第15話「激昂」

暗闇に沈みかかる街を疾走するアイリ。


(私がちゃんとしていれば…ノエルを守るのが私の使命なのに…!ノエル無事でいてね…)


「なんだ?今ものすごい風が…」


「きゃあ!えっ何…?」


後悔の念に駆られながらも、並の人間の肉眼では捉えられないスピードで街の中を猛烈に走っていく。


(時間がない…!)


助走をつけ空高く飛んだ!高層建築物の壁を走りビルの屋上へ壁沿いの走る。そして建物と建物をジャンプして飛び移っていく。


(これなら…かなり早く着くはず)


そしてものの数十分…指定された目的地に着いた。


「はぁはぁ…着いた…座標はこの廃ビル…?」


目的に着いたので電話をかける。そしてしばらくすると相手の女が電話を取った。


「もしもし、着いたよ…これからどうすればいいの?」


「フフフ、とりあえずそのビルの一番最下層まで来てちょうだい」


「わかった…」


暗闇の廃ビルに入ろうとするアイリ…するとアイリが立ち止まった。


「…?これは…リゲルの反応数値が異常にこの建物の内部から反応がある。紋章コ-ドがこの建物全体にかかっているとすれば何かの罠には違いないんだろうけど…相手に紋章コードが使える敵がいるのは極めて高い…気をつけなきゃ」


紋章コ-ドを使える人間は持って生まれた適性があり適性がない人間には紋章コ-ドが使えない。紋章コ-ドが使える人間を紋章士と呼ばれている。

そして使える人間は戦術兵器としてかなりの脅威である。紋章コ-ドはフィールランド連合王国が戦時中開発した技術でリゲルと呼ばれる粒子を媒介して一種の自然現象を操るファンタジー小説に出てくる魔法に近いものだ。そのおかげで航空兵器の戦術的価値が落ち、これと同時にヒューマノイドブレードを戦場に投入したフィールランド連合王国は強大な軍事力を持つアルスティン王国との戦争に勝ったと軍事学者の中では言われている。

現在でも紋章コ-ドの研究は盛んに行われており、未だに未知な部分が多い技術でもある。


そしてドアを廃ビルの中へと入っていく。すると…


バタンッ!


勝手にドアが閉まった。再びドアを押すとアイリの力でもびくともしなかった…


「閉じ込められたみたいね…まぁノエルを助けるまで出るつもりもなかったから別にいいけどね」


暗闇の中で地下へ行く手段を探し暗い廊下を歩いて行くとエレベーターを見つける。


「エレベーターは…危険ね。密室の中で罠にかかったらノエルを助けられなくなる可能性がある・・・。」


すぐ近くに階段があったので階段に向かうアイリ。暗闇の廃ビルの階段を下へ下へと降りていく。


そして一番下の階にたどり着いた。


「リゲルの反応数値さらに拡大…この奥の空間に熱源反応を確認…スキャン開始…!」


アイリの目が青白く光る…


ピッピッピッピ…


「生体反応を3つ確認…そのうちの1人はノエルで間違いない…。ということは相手は2人でそのうちの1人は紋章士もしくは両方・・・か」


ヒューマノイドブレードも紋章コ-ドを仕様できるがあくまでも人工的なものであり、人間の使う紋章コ-ドの威力や質には及ばない。2人共紋章コ-ドが使えるならかなりの脅威なので気をつけていく。


ガチャッ 


ドアを開けた先は大きい地下倉庫だった。女1人、老人1人、そして両手両足を縛られて倒れていたノエルがいた。


「ノエル!」


「あら…ずいぶん早い到着ねぇ…安心しなさい眠っているだけよ…」


「ノエルを返して!」


「そんな慌てないでよアイリちゃん…ウフフ。はじめまして…じゃないわよね」


「えっ…」


「覚えていない?私…あなたが窓から入ってきたときノエル君から紹介してもらったんだけどなぁ…」


「!?…あなたはノエルと同じ部屋にいた…学校…確かファルシュ先生って」


「覚えてくれてて光栄だわ。でもそれは本当の私の名前じゃない…私の本当の名前は…ヴィオラル・ヴィストリア!」


「どうしたらノエルを返してくれるの?」


「私達に一緒に来てもらえばノエル君は解放してあげる」


「それは無理。私はノエルを守るのが使命だからノエルから離れるということは出来ない」


「別にノエル君も一緒でいいわよ…この子面白いしね。ねぇラング?」


「えぇ…なぜかワシの呪術の効果が薄い。不思議な体じゃ。持ち帰って研究のし甲斐がありますな…」


ノエルの横に立っていたラングと呼ばれた老人がそうしゃべった。


「(術?ということはあの人は紋章士か…)」


「それにこの子見かけによらず頑固でねぇ。色々吐かせるために私の体まで使ったんだけど、全然アナタのことを口割らないのよ。よっぽどアナタ大切にされているのね。」


アイリとヴィオラルが2人でしゃべっている間ノエルが目を覚ます…


「ア、アイリ…」


「ノエル!気がついたの大丈夫?」


「ア、アイリだめだ…こいつらに着いていっちゃ…こいつらアイリを…」


「ノエル!」


苦しそうな顔でノエルがしゃべる。


「く…こやつワシの術をかけているというのにまだ意識がありしゃべれるか!なんて奴じゃ!」


「ノエルが行っちゃダメって言うなら私行かないよ!」


「何ですって…」


ノエルを見るヴィオラルの顔が憎悪に満ち、腰から拳銃を取り出した。


「ノエル君…ちょっーと黙ってて…ねっ!」


パーンッ!


後ろにいたノエルを撃った。


ヴィオラルはノエルの左手を拳銃を撃ち込み銃声が部屋の中に響き渡ると、ノエルの左手から血がドクドクと流れ出た…。


「うわぁぁぁぁああああ!」


ノエルの悲鳴が部屋中に響き渡り痛さで気絶してしまった。


「オマェェェェェェェ!!!!」


その光景を見たアイリが怒り狂い、ヴィオラルに物凄い勢いで殴りかかった!


「うっ…!?」


ギリギリのとこで拳が避けられてしまう…しかし、その避けた拳の風圧で壁に当たり壁にヒビが入った…。


「はぁはぁ…どこ狙ってんだい?」


そう余裕を装いつつも、カスった風圧でヴィオラルの顔に傷がつき血が流れていた。


「(冗談じゃないよ…!あんなのまともに食らったら1発であの世行きだよ…)」


「お前らは約束を破った。ノエルを傷つけた…。お前らとの交渉の余地はない!これより戦闘モードに移行する!」


「何だって…!?」


ヴィオラルが冷や汗をかきアイリのほうを見つめると、青白い光がアイリを包まれていた…。


「何だい…これは!」


アイリが白い光に包まれ、そしてアイリのいつも着ている服がいつもと違う服になっていく…。そしてアイリの服装が変わった。白い鎧のようなものを纏い、その姿がとても美しかった。その姿はどこか神話に出てくる戦乙女のようだった。


「ターゲットを目の前の人間2人に設定…完了。これよりターゲットの殲滅を開始…排除する!」


「本気になったっててわけかい…」


拳を構え、ヴィオラルに物凄いスピードで飛びかかっていく


「ッ!」


再びアイリの桁外れの威力の拳をかわすヴィオラ。


「くっ…こんな密室じゃ思いっきり動けない…!もし思いっきり動いてしまえば最悪建物が壊れてノエルが建物の下敷きになっちゃう…!それに相手はかなり訓練を積んで戦闘に慣れているみたい・・・」


ヴィオラルが再び拳銃を抜いた。


パン!パン!パン!


アイリに向かって拳銃を撃つヴィオラ。しかし全てアイリに当たる前に銃弾が全て何かにぶつかり地面に落ちていった。


「チッ…まぁそうよね」


「無駄なことはやめたほうがいいわよ。第2世代型以降のヒューマノイドブレードが標準装備している電磁シールドはそんな拳銃の弾じゃ貫けない…」


アイリが冷徹にそう言い放った。


「フフフ、そんなこと私が知らないとでも思った?こっちが何も準備してないとで思ったら大間違いよ」


そう言うと腰の後ろに付けていたムチらしきものを出した。


「これならどうだい。ウフフフ」


「拳銃の弾で貫けなかったのに、そんなムチで何するの?」


アイリが冷めた笑いをする。


「こうするのさ!」


そう言うとムチを思い切りアイリの方に向かい振り下ろした。


「無駄だって言って…ってあぁ!」


ヴィオラの振り下ろしたムチがアイリの電磁シールドに当たった瞬間、展開していた電磁シールドを貫いてアイリの体に当たりダメージを受けてしまった。そしてあまりの痛さに膝をついてしまった。


「う…な、何で…シールドが…」


「フフフ、馬鹿ね。言ったでしょ?私が何も準備してないわけないって。このムチは特殊な電磁ムチでね。ヒューマノイドブレードの電磁シールドを貫通し本体にダメージを与えられる対ヒューマノイドブレードの兵器の1つなのさ!」


「くっ…!」


「どんどん行くよ!」


ムチを再び振り、まるで自分の手足のようにアイリに振りかざす。しかも見たところかなりの伸縮性を持ってようでリーチが見た目以上にかなり長いと思われる。


「そらそらそら!どうした!どうしたっ!」


生きている蛇のようにアイリに縦横無尽に襲い掛かり、アイリは逃げるのが精一杯だった。


「ハハハハハッ!逃げるだけで精一杯かい。お前は近接以外の攻撃手段はないのと、その唯一の近接攻撃が拙い。実戦経験はほぼないと見た!立ち入り禁止区域で雑魚を倒したから勘違いしちゃったのかい?私はあいつら程甘くはないよ!」


「はぁはぁ・・・(目的の最優先事項はノエルの救出、ターゲットの殲滅はそれから・・・とりあえずノエルの安全さえ確保出来れば思い切り戦える)」


現在の状況を冷静に整理するアイリ。現在ノエルを人質に取られ、戦闘技術はあちらのが上、人数も相手のが上、そして対電磁シールドの武装を持っている。かなり分が悪い状態であるには間違いないのは明白だった。


「どうする…私」

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