第21話「黒の男」

はじめまして、私はフィ-ルランド連合王国軍の情報機関のマルスティン中尉というものだ…。以後お見知りおきを…ノエル・クスガミ君とType-11」


予想にもしなかった。僕たちを背後から尾行していたこの黒い服の男の人は、何とフィールランド連合王国の軍の人だった…。


「フィ-ルランドの軍の人…ですか?何で軍の情報機関の人が僕たちの尾行を…?」


そう言うとマルスティン中尉がゆっくり口を開く。


「うむ、最近我がフィ-ルランド連合王国にここ最近怪しい動きが見受けられてね…。特にノエル君、君達の身の回りにも覚えがあるんじゃないかな?」


僕はドキっとした。見に覚えがあるどころではなく、実際に被害も受けているしその原因もアイリだということがはっきりわかっている。そして僕は素直に答える。


「はい…あります」


僕は声を震わせながらそう言った。するとマルスティン中尉は…


「ふぅ…ノエル君、何か勘違いしているようだね。別に君たちを連行して尋問しようなどとは微塵も思ってはいない。ただ私も軍に身を置く立場だ。国民の安全を守る義務が私にはある。国民の血税から私の給料は出ているからね。君達を尾行していれば例の廃ビルで君達を襲ってきた相手の仲間の足取りがつかめると思っただけだよ」


僕は少し安心して口を開く。


「やっぱりあのEエリアの廃ビルでのことは軍の人達もわかっていたんですね…」


「あぁ。まぁ世間にはただの崩落事故と発表させてもらったがね」


やはり違和感に感じていたTVの報道、あの事件を隠蔽していたのは軍のようだった。


「どうして…軍があの事件のことをただの崩落事故として情報隠蔽をしたんですか?」


素直な気持ちで疑問を質問にしてぶつける。


「うむ、あの事件にはどうやらアルスティン王国の一部過激派が関わっているらしくてね…それらを刺激しないため。それに憶測で国交を悪化させるのは極めて愚行だしね。もう1つは不安に思っている国民を気遣ってのことだ」



アルスティン王国。フィールランド連合王国の隣国であり、20年前の戦争で戦った相手国である。20年前は強大な軍事大国でこの大陸でかなりの権力を持ちこの大陸の実質支配者であった。しかし現在は20年前の戦争に敗れた影響でフィ-ルランド連合王国と対等な関係を気付いている国家である。


「アルスティン王国…?何でアルスティン王国が僕たちを…」


「それに関して言えば、彼女に原因があるのかもしれないね。彼女がヒューマノイドブレードじゃないかなということがね…条約違反だからね。ヒューマノイドブレードの所持は」


「やっぱり彼女がヒューマノイドブレードだということ…知っていたんですね」


「うむ」


「どうするんですか?僕達や彼女を拘束するつもりですか…?」


「やれやれ…ノエル君少しは冷静になりたまえ…。先ほども言ったように君達を連行しようなどとは微塵も思ってはない。理由はいくつかある。彼女ことtype-11があった場所はフィールランド連合王国国立学校の立ち入り禁止区域、あの場所はフィールランドの王族に土地の所有権があって敷地内にある物はフィ-ルランドの国家権力では手が出せないのだよ…権利上の問題でね。」


「なるほど…」


「そしてもう1つは…もし今後アルスティン王国と再び戦争になったとき彼女の力を借りたいと思っているということだ」


「えっ…」


「我がフィ-ルランド連合王国は今現在も前の戦争から完全に復興したわけではない。そして今現在は和平条約により休戦しているが、アルスティン王国の中には再び戦争を望んでいる人たちも少なくはない」


「…アルスティン王国とまた戦争状態に入るかもしれないということですか?」


「あくまでも可能性の話だがね。それに我がフィ-ルランド連合王国内部でも再び戦争を望んでいる者も少なからずいる」


「そんな…何で」


「アルスティン王国は前の戦争で敗北しかつてほどの力はない。しかし最近になりアルスティン王国の内部で戦争を再びしようという一部過激派の勢力が大きくなってきたようでね…特に大量の軍事費の投入がここ数年顕著だ」


確かに最近ニュ-スにも話題になっていた。軍事学者や大学の教授などがワイドショ-でここ数年のアルスティン王国の軍事費の増額などは再びフィ-ルランド王国に戦争を仕掛けるためにしているのではないかという見解があった。


「まぁ君に国の情勢を長々とここで話すつもりはない。しかし我がフィ-ルランド王国も再び戦争状態に入ればこの国を守りきれるという保証はない。だからこそ少しでも抑止力を高めるために君達の力を借りたいと思っている」


「でも…もしアイリの…条約違反のヒューマノイドブレードをフィールランドが所持しているということになれば…それこそ戦争の火種になりませんかね?」


素直な疑問をぶつけた。


「力は抑止力になるというのが私や上層部の考えだ。フィ-ルランド連合王国が条約違反でも非公式に強力なヒューマノイドブレードを持っているということで戦争が起きなければ私はそれが一番良いと思っている…もし仮に再び戦争が起きればこの大陸そのものの存亡が危ういと私は思っている。君は前の戦争でどれぐらいの人が死んだかわかるかね?」


「いえ…」


「うむ…私も完全に正確な数字は把握してないのだが、前の戦争でこの大陸の3分の1の人間は亡くなったという計算だ…あくまで計算上だがね。行方不明者など含めればもっといるということだ。」


「この大陸の3分の1…」


僕はその数字を聞き息を飲んだ…。この大陸の3分の1となればとてつもない数字だ。


「そう…そして再びアルスティン王国と戦争状態に入ればタダでは済まないはずだ」


そしてここまでの話を自分の中で整理してみた。


「つまり…マルスティン中尉は僕達のことを拘束せずヒューマノイドブレードの所持に関しては見て見ぬ振りをする代わりに戦争の抑止力になり、もし戦争が起きた場合は軍に協力して欲しいということですか?」


「うむ、簡潔的に言えばそういう事だ。まぁ君達が我がフィ-ルランド連合王国に刃を向けない限りはね…」


「…そんなことするわけありませんよ」


「それならいいのだがね…とりあえずは君達はそういう立場だということを知って欲しいというだけだ。それと…」


「それと…?」


「そろそろ彼女の殺気をどうにかしてくれないかね?…ノエル君。さっきから横からの殺気が凄くてね…」


するとマルスティン中尉がアイリの方を向く。さっきから僕もアイリの中尉に対する殺気が凄いのは感じていた。


「アイリ、もういいよ。そんなに警戒態勢を取らなくても。多分…この人は僕達に危害を加えるようなことはしないよ」


するとアイリが警戒態勢をやめる。


「わかった。ノエルがそう言うなら…」


そう言うと攻撃態勢の構えを解除し、殺気を消した。


「マルスティン中尉…じゃあ、今後僕らはどうすれば良いんです?」


マルスティン中尉に問いかける。


「特に何も…今のところはね。ただ有事の際には協力をできるだけして欲しいというだけだ。了承していただけるかな?」


少し考える。


「今すぐには返事は出来ません…でも僕も自分の住んでいる国が戦争になるのは避けたいし…みんなを守りたいっていう思いはあります」


するとマルスティン中尉は…


「わかった…今はまだその返事だけもらっただけでも良しとしておくよ」


「はい」


「少々喋りすぎたかな…当たり前だがこの事は他言無用で頼むよ」


「わかりました…」


「では、君の意思が確認できたということで私はこれで失礼する。本来ならもう少し時期を見てから確認する予定だったのだがね。また会うことがあるだろう。その時はよろしく頼むよ。今後ももしかしたら何かのトラブルに巻き込まれる可能性がある。十分注意してくれたまえ」


「はい、中尉もお気をつけて…」


「では、今日のところはこれで失礼するよ」


そう言うとマルスティン中尉は背中を向けてその場から立ち去って行こうとした。しかし…


「あの…」


立ち去ろうとするマルスティン中尉に声をかける。


「何かね…?」


「その…軍の情報機関の人なら…人探しって出来ますかね…?」


「可能だが…?それがどうしたのかね?」


「僕が小さい頃にいなくなった父親がいるのですが…もう十年以上警察に捜索をしてもらっているのですが未だに何一つ手がかりがなくて…」


「ふむ、なるほど…ちなみに差し支えなければ父親の名前を教えてくれないかね?」


「アラン…アラン・クスガミ…という名です」


「…わかった。一応覚えておこう」


「ありがとうございます…」


僕がお礼を言うと、マルスティン中尉はその場を立ち去った。


「ノエル、良いの?」


アイリが僕に話しかけてきた。


「ん?何が?」


「軍の人に協力するって…私はノエルが良いなら別に良いけど…」


「まだ絶対に協力するってわけじゃないよ…ただもし本当に戦争になって僕のまわりに学校の友達や近所の知り合いやじいちゃん達が悲しまずに済むなら…それを止めることが出来る事があるなら少しでも力になりたいって思っただけだよ」


「ノエル…優しいんだね…ノエルのそういうところ私は好きだよ」


アイリはノエルに優しく微笑みかけた。


「ありがとうアイリ…でもなんかしんみりしちゃったね…まぁ話の内容が内容だから当たり前なんだけどさ。さぁ…まだ時間あるし帰りに何か甘いものでも一緒に食べて帰ろうか?」


「うん…あとノエルのお父さん見つかると良いね…」


「そうだね」


僕はそう言い、アイリと一緒に手を繋ぎ駅の方へ再び戻って行った。

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