第32話「出会い」

ラングは上から言われた任務を全うした。それがどんなに残酷で過酷なものであっても…。呪術を使い体を酷使しながら捕虜からフィールランド連合王国の情報を引き出したりと奮闘をした。


だが…


彼の奮闘も虚しく、強大な軍事力を誇っていたアルスティン王国はフィールランド連合王国の新兵器完全自立人型機械兵士「ヒューマノイドブレード」により首都目前まで押されたアルスティン王国は和平交渉を申し出るという実質的な敗北を喫した…。


G.Z.1493年12月24日


この日、和平交渉の調印が行われ3年にも渡る戦争が終わった…。終戦を迎えたアルスティン王国の国民はどこか死んだような目をしていた。


そして、紋章士として軍に従事し、体を酷使して呪術を使った反動で体がボロボロになったラングは軍の退役を余儀なくされた…。わずかな退職金を片手に明日生きていくために再就職先を探す日々。


しかし…現実は残酷なもので敗戦によるアルスティン王国の経済の悪化などで仕事が見つからなく、また年齢も相まって再就職先は全くというほど見つからなかった。


毎日仕事を探しながらもラングの貯金は少なくなり、彼はある決断をする…。


「仕方ない…」


アルスティン王国でも比較的富裕層や貴族が住む場所にやってきたラングはある屋敷の前に立ち止まった。屋敷のまわりをさりげなく歩き見てまわった…。


「まぁこれぐらいなら大丈夫だろ…」


そう言うとラングはその屋敷を後にしてその場を離れた…。


しばらくして自宅に戻り、何かを探している様子だった。


「やっぱ捨てられねぇよな」


何かに使う道具を見つめそう言い放った。


「へ…またこんなものを使う日がくるとはな…足を洗ったつもりだったんだが…人間早々変われないってことかもな…なぁジェフ…」


そして日が落ち、夜が来た頃ラングは再び昼ごろに来た屋敷の近くに来た。


「よし、まわりに人はいない…今だ!」


そう言うと壁を乗り越え屋敷の敷地内に侵入していった。屋敷内の芝生に着地すると早速建物の中への進入を試みる。


「この窓から入るか…」


そして昼間に自宅で探していた道具を出した。空き巣で使う道具であった。この道具はラングが父親を殺され孤児になり、その後窃盗グループに入って使っていた道具である。道具を使い窓に穴を空けて鍵を開けた。


カチャッ…


窓を開け素早く屋敷内に入り早速金目のものを探すために手当たり次第部屋を散策する。


(あまり長居は出来ないからな…とっとと簡単に取れそうな高いもの盗ってずらかるか…まさかガキの時やったことをこの年齢でやらなきゃいけなくなるとはな…)


大広間らしき場所へ行き何やら高そうなものが入ってそうな箱があった。


(ん…あれは?)


金色に輝いており綺麗な模様が施されている箱であった。これだけでも十分な価値はありそうだとラングは思った。その箱に近づき手に持ってみる。


(よし…これだけでも十分な価値はありそうだ。さて中身は…っ)


そしてラングがその箱の中身を開けようとした瞬間箱が急にぱぁっと白く光出した。


「な、何だ!?」


暗闇の部屋の中での光りに思わずびっくりしてしまい声を出してしまう。


「つ、つい声を出しちまった…!何だあの箱は…」


しばらくすると光は収まり、床に落としてしまった箱が開いた。


「お、収まったか…」


恐る恐る近づき、箱の中身を確認すると…中身は高そうな指輪であった。


「よし…これはかなりの価値がありそうだ。それじゃさっそくずらか…」


そう思った瞬間、暗闇の部屋に扉を開けた子供がこちらを見つめていた…。


「…あなた誰?」


(…しまった!見られた…ど、どうする…で、でも相手が子供ならもしかしたら…)


どうにかこの場を乗り切ろうとしてラングはこの少女に話かけた。


「こ、こんばんはお嬢ちゃん…」


「こんばんは、ところでおじさんここ私の家なんだけど何か用?」


(ど、どうする…な、何かうまい切り返しをしないと…)


「い、いやぁ…じ、実はおじさん今仕事を探していてねぇーここのお家すごい素敵だから…その…おじさんここで働かせてくれないかなぁーって思ってちょっとお邪魔させてもらったんだ…」


いちかばちかの嘘をついてみる。


「ふぅーん、そうなんだ」


少女はそう言うとラングが手に持っている箱を見た。


「あっ…その箱」


「あ…!こ、この箱お譲ちゃんのだったのかい?ご、ごめんね勝手に触っちゃって…」


ラングはそう言うと少女に箱を返そうとした瞬間、大広間のドアが開き1人の男が入ってきた。


「何だ?さっき部屋からすごい光が…って」


そして今入ってきた男とラングの目線があった…。


「誰だ貴様は!」


「あっ…!」


「さては泥棒だな…我がヴィストリア家の屋敷に入るとは命知らずな奴だ!覚悟しろ!てぇやぁぁぁ!」


「うわぁぁぁぁ!」


ラングはそのまま服を男につかまれ背負い投げをされ地面にひれ伏されてしまった。そして今の騒ぎの音を聞きつけ女性が部屋に入ってきた。


「あなた…一体どうし…あなた!」


「おぉ、カロリナか良いところに来てくれた。どうやら泥棒が我が家に入ってきたみたいでね。今捕まえた所だよ。悪いが警察に連絡してくれ」


「え、えぇ…」


そして数十分後…通報を受けた警察が屋敷にやってきた。


「で…盗られたものは?」


どうやら先ほどラングを背負い投げした人物はこの家の屋敷の主人であったようだ。


「この指輪を盗んでいましてね…この私が取り押さえてやりましたよ」


「おぉ、さすが軍人貴族一家のヴィストリア家ですな。では住居不法侵入と窃盗ということで…」


「待って!」


ラングを連れて行こうとしようとする警察に少女がそう言った。


「ん?どうしたんだいヴィオラル」


屋敷の主人が先ほどの少女をそう呼んだ。


「お父様、この人泥棒じゃないわよ」


「はぁ…一体何を言って」


「このおじさんこの家で働きたいから見学に来たんだって」


まわりが呆気に取られていた。


「ねぇ!おじさん」


どうやら先ほどの嘘を信じてるのか、よくわからなかった。


「え…あ…あぁそうなんです…はい」


もはやこの状況を逃れるにはこの少女の言葉に乗っかるしかなかった。


「ヴィオラル…お前何そんなすぐばれる嘘をつく!」


「嘘じゃないわよ、昼間家にこのおじさんが来てたのお父様も見てたでしょ?」


「ん…あぁ…そ、そういえば何か家のまわりをうろうろしている奴がいたな…」


確かにラングはこの屋敷のまわりを侵入するために下調べを兼ねてうろうろしていた。どうやら見られていたようだ。


「で、その時に私が声をかけて何しているの?って声をかけて実はこの家でどうしても働きたいってこのおじさんがしつこいから、じゃあ私が使用人として使うかどうか決めるから夜来なさいって言ったのよ」


この部分は完全にこのヴィオラルという少女の作り話であった。


「そうなのか…?」


半信半疑でラングを主人が見つめる。


「は、はい!そうです」


主人がその返事を聞きふぅーとやれやれと言った感じで溜息をついた。嘘だと見抜いているらしい。


「じゃあこいつがさっき持っていた指輪は何だ?面接だけなら指輪はいらないんじゃないか?それにあの指輪はお前の大事な物のはずだろう!」


「いいえ、あれは面接で使って一時的にこのおじさんが持っていただけよ。別に盗ろうとはしてないわ」


「お前なぁ…」


「あのぉ…」


ヴィオラルとその父親が言い争いをしているのを横目に警察はどうしていいのかわからずにいた。


「で…結局どうします?」


「お父様!」


ヴィオラルは力強い目で父親を見つめた…。


「そういうことだ…この男はうちの使用人になるために面接に来ただけらしい…すまないねお騒がせしてしまって」


「お父様…」


「は、はぁ…わかりました」


そう言うと警察は屋敷を後にしていった…。


すると…


「…で、君は本当にうちの使用人として働きに面接に来たのかね?」


睨みつけるような目でラングにそう聞いてきた。


「は、はい!」


「はぁ…わかった。では明日改めて面接をしよう…今日はもう遅いが私の中で君の泥棒の疑念は晴れていないのでね…悪いが今日は我が家の物置に外から鍵をかけさせて寝てもらう。いいな?」


「わかりました…」



そして物置で一夜を過ごし…朝を迎えた。


カチャッ…


ドアの鍵が開く音が聞こえた。


「入るわよ」


ギィィィ…


ヴィオラルと呼ばれるこの家に住む少女がどうやら朝食を持ってきたようだ。


「はい、これあんたの朝食、食べてよ」


「あ、あぁ、ありがとう…」


「ねぇ、おじさん。名前何て言うの?」


食べている途中ヴィオラルが話しかけてきた。


「ん…?ラング…」


「ラングっていうのね…ねぇラングあなた…紋章士でしょ?」


「え…な、何で…?」


ラングは思わずヴィオラルの言葉にドキリとしてしまう…。


「わかるわよ。だってラングが盗ろうとしていたあの箱、あれはリゲルが使える人間じゃないと開けられないんだから。だから開けた時に白く光ったでしょ?」


「そ、そうだったのか…」


「助けたのもそれが理由なんだけどね」


「え…そ、そうか…ありがとう。すまない…もうこの家には近づかないよ」


「ねぇ…ラング、本当にこの家で働いてみない?」


「え…それは…」


「私、将来はお父様のように立派な軍人になりたいのよね。そしてお父様よりももっとすごい軍人になってヴィストラル家の名をこのアルスティン王国中にもっと轟かせてやるのが私の夢なのよ」


「…子供なのにもう夢があるのか、すごいな」


ラングが幼少の頃は明日を生きるために夢を持つ余裕がなかったため、ヴィオラルが少し輝いて見えた。


「でも我がヴィストラル家では残念ながら紋章士の能力を持っている人間がいないのよ。これからの戦いは紋章士としての能力があるかどうかで軍人として出世ができるかどうかが決まるわ!あの箱も実は紋章士がこの家に来た時に適正があるかどうかを調べるためにあそこに私が置いていたのよ」


「じゃあ…俺はそれを知らずに…」


「だから、ラング!あなたはこの家の使用人として働き将来私が軍人になった時私の手取り足取り動いてこのヴィストラル家の名声のために働くのよ!いいわね!」


「え…あ、は、はい」


ラングはヴィオラルの言葉の勢いに圧倒されついその場で返事をしてしまった。

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