第16話「閃光の拳」

高笑いを続けながらムチを振りアイリを捉えようとするヴィオラル。


「さぁ、おとなしく降伏して私達と一緒に来てもらうかしら?Type11」


「ッ…!」


大きい地下倉庫とは言え、密室であることには違いなくフルパワーを出せばこの地下倉庫が崩壊し、自分は平気でもノエルが瓦礫の下敷きになってしまう可能性が高い。


「フォッフォッフォ……ヴィオラル殿を甘く見すぎたな、小娘!」


「(それにさっきから紋章コ-ドを使おうとしてもなぜか使えない…。多分この部屋全体に自分以外の紋章コ-ドを封じるように仕掛けが何かしてある。あの紋章士はかなりの使い手…)」


しかしアイリは一つの違和感を感じた。あの紋章士の老人が一切こちらを攻撃してこないことだ。考えられることはいくつかある。理由は紋章士として攻撃系の紋章コードが得意ではない。もう1つは先ほどの会話からノエルを人質に取りながら自分の身を守るのが精一杯ということ。人質というのは生きているからこそ価値がある。だから彼らはこの戦いでノエルを死なすようなことはしないだろう。おそらくだが先ほどノエルに撃った銃弾もこちらへの脅しもしくは挑発と読んだ。


「…試してみる価値はある」


勢い良くヴィオラルの後方にいるラングのほうに走っていく。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「あら、私を倒すのをあきらめて先に人質を救出することにしたのかしら?フフフ…」


アイリはその場から天井ギリギリまでジャンプしラングの上から飛翔してパンチを放った。


「無駄なあがきよ…」


ヴィオラルが笑う。


バチィィィン!


上空から紋章士ラングを捉えた急降下のパンチはあたる直前に見えない何かに阻まれた。


「無駄じゃ!」


拳がラングに当たる前に壁のような物にあたった。おそらくはリゲルを使い紋章コ-ドで生成した障壁だろう。


「お前のパンチでもこのリゲルで生成した障壁は破れんわ!」


「無駄な努力するの好きねぇ…アイリちゃん」


「(予想通り…これなら)」


「おとなしく私たちの言うことを聞きなさい…悪いようにはしないわよ」


すると今度はヴィオラルとラングとはいる違う別方向へと走っていく。


「何?逃げる気なの?」


「はぁぁぁぁ!」


アイリの拳が地下倉庫の壁を一部破壊して穴を空けた。


「何する気」


「こうするのよ」


パリィィン!


破壊されたコンクリ-トの壁の破片を利用し、それを投げて天井のライトを壊していく。


「くっ!しまった!こちらの視覚を奪う気ね!」


パリィィン! パリィィン!


次々と破片を投げライトを壊していく。そしてあらかた壊し終わると部屋が真っ暗になり、肉眼では相手の位置を把握するには難しい状況になった。


「これであなたの視覚は奪った」


「クソ!でも私にはこれぐらい何ともないわ。音で十分あんたの位置ぐらい把握することなんて朝飯前よ。これで勝った気にならないことね!」


「(相手の目が暗闇に慣れる前になんとかしないと…)」


アイリは視覚モードを暗視スコープに切り替え、今度は天井へ向かってジャンプする。


「はぁ!」


アイリはジャンプと共に天井に拳を打ち込み、天井に穴を空ける。


「今度は何?」


壁や天井をどんどん破壊していく…。


「はぁぁぁ!」


天井の破片がラングの頭上にもかなり落ちていく。


「この小娘、やめんか!ここが壊れるぞ。ひぃ!」


「くっ!ここを壊す気なの?こいつ。そんなことをしたら人質も…」


「そんなことをしたら人質も…何?私のパンチでも壊れない障壁なんだからこれぐらい大丈夫でしょ」


「くっ…なるほど…。さっきラングに攻撃したのはバリアの耐久力を調べるためだったのね…」


「じゃあ、そろそろいくよ!」


「馬鹿ね!視覚が奪われてもあなたの位置ぐらい把握してるって言ってるでしょ!そこっ」


バチィィインとアイリが確実にいる方向へムチを振った。しかし…


「ん?当たったけど…これは…!」


アイリが壁や天井を壊したおかげで見晴らしの良かった倉庫もまわりに壁や天井の破片だらけになってしまいかなりの障害物だらけになってしまった。


「それに…くっ足場が」


足場には無数の破片がちらばっている。無論それらをこの暗闇で全部把握するのは不可能な話だ。


「どうしたの暗闇で足元が見えないんじゃない?」


「くっ…黙れ!」


「次はこれでも食らいなさい」


するとアイリは手に破片を持ち高速でヴィオラルのほうに投げる。


「痛ッ!!クソ、なめたマネを!」


高速で投げた破片はヴィオラルの体に命中する。いくら訓練されているものとは言え、この暗闇で投げられた石を避けるのは足場も悪いのでかなり難しいと言える。


「ちっ耐衝撃スーツを着ているとは言えかなりの痛み。高速で投げてきた破片をまともに食らったらやばいわね…ちょっとまずいかもね。ラング援護しなさい」


「し、しかし…私もこの人質を押さえつけるのと障壁を張るのが手一杯でして…」


「大丈夫よ、そいつはさっきの拳銃で撃たれた痛みで気絶しているから」


「わ、わかりました。ではキエェェ!」


ラングが掛け声と共に何かの紋章コ-ドを発動した。


「え…何!か、体が…」


急激にアイリの体が思うように動けなくなり、たちまち地面にひれ伏してしまった。


「ククク、小娘お前の体に通常の100倍の重力をかかるようにさせてもらったぞ!これで思うように動けまい。ヒッヒッヒッ!」


「う…く、う、動けない…!」


「フフフ、これであなたはもう動けない…それにちょっとずつ暗闇に目が慣れてきたわ」


「く、くそ…う、動け!」


ツカツカと足音でこちらに寄ってくるヴィオラル。


「そんなところにいたのね…ムチの光であなたのみっともない姿が良く見えるわ。ウフフ…地面にひれ伏しちゃって」


するとアイリの頭を靴で踏んづける。


「うっ!」


「そら!豚にように鳴きなさい!」


バチィィン!!!とヴィオラルが振り下ろしたムチがアイリの体を捉える。


「あぁっあぁぁぁ!!!」


「フフフ、散々よくもやってくれたわね。多少破損してても回収できればいいみたいだから、四肢切断してだるま状態にして連れて行きましょうかね」


容赦なくアイリにムチを打ち続けるヴィオラル。家畜に言うことを聞かせるかのようにムチで痛みを与えて行く。


「う…く」


「ちっ!さすがヒューマノイドブレード…中々手足が引き千切れないね」


アイリの手足は外観の皮膚が剥がれ真っ赤になってボロボロだった。


すると…


「ア……イリ…」


ノエルが静かに目を覚ます…。


「さぁ…ヴィオラル殿そろそろとどめを刺してしまいましょう」


「そうね、そろそろ家畜みたいにムチで叩くのも飽きてきたし、ムチのバッテリー残量のこともあるし最大出力に設定して…」


ヴィオラルのムチが先ほどとは違ってバチバチと大きな音を立てた。


「最大出力だとこのヒューマノイドドールの体丸こげになっちゃうかもしれないけど、大丈夫でしょ。じゃあね…アイリちゃん」


「フォフォフォ…」


ヴィオラルがムチを振り下ろそうとした瞬間その時


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


「何?」


「なんじゃ!」


目を覚まし起き上がったノエルがラングを思い切り殴ってぶっ飛ばした。


「ぐぎゃああああぁ!!!」


ノエルのパンチをまともに顔面にくらい地面に転がりこんだ。そしてその瞬間…


「う、動ける!」


ラングのかけた重力がとけ自由になる。


「ラング!」


「こ、こやつ!」


「アイリ今だ!」


ノエルが叫ぶ。


そしてそれに気を取られたヴィオラルはアイリに手を掴まれてしまう。


「しま・・・っ」


ムチを掴んでいる右手を掴まれ手の自由を奪われる。


「へ……へへ…絶対…はぁはぁ…離すもんか…!」


手を掴み不適に笑うアイリ。ガッチリ手を掴まれいくら負傷しているとは言え、ヒューマノイドブレードの力をヴィオラルの力では振り切れるものではなかった。


「ちっ…手が使えなくても足で…」


すると今度はアイリに片足を思い切り踏みつけらる。


「あぁぁぁ!」


アイリは思い切りヴィオラルの左足を踏みつけた。おそらく骨は折れたはずである。


「くそ!離せ!離せ!」


もう片方の足で膝蹴りをし、もう片方の手で振り払おうとする。


「はぁ…はぁ…(力が入らない…だけどこの方法なら…)」


バチッバチッとアイリの左手に電気が走る。


「な、何をする気なの!?」


「電磁シールドの…ぜ、全出力を左手に…集中…これなら…」


さらにバチバチとアイリの左手は電気の光と音が増していく」


「や、やめろ!そ、そんなもの食らったら!」


ヴィオラルの顔が恐怖に歪んでいく。そして拳を握り締め、左手にエネルギーを溜め続けるアイリ。


そして…


「はぁぁぁっあああ!」


アイリが電磁シールドの全出力を左手に集めた閃光の拳をヴィオラルに放った。だが顔面を狙ったのだがコントロールがうまくいかず右肩の方にずれた。それでも威力は十分であり、ヴィオラルの右手で持っているムチと一緒に右腕全体が吹き飛んだ。


「ぎゃあああああ!!!!あ、あたしの右手が!右手が!!右手が!!!」


その場で叫び転げまわるヴィオラル。


「ヴィオラル殿!」


「しめた!」


ラングがヴィオラルの元に駆け寄り、ノエルが1人になった瞬間救出する。


「し、しまった!」


ズズンッ!


振動が起きた。アイリが天井や壁を壊したおかげでこの地下倉庫が崩れようとしている。


「くっ…ま、まずいここが壊れる!」


「ラ、ラング!あ、あたしの右手が!!」


錯乱しているヴィオラル。



「ノエル逃げるよ!(この2人にとどめをさしておきたいけど今はノエルを救出するのが先…感情を優先しちゃダメだ。ノエルを守ることが私の使命)」


「あ……う、うん…」


アイリは2人を背にしてノエルを抱えて地下倉庫を脱出する。


「くっそ、そうはさせんぞ!う…思ったより力を使ってしまったか…ワシの術が…」


そして崩れていく地下を脱出し、階段を登り廃ビルをから脱出していく。そして外に出る。


「ア、アイリ…やっ…やったね…」


搾り出したような声でアイリに話しかけるノエル。そしてまた気絶した。


「ノ、ノエル!しゃべっちゃダメだよ。怪我もひどいし、とりあえず安全な場所に」


ノエルを抱えながらアイリはノエルの家に向かった。


「(本当はノエルをこんな目にあわせた奴を私の手でとどめを刺してやりたかったけど…あの様子じゃ多分あの2人瓦礫に押しつぶされて死んじゃったよね…)」


そう思いつつ、ふとノエルの怪我のことを思い出す。


「そうだ撃たれた腕…あれ?」


ヴィオラルに撃たれた腕を確認しようとしノエルの服の袖をまくると…


「あれ…もう銃弾の跡が塞がりかけている…」

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