第13話「クレア」
「ノエル、ここにしようよ!」
僕はアイリに学校の中庭に連れられて来た。フィールランド国立学校の中庭はとてもきれいでここでお弁当を食べている人も多い。そして今日はおまけにとても快晴で中庭の綺麗さがより一層際立つ。
「じゃあ、ここにしようか」
「うん」
中庭のベンチに腰をかけ、お弁当を広げる。
「アイリは何か食べないの?良かったらこのお弁当半分こにしようか?」
「私は良いよ。ノエル朝ご飯抜いたからお腹すいてるでしょ。私はノエルが食べているの見ているだけで幸せだから、エヘへ」
「そ、そう。じゃあ、いただきまーす」
お弁当箱を開けると今日もアイリが一生懸命作ってくれたのが伝わる。そして一口食べる。
「おいしい?」
アイリが顔をぐっと近づけて聞いてきた。
「え…う、うんおいしいよ」
「良かった♪あ、ご飯口に付いてるよ」
「え…あっほんとだ」
「取ってあげるね」
口に付いたご飯をアイリが指で取ってくれた。なんか少し恥ずかしかった。
パクッ
アイリが僕の口に付いていたご飯を食べた。
「あっ…」
「エヘへ、食べちゃった♪」
そういえば…
ずっと小さい頃似たようなことがあった気がする…。ほとんど覚えていないけど父さんと母さんに近所の公園に連れられてお弁当を持って…
「もうノエル口にご飯付いているわよ…母さんが取ってあげる」
僕の口に付いたご飯を母さんが取ってくれた。
「うふふ、食べちゃった」
母さんが僕の口についたご飯を食べた。
「お母さん……」
そんな懐かしい記憶がほんの少し蘇った…。
「ノエル、どうしたの?」
「えっ…」
どうやらぼ-っとしていたようだ。
「母さんって突然つぶやいてたけど?」
「あ、ごめんごめん。ちょっとあまりにもおいしくて感動しちゃったんだよ・・・お母さんの味だなって」
「えっ!?ほんと嬉しい♪」
時々妙な感じがする。極たまにだが、アイリと母さんが重なって見えることがある。そんなわけないのだけど…。僕の両親は共に行方不明。でもじいちゃん曰く母さんはもうこの世にはいないだろうと大分僕が大きくなってから告げられたことは覚えている。父さんのほうは今でも捜索願いを出しているが全く行方がわからないままでいる。
「ねぇ、ノエルちょっと向こう見てきて良い?」
アイリが指を挿したのは噴水があるほうだった。
「ん?別にいいよ。あと昼休み終わったらちゃんと帰るんだよ。あんまり学校関係者じゃない人がここにいるとまずいから」
「りょうか~い」
タタタっと走って行ってしまった。
「ほんとにわかっているのかな…」
ちょっと頭を抱えてしまった。
中庭の奥の方を散策するアイリ。
「うわー綺麗!お花がいっぱいだぁ!」
アイリは普段家の中にいるので外の景色が全て新鮮に見える。
「最初見た時は暗かったから良くわからなかったけど、こんなに綺麗ば場所だったんだね」
この綺麗な中庭でお弁当を食べている生徒が多かった。特に女子生徒だ。その中庭で食べている女子生徒の中に特に目立ったグループがあった。
「フフフ、とてもおいしいですね。ご自分で作られたのですか?」
「は、はい…に喜んでいただけてとても光栄です」
1人の女性を複数の女子が囲い華があるグループだった。楽しそうに昼食を取っているようだ。
「こんにちはー♪」
アイリがそのグループに突然声をかけた。
「あら?」
「知り合いですか」
「いえ、私はちょっと存じ上げません…それにうちの学校の制服も着ていないですし。あなたどこから来たの?」
「ん?どこってあっちからだよ」
ノエルのいる方向をさした。
「いえ、そういうことじゃなくて…」
「私アイリって言うんだ。ねぇねぇあなた名前は?」
「えっ…?」
まわりが複数で囲っている女子生徒がきょとんとした顔をしていた。
「あなた、この方の名前を知らないの…?」
「うん、知らないよ。だから聞いているんじゃない」
堂々と答えるアイリ。
「あなたこの国の人間なの?フィールランド連合王国に住んでいるなら誰だって…」
「まぁまぁ止しましょう。誰にだって知らないことはあります。聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥と言うじゃありませんか」
「…はい、そうですね」
「では自己紹介致しますね。はじめましてアイリさん、私クレア・フィールランドと申します。以後お見知りおきを」
とても優雅で華麗にアイリに挨拶をした。そして品もある。
「うん、よろしくね!クレア」
「ちょっ…!?クレア様を呼び捨てにするなんてあなたね」
「え…何でそんなに怒るの?いけないことなの?」
まわりの女子生徒がぽか-んとしていた。
「うふふ…」
「ク、クレア様…?」
「いえ、ちょっと面白くて。そんな風に接し方されたの始めてなもので。ちょっと嬉しいのかもしれませんね」
「いや、ただの世間知らずなだけですよこの子・・・全く、どこの田舎者かしら。目上の人に対する口の聞き方も知らないなんて親の顔が見てみたいもんです」
「ねぇねぇクレア」
「はい、何でしょうか?アイリさん」
「そのお弁当おいしそうだね♪」
アイリはクレアが食べているお弁当を見た。
「これですか?」
「うん、それ。ちょっと味見させてよ」
「ちょっと!あなたいい加減にしなさいよ。クレア様に無礼な口を聞いておいてこの上お弁当まで味見だなんてどんだけ…」
「人前で怒鳴り声をあげるものではないですよ」
「え…あの、す、すいません」
アイリを注意したクレアの囲いの女子生徒はシュンとしてしまった。
「よければ食べてみますか?うちのシェフが作ったものですが」
「ほんと!じゃあお言葉に甘えて」
手づかみでクレアのお弁当のおかずを1つ食べた。
「何これー!?すっごいおいしいよ!私が作る料理よりずっとおいしい!ねぇねぇどうやって作ったの?ねぇねぇクレア!」
アイリはあまりのおいしさに興奮冷めやらぬ感じでクレアに話しかけた。
「うふふ…うちのシェフは一流の人ばかりなので味には自信があるのですよ」
「へぇー、そうなんだ!ねぇねぇ今度クレアのお家遊びに行って良い?」
「え…?う、うちにですか」
クレアが少し戸惑った様子をした。
「うん、この料理の作り方教えて欲しいなって」
「あなたのような庶民が気安くクレア様の家にあがれるわけ…」
「およしなさい、そういう言い方よろしくないわよ」
「す、すいません…」
「なぜそんなに料理の作り方を知りたいのですか?」
「えっとねーノエルに喜んで欲しいから!」
「ノエル…?」
「確かうちの学校の1年にノエル・クスガミという生徒がいたかと・・・」
「ノエル…クスガミ…」
クレアは少し何か思い当たる節があるのか、少し考えこんでいるような感じがした。
「(クスガミ…いえまさか…)」
「あっ・・・思い出したこの子!」
囲いの女子生徒が声を突然出した。
「えっ」
クレアは少しびっくりした。
「この子、確か午前中4階の窓の外から教室を覗き込んでいた子ですよ」
「えっ私?」
アイリが自分のことを指さした。
「あら、そうなんですか…。そういえばそのような騒動が午前中あったと聞きましたね」
「はい!その犯人がこの子ですよ」
囲いの女子から指をさされたアイリがきょとんとする。
「アイリさん…女子がそのような危ないことをしてはダメですよ!」
「いや、クレア様そこではなくてですね…いや確かにそうなんですけど…」
「そうなんだ。うん、今度から気をつけるね」
「はい」
それに返事をするクレア。
「おーいアイリー」
ノエルがアイリのことを呼ぶ声が聞こえた。
「あっノエルだ!こっちこっちだよノエル!」
「何だそんなとこに…って…えっ!?」
僕は状況が飲み込めなかった。アイリとクレア王女が何で一緒に!?
「あなたがノエルさん?」
クレア王女にそう訪ねられた。
「は、はい。始めましてノエル・クスガミと言います」
僕は少し緊張した。
「あの…何かうちのアイリが失礼なことをしましたでしょうか?」
すると囲いの女子生徒が口を開いた。
「えぇしたわよ、クレア様に向かって…」
「いいえ」
クレアが囲いの女子生徒の口を妨げた。
「アイリさんとは、とっても楽しくお話をさせていただきましたわ」
「え…あぁそ、そうですか…」
「クレア様…」
「ちなみに聞いてもよろしいですか?ノエルさん…」
「アイリさんとあなたのご関係は?」
僕は返答に少し戸惑った。アイリがヒューマノイドだということがばれるわけにはいかないからだ。
「い、妹です…」
「妹ですか…。兄妹なのですね」
「…はい」
「兄妹は…仲良くしてあげて下さいね…」
「クレア様…?」
どこかその言葉にクレア王女の寂しさを僕は肌で感じた。
キーンコ-ンカーンコーン
「あら、お昼休みが終わりみたいですね。では私達はこの辺で」
「え、あぁはい!じゃあ僕達もこれで失礼します。お邪魔しました」
そしてその場から立ち去ろうとした瞬間・・・
「アイリさん」
突然クレア王女がアイリの名前を呼んだ。
「ん、何?」
「またあなたとお話をしてみたいですわ…」
「クレア様…」
そう言うとその場からクレア王女はその場から歩いて校舎のほうへ去っていった。
「えぇー(何でクレア王女がアイリとまた話をしたいって…いったい僕がいない間に何の話をしていたんだ!?)」
「うん、またねー」
手を振るアイリ。
「ア、アイリ?」
「ん?何ノエル」
「いったいクレア王女と何を話していたの?」
「う~んとね、色々」
「い、色々ねぇ…」
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