに青天の霹靂、目から鱗である。普通の人間でもあんなにすぐ他人に自分に好意をもたせられるのか。下手な能力者よりよっぽど怖い。いや、でもそれでは説明できないことがある。

「だが待て! それだと俺が魅了されてないことの説明がつかない! 自慢じゃないが俺も人間関係には慣れてない!」

 何で公園でこんなことを大声で叫んでるんだ俺は。その辺で遊んでた子供たちは俺の方を見て何かひそひそと語り合っている。やめろ、お前たちも将来人間関係で困ることが絶対あるぞ。

 すると真希は少し考えた後でいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「もしかしてあんた、好きな人いるんじゃない?」

「……は? そんな訳ないだろ」

 というか何の話だ。

 が、俺の脳裏には一人の女子の姿が横切る。


「好きな人がいるから多少あざとい人がいても心が動かないんじゃない?」

 真希は畳みかけるように言う。

「そんな、俺が本間茜のこと……」

 俺は口に出した瞬間後悔する。何であいつに俺の気になる人情報を教えてやらねばならないんだ。

「え、誰だって!?」


 が、幸いなことに彼女の耳には俺の言葉は届いていなかったようである。俺はこれ幸いと慌てて口をつぐむ。すると真希乃は俺の好きな人が気になるのか、ジャングルジムから降りようとして思いとどまった。そんなに俺に対して位置的優位を確保していないと怖いか。

 ともかく、真希乃は俺に向かって手の甲を向けて人差し指をくいっと引く「カモン」のジェスチャーをした。すると俺の体は見えない力に動かされてジャングルジムの方に引き寄せられる。ちなみに、周りからはちょっと足がもつれたようにしか見えないだろう。やはり彼女の能力の強さには舌を巻かざるを得ない。


「で、誰が好きだって?」

 興味津々といった面持ちで彼女は尋ねてくる。彼女の様子から察するに、これは俺の好きな人を知ってからかいたいということなのだろう。もちろん「知らない」と言ってただで帰してもらえるとは思えない。


 そこで俺は考えた。いや、考えたというか最初に会ったときの印象がパンツしかなかったのでそこに引き寄せられただけな気もするが。真希は能力の都合なのかただ俺を見降ろしたいのかジャングルジムの上に腰かけている。制服のミニスカートで。こんなときシルフが使えれば苦労しないのだが、俺にはシルフなしで事を成し遂げる実力がある。

「……んま……ね」

 俺は照れて大きな声を出せない風を装って答える。いやまあ、装ってというか本当に恥ずかしさもあるのだが。

「は? 聞こえないんだけど」


 真希がいらだったように言う。

 俺は自然な流れでジャングルジムに近づいていく。真希もそんな俺に向けて耳を澄ます。そして。不意をついて俺は走り出した。このままジャングルジムの下まで行ってしまえば彼女のパンツを見ることが出来る。別に俺はパンツを見たい訳ではないが、能力で劣っている現状そうすることでしか俺は勝ちを収められない。

 特別な条件を達成するとラスボスを倒せる裏技的なものだと思って欲しい。断じて下心ではない。


「もらった!」


 俺がジャングルジムの下に駆け込もうとしたとき。不意にごちん! という音がして俺は何かにぶつかる。俺は額にじんわりと広がる痛みも無視して考える。いくら俺がパンツに夢中になっていてもさすがにジャングルジムにぶつかるようなへまはしない。ということは……


「ふあーはっはっ!」

 俺が額を抑えて考え込んでいると突然上から高笑いが聞こえた。案の定、真希が俺を見降ろして悦に入っている。

「良かった、自動迎撃壁を設置しておいて。危うく不意を突かれるところだったわ。でも今度は私が一枚上手だったようね」

 が。これも俺の推測なのだがこの力場、というか真希が作り出した何らかの物体は普段はオフになっていて、普通のその辺の子供とかがジャングルジムに近づいても発動しないようになっているのではないか。で、どういう原理かは不明だが俺の接近に反応して発動した。そしてジャングルジムを覆う物体が生まれる。そのためたまたま近くでジャングルジムで遊んでいた子供も一緒に突如現れた物体に吹き飛ばされる。


「ぎゃああ!」


「え」

 反射的に子供に手を差し伸べる真希。幸い彼の手を掴んだものの、真希はバランスを崩す。

「お、おい」

 嫌な予感がした俺は真希と男の子の方へ駆け寄る。すると案の定男の子の体重を支え切れなくなった真希は男の子もろとも落下してくる。

「きゃあ!」

「大丈夫か」

 俺は慌ててキャッチしようとするが別に運動神経がいい訳でもない。結果、


「うわあああ!」「きゃあああ! 出ろおお!」


 俺たちは悲鳴を上げながら正面衝突し、俺はお腹辺りにぶつかってきた二人分の体重を支え切れずに地面に叩きつけられる。衝突寸前に真希乃が発動した能力のおかげか俺は地面に叩きつけられる痛みはあまり感じなかった。

「う……大丈夫か?」

 俺は目を開ける。すると目の前には見覚えのある白い布が見えた。何だっけ、と思っているとそれは俺の上に乗っている真希乃の一部ということが判明する。そうか、これは真希乃の……というところまで気づいたところで、


「きゃあああああ!」


 真希乃の悲鳴とともに俺の視界はブラックアウトした。そんな能力も使えるのかよ、と思ったが後で聞くと単に殴って気絶させただけらしい。

 

 さて、それから俺たちが状況を把握して落ち着くのに数十分を要した。結果から言えば俺たちは下から順に真希乃が作った物体、俺、真希乃、男の子、という丈夫そうな順で折り重なっていたため大きな被害はなかった。男の子もジャングルジムの途中手が滑ったと納得して帰っていった。そして後には顔をそむけたままの俺たちが残された。

「その……不可抗力とはいえすまないな」

 直前に見ようとしていたことは棚に上げて俺は謝る。

「いえ、別に……今回は私の力の制御が不十分だったからだし。やっぱり、力が強くても使う場面がないと使いこなせないな」

 ゲームでいうところのゲーム内での経験値とプレイヤーの経験値というやつだろうか。にしても彼女のこういう反応は珍しい。珍しいもくそも会うのは二回目だが。

「……落ち込んでるのか?」

「まあね。私の不注意とはいえ、これで二連敗だから……ってあんたに慰められる云われはないっての」

「それはすまんな」

 超能力者の気持ちはよく分からないのでどうしていいか分からない。

「ま、まあいいわ。とにかく、さっきの話の人は多分能力とかじゃないから! でもせいぜいそんなやつに惑わされるんじゃないわ!」

 そう捨て台詞を残すと彼女はたたたっと駆けていった。ともあれ、俺は聞きたかったことも聞けたし遭遇戦には勝利したことにもなる。

「あれ、でも能力じゃないことは分かったけど対処法は……」

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