第36話「懸念」

ノエル達と合流する数時間前…パーティーの当日の朝



クレアは暗殺者を返り討ちにし、朝を迎えた。



ジリリリッ!!



カチッ…



目覚ましがなり、起床するクレア。


「んぅー…」


起きると普段とは違う天井であった。


「そういえば昨日は部屋が散らかって別室で寝たんですわね……ふぅ」


パジャマから着替え何かの準備をするクレア。


コンコンッ


「どうぞ」


ガチャッ


「朝のいつものご準備が出来ました」


クレアの御付の執事が入ってきてそう伝える。


「ありがとう、今行くわ」


そう言うと部屋を出て行き、外へと向かう。


すると、庭には数枚ほどの鉄板が並べてありクレアは数メートル離れた場所で何やら構えている。


「はぁぁぁ…」


クレアは大気中にあるリゲルを集め集中している。集めたリゲルを手に集め、そして…


「たぁぁぁ!」


リゲルで作った弾を高速で手のひらから撃ち出し分厚い鉄板をいとも容易く穴を開けた。


「はぁぁぁぁ!」


今度は集めたリゲルを足に集中させ飛翔し、空高く舞いあがる。


「ハアアアア!」


数メートルは軽く飛び上がり、そして鉄板に向かって飛び蹴りをする。落下速度も相まって凄まじいスピードであった。


轟音と共にクレアの蹴りが命中し鉄板はバラバラに砕けた。


「あれを…」


「はい」


そう言うと近くで見ていた執事が剣を用意しクレアに渡す。そしてその剣を構えると段々と剣が光輝きだした…。


「はぁぁぁ…」


そして…


「はあああ!」


剣を構え走りだし、鉄板に斬りかかった。


「たぁ!」


クレアの掛け声と共に分厚い鉄板は豆腐のように真っ二つに割れていく。そして2つに切れた鉄板は大きな音を立て地面に倒れる。


「ふぅ…」


「お見事ですクレア様」


「お世辞はいいわよ。それよりもノエルさん達のパーティーの準備はちゃんと終わったのかしら?」


「はい、勿論でございます。しかし…クレア様」


「何かしら?」


「今日ぐらいはいつもの特訓を休んでも良かったのでは?さすがに昨日あのようなことがあったわけですし…」


「もう体が毎朝この訓練をやらないとなんか落ち着かなくて…。それにもし1回でもサボってしまったら何かカイエル先生に怒られてしまいそうで」


クレアが言っているカイエル先生とは前の戦争の英雄の1人レナード・カイエルのことである。紋章士としての実力は当時のフィールランド連合王国で最強と言われ、その実力は戦時中遺憾なく発揮しアルスティン王国に「閃光のカイエル」としてその名を轟かせ震え上がらせた。クレアはそのレナード・カイエルの弟子の1人である。


「それとロイヤル・フォースから昨晩の作戦成功の報告がありました」


「何か収穫はありましたか?」


「はい、それが施設の制圧には成功したものの、すでに放棄されたあとでもぬけの殻でしてデータなども綺麗に消されておりこれといった収穫はございませんでした。申し訳ございません」


「そうですか…ご苦労様と伝えておいてください。しかしアルスティン王国も中々尻尾を出しませんね…」


「はい…それとノエル様の件ですが」


「どうでしたか?」


「メーティスの回答は肯定、そして推奨との回答が出ました」


「そうですか。なら問題はありませんね」


「はい」


「ふぅ…では着替えの用意を。汗を流してきます」


「では朝食のご用意が出来ていますので、終わりましたら食卓へお越し下さい」


「わかりました」


今日も毎朝の紋章士としての訓練をかかさず行っているクレア。しかしたまに見せるクレアの寂しい表情…ノエルは以前にもこの表情を見た気がした…。あの玄関での一瞬見えた表情がノエルの脳裏から離れなかった。


そしてノエル達を車で迎えに行き、合流したノエル達とクレア。


クレア先輩に付いて行くとそこには大きな扉があり部屋があった。


「さぁ着きましたよ、みなさん。ここが今日パーティーの会場になります」


扉を開け、部屋に入ると豪華な食事と何人かの屋敷の使用人がそこにずらりと並んでいる。


「おぉー!」


「うわーすごいなぁ」


「ようこそ、本日はよくおいでくださいました。今日は是非楽しんでいって下さい」


屋敷の使用人達が一斉にこちらに挨拶をしてきた。


「どうも…今日はよろしく…お願いします」


豪華な会場とその規模に雰囲気で圧倒されてしまいそうだ。さすがはクレア先輩。やはり僕らとは格が違う。


「な、何かちょっとここまですごいと圧倒されちゃうわね…」


「う、うん…」


ジェシカとメリッサはあまりにも豪華すぎて驚きを隠せないでいた。


「もうメリッサ雰囲気に飲まれちゃダメよ…今日こそはノエルくんに気持ちを伝えるんでしょ?」


「わ、わかってるよ、う、うん!」


「私も出来るだけサポートするからね!」


「あ、ありがとう」


「こちら本日のパーティーのプログラムとなっております」


そう言うと使用人達が僕達に今日のパーティーの予定表のようなものを渡してきた。紙には「ようこそアイリ様これからよろしくね!パーティー 本日のしおり」と書かれている。


「そんなパーティー名だったのか…」


「そうみたいね…あっ!でも何か結構びっしり書かれているわよ」


しおりを見てみると確かにびっしりと予定が書かれている。


「えーと何々、まずは12時からバイキング形式の昼食、13時10分からは人形劇、14時10分からはコンサートって結構本格的だなぁ」


「さぁ、みなさんまずはお食事の用意が出来ていますので是非堪能していってください」


「じゃあ遠慮なくいただきます!どれにしようかな~っと」


そう言うとアレックスは皿を手に取り一目散にバイキングのコーナ-へと向かった。


「もう、アレックスったらああいうのだけは早いのね…」


「ノエル君私たちも一緒にいきま…」


「ねぇねぇノエル一緒に行こうよ!」


メリッサがノエルに話しかけようとするとアイリに遮られてしまった。


「うん、じゃあ行こうか」


僕はアイリに腕をつかまれそのままバイキングのコ-ナ-へと向かう。


「あ……」


「もうメリッサ!」


「あ、えっ!何ジェシカ」


「何じゃないわよ…今結構チャンスだったわよ」


「そ、そうだよね。ごめん」


「私に謝ってどうするのよ…私が隙を伺ってチャンスを作るからタイミング逃さないでよ。良い?」


「う、うん」


僕はアイリに引っ張られバイキングのコ-ナ-へと向かった。


「ねぇねぇノエルどの料理にする?」


「う~ん、どれもおいしそうだから迷っちゃうね」


「じゃあこのお肉は?」


「あっロ-ストビ-フか…いいね。じゃあそれにしようかな」


「私が取ってあげる!」


そう言うと僕のお皿にアイリがロ-ストビ-フを盛り付けてくれた。


「ありがとうアイリ」


「エヘへ♪」


「あとは…あれ?なんかあそこにアイリ様の大好物って書いてあるコ-ナ-あるけど…」


他の料理をどれにしようか選んでいる際、何やら看板が目に入る。


「えっ!どこどこ……あっほんだ!」


そこのコ-ナ-を見てみるとどれもこれも僕がアンケート用紙に書いて出したアイリの大好物のお菓子がずらりと並んでいた。アイリはその光景に目を輝かせている。


「うわぁ!お菓子がいっぱい!ねぇねぇクレアこれ全部食べていいの?」


「えぇ、もちろんですわ。アイリさんや皆さんのために用意したんですもの」


「わ~ありがとうクレア」


そう言うとアイリは皿にお菓子を次々と乗せていく。僕は僕で他においしそうな料理を取って皿に盛り付けていく。


「ノエル!じゃああっちの席で並んで食べようよ」


「そうだね」


アイリに引っ張られ僕は席のほうまで歩き隣同士に座った。


「お菓子の量すごいね…全部食べられる?」


アイリのお皿を見てみるとお菓子が山のようにに盛っており見ただけで胸やけがしそうな量だった。


「アイリ大丈夫?そんなお皿にのせて…」


「うん!大丈夫だよ。このぐらいの量なんてすぐ食べちゃうよ」


「そ、そう…?なら良いけど」


「アイリさん、ノエルさん遠慮せずに食べてくださいね」


隣に座っていたクレア先輩が優しい言葉をかけてくれた。


「すいません……ありがとうございます」


優しい言葉をかけてくれた。だが…そのクレア先輩の表情を見ると何だか少し疲れているように見えた。


(あれ…クレア先輩……なんだか表情が優れてないように見えるけど…)


クレア先輩はやはり学生とはいえ王族。何かと忙しい身でありストレスなどもあるのだろう。そんなクレア先輩が忙しい中僕達のためにパーティーを開いてくれたのだから心配して水を差すようなことを言うのを僕は気遣ってやめた。


そんな中、ノエルとアイリの様子をじっと見つめるメリッサとジェシカ。


「何か中々隙がないわね…ノエル君の妹のアイリちゃんずっとノエル君にべったりよ」


ジェシカがノエルとアイリの様子を監視し、メリッサとノエルを2人きりにするチャンスの様子を伺っている中そんなことをつぶやいた。


「うん…」


「何か匂うわね」


「匂う?」


「あのノエル君の妹のアイリちゃんよ」


そう言うとノエルと隣同士で座っているアイリに視線を向ける。


「なんか兄妹以上の関係に見えない?」


「え……そ、そうかな?」


「あのいちゃつきっぷり……なんか兄妹じゃなくて…恋人同士みたいないちゃつきに私には見えるのよね。これはもしかしてひょっとしてひょっとするかもよ?」


「ま、まさか……そんなことないと思うよ……」


言葉ではジェシカの推測を否定してたものの、メリッサの声のトーンはかなり低かった。


「まぁそんなに心配しなくても大丈夫!私に任せなさいってメリッサ」


「え……任せなさいって…どうするの?」


「私がアイリちゃんの気をひくから、その隙にメリッサはノエル君と2人きりになりなさい」


「う、うん」


「じゃあ行くわよ……」


そう言うとジェシカはアイリが座っている席のほうに向かって歩き話しかけていく。


「ねぇアイリちゃん」


「ん…何?」


「あっちにおいしそうなケーキがあったから一緒に行かない?たくさん種類があったわよ!」


「え?ほんと!うん!行く」


「あれ…アイリ、さっきのお菓子は?」


「もう全部食べちゃったよ」


「あんなにあったのに……」


席から立ち上がり、あっさりノエルからアイリを引き離す作戦は見事に成功する。


(メリッサ今よ…!)


ジェシカはメリッサにウインクをし合図を送る。


(よ、よし……ありがとうジェシカ)


合図に気付きノエルの席のほうに近づくメリッサ


「ノ、ノエル君…隣良い……かな?」


「うん、いいよ」


そう言うと席の横に座るメリッサ。


「料理何食べてるの?」


「ん…僕はこのロ-ストビ-フとウインナーとサラダかな。メリッサは?」


「私はたまごサンド。何かいっぱい料理があるから迷っちゃうよね」


「そうだね」


「あっ…メリッサ、さっきステーキ焼いてくれるところあったんだけど一緒に行かない?」


「うん」


「あ…クレア先輩も一緒にどうですか?」


僕は近くにいたクレア先輩も一緒に誘おうとした。


「いえ…私は大丈夫です。お二人でどうぞ」


「そうですか」


ノエルはやはりクレア先輩の様子が気になっていた。なんだか体調が優れていないように見える。見たところ食欲もないのか先ほどから水分を取るだけで何かを食べている様子が見えなかった。


(クレア先輩……大丈夫なのかな……)

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