第5話

 窓のカーテンを広げた。向こうに拝める山々の深緑と同じ色をしたビロード性の布だ。冷たい風を顔に受けると、体中がリセットされるような感覚を覚えた。

 下を見ると、うさぎの奏でる音色を思い出す。今日はやけにのろまだ。だが、悪くはない。「おはよう、うさぎ」そう声をかけてみれば、うさぎは驚いたような顔を一度見せたがそれっきりでまたオルゴールに夢中になる。

 読書をしようと机に向かうとした所で、深琴が寝室から出てきた。寝ぼけまなこの彼女は覚束ない足取りで、玄関を開けて井戸へ向かう。顔を洗いに行ったのだ。

 今日はいい読書日和となるだろう。そう思いながら、ページを捲る。

「道流さんは、今生きていますか? 」

 花の手入れをしている時、深琴は言った。

「・・・・・・は? 」

 意味がわからず、思わず口にしたのがその一文字。不覚だった。

 深琴は堪えるように笑い出す。僕は眉を顰めるが、それを見て更に笑うものだから深琴を見つめた。彼女は今度、幸せな人の顔をして和かに僕を見る。

「何が言いたいんだい? 」

「ええ、道流さんの顔に新しい表情を見れて嬉しいもので・・・・・・」

 胸を、鷲掴む。いつも、そうだいつもそうだ彼女は。僕に生き血を汲んできて、与えるんだ。

「もう、僕が代わりにやるから。深琴には料理をお願いするね」

 そう言えば深琴はわかりましたと、嬉しそうに笑うものだから調子が狂う。

「どうしたんだ、僕は」

 空を見上げる、カラスは今日も枯れた声で羽ばたいている。遠くで、遠くで。



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