第11話「忘れちゃった」

キーンコ-ンカーンコ-ン


チャイムと共に担任のユ-ミル先生が入ってきた。


「ではHRを始めます。今日の連絡事項ですが、ファルシュ先生から最近運動部に所属している人の歴史の成績が落ちていると報告がありました」


クラスが少しざわついた。


「静かに!えー…そこでですが、バスケ部に所属している人たちを対象に補習授業を行うようです。ファルシュ先生から対象者を授業中に発表するらしいので事前に言っておきます。以上です」


「でも今日の部活の練習はどうするんですか?大会も近いし、バスケ部の監督からは許可取ったんですか?」


バスケ部に所属しているクラスメイトの1人の男子生徒が言った。


「そこは問題ないです。ちゃんとそこはファルシュ先生からは顧問の先生から許可を取ったとのことなので大丈夫です」


「そ、そうですか」


「他に質問がなければ今日のHRは終わります」


ユーミル先生が教室を出てHRが終わった。


「ファルシュ先生って結構教えるの熱心な先生なんだなぁ。放課後に補習授業連日でやるとか」


アレックスが僕にそう話しかける。


「まぁでもやっぱ新任だし、カ-ネル先生の代わりだからっていうのもあるんじゃない?」


「それもあると思うんだけどさ。けどよくバスケ部の顧問の先生説得したよなぁ。あの人結構おっかない人じゃん?」


「確かに、ちょっと怖そうだよね。僕も見たことあるけど練習とかサボったらすごい怒る人らしいし」


「やっぱ学生は学業優先ってことなんだろうな。あとは…」


「あとは…?」


「どんなおっかない男でも美人には弱い!」


「あはは…」



そして歴史の授業時間…


「えーユーミル先生から事前に連絡があったと思いますが、最近バスケ部の歴史の成績が落ちているということなので、カ-ネル先生の代わりということもあり補習を行いたいと思います。えーでは発表します…デビット君、マーロン君この2人は放課後職員室に来てください。何か質問がなければ授業を始めたいと思います。」


「先生!」


先ほど呼ばれたバスケ部のデビットが手を挙げた。


「はい、デビット君何でしょうか?」


「この前の中間テストの成績、僕は上位の方にはいっていましたがなぜ僕も補習なんでしょうか?成績が落ちている人の補習はわかりますが…」


当然の疑問だった。デビットはクラスでは運動神経も良く、学校の成績も上位の方だ。彼が補習というのはちょっと違和感がある。


「デビット君が成績が学内で上位ということは私も承知しています。しかし、今回の補習はバスケ部の学力アップの目的も兼ねています。そういうこともあり個別でのカリキュラムを組んでいますのでデビット君も補習の参加よろしくお願いします」


「そうですか…わかりました」


デビットはどこか納得していない顔でいた。大会も近いし、練習を優先させたいのであろう。


「では他に質問がないようなので、授業を始めます」


こうして補習者の発表が終わり、いつものように授業が始まった。




そして放課後の職員室…


「いや-ファルシュ先生はものすごい熱心ですなー」


「いえ、私は教育者として当然のことをしているまでですよ」


授業を終え、職員室ではファルシュ先生と他の教科を担当している男の先生が話をしていた。


「いやいや、残業代が出ないから補習なんてやりたくないという先生が最近多いんですよ。特に若い先生なんかに。そんな中ファルシュ先生は率先して補習をやるとは大したものですよ」


「あら、ありがとうございます。お世辞でもとても嬉しいですわ」


「ところでファルシュ先生、週末空いていますかね?今週末にうちの学校の教師みんなでファルシュ先生の歓迎会も兼ねて飲み会を開こうと思っているんですけど、どうですか?」


「あらお気遣いどうも。でも、すいません今週末はちょっと予定が入っているんですよ」


「それは残念、そうですかではまたの機会に」


「えぇ、お願いします」


「(ゲスが…!下心が丸出しで…)」


心の中でそう思った。


「先生…!?」


「ん…・あっ!?いえすいません」


どうやら顔に出てしまったらしい。


「失礼しまーす。ファルシュ先生いますか?補習の件で来たんですけど」


「あら…すいません。補習を受ける生徒達が来たようなのでこの辺で」


「あぁ…す、すいません。では頑張って下さい」


「えぇ」


「ではみんな、教室へ向かいましょう…」


「はい」



次の日…

「ノエル朝だよ!学校遅れちゃうよ、おじいちゃんもう出かけちゃったよ」


「ん~昨日、夜遅くまでゲ-ムしちゃったから眠いよ…」


「そうなんだ…じゃあ、しょうがないね」


「うん…」


数分後…


「あれ…?」


「あっおはようノエル。どう?もう眠くない?」


「えっ…眠くないって…あっ!?」


時計の時間を見たらもう遅刻ギリギリの時間だった。それに気付いた僕は慌てて起きた。


「うわっ!?もうこんな時間、急がなきゃ!」


慌てて着替えようとしたが、アイリが部屋に一緒にいた。


「ちょっと着替えるからアイリ部屋の外に出てって」


「うん、わかった」


制服に着替え、カバンを持って部屋から出た。寝癖を直したり、顔を洗っている暇はないのでパス。


「じゃあ、行ってきまーす」


「ノエル、朝ご飯は?」


「ごめん!時間がないから今日はいいよ」


「それじゃあ体に悪いよ。はいこれ、お菓子上げるね」


スっとアイリがノエルの手に持っていたお菓子を渡した。


「ありがとう、じゃあ行って来るね!」


「いってらっしゃ~い」


慌ただしく、ノエルが家から出て行った。


「さぁ~てと今日は夕飯何作ろうかなぁ~と…」


そんなことを考えながらテレビでいつも朝やっている幼児向けの人形劇の番組を見ながら番組の献立を考えていた。


「あはは…カバ君おもしろ~い」


テレビに夢中になっていると気付けば時間は経っていた。そろそろ献立を考えようと思い台所に行き、冷蔵庫の中身を確認しようと思ったときあるものが目に映りこんだ。


「あっ…お弁当」


ノエルのために作ったお弁当が台所に置きっぱなしだった。そういえばノエルが急いでいたのでどうやら渡し忘れてしまったみたいだ。


「お弁当ノエルに渡し忘れちゃったみたい…。どうしようかな、やっぱ届けてあげたほうがいいよね」


そう思い、作ったお弁当を持った。


「いってきま~すっと」


出かけるときは戸締りをちゃんとしてとのことなので鍵をかけた。


「これでよし」


学校への道は一応覚えているので大丈夫なはず。まぁわからなければ道中誰かに聞けばいいだろうと思っていた。


外へ出ると1体のヒューマノイドドールが掃除をしていた。いつもこの辺りを掃除している。


「あっこんにちは」


挨拶をするノエル。


「アラ、コンニチハ」


「はじめまして、私アイリって名前。よろしくね」


「アイリサンデスカ、ヨロシクオネガイシマス。コノヘンニオスマイナンデショウカ?」


「うん、そうだよ。あそこ」


アイリがノエルの家を指す。


「アラ、アソコハノエルサントゼーべックさんのオウチダッタキガシマスガ」


「うん。最近一緒に住むようになったんだ。」


「ソウナンデスカ。ヨロシクオネガイシマスネ」


「ノエルとおじいちゃんのこと知っているんだね」


「ハイ、イツモアサデカケルトキニアイサツヲシテクレルノデ」


「ねぇねぇ名前教えてよ」


「ワタシノナマエデスカ?」


「そうそう」


「ハイ、KB-660トイイマス」


「KB-660…?何か難しい名前だね」


「イチオウワタシノケイシキバンゴウニナリマス」


「そうだ、呼びにくいからケイちゃんって呼んで良い?」


「ケイチャンデスカ?ベツニカマイマセンガ」


「じゃあ決まり。よろしくねケイちゃん」


「ハイ」


「ねぇねぇところでケイちゃん、ノエルの学校ってこっちの方向で良いかわかる?」


アイリが歩こうとしている方向を指さす。


「ノエルサンノガッコウデスカ?イツモアサムコウノホウコウニアルイテイッテイルノハオミカケシマスネ。キョウノアサモオミカケシタノデスガハシッテイカレマシタ」


「そうなんだ、実はノエルにお弁当渡し忘れちゃったから学校に届けてあげようと思って」


「ナルホド」


「教えてくれてありとうね」


「ハイ、オキヲツケテ」


しばらく歩いて行くと大通りに出た。


するとアイリの目に歩道橋を渡ろうとしている老婆が見えた。しかしどうやら足が悪く登るのに苦労しているように見えた。


「おばあちゃん、この階段登りたいの?」


突然声をかけた。


「ん?あぁ渡りたいんだけど、ちょっと足が悪くてね…」


そう言うと老人が足を痛そうにさすった。きっと痛くて歩道橋を渡れないのだろう。


「私がおんぶしてあげるよ。背中に乗って」


「え…でも重いのに悪いわよお譲ちゃん…」


「大丈夫、私力持ちだから」


「でも…」


そうは言うものの老婆は躊躇していた。普通に考えればこんな細い少女におんぶさせて歩道橋を渡らせるのは申し訳ないと思うのが普通だからだ。


「大丈夫、大丈夫」


すると老婆をひょいっと背中に乗せた。


「大丈夫かい?無理しなくても…」


「心配しないで!任せてよ」


そう言うとアイリは老婆を背中に乗せながら軽やかに歩道橋を走って行った。まわりの人からはかなり驚いた目で見られていた。


そして歩道橋を渡りきると老婆を降ろした。


「お譲ちゃん、すごいねぇ…」


「エヘへ、言ったでしょ♪」


「すまないねぇ、重かったでしょ?とっても助かったわ。ありがとう」


「ううん、全然。私あそこに止まっているトラックとかでも全然持ち上げられるよ」


アイリが道路で停車している大型トラックを指差す。


「え?ふふっ…面白いこと言う子だねぇ」


「ねぇねぇおばあちゃん、お礼ってわけじゃないんだけどちょっと聞いて良い?」


「ん?何だい」


「ここらへんにある大きい学校に行く道を教えて欲しいんだけど」


「大きい学校?ん~ここらへんにある大きい学校っていうとフィールランド国立学校かね。それならこの道を真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がるとバス亭があってその前に坂があるからそこを登ると着くはずだよ」


「ええと…真っ直ぐ行って突き当たり、で右に曲がってバス停の前に坂と…ありがとうおばあちゃん」


「いえいえ、こちらこそ。気をつけるんだよ」


老婆に言われた通りの道を進んでいくと学校に着いた。


「あっノエルの学校発見!よ~し入るぞっと!」


しかし校門から学校に入ったは良いが、肝心のノエルがいる場所がわからなかった。


「う~ん、どうしよう…ノエルがどこにいるかわからない」


しばらく考えて見る…


「しょうがない一つ一つ覗いて見て探していくしかないか」


考えた末、とりあえず行動して探すことにした。

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