第12話
僕らは手を繋いで歩いた。中途、振り返ると黒ねこの姿はない。やはりあの猫はそういうたちだ、と唇を僅かにあげた。
泣きたかった、僕は互いのことを知っている。泣かないでいよう、辿り着くまで。
「道流さん、私は貴方の事が大好きです」
「ふふ、何いきなり」
僕はとっさに涙をこらえた。僕は知っているから。
なにもかも、覚えていなかったら今頃どうなっていただろうか。
やっと僕から出てきた声は、少し震えていた。
「僕も、深琴のことが大好きだよ」
彼女さんに対する淀んだ目は、すっかり消えてしまった。世界がとても綺麗なように見える。光り輝いて見えるんだ。たとえ、どんなちっぽけで変哲のないものだとしても。ありきたりなものが全て、美しい。
青い屋根の家は、海岸沿いに面している。#人気__ひとけ__#の無い郊外ではあるけどその分魅力的だと僕は思う。
僕はその家の前で止まった。深琴もそれを見上げている。
「写真とそっくり」
「・・・・・・・そうだね」
写真と同じ建物なのだから当たり前だが、口には出さない。僕は屋根を見上げる。素晴らしいスカイブルーだ。
不思議だが、とても綺麗に保たれていた。懐かしい。
深琴の名前を呼んで、僕は語りだした。
「僕たちは、ここで生まれ育ったんだ」
深琴が肩を跳ねらせて、僕の方を向いた。瞳が揺れ動いている。それはそうだろう。僕も、できるなら思い出したくはなかった。
深琴を見て胸が苦しくなるのは、この懐かしさなのだろうか。それとも、下心を抱いているのか。きっと両方だと思う。
「僕たちは、兄妹だったんだ」
繋がれたら手に力を入れないようにする僕の代わりに、深琴の手に力がこもる。
僕はその先を言わなかった。いや、言えなかった。母親は、なぜか深琴だけを残しておじいちゃんの家へ駆け込んだ。推測だが、おじいちゃんは深琴のことを知らない。お母さんが何も言わなかったから。
「お母さんは、亡くなったんだよ」
せいぜい言えるのは、とても残酷な言葉だった。腕の中の深琴は僕の肩に顔をうずめていた。肩が悲しそうに時々揺れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます