第31話「懺悔」

後日、ラングの里親の家が火事になり一家が焼死したことが事件になった。


「……」


火事が起きた現場の惨状を見た警察は思わず言葉を失っていた…。


「…むごいな」


「警部、調べた結果夜中に火事が起きて一家は焼死したみたいですね。恐らく出火原因は中からだと思われます。死体が一応…家族4人のうち3人見つかりました」


「そうか、そのうちの焼死してない1人が怪しいな…」


「はい」


「よし、そのうちの1人を捜索するぞ。」


「了解です」


アルスティン王国、繁華街ヴェルト


家族を惨殺したラングはその後、自分の力を使いしばらくは自由気ままに生きた…。どこかに定住することもなく、金や食い物に困ったら力を使い欲しいものを手に入れる。まさに自由だ。


しかし…そんな生活は長くは続かなかった…。日を追うごとにラングは自分の体に違和感を感じていた。


「ハァハァ…な、何だ…。ちょっと今日体を少し動かしただけなのに…息切れしやがる…。体調でも崩したか…?とりあえず近くの宿で休むか」


繁華街、しばらく歩くと宿があった…。少しボロいがこの際我が儘は言ってられないので入ることにした。

受付が20歳ぐらいの男1人だけだった。


「泊まりたいんだが…」


「お一人様でしょうか?」


「あぁ…」


「シングルの204号室が空いておりますが、そちらでよろしいでしょうか?」


「あぁ…ハァハァ…休めればどこで良い」


「かしこまりました…ではこちらが204号室の鍵になります」


息切れしながらもラングはフロントから鍵を渡された。


「204号室は階段を登って一番奥の部屋になります」


「わかった…」


ラングはそのまま階段に登り部屋へ向かった。するとラングが階段を登り姿が見えなくなるのを確認するとフロントが電話をし始めた。


「警察の方でしょうか…?もしもし…えぇ…はい」


果たしてこのフロントの男の目的は…?


その頃ラングは部屋に付きベッドに横たわっていた。


「ハァハァ…くそ…力を使いすぎた代償ってことか…」


ここ数ヶ月手に入れた力を自分の欲望のままに使った。お腹が減れば高級レストランへ行き会計の際に自分の力を使いタダ飯食いをし、欲しいものがある度に自分の目覚めた力を使った。


「と、とりあえず…この宿で休んで体力を回復させないと…ダメだな…」


そしてラングは深い眠りについた…。すると夜までぐっすりと眠ってしまった。目が覚めるとすでに日が落ち、あたりは暗くなっていた。


「もう夜か…余程疲れていたんだろうな…まぁおかげで少し体が楽になった」


コンコン…


部屋のドアをノックする音が聞こえた。こんな夜遅くに誰かが部屋を訪ねてきたらしい。


「誰だ…?こんな夜中に?宿の従業員か?」


そしてドアを開けると…


そこには複数の男性が立っていた…。


「ラング君だね…?」


男がそう訪ねてきた来ると警察手帳を見せてきた…。


「……」


「通報があってね…このホテルに宿泊しているという。君に殺人及び放火の疑いがかかっている。署までご同行願おうか」


ラングは特に抵抗もせず背中を押され警察に付いていった。仕方のないことだと心の中で納得していた。取り調べを受け、留置所へと送られたラング。そして裁判が始まった…。

ラングは里親を殺害したこれまでの経緯を全て正直に話した。そして今までの経緯を聞き、彼のあまりにも悲惨な人生の事情が考慮された。ラングを弁護した弁護士の甲斐もあり死刑は免れた。


そして…ラングが刑務所に入れられ刑期を務めてかなり年月が経ったころフィールランド連合王国とアルスティン王国の戦争が始まった。


開戦してからしばらく経った頃、アルスティン王国の軍関係者がラングに面会をしにに来た。軍服を着た男が数人、窓越しに監視付きで若いインテリ風の男が窓の向こう側にいた。


「はじめまして…ラングさん。私は軍で研究をしている者でね。少しあなたと話がしたくて今日はこういった形で面会をお願いしました」


「軍の関係者が俺に何の用だ?」


「実は我がアルスティン王国の軍でリゲルという粒子を研究しているのですが、どうやらこのリゲルを使って色々不思議な事を起こす人間が存在するらしいのですよ…」


「……」


「身に覚えはありませんか?」


確かに身に覚えはあった。あの日以降…得体の知らない力に目覚めたラングは世界が一変した。


「…何が言いたいんだ?」


「以前あなたが殺した両親の焼死体からですが、検査結果どうやら結構なリゲルの量の反応が出たんですよ…。あなたもしかして紋章士の適正があるのでは?」


「紋章士」という聞き覚えのない言葉がその男から発せられた。


「紋章士…何だそれは?」


「はい…紋章士という命名はフィールランド側が付けたものなのですが、簡単に言うとさっき話しに出たリゲルという粒子を使って、様々な現象を意図的に起こすことが出来る人間のことを紋章士というのです。最近我がアルスティン王国とフィールランド連合王国が戦争状態に入ったことは知っていますよね?」


「あぁ…」


ラングは一応刑務所内でも新聞などは読めるので毎日目を通すようにはしていた。なので塀の外の世界の事情は大体わかっているつもりだ。


「どうやらそのリゲルを使える紋章士を軍事兵器としてフィールランド連合王国側が実戦投入しているみたいなのですが、これが思ったより厄介でしてね…。我がアルスティン王国でもリゲルの研究をしているのですが恐らくフィールランド連合王国は私たちのかなり技術的に先を行っていると思われます。我が国内でも早急に紋章士の適正があるものを捜索しているのですが…これが中々見つからなくてですね。そんな時ラングさんの事件の資料を見てここに来たのです」


「つまりその紋章士の適正がありそうな俺が軍に協力しろと…?」


「はい…察しが良くて助かります。つまりはそういうことです」


「だが、軍に協力して俺に何のメリットがある?」


当然の質問だった。戦時中の軍に協力するというのは命が危険に晒されるというリスクがあるからだ。


「はい、もちろんそれなりのメリットもこちらで用意させていただきました」


「何だ…?」


「我がアルスティン王国に紋章士として協力をしていただければラングさんの刑期の帳消しという条件はどうでしょうか…?」


「刑期の帳消しだと…正気か…?あんた」


殺人犯の刑期の帳消し…。どう考えても正気の沙汰とは思えなかった。


「えぇ…正気ですよ。じゃなければ面倒くさい手続きをしてわざわざこんな所に来て今日初めてあった人間に機密をしゃべったりはしませんよ」


「もし、断ったら…?」


「断った場合は…今日正式な手続きを踏んであなたを死刑にしたいと思います…当たり前でしょう?」


「口封じも兼ねてってことか…」


さすがに正規の軍人が殺人犯の刑期を帳消しにするという交換条件を出したなどと知れ渡れば大問題だ…。彼の返答は当然のものだった。


「わかったよ。軍人さん、協力させてもらう…」


「いやぁー賢明な判断ありがとうございます。では釈放の手続きをするので数日後またお迎えに上がります」


ラングはこの軍人の話を引き受けることになった…。刑期を帳消しにされようが、この刑務所で服役していようが人を殺したという罪そのものが消えるわけではないのだから…。なら軍に入り少しでも自分の力を世間に役立てようと決意した。


しかし、ラングは自分の命の惜しさに引き受けたのではなかった…。断って死ぬのも正直怖くはない。仮にもし死刑になり、そのまま死ねばそれでまわりは丸く収まるのかもしれない。しかしそれは罪を償わず逃げたのと一緒になるのではないかとふと思った。彼はどうしてもそんな自分を許せなかった。そんな行為は自分の父親の首をはねたあの警官やあの里親と同類の人間と同じになってしまうと思ったからだ。


(それにしても…リゲルを使い様々な現象を引き起こす紋章士…か。あの夢に出てきた影…あの影の手を掴んでから俺は不思議な力に目覚めた。あの影が話に出てきたそのリゲルなのか…?)


ラングはそんなことを考えながら数日間釈放の時を待った…。


そして…


十数年ぶりの塀の外にラングは出た。とても眩しかった…。


「お待ちしていました…ラングさん」


出口ではあの時面会に来た人物がそこに経っていた…。


「あんたか…」


「車を用意しています。さっそく行きましょう」


「行くって…?」


「我が国のリゲルの研究を行っている軍事施設です」


数人の軍人に連れられラングは車に乗り込んだ。そして車に乗って施設に向かう道中、ラングが軍人に囲まれて緊張しているのに気付いたのかリラックスさせるために話かけてきた。


「どうですかラングさん…久々に見る外の景色は?」


「…なんか色々変わっていると思ったけどあんまり変わってないな」


「そうですか」


そしてしばらくまた沈黙の間になった。そして次はラングが口を開いた。


「なぁ、軍人さんちょっと頼みごと聞いてもらってもいいか?」


「えぇ、一応出来る範囲なら良いですけど何ですか?」


「ハンバ-ガーとかケーキがものすごく食べたいんだが…}


「えっ…ハンバ-ガーとケーキ…ですか?」


会話を聞いているまわりの軍人も少し呆気に取られていた。


「あぁ、刑務所の中って栄養バランス考えられていてうまいんだが、どれもこれも薄味なんだ。だから味が濃いものを食べたくてしょうがなくて…良いか?」


「あ、あぁ…なるほど…。そういうことですか。わかりました、では施設に向かう途中どこか食事出来る場所にでもよらせていただきます」


「助かる」


そして軍の施設に行き、正式な手続きを踏んでラングは軍人になりアルスティン王国の部隊「ブラッド・ワルツ」という部隊に配属を命じられた。

部隊の主な任務は情報収集やスパイ、他には非合法の任務など汚れ役を請け負ったりもする。ようはアルスティン王国軍の暗部だ。任務は非人道的な残酷なものなどもあり、精神的に追い込まれ軍を辞めるものも後を絶たなかった。


「俺が選ばれたのが分かる気がするな…」


そして…ラングの紋章士としての能力を有効的に使うにはこの部隊は最適の場所であった。

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