第37話「メリッサの思い」

「うわぁ…すごい高級そうなお肉だね」


テーブルの上にはすごい高そうでおいしそうな霜降りの牛肉が置いてあった。


「ちなみにおいくらなんですかね?」


鉄板の前に立っているシェフに聞いてみた。


「そうですね……ざっと30万フラルぐらいになります」


「さ、30万フラル……ごくり」


途方もない値段であった。30万フラルの肉なんて食べたことがなかったのですごい楽しみだ。


「量は指定できますので」


「そうなんですか。メリッサどれぐらい食べる?」


「あ、私はそんなに…」


「まぁ確かに他の料理もあるしね」


ステーキの他にも色々な種類の料理をクレア先輩が用意してくれたので出来れば色んな料理を楽しみたいのでここはあえて少し控えよう。


「焼き方は?」


「僕ミディアムで」


「私はウェルダンで」


適当な量をシェフに切ってもらい目の前で鉄板で焼いてもらう。塩コショウを振りジュージューと鉄板で焼ける音とおいしそうな匂いが食欲をそそる。


「どうぞ」


焼いたステーキを皿に盛ってもらい渡される。


「うわぁおいしそう…」


メリッサと一緒に席に戻り早速肉を堪能する。


「……なんか緊張しちゃうな」


「30万フラルのお肉だもんね」


「じゃあさっそく……」


フォークとナイフで一口サイズにカットし口に入れてみる。


「ど、どう……ノエル君?」


「……すごいおいしい……口の中がとろけるぐらいおいしいってこういうこと言うんだって初めて体感したかも」


肉の芳醇な香りと肉本来の旨みが口の中でいっぱいに広がり物凄く幸せである。


「ほ、ほんと?じゃあ私も……」


ノエルに続きメリッサも口に先ほどのステーキを頬張る。すると……


「うわぁ……ほんとだ……おいしい。すごく柔らかくてこんなの食べたことないわ……」


「ちょっとこんなの食べたら他のお肉食べられなくなっちゃうかもね……」


「た、確かに……それもそれでちょっと困るかな……」


「クレア先輩っていつもこんなおいしいお肉食べているのかな?」


「う~んなんか益々私達と住む世界の違いを感じるわね……」


「ただいま~っと」


「よ~し食べるぞ!」


アイリとメリッサ達が戻ってきたようだ。ジェシカの持ってきたお皿には4つほどケーキが乗っているのに対し、アイリのお皿には山盛りのケーキを積みそれがドン!とテーブルに置かれた。


「ア、アイリ……?それ全部食べるの?」


「うん、そうだよ。何か変?」


「い、いやぁ……別に……」


アイリが持ってきたトレ-の上には山盛りのケーキこれでもかというぐらい積まれておりとても普通の人間には食べきれる量ではなく、見ているだけで少し青ざめてしまった。


「さ、さっきあんなにお菓子食べたのにその……大丈夫なのかなって……」


「確かに……アイリちゃん大丈夫?そんな量食べれるの?」


ジェシカも同様に心配しているようだ。


「うん、全然大丈夫だよ!」


「そ…そっか」


どうやらアイリと僕らとではそもそもの食べれる量が桁違いに違うらしい。


「あっ!そうだノエルの大好きなショ-トケーキ取ってきてあげたよ」


「う、うん……ありがとうアイリ」


「食べさせてあげるね!」


するとアイリはお皿に乗っているショ-トケーキをフォークで一口サイズにし、僕の口の方に持ってきた。


「はい、ノエルあ~んして♪」


(うわぁ……あの子結構大胆なことするのね。これは重度のブラコンね……)


「え……いいよ自分で食べるから。恥ずかしいよ。みんな見ているし」


「えー何で恥ずかしがるの?」


アイリは少しムッとする。


「あ~んして食べてくれないならここでみんなにあのこと言っちゃうんだから!」


「あの事って……?」


そう言うと僕にひそひそと耳元で何かをしゃべってくれた。そしてその内容を聞いた瞬間……


「う……わ、わかったよ……」


(何を言われたの!)


「じゃあ、はいあ~ん!」


「あ……~ん…」


まわりに見られているのが恥ずかしく下を向いてパクッと食べる。


「ノエルおいしい?」


「……う、うん。そりゃまぁ」


「良かった♪」


機嫌が戻るアイリ。すると…舞台袖からクレア先輩の同級生が出てきた。


「えーそれでは皆さんそろそろ次のプログラムに移りたいと思います。お食事は引き続きそのままお楽しみ下さい」


「ん……何だろう?え~と次のプログラムはしおりによると……人形劇クワク島のクマ夫くん」


「わーい♪私すっごい楽しみ!」


「そっか、アイリはすごい好きだよねクマ夫君」


「うん、毎朝かかさず見てるよ♪」


「懐かしいなぁ。ガキの頃見てたわ」


口いっぱいに料理を放り込みながらアレックスがそう言う。


「アレックスちゃんと飲み込んでから喋ろうよ……てか姿が見えないと思ってたらずっと食べてたんだね」


「あぁ、だってこんな豪華な飯めったに食えるもんじゃねぇしな。今のうちに堪能しておかないと」


「ま、まぁ……確かに」


するとブザー音が鳴り部屋が少し暗くなる…。


「おっ……なんか映画館みたいだな」


「う、うん……」


しかしノエルには先ほどから気にかかることがあった。このパーティーを開いてくれたクレア先輩が先ほどから席の隅のほうで具合を悪そうにしながら座っていることだ。ここに到着してきたときにもそう感じたのだが益々悪化しているように僕には思えた。


(クレア先輩……)


すると心配そうにクレア先輩のほうを見ていると屋敷の執事がクレア先輩を気にかけて近くに寄ってきた。


「クレア様……先ほどから顔色が益々悪くなっているように見えますが……?部屋で休んでいられたほうが良いのでは……」



「はぁ…はぁ…大丈夫……です。このぐらい……皆がいるのですよ。楽しい宴の場を私一人の都合で水を差すというのは王家の人間として野暮というものでしょう?」


「し、しかし……」


「辛くなったら……一人で部屋に皆にわからぬように戻ります……」


「……わかりました。くれぐれも無理はなさらないように」


クレア先輩と執事の人が何かを話しているようだが何を話しているかはわからなかった……。そして執事の人がクレア先輩から離れるとアイリが楽しみにしていた人形劇が始まった。


「みんなーこんにちはー!」


人形劇の主役であるカバ夫くんや他の仲間が出てくる。ただし声を当てているのはいつもの人形劇のプロの声優さんではなくクレア先輩とよく一緒にいる囲いの人たちの声であった。


(まぁ……そりゃあさすがに本物は呼べないよね……)


「こんにちはー!」


どうやらアイリにとってはそんなことどうでも良いようだ……。


(なんかいつもクレア先輩の近くにいて近づきがたい雰囲気があったけど、こんなこともやるんだなぁ……。これもクレア先輩のためなら!ってことなのかな?)


「ねぇねぇカバ夫くん!なんか今日は私たちの知らない人がい~っぱいいるよ!」


「ほんとだー!ちょっとお名前聞いてみようよ!」


「そうだね。じゃあそこの一番元気な女の子の君!お名前教えてくれるかな?」


どうやらアイリのことを聞いているらしい。


「はいは~い!私アイリ。いつもカバ夫くんたちをTVで見てるんだけど今日は生で見れて私とっても今感動しているの!」


「アイリちゃんっていうんだよろしくねー。いつも見てくれているだね」


「アイリちゃんありがとうー!」


「えへへーノエル、私カバ夫くん達にお礼言われちゃった♪」


「そ、そう……良かったね……」


「うん!」


(アイリのハイテンションに合わせて後ろで人形の声を当てている先輩達大変そうだなぁ……)


先輩たちを気の毒に思いながらアレックスは下に顔を向けていた。


「ぷっ……くっくく……」


「ア、アレックス……?」


どうやらアレックスは先輩たちが人形劇で声をあてているのがツボに入ったらしい。


「ちょっと……アレックス!失礼でしょ。良くないわよ」


笑いそうになっているアレックスをメリッサが注意する。


「だっ……だってよ……ぷっくく!」


両手を口で押さえながら下に顔を向けて何とか耐えているようだった。でもアレックスの気持ちもわからないわけでもない。もし僕も他人の目がなかったら笑い転げていたと思う。


「もうアレックスったら!」


「まぁまぁメリッサそんな怒らないでよ」


最悪メリッサがアレックスに手を上げそうなのでメリッサの手を握っておく。


(え……!ノエル君何……こんな暗い中で急に手を握ったりして……ちょ、ちょっと……どうしようドキドキが……でもこ、これはもしかしてもしかすると……すごいチャンスなのかも……)


メリッサの手を握りしばらくすると今度はメリッサが暗い中でなぜか手を握り返してきた。


「ん……メリッサ?」


「も、もう……アレックスたら……しょうがないわね。先輩たちすっごく頑張っているのに」


「う、うん……そうだね……きっと物凄く練習したんだと思うよ」


「ところでさ……ノエル君はさ……その……気になっている人とか……今……いるの?」


「気になるって……?」


「例えば……その好きな子とか……さ」


「えっ……!?な、何で突然そんなことを……」


突然突拍子もない話を振られて僕はびっくりする。


「私は……さ、いるんだ……」


意外だった。メリッサは今まで何人の男子に告白されてきたのを知っているが全員ことごとく断っていたからだ。


「えっ……!そ、そうなんだ……」


「ショック?」


「う、う~ん……どうなんだろう。メリッサって結構色々な人に告白されているのは僕も知っているし、モテるから。そのメリッサがとうとう好きな人が出来たかって感じかな」


「実は結構前から好きなんだよね……」


「えっ……そうなんだ。じゃあ今まで告白とか断っていたのもその人が好きだったからなの?」


「……うん」


「へぇー……」


そう言うとメリッサが強く手を握り返してきた。


「いてて……ちょっと痛い……メリッサ」


(もう……ほんと鈍感なんだからノエル君は……それとも気付いていないフリ?)


痛かったので手を離そうとするとメリッサがガッチリ手を握り離させてくれなかった。


「イヤ……離さないよ」


「何でよ?じゃあせめてもう少し力緩めて…」


少し手を離そうとするとより手を強く握ってくる。


「それもイヤ……」


「えぇ……」


(……雰囲気も良いしこの人形劇が終わったらノエル君と部屋を出て私の思いを伝えるんだ……幸いノエル君の妹は人形劇に夢中だし……!)


「じゃあみんなまったねー!」


「まったねーカバ夫くん!」


人形劇が無事終わり、アイリが元気良くさよならの手を振っている。


そして舞台の幕が閉じ、段々と部屋が明るくなっていく。


「あー面白かった!ねぇノエルもそう思うでしょ?」


「う、うん……面白かったね。いてて……」


メリッサにぎゅっと強く手を握られる。


(こんな2人で良い雰囲気の時なのに妹のアイリちゃんと話なんかして……)


メリッサがアイリの方を見て険しい表情をしているのがわかった。


「メリッサ……?」


「ノ、ノエル君さ……ちょっと……外出ない?」


「ん?どうしたの……気分でも悪くなっちゃった?」


「そういうわけじゃ……ないんだけど。とりあえず一緒に外に来て!」


「う、うん……じゃあクレア先輩に一言……」


そしてクレア先輩に部屋の外に出ることを伝えようとしクレア先輩が座っていた席の方に目を向けると…


「クレア……先……輩……」


そこには顔色が物凄く悪化し、息が乱れ床に倒れていたクレア先輩の姿が目に映った……。

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