第34話「決死の暗殺者」

0時を過ぎ、空が漆黒に包まれた深夜…


王立騎士団「ロイヤル・フォース」がフィールランド内のアルスティン王国のと思われる施設を制圧に出発してから数時間経っていた…。


クレアは報告を聞くまで起きていようと思ったが執事に体調が優れないように見えたため寝るように言われベッドに横たわり熟睡をしていた。


ジリリリリッ!


突然大きなベルの音が屋敷内のそこら中に鳴り響いた。


「ん?警報…」


どうやら警報が鳴り響いたようだ。そのおかげでクレアは目が覚めてしまった。


コンコン…


ドアがノックされる音が聞こえた。


「少しお待ちを…」


パジャマから着替え、身なりを整えるクレア。


「どうぞ」


ガチャッ


「失礼します」


少し動揺が見える執事が入って来た。


「何事ですか?」


「はい、何者かがこの屋敷に侵入したようで…」


「そうですか…大丈夫なのですか?」


「はい、ロイヤル・フォースはただいま出撃しているのですが進入者を捕まえるぐらいならここの警備の人間で大丈夫かと」


すると…


ガシャァアアン!


突然クレアの部屋の窓が割れ何者かが入ってきた


「くっ!しまった…侵入者が!」


黒い服に身を包んだ老人が突然窓を割り侵入してきた。


「見つけたぞ…クレア・フィールランド」


「何者か!」


侵入者にクレアがそう呼びかける。


「ククク…貴様に名乗る必要があるのか?お前は私に殺されるのだから」


「戯言を…」


「まぁ良い…冥土の土産に教えてやろう。我が名はラング。人は皆ワシのことを呪術師ラングと呼ぶ」


「呪術師…ラング…」


「ク、クレア様!お下がり下さい!今警備の者を」


「無駄じゃよ…警備の奴らは全員ワシの呪術で意識を失くしている、フフフ」


「何だと…!」


「呪術を使う…紋章士ですか」


「いかにも…クレア・フィールランド…その命ワシがもらいうける!」


「クレア様!」


「大丈夫です。私を誰だとお思いですか?フィールランド王国第二王女にして紋章士レナード・カイエルの弟子の1人クレア・フィールランドですよ。この程度の賊に負けるとお思いですか?」


「し、しかし…」


「最近体がなまっていた所です。良いでしょう…紋章士として格の違いをお見せしてあげますわ…。そして…その格の違いが分かった時、あなたはその瞬間死んでいるでしょう…」


「ほざけ小娘が!いくぞ…カァァァ!」


すると手からリゲルを圧縮した弾のようなものを発射した。しかし…


「甘いです。その程度の攻撃避けれないとでも思って?」


クレアはその発射されたリゲル弾をかろやかにかわした。しかし威力はあり、発射され避けた弾は壁に当たり穴が空いていた。


「威力はまぁまぁありますのね…ではこちらからも参りますわ…ハァ!」


普通の人間の肉眼では捉えれないほどのスピードでラングに飛びかかり接近し、目にも止まらぬスピードで膝蹴りをかました。


「クッ!」


ラングはあまりのスピードで避けれないと思いリゲルの障壁を張った。しかしクレアは足にリゲルを集中し威力をあげているため障壁と中和し壁が割れ、ラングは膝蹴りを防ぎきれず食らいその場から吹き飛んだ。


「ぐわぁぁ!」


その場に倒れ込むラング。今のままでは力の差は圧倒でラングに勝ち筋が見えなかった。


「まだウォーミングアップですわよ…。まさか我が王家の屋敷に侵入しておいてその程度の力しかないのですか?だったらがっかりですわね」


その場で血を流すラング。


「(ぐっ…つ、強い…これが王女クレア・フィールランドの紋章士としての力…バ、化け物だ。今のままでは到底勝てん」


するとラングは再び立ち上がる。


「仕方ない…あれをやるか…カァァァァ!」


「ん…何?」


ラングのまわりが掛け声と共に急に赤く光りだした。


「ク、クレア様これは…」


「…リゲルを体の内部に集めて溜めている?」


ラングの体のまわりが赤く光り出し始め、すると見る見るうちにラングの老体の体が若返っていく…。


「これは…」


そして赤い光が収まりだすと若い20歳台ほどの男がそこに立っていた。


「まさか、早々この姿にならざる得ないとはな…」


男がそう口を開いた。


「まわりにあるリゲルを体内に吸収し細胞活性化させ若返り、姿が変わったようですわね…」


「あぁ…その通りだ」


「そこそこは出来るようですわね…だけどその姿でいられる時間はそんなにないはず」


「フン…5分で貴様を倒す!」


「正確には5分が限界なのでしょう?」


「…お見通しってわけか。だがこの姿ならお前を倒せる可能性は少しはある」


「やれるものならやってみなさい!ハァァァァ!」


クレアの拳がリゲルで光り、ラングにその拳で目にも止まらぬ速さで連撃を繰り出していく。ラングはリゲルを使い若返った姿でも障壁で避けるのが精一杯という感じだった。バチンッ!バチンッ!とクレアの光っている拳が雷撃のように音を立てラングを襲っていく。


「ク…!早いッ!」


「どうしましたの?まだ私は自分の力の半分の力も出していませんわ」


ラングはなんとか避けつつリゲルの弾を撃ったり拳を繰り出しながら反撃をしているものの全てかろやかにかわされていく。


「カァァッ!」


「甘い!」


そしてこの2人の戦闘を見ている執事が…


「クレア様…まるで底が見えない強さだ…。す、末恐ろしい」


執事はクレアの強さは知っていたもののその強さを近くで目のあたりにし、恐怖すら覚えて震えていた。だが執事にはある1つの懸念があった…。


「(クレア様は強がってあぁ言っておられるが…最近は激務続いていたため体調が優れていない…何事もなければ良いのですが…)」


「どうしました!防戦一方では勝ち目はありませんわよ?その程度の腕前で私の首を取れると思っていたなんて私も舐められたものですわね」


すると突然部屋の隅に追い込まれたラングが不適な笑みを浮かべた…。


「ククク…かかったなクレア」


「何?」


「俺が一方的に逃げているとでも思っていたのか?マヌケめ!この部屋の床を見てみろ…」


そう言うとクレアは床に視線を落としてみる。そして床の違和感に気付いた。


「…これは!」


床には不思議な模様が浮かび上がり地面が赤く光りだしていた。


「逃げまわると見せかけて少しづつリゲルを溜め紋章コ-ドを発動するためのコードを床に書いていたのだ」


「なるほど…これはやられましたわ」


「クレア・フィールランド…お前はとんでもない強さだ。恐らく強さだけなら全ての紋章士の中でも10本の指に入るだろう…」


20年前の戦争で紋章士として活躍したラングが圧倒され敵ながら賞賛している。クレアはそれほどまでの強さなのだろう…。


「それはどうも」


「しかし…どうやら俺のような呪術系の紋章士との戦闘経験は少ないようだな…。そして、そのとんでもない強さ故に自信があり油断している場面もちらほら見える…。そのせいでこういった隙も多い…フフフ」


「えぇ…ご忠告感謝しますわ。おっしゃる通りですわね」


「死に土産に教えてやる。この床で発動している紋章コ-ドは相手のリゲルの能力の精度を落とすものだ…。クレア、貴様は強い…だが紋章士としての力が発揮出来なければ勝機は俺にもある…所詮女だ」


「それはどうしからしね。あまりにも圧倒的ではつまらないのでこれぐらいのハンデはあげてもよくてよ?」


「舐めるなよ!女!」


するとラングの体が赤く光りだし、持っていた杖から仕込んでいた剣をを取り出した。


「いくぞ」


剣を構え、飛びかかってくるラング。全身にリゲルを巡らせているためそのスピードはとんでもないものとなっていた。そして構えた剣にもリゲルによる切れ味は向上しているため雷のようにバチバチと音がしていて、当たれば致命傷は必須だった。


「クレア様!」


思わず危険と思い執事も声をあげる。


「覚悟!」


そして…


バチィィィン!


クレアは手を目の前に出し構え、リゲルの障壁でその凄まじい剣撃を防ぐ。


「な、何と…」


リゲルによる剣を呪術が発動している空間の中でクレアはいとも簡単に防いでしまった。


「バ、バカな」


「リゲルの能力の精度を落とす…と聞いて少し試してみましたが…やはりこの程度ですか」


ラングの呪術の能力を調べるため、どうやらクレアはわざと避けずその場で構え障壁の精度を確かめたようだ。


「でも確かに…あなたの言うとおりリゲルの能力は落ちていますわね…そのせいで服が少し汚れてしまいましたわ」


さっきまで傷ひとつなかったクレアだったが先ほどの攻撃で服の袖が少し焦げてしまっている…。


「く…これでもダメなのか!」


「うっとうしいですわね…この床の紋章コ-ド…」


するとクレアは両腕を構えた。


「ハァァァァ!」


クレアがその掛け声と共に白く体が光りだした。クレアの体のまわりにリゲルを集めているのだ。


「な…」


「ハァァァァ!ハッ!」


そして気合の声と共にラングの作った床にあった呪術の紋章が見る見るうちに消えていく…。


「こ、これは…!」


「私の力でこの床の紋章コ-ドを吹き飛ばさせていただきました。さっきから体にまとわりついて気持悪かったものですから」


「う…うぅ…」


「さて…次はどんな呪術を見せてくれるのかしら?呪術系の紋章士との戦闘経験は少ないので色々見せて欲しいのですが?」


「く…くそ…こうなったら!」


ラングは別の人間を攻撃しようと執事の方に目線を向ける。だが…


「おやめになったほうが良いですわよ…何を考えているかわかります。もしあなたが私以外の者を攻撃しようものなら…あなたはその瞬間…あの世行きです…」


どこまでも底が見えぬ冷徹な目でそう言い放つ…。ラングには勝機がもはや見えなかった。


「ぐぐっ…(一瞬だ…一瞬の隙さえあれば…あれが出来る…)」


すると…


「そろそろ5分経ちますわよ?良いのかしら」


少しずつだがラングの体が老化していくのが目に見えた。


「く、くそ…まずい」


「もう終わりですわね…そろそろあなたとの遊びも飽きてきたので終わりにさせてもらいます。明日は私の大事な友人達とのパーティーもあるので寝坊するわけにはいきませんの。何か今企んでいるようですけどそれももうどうでも良いです」


そう言うと自分の机の上に置いてあった短剣のナイフを手に取った。


「ハァァ…」


リゲルを短剣に集め白く光りだしている。そして短剣を構えた。


「さようなら…」


そう言うとラングに剣を向ける。


「所詮あなた程度の紋章士では私を殺すなんて到底無理な話だったわけです。何か言い残すことはありませんか…?今から死ぬのですよ…あなたは」


「うぅ…」


「もう恐怖で何も言えなのですね…では私がその恐怖から解放してあげます…。死という方法で…」


そして…


「タァァァァ!」


クレアはリゲルで強化した光った剣でラングに斬りかかった。


「(もはや…これまでか…!申し訳ございません…ヴィオラル…様)」


しかしその瞬間


「うっ…!」


クレアは急な戦闘、そして今までの仕事の過労によりめまいを起こしその場にフラつき倒れ込んでしまった…


「(しめた…!)」


「う…こ、こんな時に…」


「今だっ!」


ラングはその一瞬の隙を逃しはしなかった。


「しま…っ!」


「クレア様!」


ラングの全身から放たれた赤い光がクレアに襲い掛かる…。

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