第25話「懐かしい感じ」
アイリが夕食の支度を整えている間、とりあえず自分の持っている服でクレア先輩の家に行っても恥ずかしくないような服を探す。
「…どうしようかな]
自分の部屋のクローゼットの中にかかっている服を改めて眺めているとなんというか子供っぽいもの、もしくは地味な物が多い。
「う~ん…どれもなんか王家の家に行く服じゃないなぁ…最悪買いに行かなきゃいけないかも…みんなはどんな服装で行くのかなぁ…明日学校で聞いてみるか」
「ノエルー夕食出来たよー!」
「ありがとう。今行くよ」
着ていく服を考えているとアイリの夕食の準備が出来たようだ。とりあえず服選びは中断することにした。リビングまで行き、食卓まで行くと手の凝った料理が並んでいた。
「わぁ…今日は結構豪華だね」
「エヘへ♪私頑張っちゃった!」
食卓に並んでいたのはハンバーグとエビフライとカキフライなどいずれも僕の好物であった。
「わぁ…おいしそう♪いただきまーす」
「どうぞ召し上がれ~♪」
さっそくハンバーグなど食べ始めると口の中で肉汁が溢れ出て美味が広がりとてもおいしかった。
「アイリこのハンバーグおいしいね。料理の腕あげたね」
「うん♪ノエルに喜んでもらうためにものすっごい練習したんだからね」
他にはエビフライやカキフライにも手をつけるとどれもおいしかった。するとアイリの夕食を堪能していると玄関から音が聞こえた。
ガチャッ
「ん?じいちゃんかな?」
玄関まで行くと珍しくじいちゃんが早い時間に帰ってきた。
「おかえりじいちゃん」
「おぉノエルか。ただいま、今日は早く仕事から上がれてな
じいちゃんは靴を脱ぎ玄関から上がり自分の部屋に行こうとした。すると…
「今日はいい匂いがするな…」
「うん、アイリがなんか今日は夕食に気合を入れてハンバーグ作ってくれたんだ」
「ほぉーそれは楽しみだな。冷めないうちに早めに着替えていただくとするか」
「うん」
リビングに戻りじいちゃんが帰ってきたことをアイリに伝える。
「おじいちゃん今日は早く帰ってきたんだ。今用意するね」
アイリが料理をじいちゃん用に皿に盛り、僕がじいちゃんの食べるスペースを空ける。そしてしばらくすると着替えを終えたじいちゃんがリビングにやってきた。
「おぉこれはうまそうだな」
「でしょ?おじいちゃん。今日は気合入れて作ったんだ」
「では、いただくとするか。いただきます」
「はい、召し上がれー」
じいちゃんはアイリの料理に手をつけるととても満足そうな表情をした。
「ほぉ…これはおいしい。いつの間にかアイリ、料理の腕を上げたな」
「うん、エヘへ♪ノエルにもさっき褒められたんだー」
「最近家で夕食を取らなかったからこういうのは久々だな」
じいちゃんは夜遅く帰ってくることが多く、大体は外食か買ってきたものを1人で食べることが多い。なのでこうやって3人で食卓を囲むこと自体が久々なのである。
「そういえば何で今日はこんな料理が豪華なのじゃ?」
「ええと…それはねぇ」
僕はアイリの歓迎パーティーの件、そしてクレア先輩ことクレア王女の家に遊びに行くことを話した。
「なるほどな…しかし不思議な経緯だな」
「まぁね…でも何でアイリとまた話したいからって理由で誘ってくれたんだろう?」
「さぁ…それはワシにもわからん。まぁくれぐれも失礼のないようにな」
「うん、わかってるよ。で…そこで何だけどさ、じいちゃんに聞きたいことがあって」
今日は珍しくじいちゃんが早く帰ってきたということでさっそく例のことを聞いてみよう。
「何だ?聞きたいことがあって」
「…実はクレア王女の家に行く時にちゃんとした服で行った方がいいんじゃないかなと思って。家に何かタキシードか何か正装みたいな服ないかなって」
僕がそう聞くと、じいちゃんが上のほうを向き少し考える。
「んーどうだったかな…古いのであれば押入れに多分あると思うが」
「とりあえず、服は夕食食べてからで良いよ」
「そうか、わかった」
夕食を一足先に食べじいちゃんが食べ終わるまで待つことにした。
「ご馳走様、アイリすごくおいしかったよ」
「エヘへ♪ありがとう。また頑張るね」
そう言うと自分の部屋に戻り、じいちゃんが夕飯を食べ終わる間に携帯でアレックスやメリッサにどんな服装で行くかメールで相談することにした。ジェシカのアドレスは知らないので後日学校で聞くことにする。
「何て送ろうかな…まぁ別に変なこと聞くわけじゃないしストレートに聞いてみるか」
携帯を取り出しさっそく文章を打っていく。
「ええと…クレア先輩の家どんな服装で行ったらいいと思う?あとはええと…」
しばらく考える。
「僕は一応タキシードとかちゃんとした服を着ていった方がいいかなって考えているんだけどどう思う?こんなもんかな?」
アレックスとメリッサにメールを送信しあとは返事を待つのみとなった。
「お~いノエル食べ終わったからワシの部屋に来なさい」
丁度じいちゃんも夕食を食べ終わったようだ。
「今行くよー」
じいちゃんに呼ばれ、一緒に部屋まで行く。
ガチャッ
「確かクローゼットの奥にあったと思うがちと探してみる」
「うん」
じいちゃんはクローゼットを開け服を探し始めた。
「スーツ関係の服はここらへんにいつもあるから好きなのを着ていくが良い」
じいちゃんは研究会の発表や大学での講義でスーツを仕事で着ることが多い。クローゼットから数点スーツを出し選ぶ。
「う~ん…」
「どうした?」
悪くはないのだがどれも出勤するおじさんサラリ-マン感が出ていて、なんというかパーティーに行くような服ではないように感じた。
「じいちゃん他にはないの?」
「他か…」
そう言うと部屋の中にあるタンスに行き他の服を探してくれた。じいちゃんに1人で探させるのは悪いので自分も一緒に探す。すると良さそうなスーツが1着あった。
「あっこれ…いいかも」
カジュアルなデザインであり色もグレーで着ていくには丁度良い感じであった。
「じいちゃん?この服借りていっても良い?」
「ん?それか…」
僕が借りようとした服をじいちゃんに見せると少し表情を曇らせた感じがした。
「あっ…別にダメだったら良いよ…その…他の服探すから」
「いや別に構わんぞ。その服が気に入ったなら持って行きなさい」
「え…良いの?でも今じいちゃんの表情がちょっと曇った感じがしたからダメなのかなって思って」
「そ、そうか…?」
「でもなんかこの服なんか懐かしい感じがする…。僕この服昔見たことあるのかな?」
「その服は…一応アランのだからな…」
「え…?父さんの…」
アラン・クスガミ。僕の父親の名前だ…。じいちゃんの息子で旧姓はゼーべック、母さんの家に養子として入り姓が変わったという経緯がある。そしてその父親は現在行方不明。今もどこで何をしているのか全くわからない状態である。
「うむ…まぁなんというかその服を選ぶのは親子だなという感じだな」
「そっかぁ…うん、僕この服借りていくよ。じいちゃんありがとう」
これも何かの縁だと思い、僕はこの服を借りていくことにした。
「…父さんの匂い、こんな感じだったんだな…」
そして次の日…
いつものように学校に登校し少しアイリのパーティーのことについて相談することにした。
「ノエル、メール返信したけど読んだか?」
「うん、読んだよ。普通の服で行くんでしょ?」
「あぁ、俺も最初なんかスーツとか正装して行ったほうがいいんじゃないかなって思ったんだけど、やっぱやめた。気取っているみたいでなんかちょっとな」
アレックスらしいと言えばらしい。
「そうなんだ」
「お前はどうするんだよ?やっぱなんか着ていくのか?」
「一応…うん。なんか良さげな服があったからそれ着て行こうかなと」
「ふ~ん、やっぱ俺も何か着ていったほうがいいのかなぁ」
そんな会話をしているとメリッサとジェシカに声をかけられる。
「ノエル君ちょっといい?」
2人同時だったのでジェシカとメリッサの声がハモった。
「何?」
「あっ先にジェシカからでいいよ」
「あっほんと?じゃあね…実はノエル君の妹のことで今後連絡することもあるかもしれないから連絡先交換しようと思って。いいでしょ?」
そう言うとジェシカは携帯を取り出した。
「うん、いいよ。ええと…」
ポケットに入っている携帯を取り出しジェシカと連絡先を交換した。
「オッケー、じゃあ何かあったら連絡するね。そっちも何かあったら気軽に連絡していいから」
「わかった。ありがとう」
「あの…ノエル君」
「どうしたの?メリッサ」
「うん、昨日のメールの件で着ていく服なんだけどさ…そのちょっとオシャレしていこうかなと思って…」
アレックスとは違い反対にメリッサはオシャレしていくようだ。
「そうなんだ…良いんじゃない?」
「それで、その時に着ていく服買おうかなって…」
「別にいいと思うけど…なんかもったいなくない?その時のためだけにっていうのも」
「んーまぁでも最近洋服買ってないから良い機会かなって…」
「そうなんだ」
「それで…その時に着ていく服を一緒に選んで欲しいなって…」
「えっ?僕が…」
「う、うん…ダメ…かな?」
女の人の服なんて選んだことないから自信ないなぁ…でも断る理由もないし。
「僕でいいなら別にいいけど…」
「ほんと!じゃあパーティーの日の前日に一緒に来て」
「うん、わかったよ」
ということでメリッサと一緒に服を買いに行く約束をした。すると…
「ねぇねぇ、ノエル君何か2年の人が教室のドアのところでノエル君のこと呼んでいるけど…」
「えっ僕…?」
なんか今日はやたら呼ばれる日だな…今度は何だ?
「はい、何でしょうか?」
すると2年の先輩が待っていた。なんかどこかで見たことあるような気もしないでもないが…。
「ノエル・クスガミか?」
「はい、そうですけど」
「うむ、今度君の妹のパーティーをクレア様の家でやることは知っているな?」
「はい」
「そこで君の妹のパーティーを準備万端でやるために妹の好きなものリストを作って欲しい。料理や出し物など全てこちらで用意するから、妹さんの好物や好きな物など質問形式で書かれているこの紙に好みを書いて私に提出してくれ」
すると先輩から質問がビッシリ書かれている1枚のA4ぐらいの大きさの紙を手渡された。
「妹の好きなものですか…」
「期限は明後日までだ。ちゃんと締め切りは厳守してくれ」
「わかりました」
「では、私はこれで失礼する」
そう言うと先輩は去っていってしまった。
「アイリの好きなものねぇ…何が好きなんだろう?」
メリッサの洋服の買い物の付き添い、そしてアイリの好きなものリストの作成という仕事が増えた。
「やることが増えてしまった…」
僕はそう言うと自分の席に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます