第22話「心配だよ」

休みがあけ、今日は学校の登校日…しかし珍しく朝からちょっとしたトラブルが起きている。


「アイリ…ダメだって…」


「だって危ないよノエル!」


「大丈夫だよ…」


「でも!」


「心配しすぎだって」


アイリが珍しく朝から僕の言うことを素直に聞いてくれなかった。僕の袖を掴み中々朝から離してくれないアイリ。そこに何事かと思いじいちゃんが部屋から出てきた。


「なんじゃお前ら、朝っぱらから…騒ぎおって。」


揉め事だと思い少し怒っている様子だった。


「あっごめん、じいちゃん。ちょっとアイリが…」


「えー私はノエルのこと思って」


ちょっと険悪な雰囲気すら漂っている。それを見たじいちゃんは…


「どうした…?ノエルとアイリが喧嘩するなんて珍しいな」


「いや別に喧嘩ってわけじゃないんだけど…」


「とりあえず何でお前ら2人で言い争いになっておるんだ?」


じいちゃんにそう言われ僕は事情をちゃんと話した。


「それが…この前僕が襲われたから僕を守るために学校も付いて行くって言うことを聞いてくれないんだよ…」


「ほぅ…」


「だってまたノエルが危ない目にあったら私…」


「なるほど、そういうことか。事情はわかった。だがお互い携帯を持っているだろ?何かあれば連絡が取れると思うが?」


「でもそれでもこの前襲われたじゃない?だから念のためにって…」


「ふむ…まぁアイリの言うこともわからなくはないな。そういうことならちょっと待っていろ」


するとじいちゃんは自分の部屋に戻り、何かを取りに言った。そして数分後…


「ほら、これをお互い持っていなさい」


じいちゃんは黒い小さな四角い液晶が付いた機械を僕ら2人に渡してきた。何の機械かわからなかった。


「何これ?」


「小型のGPSだ。これを持っていればお互いどこにいるか常にわかる。携帯にも一応GPSはあるが2つあればアイリも安心だろ。しかもこちらのほうが高性能だ」


電源をいれるとMAPが表示され現在地が示された。今の現在地の自宅の場所をちゃんと表示している。


「わぁ!これなら大丈夫だね。エヘへ♪」


しかしこれを見た僕はあまり気分がすすまなかった。


「う~ん…」


するとそんな僕の様子を見たじいちゃんが声をかける。


「ん?どうしたんだノエル」


「いや、何というか…」


「何というか?」


「なんか監視されているみたいでちょっと…」


「なるほど…ちょっとノエル隅に行こうか…」


「えっどうしたの2人共」


「ん?ノエルが使い方がわからんというのでちょっと教えてやるだけだ」


すると僕はじいちゃんの部屋の中に一緒に入っていった。


「このボタンを押すとな…」


じいちゃんがGPSの機械についているボタンを押した。すると現在地と違う場所にいることになっていることに気付く。


「あれ…これは…どういうこと?」


「うむ…このボタンを押すと自分の位置情報をごまかすことが出来る。まぁフェイクボタンだな。だから相手に位置が知られたくない場合はこのボタンを押せば良い」


「なるほど」


「ちなみにフェイクの位置は複数自分で設定できるから、それは自分の好みで設定してくれ」


「わかった。ありがとうじいちゃん」


じいちゃんにお礼を言い自分のGPSをポケットの中に入れた。しかしじいちゃんの部屋はいつも訳がわからない機械がいつもあるイメージなのだが、今日は少し大きめの見たいことがない機械があった。


「ところでじいちゃん…この少し大きめの機械は何なの?」


「ん?あぁこれか…こないだ医療機器メーカーと共同で作っている物があったと言っただろう?」


「うん、言ってた」


「それの試作品だ。昨日完成したんだ」


「へぇー…で一体何する機械なの?」


「うむ…これは主に精神や心身の傷害のある患者へ治療目的で使う機械なんだが、患者の心のイメージと自分の心のイメージの意識を共有して治療する機械だ」


「…?よくわからないんだけど…」


「簡単に言えばこれを使って精神科の医者が鬱病などの患者の心に直接入り込んで治療する機械と思ってくれれば良い」


「…それってかなりすごいことなんじゃない?人の心に入り込むって…」


「そうだな…お前今更ワシの凄さに気付いたのか?」


「いや…別に…じいちゃんは前から凄い人だと思ってたけど、まぁ改めてって感じで」


「といってもまだまだ問題点が多いんだがな」


「問題点って?」


「まずは患者と処置する人物の心を共有するわけなので患者への負担は勿論、心の中に入る使用者への負担も大きい」


確かに考えてみれば他人の心の中に入るって相当負担が凄そうだ。この理由には納得。


「そして、他人の心の中に入りイメージを共有するためには大量のリゲルが必要になるという点だ。つまりは紋章士の適正を持つ人物を介さなければ使うのは厳しい…ということ。しかもかなりレベルの紋章士だ」


紋章士は生まれながらリゲルを使い紋章コ-ドを使える人物なのだが、紋章コードを使える人間は希少でありその人物を介してとなるとそもそも機械を使える機会が少ないということだ。これはかなりの問題点になる。使うために紋章士をわざわざ見つけなければいけないのはかなりネックだ。


「それって…医療機器として使うにはかなり辛いんじゃない?」


「まぁ今のとこはそうだな。だからこれから改良も兼ねていかなきゃいけないんだがな」


なんかすごいと思った途端、問題点を知りその落差がちょっとあったのでガッカリしてしまった。けどじいちゃんが僕とアイリが喧嘩しているのを見てイラついてたのは多分この機械の問題点をどうにかしなきゃいけないというのもあったのだろう。


「ん?もうこんな時間か…。ワシはそろそろ仕事場へ行かねばならん。ノエル、お前も学校にそろそろ行かないと遅刻するぞ」


「あれ…本当だ。もうこんな時間」


ふと時計を見ると結構良い時間になっていた。どうやらじいちゃんと長話しすぎたようだ。そう思いじいちゃんはいつものカバンに難しい資料や本を入れ部屋から出て行った。


「ノエル、戸締りは頼んだぞ」


「うん、わかった。いってらっしゃい」


そう言うとじいちゃんは出かけていった。僕も部屋を出て支度に取り掛かる。そして自分の部屋に戻ろうとするとアイリがこちらに寄ってきた。何やら申し訳なさそうな顔をしているようだ。


「あの…実はノエル今日ね…」


何だかたどたどしい話の仕方をしてきた。


「ん?どうしたの…?」


「今日…その…ノエルのお弁当作るの忘れちゃったの…」


最近毎朝僕の学校のお昼休みで食べるお弁当をアイリが作ってくれる。僕も頼んだわけではないのだがいつの間にか定着していた。アイリはお弁当を作るのが楽しいらしくここ最近は張り切ってお弁当を作ってくれていた。


「あぁ…しょうがないよ。今日は食堂で食べるから気にしないで良いよ」


するとアイリが…


「ありがとう。でもノエルにも半分責任があるんだからね!」


「えっ!ぼ、僕にも?」


「うん、だってノエルが素直に私の言うとおりに学校に連れて行ってくれたらお弁当作ること忘れなかったんだから。だから半分はノエルのせい」


「え、そ、そうだったんだ…ごめん」


しかし、今日は珍しくアイリが僕に少し怒る日だった。前まではそんなことはなかったのだが、これもアイリとの距離が縮まった証拠なのかと思うと少し変だが僕的には嬉しかった。今までのアイリは僕のことを優先してばかりで遠慮しているように見えたのだが最近は少しそんな様子が薄まってきてずっと前からの家族のように思えてきた。そんなわけか僕は謝りつつも少し笑顔になってしまった。


「もう…ノエルったら…ニヤニヤして変なの!」


「ごめんごめん…お弁当のことは本当大丈夫だから。じゃあ僕学校行ってくるね!」


「うん、いってらっしゃい」


アイリに挨拶をし家を出て学校へ向かって行く。そしていつもの通学路を歩いていき学校に着く。休み明けの学校は相変わらず何事もなく平和だった。ただ一つ変わったことがあった。


「なんかファルシュ先生急にに学校辞めることになったらしいぞ…」


「急に何でやめたんだろう…」


「俺結構マジで好きだったんだけどなぁ。はぁ~」


クラスの話はそのせいで少しざわついていた。しかし僕はなぜ辞めたか知っている。というよりファルシュ先生ことヴィオラルは今生きているのかさえわからない…。あの戦いの後の瓦礫の下で無事でいるとは思えなかったからだ。


「おっすノエル」


いつものように友人のアレックスが挨拶してきた。思えばこの光景もアイリが助けに来てくれなければ二度と拝めない光景だ。改めていつもの日常というのがありがたいことか再認識できた。


「ファルシュ先生辞めたらしいぞ」


「うん…さっき聞いた。なんかクラス中その話でずっと盛り上がっているね」


「お前何か知らないの?」


「えっ…?」


僕はドキっとした。まさかアレックスがあの廃ビルの件を知っているはずがないのだから。


「いや、お前が最後授業の後ファルシュ先生の補習を受けたんだから最後会ったのはお前だろ?だから何か知っているんじゃないかと思ってさ」


少し安心する。そう言えばそうだ。最後に放課後の補習に呼び出されたのは僕だったので最後に先生に会ったのは僕だ。そりゃ聞かれるはずだ。


「いや特に何も知らないよ」


「そうかぁ。じゃあ何が原因なんだろうな…」


「う、うん…そうだね。何だろうね」


「ちなみに聞くけどさ…」


「何?」


「お前補習の時の記憶ちゃんとある?」


「う…うんあるよ。ちゃんと補習してくれたよ」


「そっかぁ…じゃあやっぱバスケ部の奴らと俺だけ記憶がないのはたまたま…ってことなのかな」


「きっと…そ、そう疲れてたんだよ!バスケ部は大会が近いから練習厳しいし」


どこか納得のいってないアレックスに言い聞かせた。


キーンコ-ンカーンコ-ン♪


ガラッ


予鈴がなり担任のユーミル先生が入ってきた。


「はい、みなさん席に着いて下さい。HRを始めます」


今日は全員が席に着くのが早かった。きっとみんなファルシュ先生のことが気になっているので連絡事項が気になるのだろう。


「おはようございます。連絡事項なのですが、みなさんも既にご存知の方も多いと思いますがファルシュ先生が急に一身上の都合で学校を辞めることになりました」


「一身上って何か病気か何かですか?」


クラスの1人の男子がユ-ミル先生に問いかけた。


「詳しくは私もわかりませんが、とりあえず本人の都合でやめることになったとだけ聞いています。それで歴史の授業なのですが、偶然にも病気が回復に向かって行き学校に来れるとのことで今日からまた歴史の授業はカ-ネル先生に担当してもらいたいと思います」


「えーまじかよ」


「あ~あ、また美人の先生が代わりに来て欲しかったよ…」


クラスの男子の不平不満が鳴り止まなかった。


ファルシュ先生が辞めた真実を知っている僕は、その偶然というにはあまりにも不自然なことに疑問を持ちつつもHRは進んでいった。





そしてノエルが学校に行っている間…



「ヴィオラルの容態はどうなっている?」


どこかの薄暗い施設内で複数の男達が会話をしている。


「それが…身体の損傷が激しくかなりの重体で…期待はしない方が良いかと」


武装をした兵士がここの施設の司令官と思わしき男にそう伝える。


「そうか…ラングの方はどうか?」


「ラング殿の方は体力と精神力の消耗はかなりありましたが、時間が経てば回復の見込みは十分あります。怪我もそこまで重傷というほどではありません」


「…そうか。紋章コ-ドの呪術を使える紋章士はかなり希少だ…。回復はラングの方を優先させろ」


「はっ!了解いたしました」


「それと…ヴィオラルの方だが…」


「はい…」


「あの方の研究施設の方に回せ…」


フィ-ルランドに再び暗躍しつつする影…

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