第17話「一夜明けて…」

「んん・・・ん?」


目を覚ます…。


気が付けば朝でいつも僕が見ている天井がそこにはあった。時計を見たらまだ早朝の4時…学校に行くには早すぎる。


「あれ…そういえば昨日僕…」


記憶を辿る…。


「そうだ…昨日は僕はファルシュ先生に捕まり、廃ビルで拷問され拉致されていたところをアイリに助けてもらったんだ」


そう思うとアイリが心配になり、起きようとすると何か僕の体に柔らかいものがあたった。


「ん…ア、アイリ!?」


アイリが僕の布団の中に一緒に寝ていた。そういえば以前もこんなことあった気がする。


「もう…アイリまた…」


僕は抱えてアイリを部屋に戻そうとした。しかし…


「あっ…」


傷だらけだった。昨日の夜の戦いでその激しい傷を見ただけでその激しい戦いを彷彿させるものであった。


「アイリ…」


その傷を見た僕は申し訳なく思い、むしろずっと心配させていたと自責の念を感じた。そしてアイリを引き剥がそうとせず、むしろ抱き寄せてそのまま寝た。


そしてしばらく寝たあと…


「ノエル、ノエル…!」


「ん……あ、アイリかおはよう…」


「うん、おはようノエル」


そして抱きついてきた…


「ん!?ア、アイリ?」


アイリは目に涙を浮かべていた。


「ごめんねノエル…私のせいで…ノエルを守るのが私の使命とか偉そうなこと言ってたのに…」


僕が拉致されたことを彼女は相当自分を責めたのだろう…。その涙からも彼女の気持ちが伝わった。


「大丈夫だよ…僕はこうして今生きて家にいるじゃないか。アイリは立派に僕を守ってくれたさ。ありがとうアイリ」


「ノエル…」


精一杯の感謝の言葉アイリにかけた。


「そんなしょんぼりしているのアイリらしくないよ…いつもみたいに笑っているアイリが僕は好きだなぁ」


「う、うん…そ、そうだね、エヘへ」


再び笑ってくれたもののアイリの体がボロボロなのを見て心配した。


「アイリ、体傷だらけでボロボロだけど…」


「うん…ちょっと時間かかるかもしれないけど傷なら私の体内にあるナノリペアマシンで治るから」


「ナ、ナノリペアマシン…?」


ちょっと言葉の意味がわからなかった。


「う~んとねわかりやすく言うと…私の体にどこか傷だったり故障があると自動的に治してくれるすっごくちっちゃい機械…かな?」


「ふ~ん…すごいなぁ」


思わず関心する。


「(人間でいうところの怪我をして軽い傷ができたら自己治療する強力なやつみたいな感じなのかな…)」


どちらにしろまたアイリのすごさが1つわかった。


「ノエルそういえば今日は学校休みだよね?」


「うん、そうだね」


「じゃあ今日はいっぱいお寝坊さんできるね」


「あはは…そうだね…ところでじいちゃんまだ寝てる?」


「う~んまだ寝てると思うよ」


「そっか…僕ちょっとシャワー浴びてくるね…昨日お風呂入ってないからちょっと臭いし」


自分の体をクンクンと匂う。


「うん」


僕は部屋から出て風呂場へ向かった。


「(ノエル…昨日あんなに体に傷があったのにもう1日で治りかけている…普通の人間じゃ考えられない。特に銃で撃たれた傷がもう治りかかっている…)」



昨日の深夜…


ガチャ…とノエルの自宅のドアを開ける。


ウィリアムがその音を聞き、急いで玄関に駆ける。


「アイリそれとノ、ノエル!」


「お、おじいちゃん…ノ、ノエルを…」


ボロボロのアイリがノエルを抱えながらそう言った。


「どうしたんじゃ2人とも…いやそれよりも早くこっちに…」


ノエルを部屋に寝かせ事情をウィリアムに全部話した。


「…大変な目にあったな。とりあえず2人共無事で良かった…」


「ううん。いいの私は…当然のことをしただけ…相手も私を手に入れることが目的だったみたいだし…」


「そうか…やはり予想していた通りになったな…これはちょっと考えねばならんな」


「あの…おじいちゃん…」


「何かね?」


「ノエルの体…がその銃に撃たれはずなんだけど傷がもう塞ぎかかっているのよ…」


「ふむ…そうか」


「こんなに早く治癒するなんて普通ありえない!…おじいちゃんは何か知らない?」


「…ノエルは普通の子とは違う。今はワシにもそれしか言えん」


「…おじいちゃん」


ノエルのおじいちゃんはおそらくノエルの体の秘密を何か知っていると思う。今の言葉からそう感じられらた。だけどノエルの体のことを言えない事情が何かあるのだろうと察した。


「だがアイリ…」


「えっ…」


「ノエルのことを今後も守ってやって欲しい…今のノエルじゃなくなっても…」


「今のノエルじゃなくなる…?」


言葉の意味はよくわからなかった。だがどちらにしろノエルを守るというのは今後も変わることはないだろう。それが自分が存在している意義なのだから…





風呂場から出て着替えを終えてきたノエルはリビングでゼーべックと鉢合わせする。


「あっ…じいちゃん」


ちょっと気まずかった。


「おぉノエルか…昨日は大変だったな。まぁ何にせよお前が無事で良かった」


「…うん、アイリから全部話聞いたんでしょ」


「あぁ」


「アイリ凄かったよ…全部戦いを見てたわけじゃないけど…必死に僕を助けようとしてくれた」


「そうか…ノエル怖くなったか?」


「…どうだろう」


「これから先も同じことが起きるかもしれない。その時にお前はまたアイリに助けられて無事という保証はどこにもない」


「うん」


「ここから遠く離れてアイリと身を隠すという手もある」


「うん…でも大丈夫だと思うんだ…根拠はないけど、あと昨日のアイリの必死に戦う姿見てたらなんか逃げちゃダメだって思って」


ゼーべックはしばらく何かを考え口を開く。


「そうか…」


それだけ言うと席から立ち上がろうとした。


「じいちゃんは…」


「ん?」


「じいちゃんはそれでいいの。僕に何か怒らないの?」


「お前がそれでいいならワシは何も言わぬし、お前の気持ちを第一に優先する。それだけだ。」


「じいちゃん…ありがとう」


「別に礼を言われることではない。それがワシに出来る唯一のことだからな…」


そう言うとじいちゃんは自室に戻った。


「そうだ…昨日のこと何かニュ-スでやってないかな」


ノエルはテレビを付けニュ-ス番組をチェックする。


「続いてのニュ-スです…。昨日の夜、フィールランド連合王国ダリアのEエリアの廃ビルで崩落事故が起きました」


さっそくニュ-スでやっていたようだ。


「原因は放置による劣化の事故と思われます。」


僕は違和感を覚えた。あの崩落の原因を放置や劣化の類で片付けるにはちょっと無理があると思った。Eエリアはまだ前の戦争で復興が完全に出来ていないエリアで廃ビルがまだまだある。だから今回のことを事故として処理することも考えられなくはないのだが、やはり強引さは否めない。

そういえば、前の学校の立ち入り禁止区域での騒ぎも大した騒ぎにはならなかった。そして今回もまるで事件を隠蔽するかのようだ。まるで何かを世間から隠すように…。


「(フィールランドもアイリの存在を隠そうとしている…?)」


そんなことを考えているうちに不意に後ろから声をかけられる。


「ノエル」


「えっ…あ、あぁアイリか。何?」


「今日はどうする?ずっと家にいるの?」


「えっ…?そうだなぁ…う~ん」


「ノエルーちょっと良いか?」


じいちゃんが部屋から僕を呼ぶ声が聞こえた。


「どうしたの?じいちゃん」


席から立ち上がりじいちゃんの部屋まで行く。


「入るよ」


ガチャッ


相変わらず機械だらけで僕にはよくわからない難しい本がいっぱいだ。


「おぉ、ノエルかちょっと頼みごとがあってな」


「何?」


「うむ、この前ワシが医療メーカーと一緒に共同開発している機械があるって言ったの覚えているか?」


「うん、覚えてるよ」


「ちょっと部品が足りなくてな。街まで買いに行ってほしいんだが、頼めるか?」


「いいよ。でも何買えばいいの?」


「このメモにワシが買ってきて欲しいもののリストが書いてある。これを街の半導体やら売っているパーツショップで買ってきて欲しい。店の場所も書いてある」


するとメモを渡される。


「あとこれはそのお金だ…」


じいちゃんは財布からお金を出し、僕の手に渡す。結構な金額だった。


「ずいぶん高い部品なんだね…」


「ん?あぁ…かなり多めに渡してあるぞ」


「えっ…そうなの?」


「お前の今日の小遣いもあるからな。かなり多めに渡してある」


「あれ…僕今月お小遣いもらったけど」


「はぁ…全く勘が鈍い奴だな…それはアイリと一緒に出かけて楽しめと言ってるんだ」


ちょっと今の言葉が理解できなかった。


「えっ!?な、何でアイリと?」


「ノエル…お前ろくにお礼もしてないんだろうが?」


「え…ちゃ、ちゃんとありがとうって言ったよ」


じいちゃんはそう言うと少しため息をついてやれやれといわんばかりの顔をした。


「…命を助けてもらってありがとうだけじゃ足りんと思うぞ」


「う、うん…まぁ確かにそうかもしれないけど」


「こういうことは行動で示すんだ…ほれ!わかったらアイリと一緒に出かけて楽しませて来い!」


背中をバンと押され部屋を出された。


「…アイリと一緒にねぇ……う~ん」


ちょっと気まずかった。というのも僕は今まで生きてきてちゃんと女の子と2人っきりで出かけたことはまともにない。ちゃんとアイリをエスコ-トできるのかどうか心配なのだ。



「ねぇねぇノエル終わった?」


「うわっ!」


考えている最中に急に声をかけられたのでびっくりした。


「何驚いているの?」


「えっ!あぁ…ご、ごめんごめん。ちょっとね…」


「?」


「そのアイリさぁ…今日ってアイリは何か予定あるかな?」


「えっ…私?私は特にないよ」


「そのさ…実はさ、じいちゃんに買い物を頼まれて、それが終わったらさ…アイリさえ良かったらその…一緒に僕と出かけないかな?と思って」


アイリの顔がぱぁぁっと明るくなった。


「うん行く行く行く!行くよ!!もちろん行くよ!ノエルとならどこへでも一緒に行くよ!」


子供みたいなはしゃぎかたをした。


「そ、そうか良かった。じゃ、じゃあ出かける準備するからちょっと待っててね」


「うん!」


こうして今日1日アイリと一緒に出かけることになった。

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