第12話 幽霊会員 Ⅳ
「このまま終わってたまるか!」
翌日、俺は先輩と神流川、龍凰院を集めると宣言した。そんな俺の様子を見て彼ら彼女らは「はあ?」という顔をする。
「俺たちは本間耀にいいようにもてあそばれている。絶対に彼女の正体を暴かなければ!」
「いや、昨日のはつい家探しをしてしまった私たちの自滅だろう」
神流川がやや罰の悪そうに言う。
「それに出席日数とかあるしそのうち学校には来るだろう」
「そんな悠長なこと言ってられるか!」
「ではどのような策があるのでしょうか? このまま不法侵入を繰り返すと本当に捕まってしまいます」
ちなみに龍凰院がお説教が終わった後に述べた第一声が「見事な空城の計でした」であった。だが、あれは俺たちが不法侵入をしたのがいけないだけで向こうは大したことはしていない。
「ふふふ、俺たちはただ散々な目に遭って敗走してきた訳じゃない。これを見ろ」
俺は得意げに“秘密日記”を取り出してみせる。だが、俺の予想したリアクションは得られなかった。なぜか神流川は携帯を取り出しどこかに電話をかけようとしている。
「待て、その携帯は何だ」
「いや、犯罪を見逃すのも犯罪だから。ただでさえ不法侵入したばかりだというのに」
「おい、それは待て。俺の話を聞いてくれ。これは本間耀に返すから」
「……本当か?」
神流川が冷たい目で俺を見つめる。
「本当だって。俺たち超能力者を一緒に探すと誓った仲だろう?」
「本間耀はただの学校に来ない人だと思うが……まあ通報は冗談だ」
神流川は冗談とも本気ともつかぬ口調で言う。
「いやあ、目が笑ってないから本気かと思って怖かった」
「で、それでどうする気だ?」
「簡単なことだ。この日記を返したいから会ってくれという手紙を渡すだけだ。で、その場所にみんなが隠れていて確保する」
「なるほど、十面埋伏の計ですね」
龍凰院が表情を輝かせる。
「……そうなのか?」
「……まあ、ちょっと人数が少ないですが」
「それならこの俺の出番だな」
不意に今まで黙って不敵にほほ笑んでいた先輩が言葉を発する。相変わらずこの人はよく分からない。
「どういうことだ?」
「俺が十面埋伏と同じ数の人を手配して伏せておく。そして本間耀を捕えてテレポートの使い方を教えてもらう。それだけだ」
「……あ、そうっすか」
正直この先輩は俺から見ても頭がおかしいが、まあそれならそれでいいかという投げやりな気持ちになる。それとどうでもいいが、多分この人は十面埋伏の計は十人でやるものだと思っている。
「では、さらばだ」
そう言って先輩は颯爽と去っていった。
そして翌日の作戦実行当日。俺、神流川、龍凰院の他に先輩と先輩が連れてきた暗い目つきの男たちが待ち合わせ場所である公園に集っていた。この男たちはどこかで見たことがあるので多分高校の先輩なのだろうが、私服になってかつ学校から解き放たれるとこんな風になってしまうのか。何というか、圧倒的な陰のオーラに包まれている。
「ではあそこの茂みとこちらの木の陰、公園の柱の陰にお願いします」
そんなふうに龍凰院は人々をてきぱきと公園の各所に埋伏させていく。陰のオーラを醸し出す彼らはよく風景に調和した。指示を出している龍凰院はとても生き生きしていて本当にこういうことが好きなんだなと俺は感心した。
そんな先輩の思わぬ動員力と龍凰院の謎の才能によって十人ほどの伏兵が公園周囲に伏せられた。公園の中央に立った俺は周囲を見回してみるが確かに隠れている様は見えない。
「では私たちはこれで」
龍凰院の策で、彼女と先輩は公園で遊んでいる兄妹を演じることにしたらしい。ご丁寧にも龍凰院が用意したボールとグローブで二人はキャッチボールをしている。
一応他にも数人の小学生はいるものの公園はほぼ俺たちの支配下にあると言っても過言ではない。俺と神流川はそんな公園の中央で来るはずの本間耀を待ち構えていた。ちなみに中央なのは相手が逃走に移ったとき出口までの距離が遠いからである。
「しかし、ここまで用意してなんだが来るのかな」
俺はふと思った疑問を口にする。確かに“秘密日記”を見られては困ると本間耀は思うと思うのだが、すでに二日ほど経過して俺たちが中身を読んでしまっている可能性が高い以上わざわざ取り返す必要性は下がりつつある気がする。
「私は八割方来ると思うが」
神流川が口にした確率は思ったより高く、俺は思わずおっとなる。
「やつとあったことはないが今までの振る舞いから見える自己顕示力の強さから考えるに、私たちから“秘密日記”を取り戻して何らかのテレポート的な手段で逃げようと考えるのではないか?」
「なるほど。しかしテレポート的な手段か」
神流川は今のところ本間耀のテレポートを信じていないようであるが、超能力者である俺は全否定という訳ではない。つまり、本間耀が“秘密日記”を受け取ってテレポートで去っていく可能性があると思っている。
その場合公園の小学生、そして先輩が雇った(?)謎の人々にまでテレポートを見せてしまうことは超能力者としていいことなのだろうか。俺には判断がつかないが、本間耀がそれでもテレポートを使うというのならば、それは彼女の判断である。
「あれか」
俺が考えを巡らせていると神流川は公園の入り口からやってくる一人の制服姿の人影を指さした。彼女は制服の上から羽織ったパーカーのフードを目深にかぶり、顔を見せないようにしながら我々の方へ近づいてくる。公園の入り口でいったん立ち止まり、周囲を見渡してからゆっくり俺たちの方へ歩いてくる。
「本人か?」
俺と神流川は首をひねる。一応作戦実行にあたって本人の写真ぐらいは見てきた俺たちだが、直接会ったことはないため顔を隠されては確信が持てない。
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