第19話「もう1つの影」

お腹が空いたので店を探す。そろそろお昼時なのでお店が混んでくる時間だ。急がないとお店に入れなくなってしまう。


「どうしようかな…ええと」


良さそうな店を探し歩きながら探す。


「ノエル、ノエル!」


アイリが僕の袖を引っ張る。


「ん?どうしたのアイリ」


「あそこの店は?」


アイリがぱっと1つの店を指す。指された先に見えたのは中々賑わっているファミリーレストランだった。


「ん?あぁファミレスか…いいかもしれない」


「なんか雰囲気良さそうかなと思って」


「じゃあ、あの店に入ろうか」


「うん」


2人で店に入る。


カランカラン…


「イラッシャイマセ」


ヒューマノイドドールのウェイトレスが入り口で出迎えて来てくれた。


「何名様デショウカ?」


「2名で」


「禁煙席デヨロシイデショウカ?」


「はい」


「ご案内イタシマス」


奥の禁煙席に案内され、外が見える席で僕は椅子でアイリはソファー側に座った。


「ゴ注文ガ決マリマシタラテーブルノ上ノボタンヲ押シテクダサイ」


「はい」


「ゴユックリドウゾ」


そう言うとウェイトレスは別の席へ行った。メニューを手に取り早速注文を決める。


「さて何食べようかな、色々あるけど…アイリは何食べる?」


「えーとねー…うわぁ、いっぱいあるから迷っちゃうなぁ」


ファミレスということもあり食欲をそそる色鮮やかなメニュー表である。かなりの料理の種類が豊富で迷うのも無理はない。


「う~ん、このハンバーグステーキランチおいしそうだなぁ…これにしようかな」


「あっ私これが良い」


「どれどれ…ってえっ…」


アイリの指さしたメニューはキッズプレートというお子様ランチだった。


「ほら、色んな料理乗っているしデザートやお菓子も付いてるんだよ♪」


「う~ん、アイリ…これは子供用のメニューだからアイリはちょっと無理なんじゃないかなぁ」


「えっそうなの?子供用なんだぁ。う~んとね…じゃあどうしようかな…う~ん」


「まぁ別に急いで決めなくてもいいから」


そう言うと再びメニューに目を通すアイリ。すると…


「ノエルは何頼むの?」


「ん?僕はこのハンバーグステーキランチを頼もうかなと思ってるよ」


「おいしそうだね、じゃあ…私もノエルと同じのにする」


「わかった。飲み物は僕はコ-ラにするけどアイリは何にする?」


「んーとねじゃあオレンジジュース」


メニューが決まったので店員を呼び、注文をする。注文を終え、しばらく待っていると隣のテーブルはカップルだったことに気付く。どうやら映画を見た後の帰りのようでパンフレットを見ているようだ。


「ねぇねぇどのシーンが一番良かった」


「えーと俺はねぇ…」


2人のカップルの会話が聞こえてきた。


「(そうか映画館とか最近行ってないなぁ…最近は全部家でレンタルとかして済ませちゃうから…アイリとこの後映画館行くのもありだな」)


アイリに少し聞いてみる。


「ねぇアイリ、食事のあとは何したい?」


「えーと、別に私はノエルにあわせるよ」


「そっかぁ…う~んとじゃあこのあと映画館に行かない?」


「映画…かんって?」


「うん、大人数の広い部屋で大きい画面で映画を見に行くところなんだ」


「へぇー面白そう!行って見たい!」


「じゃあ食事が終わったら映画館へ行こうか。えーとこの近くの映画館は…あっちょっと歩くね」


しばらく携帯で映画館の道のりや上映中の映画の情報を調べていると、鉄板で肉がジュージューと焼ける音が近づいてきた。


「オ待タセイタシマシタ。ハンバーグステーキランチガ2ツ、コーラトオレンジジュース以上デヨロシイデショウカ?」


テーブルに注文した料理が置かれる。


「はい、ありがとうございます。じゃあアイリ食べようか」


「うん、いただきまーす。うわぁ…なんかジュージュー言ってるけど焦げちゃわないかなぁ」


「あはは…大丈夫だよ。いただきます」


ナイフとフォークでハンバーグを切って食べるが、アイリのほうを見てみると…


「う~ん、なんかフォークとナイフ使いなれてないからうまく切れなーい」


どうやら苦戦しているようだ。普段使い慣れていないのでしょうがないのだが。


「アイリ、貸してみて。切ってあげる」


「ほんと、ノエル優しいね」


ナイフとフォークでアイリでも食べれるよう一口サイズに切ってあげた。


「ありがとう、ノエル。優しいね♪」


そう言うとアイリはおいしく食べ、それを見ると僕も微笑ましくなる。


しばらく食べていると、隣のカップルが何かを注文したようだ。


「うふふ、楽しみねダーリン♪」


「そうだね、ハニー。せっかくメニューにあるんだし頼まなきゃ損だよね♪」


隣のカップルが注文を終えたあとやたらニヤニヤしてて少し気になった。


「(そんな楽しみにしているメニューがあるんだ…何だろう。ちょっと気になるかも…)」


そう思いつつ食べているとテーブルの料理を食べきった。


「あーおいしかった」


「おいしかったね。アイリはもういいの?デザートとか食べる?」


「デザート注文か-…うーんとねー」


しばらくアイリがメニューを見ていると隣のカップルの所に注文した品が来た。


「お待タセイタシマシタ、コチララブラブメロンクリームソーダデゴザイマス」


隣のカップルが注文したのは何とも見てて恥ずかしい、ストローがハート型になって繋がっているカップル用のメロンクリームソーダであった。


「じゃあ、いただきま~す。チューおいしいねダーリン♪」


「そうだね、ハニー♪」


まわりの視線がちょっと痛い気もした。


「(うわー僕にはちょっと出来ない芸当だなぁ…)」


「ねぇねぇノエル」


不意に声をかけてきたアイリ。


「ん?あ、あぁ…デザート何にするか決まったの?」


「うん、私アレが良い」


「ん?アレって」


アイリが言っていたアレがよくわからなかった。


「アレだよアレ。ほら隣のテーブルの」


「隣のテーブル…?」


アイリが指さした先は隣のイチャついている席のハートストロ-が付いたメロンクリームソーダだった。


「えっ…!まさかあの隣の席の2人組みのハートストロ-のメロンクリームソーダのこと…?」


「うん♪あれ!ノエルと一緒にあんな風に飲んでみたいと思って」


「いや…ちょっと僕は…ほらメロンクリームソーダならさ…普通のあるから。こっちにしない?」


「えーやだやだやだ!ノエルと一緒にあれやりたい!!」


店内で騒いでテーブルを揺らすアイリ。その音でまわりで食事をしている人がこちらに静かにさせろ的な視線をこちらに向ける。


「(まずい…アイリが不機嫌になってきた…。まわりの視線もなんだか集まってきてアイリが騒いでいるからみんな静かにさせろよという視線が送られて来ている…。)」


「わ、わかったよ…じゃ、じゃあ注文するよ」


「うん♪」


一気に機嫌が治るアイリ。これはちょっと騙されたかも?そしてウェイトレスを呼ぶ。


「ハイ、ゴ注文承リマス」


「す、すいません…このラブラブメロンクリームソーダっていうの1つ…お願いします」


「ハイ、カシコマリマシタ」


「エヘへ♪」


一気に気が重くなった…。


「僕、ちょっとトイレ行って来るね…」


「うん、いってらっしゃい」


席を立ちトイレに行く。そしてトイレで用を足しながら考え事をする。


「(う~ん…まぁアイリは食いしん坊だから一人で食べてくれることを祈ろう…)」


ドンッ


用を足し、ドアから出ようとすると人と肩がちょっとぶつかってしまった。


「あっ…すいません。大丈夫ですか?」


相手は深く帽子を被り顔がよく見えず、黒いコ-トを来ていてちょっと雰囲気が怖い人だった。謝ったのだがすぐに返答が来ないので少し戸惑った。


「あの…」


「あぁ、大丈夫だ。失礼」


「そ、そうですか…どうも」


そう言うと僕はトイレから出て自分の席に戻った。


「おかえり」


「うん、ただいま」


そして丁度椅子に座るとウェイトレスが注文した例の品を持ってきた。


「オ待タセイタシマシタ、コチララブラブメロンクリームソーダデス。ゴユックリドウゾ」


テーブルにハート型のメロンクリームソーダを置かれなんだかまわりの視線が痛い気がする。


「わーい来た来た!じゃあさっそくいただきま~す♪」


「う、うん…どうぞ召し上がれ」


「じゃあ、ノエルはい」


アイリはメロンクリームソーダをテーブルの真ん中に置き、ストローを口にくわえた。


「……どうしてもやらなきゃダメ…?」


「うん♪どうしても!」


中々心の踏ん切りがつかなかった。


「早くしてよ、ノエル!アイスが溶けちゃうよ!」


アイリの機嫌がまた少し悪くなってきた。


「わ、わかったよ…じゃ、じゃあいくよ…」


覚悟を決めて体を前に出しストローに口をつける。すると


「うわぁーすごいな…あそこのカップル」


「最近の若い子は他の人の視線をあんまり気にしないでイチャイチャするのね」


まわりの視線がかなり痛かった。僕も顔が真っ赤だ。


「エヘへ♪おいしいねノエル」


「…そ、そうだね(まわりの視線が痛くて味をあまり感じられない…)」


そして、二人でメロンソーダをストローで飲み終える。


「あ、ノエル。アイスはアイリが食べてもいい?」


「う、うん…」


僕は下を向いたまま返事をした。とてもじゃないが顔を上に上げられない。


「あー、おいしかった♪ね、ノエル」


「う、うん。そうだね。じゃ、じゃあお店出ようか」


まわりの視線が痛いので1秒でも早く席から離れたかった。


「え?う、うん」


お会計をさっと済ませアイリと2人でお店を出た。


「アリガトウゴザイマシタ」


ヒューマノイドドールのウェイトレスに見送られ店を後にする。


「ねぇねぇノエル、顔赤いよ大丈夫?」


「そりゃ…あんな恥ずかしいことしたら顔も赤くなるよ」


正直にアイリに感想を述べた。するとアイリが口を開く。


「う~ん、だって隣の席がちょっと羨ましかったんだもん…私とノエルだって負けないぐらいラブラブなんだよってくやしかったんだもん…」


なるほど、隣の対抗心からあの注文は来たのかと納得した。いつものアイリはああいう無茶ぶりはしないのだが意外にもアイリは負けず嫌いのようだ。


「ま、まぁメロンソーダおいしかったし、別に良いよ。それよりさっき行ってた映画館行こう。ちょっと歩くよ」


「うん♪」


携帯で映画館への道のMAPを見ながら歩いて行く。


「えーとこの道を真っ直ぐ行って…と」


「ねぇねぇノエル、手…繋いでも良い?」


「え?あ、あぁ別に良いけど…」


「やったぁ、エヘへ♪」


ノエルの手をぎゅっと握りながら寄り添う2人。しかし…その2人の後ろを遥か後方からつけてくる怪しい人影があった…。


「ターゲットが動き出した…引き続き尾行を続ける。それよりも報道機関のほうはちゃんと抑えたのだろうな?」


「あぁ、今のところ問題はない。テレビや新聞その他のメディアも抑えた。ネットの方も特にこれといった疑われるような書き込みは見つかってはいない。引き続き任務を続行せよ…」


「了解した…」

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