第16話 VSガチ超能力少女 Ⅰ

 その日、俺は本当に人間関係がめちゃくちゃになる前に何とか皆を解散させると、絶対にかけるものかと思っていた電話番号が書かれたメモを取り出す。

「いいか、落ち着け俺。別に相手は彼女とかじゃないし、最悪親に嫌われても振り出しに戻るだけだ」

 そして俺は名も知らぬ超能力少女の家に電話をかける。番号を入力する手は震え、フリックを二回ほどミスり、汗までにじんでくる。落ち着け俺、あんなやつ相手に緊張しなきゃいけない理由なんてないだろう。


『もしもし』

 数コール目で相手が電話に出る。とりあえずこの声は本人ではない。ここが正念場だ。俺はごくりと唾を飲み込み、相手の名前すら知らないのを不審に思われないようにごく自然を装って話す。

「もしもし、真壁といいます。いつも娘さんにお世話になっています」

『はーい、ちょっと待っててね』

 母親らしき人はいったん電話を置く。そしてかすかではあるが「真希、お友達よー」という声が聞こえる。なるほど、彼女は真希と言うのか。「おかしいな、家電教えた友達なんていないはずなんだけど」そんな彼女の返事もかすかに聞こえる。そりゃ今のご時世普通携帯教えるよな。それはそれとして、俺は友達じゃないので彼女の言葉は正確である。

『もしもし、真希ですが……どなた?』

「俺だよ俺」

 言ってから気づく。そう言えば俺は名前言ってないから名乗っても分からないじゃん。

『俺々詐欺の方ですか? 私子供いないんですが』

 彼女の言葉が露骨に不審そうになる。いや、オレオレ詐欺だったら娘には変わってもらわないけどな。しかし早くしないと切られてしまう、と思った俺は必死であのときの思い出を思い出し一番すぐに思い出したことを述べる。


「違う、俺は俺でもお前の下着を見た俺だ」

「……ッ」

 気まずい沈黙が流れ、俺は自分の失言を呪った。確かに一番印象には残っているがそれはだめな印象だろう。最悪この場で母親にばれて通報される可能性まであるのではないか。俺が最悪の想像に悶えていると、絞り出すような声で応答があった。

「その話はここではまずい。こちらが指定する公園に来い」

 確かに超能力の話も下着の話も母親の前では出来ない。いや、下着の話はこれ以上広げるつもりはないが。

 

 こうして、俺は指定された公園にやってきた。この辺りは公園が多い訳でもないので、先日本間耀を呼び出そうとしたときと同じ公園で俺はなつかしさすら覚える。そう言えば本間茜はこの入口でここに隠れている伏兵を見ながら入ってきたんだな、と感慨に浸りながら歩いていると。


「そこで止まりなさい」

 聞き覚えのある声が響く。声の方を見ると、超能力少女真希が公園の向こう側の方にあるジャングルジムの上に腰かけ、こちらを見下ろしている。しかも目をこらして見ると彼女の周囲に力場のようなものが出来ていて、蜃気楼のように空気が揺れて見える。近づこうとすると阻まれたりするのだろうか。


「先日の一件であなたを過小評価していたことが分かったわ。今回はこの距離から話しなさい」

「わ、分かった」

「ん、どうしたの? 聞こえないんだけど!」

 どうでもいい一言すら届いていなくて苛々する。

「分かった、て言っただけだ!」

 俺は叫ぶようにして答える。距離が遠すぎて会話するのも一苦労だが不用意に近づけば狙撃でもしてきそうな剣幕なのでうかつに近づけない。彼女にそういう系の力があるのかは不明だが。

「それで今日はどういう用件な訳?」

 一方の真希は多少声を張っているだけできちんと会話が出来ている。ここでも俺は格差を感じる。


「実は、最近新しい能力者が現れて……」

 何で俺は能力者がどうとかいう話を公共の場で大声でしないといけないんだ。そんな思いを抱きつつも、俺は出来るだけかいつまんで佐倉さんのことをしゃべる。

「という訳で、俺はどうしたものだろうか!」


 すると真希は呆れた表情で俺を見た。というか、基本的に呆れた表情と軽蔑の表情でしか俺を見てくれないが。

「それ能力じゃないから」

「は?」

「だから、それは単に人間関係に慣れてない人が自分に対して気があるって勘違いしちゃってるだけだから! 能力じゃなくてれっきとしたサークルクラッシュという出来事だから!」

「ええええええ!」

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