第27話「お似合いですよ」

パーティーの前日、メリッサに一緒に服の買い物を付き添ってくれと頼まれたので駅前で待ち合わせをしていた。


「ちょっと早く着きすぎちゃったかなぁ」


時計台を見ると15分前であった。あまりメリッサを待たせるのが悪いと思ったので家を早めに出たのだがまだ姿が見えない。この時計台の下で待ち合わせのはずなので、いずれ来るだろうということでここで待つことにした。すると…


「あっ!ノエル君こっちこっち!」


反対の道からメリッサが手を振っていたのが見えた。


「あれ…メリッサもう来てたのか」


僕は横断歩道を渡りメリッサのいる反対側の道まで歩いた。


「駅前の時計台の下って聞いたから待ってたんだけど…」


「うん、だから待ってたよ。ほら」


メリッサが指を指すと方向にはもう1つ小さいが時計台がそこにあった。


「あれ…本当だ。普段はこっちの方の駅には来ないからわからなかったよ」


「ノエル君が待っていたのは青い時計台で、私が待っていたのは赤い時計台なんだよ。これって何で2つあって色が分かれているかノエル君は知っている?」


そう言えばそうだ。色と大きさが違う時計台が少し離れた場所にある。


「いや…知らないなぁ。何で色が違うの?」


そう言うとメリッサは自慢気に僕の方を見た。


「ノエル君は何でだと思う?」


「えっ…そ、そうだなぁ…。壊れて動かなくなった時のための予備とか?」


自分でも違うと思ったがとりあえず適当に答えてみた。


「ブー残念でした」


「まぁだよね。メリッサは何で青と赤に分かれているか知っているの?」


「もちろん。実はね、この時計台は青と赤で男性と女性に分かれているって製作者の意図らしいよ。面白いでしょ?」


「へぇーそうなんだ」


「で…それでね」


何やらソワソワし始めたメリッサ。


「それで?」


「うん…その…青い時計台と赤い時計台で男女が別れて長針と短針が重なっている時間に告白をすると…そのカップルはずっと幸せになれるっていう話があるんだ…」


何とも巷でありふれた迷信のような話である。でもメリッサはこういうオカルトっぽい話は好きそうだ。


「ふ~ん…なるほどね」


「ノエル君はどう思う?」


「どう思うって?」


「この時計台にまつわる話。信じる?」


いきなり唐突な質問をしてきた。まぁここは無難にあわせておくとするか。


「う~ん。まぁそうなったら素敵だねって感じ?」


「素敵だよね」


「信じたほうがロマンがあるからね」


「フフ、そうね…じゃあ、早速一緒に服見に行きましょうか」


「うん」


メリッサと一緒にさっそく大きめの洋服屋に行く。カジュアルな店内で見てみると同じ年くらいの人何人か先に入っていた。


「じゃあ入るよ」


店内に入ると中々ポップな曲がかかっている。


「イラッシャイ、ドウゾゴユックリ」


店員と思われるヒューマノイドドールに挨拶される。


「あっ!ノエル君これなんかどう?」


店内を少し見回し、メリッサはお店の中にあったワンピースを僕に見せた。中々良さそうなデザインだった。


「う、うん…良いんじゃないかな?」


「ほんと?色が4種類あるけどノエル君はどれが良いと思う?白と黄色と赤と青」


「僕は白かなー」


「白かーう~ん。まぁ…まだ他の服も見てみないとね!」


予想通りこれはかなり長くなりそうな予感。


店内をまわって約1時間が経過していた。


「メリッサまだー?」


試着室から中々出てこないメリッサ


「あと1着だから待って。う~ん…これにしようかなーよし」


すると試着室から服を持ってメリッサが出てきた。


「それ買うの?」


「うん、やっぱりノエル君が似合うって言ってたこの白のワンピース買おうかな」


「良いと思うよ」


「じゃあお会計してくるわね」


服を持ってレジの方に行きお会計を済ませるメリッサ。


「ノエル君、この後ちょっと時間ある」


「大丈夫だけど」


「じゃあ休憩ついでに一緒に喫茶店に行ってお茶でもしない?」


「うん、良いよ」


僕も丁度どこかで休憩したかったのでOKをした。2人で洋服屋を出て喫茶店を探す。


「あっ…あそこの喫茶店なんかどう?」


「ん…どれ?」


メリッサが指さした方向を見ると看板に喫茶フォレストと書かれ、モダンな雰囲気の喫茶店だった。


「結構良い感じのお店だと思うけど。ここにしない?」


「よさげな店だね。僕はこういう雰囲気好きだよ」


「じゃあノエル君も賛成ということでこのお店に決定」


2人で喫茶店に入り休憩することにした。


「いらっしゃいませー何名様でしょうか?」


「2名で」


「はい、かしこまりました」


「あっ…」


「…どうかなさいましたか?」


「…いえ…すいません。店内にヒューマノイドドールが見当たらなかったので珍しいなと」


「うちのお店はヒューマノイドドールは使わない方針なんですよ。店長が昔ながらの喫茶店というコンセプトでやってまして」


「なるほど」


「はい…奥の席へどうぞ」


メリッサと奥のテーブルへ案内され座り、2人でメニューを見て決める。店の内装は木で出来ており、椅子やテーブルも全部木で出来ていた。天井を見るとシーリングファンがまわっており結構落ち着く雰囲気であった。


「ノエル君何頼む?」


「んーどうしようかな…」


「私はアイスカフェオレ」


「じゃあ…僕はアイスココアで」


「…ノエル君まだコーヒー苦手なんだね」


「う、うん…」


「昔ノエル君小学校の時、もらったコーヒー牛乳嘔吐いてたもんね」


「なんか変なとこ覚えてるね」


「うん。でも残すの悪いからって頑張って飲んでた姿、私ちゃんと見てたよ」


「ははっ…」


実はメリッサとアレックスとは小学校から実は同じ学校で今でも同じ学校に通っている。


「ついでに何かスイーツも食べようかなー」


再びメニューを手に取り目を通すメリッサ。


「え…」


「ちょっとノエル君、今のえっ…て何?あっ!太るぞとか思ったんでしょ?失礼しちゃうんだから」


「いや、そんな勘繰りすぎだって…」


「本当?」


「う、うん…メリッサは今でもすごい綺麗だよ…ははっ」


機嫌が悪そうになる前にすかさずフォローをいれる。


「ほ、ほんとう…ノ、ノエル君」


下を向き赤くなってしまった。


「う、うん。じゃあメリッサもケーキ頼むなら僕も…このミルクレープ頼もうかな」


「私はこの人気ナンバー1フォレストオリジナルパンケーキっていうのにしようっと」


メニューが決まったので先ほどの店員さんを呼ぶ。


「えーアイスカフェオレとアイスココアが1つずつ、ミルクレープとフォレストパンケーキが1つずつ以上でよろしいでしょうか?」


「はい」


「では少々お待ちくださいませ」


注文を聞き終わり店員さんがその場を離れる。


「こうやってノエル君と2人きりで出かけるのって久々だよね」


「そういえばそうだね。アレックスとは多いんだけどね」


「実は昔、ノエル君がアレックスとばっかり遊んでいたから私も男の子だったらノエル君も遊んでくれたのかなぁってアレックスに嫉妬しちゃってたんだ」


「えっ…そうなの?」


「うん、だからそのせいかアレックスには今でも何か強く当たっちゃうんだよね」


「何かちょっとかわいそうな気が…」


「ねぇノエル君覚えてる?小学校の遠足の時のこと」


「ん?遠足の時…?」


「うん、私が迷子になった時のこと」


「う~んぼんやりとだけ」


「みんなで山に遠足になった時、私だけ単独行動してはぐれちゃったんだよね」


「あぁ…そんなことあったね」


「で道がわからなくなっちゃって…」


「うん、あの時はみんな大騒ぎになったんだよね。メリッサがいないってなって」


「1人になってかなり時間が経ってきちゃって…」


「うん」


「とうとう道も暗くなり始めて、ずっと1人だから怖くなってきちゃって…私泣いちゃったんだよね」


「そうだったんだ」


「でもそんな泣いている時、ノエル君が必死で走って私のこと見つけに来てくれて私嬉しかったなぁ」


「そんなことあったね。その後先生にめちゃくちゃ怒られたのは鮮明に覚えているけど」


「ノエル君にとってはあんまり重要じゃない思いでかも知れないけど私にはあの時ノエル君が私を助けにきてくれた王子様なんだよ」


「王子様ねぇーなんかピンと来ないし恥ずかしいなぁ…」


メリッサの例えにこそばゆくなる。


「(私は…助けに来てくれたあの日からずっとノエル君のこと意識してるんだよ。ノエル君は鈍感だから私の気持ちに気付いてないけど、明日のパーティーでこの気持ちを伝えるんだから!)」


「(何か一瞬メリッサの目力は物凄かった感じがしたけど…気のせいかな…」)


「でもよくノエル君、あの時私の場所見つけられたよね」


「なんか声が聞こえたからさ」


「あんな山の中で?」


「うん…もしかしたらって思ってそっちの方を探してみたらメリッサがいたんだ」


「へぇー」


「昔から聴力と視力は人より良いんだよね」


「運動神経も悪くないよね…何か普段やっているの?」


「全然。特に何もやってないよ」


「才能なのかなぁ」


「お待たせいたしました」


メリッサと会話をしてると注文していた飲み物とケーキが店員さんによって運ばれてきた。


「こちらアイスカフェオレとアイスココアになります」


「どうも」


「そしてこちらがミルクレープと…」


僕の注文したミルクレープがテーブルに置かれる。すると…


「こちらが当店人気ナンバー1フォレストパンケーキになります」


「うわ…」


ゴトっとテーブルに置かれたパンケーキは通常よりもかなり大きく何枚も重なっていて、上にはアイスクリームやフルーツが乗っておりかなりのボリュームだった。


「おいしそう。メニューの写真で見た瞬間心にビビッと来たのよね」


「大丈夫?」


「えっ…大丈夫って?あっまた太るぞとか思ってるんでしょ?もうノエル君ってデリカシ-ないんだから」


「いや…全部食べきれるのかなぁて…」


「へーきへーき。甘いものは別腹だから私!」


「そ、そう…」


そしてメリッサが一口パンケーキを口に運ぶ


「ん~!おいしい!こんなおいしいパンケーキ出してくれる喫茶店があったなんて」


そして僕も自分の注文したミルクレープを一口食べる。


「あっ…ミルクレープおいしい」


ミルクレープのクリームの層が何重にも細かく重なっており甘くてとてもおいしかった。


「気に入っていただけて嬉しいです」


僕らの会話を聞いていた店員さんが話しかけてきてくれた。


「あっ…どうもケーキすごくおいしいです」


「ありがとうございます。ケーキは全部うちのお店で私が手作りでこだわりをもって作っているんですよ」


「えっ!全部手作り?」


「はい」


昨今は料理を作るのもヒューマノイドドールに任せるのは珍しくなく全部手作りというのは珍しい。


「なので結構時間がかかっちゃうこともあるんですけど、やっぱりお客様のおいしいって一言が嬉しくて」


「そうなんですね」


「すいませ~んお会計お願いします」


どうやら他のお客さんに呼ばれたようだ。


「あっすいませーん。どうぞごゆっくり」


そして飲み物とケーキを食べ終え、そろそろ店を出ようとする。


「じゃあ、そろそろお店出ようか」


「うん、というかほんとに全部1人で食べちゃったねメリッサ」


「あれぐらい余裕よ」


かなりのボリュームがあったパンケーキだがメリッサはぺロリと平らげてしまった。


「すいませーんお会計お願いします」


「あっは~い」


「ノエル君、今日は付き合ってくれてありがとう。だから、ここのお店のお会計は私が出すね」


「えっ…そんなの悪いよ」


「いいからいいから。遠慮しないで」


「う~ん…」


なんかメリッサに悪いことをしてしまったような気がする。すると先ほどの店員さんがレジに来てお会計をしに来た。


「えーと…お会計は?」


「一緒で」


「ではアイスカフェオレとアイスココア、フォレストパンケーキにミルクレープで合計2600フラルで2割引で2080フラルになりますね」


「えっ…?2割引ですか」


「えぇ、今日は土曜日なので」


「土曜?」


「はい、ほらあそこに」


すると店員さんが指差した看板の案内に土曜日にカップルで来たお客様はお会計から2割引させていただくサービスを実施していますと書いてあった。


「カ、カップル!?」


「えぇ、だってあなた達カップルでしょ。とってもお似合いですよ」


店員さんがそう言うと僕らのほうににこやかな笑顔をしてきた。


「え…いや…その」


「え…?違うの?」


するとメリッサが急に僕の腕を組んできた。


「はい、そうなんですよ。もう結構付き合いが長くて」


「あっやっぱりそうですか。とってもお似合いですよ。ウフフッ」


「お似合いだなんて…そんな…ありがとうございます。じゃあ丁度2080フラル」


「はい、丁度いただきます。ありがとうございました。またお越し下さい」


「ごちそうさまでしたー」


メリッサは強引に僕と腕を組みそのままお店の外に出た。


「ノエル君と私お似合いだってさ…ウフフ」


「でも嘘ついちゃったのちょっと悪いことしちゃったんじゃ…」


僕は少し罪悪感を感じていた。


「えー別にいいじゃん。それにお会計出したの私なんだから、ノエル君は文句言わないでよね!」


「う、う~ん…」


それ以上僕は何も言えなかった。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか!はい」


すると手を僕のほうに出してきた。


「何…?その手…」


「もう!カップルなんだから手をつないで帰るのは当たり前でしょ!バレちゃうかもしれないじゃん」


「う、うん…わかったよ」


僕は言われるがままにメリッサの手を握った。


「(エヘへ…ノエル君とお似合いだって!絶対明日の告白成功させて見せるんだから!)」


「ちょ…ちょっと痛いかな。強く握りすぎ」


「あっ!ごめんごめんつい」


「もう…」

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