第9話 幽霊会員 Ⅰ

 翌日の放課後、俺と神流川は再び龍凰院芳香の元を訪ねた。今日は彼女はちゃんと起きて待っており、俺たちが来ると手を振ってくれる。

「持ってきましたよ」

 そう言って入会届を差し出す。俺は入会届の入っていたファイルをかばんから取り出し、龍凰院の入会届を確認すると中にしまう。

「これであと一人か……」

「ん? でもそれ五枚ありません?」

 突然龍凰院が俺のファイルを指さす。

「いや、メンバーは四人しか集まってないし、関係ないプリントとかがはさまったんじゃないか?」

「関係ないプリントではあるまい」

 神流川が紙束からはさまっていた紙をとる。それは俺が見たことのない封筒だった。

「先輩、ラブレターでももらって隠していたんですか? 意外と隅に置けないですね」

「最近は意中の人のかばんにこっそりラブレターを入れるのが流行っているのか?」

「そんな訳ないだろう」

 神流川は冷ややかな目で俺を見る。正直ラブレターだったら女子二人に見られながら開けるのは恥ずかしいなと思いながら俺は封筒を開ける。


 が、中から出てきたのは甘酸っぱさのかけらもない一通の入会届だった。

『同好会入会届 同好会名:超能力研究会 三年五組 本間耀 持っている超能力:テレポート 備考:幽霊会員希望』


「持っている超能力って何だよ! 変な欄作るな! 幽霊会員は希望するな! ていうか誰だこれ!」

 当然俺はこの人物(彼なのか彼女なのかすら不明)から封筒を受け取った覚えはないし、会ったことすらない。超能力者はこんな風に能力をひけらかすものなのか。あと、こんなに突っ込みどころ多めの入会届も初めて見た。

「聞いたことない人だが……幸いクラスは書いてあるし、会いにいってみるか」

 神流川は驚いてはいないが興味を惹かれた様子ではある。

「ですね。でもわざわざかばんに入会届を忍び入れるだけのトリックでテレポートが使えるだなんて思いあがっていますね。しかも幽霊会員希望とか……ミステリアスさを痛さとはき違えていますよ」

 忍び入れるって何だよ。新しい日本語か。そして龍凰院は思いのほか毒舌であった。まあ確かに第三者視点で見ればあいたたた、て感じではあるが一応こいつが入会してくる以上それだけの感想ではいられない。


 そんな訳で俺たちは期待するようなしないような微妙な気持ちで三年五組に向かった。正直、やってることがこすいのでそこまでテンションが上がるというほどでもない。三年の教室に近づくと、「またあの変人たちかよ」「何か数増えてね?」とざわめきが大きくなる。

 俺たちが入りづらさを感じていると隣のクラスから炎村先輩が俺たちの方へやってきた。しかもこころなしかその表情はうきうきとしている。俺たちのこと楽しみにしてたのかよ。

「どうだ、調子は。お、新しいメンバーが増えているようだな」

「はじめまして、一年の龍凰院芳香と言います」

 龍凰院はぺこりと頭を下げる。すると炎村先輩は驚愕の表情を浮かべた。この人は全体的に表情の変化が激しい。

「な、君はもしや龍凰院財閥のご令嬢!?」

「……そうですが」

 龍凰院はその名が出ると露骨に嫌そうな顔をする。

「龍凰院財閥?」

「それも知らんのか。家に帰って検索でもしてみるといい」

「な、その反応は神流川は知っていたのか?」

 神流川は明らかに呆れている。俺はそんな彼女を見て少し裏切られたような気分になる。

「知ってはないが、こんな珍しい名字なら連想はするだろう。ただ、ぶしつけに聞くのは失礼かなと思っただけだ」

「くそ……」

 正論を返されて俺は悔しくなって黙り込む。

「龍凰院財閥のご令嬢がこんな普通の学校の超能力研究会にいるなんて」

「……」

 先輩の言葉を聞いて龍凰院の表情は険しくなっていく。


「もしや、超能力が使えるせいで実家とうまくいかず、実家を飛び出して普通の生活を送っていたところ超能力が使える同士がいると知ってこの同好会に!?」

「は?」

 険しくなっていた龍凰院の表情が一気に呆れたものへと変わる。龍凰院財閥、普通の高校、超能力研究会という彼女について知っているワードを直線的に結びつけただけのこじつけだ。

「違うのか?」

「もうそれでいいですよ……」

 実家のことに深入りされるのが嫌なのだろう、龍凰院は呆れたように認めた。が、その表情は先ほどに比べて少し柔らかかった。どうやら先輩の推理は彼女の地雷を踏んではいなかったらしい。逆に言えば見当違いということだが。

「それで、君はどんな能力者なんだ?」

「そうですね、東南の風を吹かせたり八門禁鎖の陣を敷いたり出来ますよ」

 龍凰院はやけになって三国志に出てくる超能力っぽいものを口にしたのだろうが、炎村先輩は三国志を知らないのか、うんうんと首肯する。

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