第10話 幽霊会員 Ⅱ
「そうか。それは別にリア充を始末するのに役に立たないからいいや。それで君たちは何でここに?」
かなりそれていた話がようやく本題に戻ってくる。
「実は五組の本間耀さんという人を探していまして」
「本間耀……聞いたことないな。超能力者なのか?」
「テレポート使いらしいな」
神流川がやけ気味に言う。全てを超能力に結び付ける先輩に初対面の龍凰院はかなり困惑した様子で、俺と神流川もかなり引いていた。が、そんなこととは気づかず先輩はそれを聞いて飛び上がらんばかりに喜ぶ。
「なるほどその手があったか! 落ちてきたナイフで死んでも不幸な事故だ!」
「大丈夫なんですかあの人」
「まあ大丈夫ではないがどうせテレポートなんて使えないだろうからいいんじゃないか」
ひそひそと話す龍凰院と神流川。
「それなら早速行こうぜ!」
先輩は一人五組の教室に入っていく。
「どうする?」
俺は二人に尋ねる。
「まあ別にいいんじゃないか? 同じ三年の人が探すのが無難だろう」
「そうですね」
こうして俺たちが先輩を放って待つことしばし。炎村先輩は一人の女子とともに戻ってきた。
「実は本間耀という人は欠席らしい」
さすがは幽霊会員を希望するだけのことはある。学校にすら来ていないとは。が、よく考えてみるとおかしい。
「へー……て、ええ!?」
「確かに。一体誰が君のかばんにあの入会届を入れたんだ?」
「そりゃテレポートだろう」
先輩は真顔で返すが、俺たちの間には動揺が広がる。横の二人がどう思っているのかは知らないが、俺が本当の超能力者である以上本間耀が本当に超能力者であると考えると辻褄が合う。彼女は俺の噂を聞いたが俺の反応を見るためにテレポートを使ってみせた。超能力者であれば信じるし、そうでなければトリックを疑うだろう。まあ、共犯者がいればいくらでも実行可能なことではあるし。
仮にそうだった場合俺のとるべき行動は何か。本来なら一人で会いに行きたいところだろうが、これが俺を誘い出す罠である可能性もある。俺を捕まえてうれしいのかは不明だが、本間耀が超能力者を統制、もしくは弾圧する組織の人物でないとは言い切れない。それに、仲間だとしてもここにいるメンバーは一応一緒の同好会でやっていく人々だ。一緒に会いに行く方がこれからのためにいいだろう。
「それでだ、彼女がクラス委員の山科さんで、本間耀にプリントを届けにいくらしい」
「は、はあ……」
山科さんと言われたまじめそうな女子は事態がよく分からずに戸惑っている。一体先輩は何て言ってここまで連れてきたんだろうか。
「我々がそれを代わりにするというのはどうだろうか。幸い、彼女の家は高校から歩いていけるところにあるらしい」
それを山科さんと俺たちの前で聞くのはどうなんだと思ったが、先輩の主張の内容は偶然俺の考えに沿っている。
「確かに、それは名案だ」
と俺はさも先輩の意見に感心したかのように合いの手を入れる。
「まあ、別にいいが……」
神流川は俺に怪訝な目を向けたものの本間耀に興味はあるのか、反対はしない。残る龍凰院も、その場の空気に首をかしげたものの反対はしなかった。
戸惑う山科さんから本間耀の家を聞いた我々はぞろぞろとそこへ向かった。まるで共通点のない四人が何となく一緒にいる上、それぞれがそれぞれを特殊な人物だと思っているため違和感がぬぐえない。
しかも先輩は下校中のリア充に憎悪の視線を向け、神流川は俺たちの境遇をどうしたらおもしろおかしく小説に出来るかを考え、龍凰院は自らの覇業への道筋を描いているため特に会話も弾まず、目的地まで到達してしまった。
「ここか」
そこに建っているのはどこにでもある普通のマンションである。そこの三一二号室というところに本間耀は住んでいるらしい。俺たちはちょっとした入りづらさを感じたり感じなかったりしつつ入ろうとして、気づいた。
「このオートロック、どうするんだ?」
「そりゃ部屋番号を押して中から開けてもらうしかないだろう」
神流川は何を当たり前のことを、という目で俺を見る。
「見知らぬ俺たちに部屋を開けてくれるのか?」
「ああ、それか。問題ない、私は他人から品行方正な人物として見られるのは得意だ」
神流川は得意げに胸を張る。小柄な彼女がそういう仕草をすると可愛らしい。
「でも知らない人にはドアは開けないだろう」
「そうか? 親は友達の顔なんていちいち知るまい」
「分かりました、では私が蘇秦張儀のごとき弁舌をもって……」
「面倒だなあ、押すぞ?」
が、俺たちの議論もむなしく先輩は勝手にインターホンを押す。
「「「あーあ」」」
「……はい、どちらさまですか」
「どうも、プリントを届けに来ました」
先輩は普通に応答しているが、インターホン越しではあるが聞こえてくる声は若い。具体的には女子高生ぐらい。つまり本間耀に姉妹がいて、偶然姉妹も学校を休んで家にいて代わりに出ているということがなければ本人である。
そのことに思い至ったのか、先輩はしまったという風に黙り込む。一方の向こうもインターホンの画面からこちらが見えて何かを察したのか黙り込む。龍凰院によるとミステリアスさを痛さとはき違えている彼女が俺たちにこの状況で会いたいだろうか。答えは否である、と思った瞬間にぶつりという音がしてインターホンは切れた。
「先輩……」
俺たちは責めるような目で先輩を見つめる。
「仕方ないだろ、普通学校休んだ奴はインターホン出ないって思うじゃん」
「……」
先輩の言うことにも一理あると言えばあるのだが、俺たちが揉めている中勝手に押しただけに風当たりは強い。オートロックのマンションで住人に拒否されてしまえば入ることは出来ず、俺たちの間に冷たい空気が流れる。そんな中。
「あらあら、どうしたの? あ、もしかしてみんな耀ちゃんの友達?」
俺たちの近くを通りかかった近所のおばちゃんが俺たちに声をかけてくる。おそらく俺たちの制服を見て思ったのだろう。友達どころか会ったことすらない訳だが、「友達じゃない」と言うのは感じが悪い気もする。俺たちが反応に困っていると、おばちゃんはさらに続ける。
「留守で入れないの? それならどうぞ」
おばちゃんはお節介な笑みを浮かべながら俺たちを入れようとする。この場合お節介は全く当たっていない訳だが、俺たちにとってはありがたい話だった。まあ、オートロックは入れても家の前まで行けるだけなのだが。
「いやあ、耀さんにはいつもお世話になっています」
すかさず神流川が話を合わせると、おばちゃんも満足そうに笑う。こうして俺たちはおばちゃんとともにオートロックを抜けたのだった。三一二号室までは当然難なくたどり着ける訳だが、問題はここからである。というかおばちゃんは留守なのに俺たちをオートロックだけ通してどうする気だったんだ。
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