第8話「妖美」

クラスがざわついた。てっきりみんな歴史ということもあって堅苦しい男の先生が来ると思っていたのだろう。


「みんな静かに、ファルシュ先生続けて下さい」


ユ-ミル先生がざわつきを静止させた。


「教師経験はあまりないのですが、一生懸命みなさんと一緒に楽しく授業を出来ればと思います。みなさんとの授業は午後からになりますのでよろしくお願いします」


「はい、ありがとうございます」


拍手が起きた。


ファルシュ先生が一礼をする。


「えーそれではファルシュ先生ありがとうございました。午後の歴史の授業よろしくお願いいたします」


「ではみなさんありがとうございました」


そういうとファルシュ先生は教室から出ていった。


「えーではHRの続きを始めます。連絡事項は…」


そしてHRが終わりクラスがざわめきに包まれていた。


「すっごい美人だったなぁ」


「俺これから歴史の授業絶対寝ないわ」


特にクラスの男子はずっと新しい歴史の先生の話をしていた。


「それにしても新しい先生がかなりの美人で良かった。な?ノエル」


アレックスに唐突にふられた。


「え…!?あっうん…そうだね」


それにすこし戸惑うノエル。


「えー…ノエル君もああいう人がいいの?」


少し不満そうに思うメリッサ。


「ノエルは前のカ-ネル先生に目を付けられてたし、ノエルも嫌っていたからな」


「あ…そうなんだ」


「え、いや別に嫌っていたわけじゃ…」


「でも良かったじゃんノエル。これでしばらく説教されずにすむから」


「まぁ…うん」


「それにあの先生顔も良いけど胸もかなりでかかったな。何カップあるんだ?」


「もうアレックス」


そんな会話をしつつ授業を受け、昼休みの時間がやってきた。


キーンコ-ンカーンコーン♪


「ノエル、昼行こうぜ」


「うん…ちょっとまっ…」


「ん?どうしたんだよ」


「いや、今日は…」


僕がそう言うとカバンから今朝アイリからもらったお弁当?を取り出した。


「何だお前今日珍しく弁当持ってきたのか。自分で作ったのか?」


「え…?あぁ…うん…その」


「どんな弁当作ってきたんだ?」


「いやぁ…その僕もちょっとわからなくて」


「はぁ?何でお前がわからないんだよ。自分で作ったんじゃないのか?」


「いや…そのおじいちゃんが…」


ノエルはアイリが作ったとは言えなかった。というか言うわけに言わなかった。


「なるほど。じゃあ俺は食堂行って来るわ」


「うん」


「ノエル君」


メリッサに声をかけられた。


「ノエル君今日お弁当なんだ。良かったら一緒に食べない?」


「良いよ」


メリッサと相席をしてお弁当を広げた。メリッサのお弁当はいかにも女子らしい可愛いお弁当だった。


「メリッサのお弁当かわいいし、おいしそうだね」


「ありがとう、いつも自分で作っているんだ。ノエル君のは?」


「う、うん…」


開けるのが少し不安だった。布からお弁当箱を取り出しおそるおそる蓋開けてみた・・・


全部…トーストであった。中身にジャム、玉子、野菜などが挟んでいた。


「あっノエル君は焼いたパンがお弁当なんだ」


「う、うん。みたいだね」


少しほっとした。


「なんかノエル君のお弁当トーストだけど好きなの?」


「え…うん焼いたパン好きなんだよね…」


「へぇ、そうなんだ知らなかった」


メリッサに嘘をついてしまったが、アイリが作ったとは言えなかったので心の中で申し訳なく思った。


(アイリってまだ料理のレパートリー全然ないんだろうなぁきっと…)


ノエルが食べているとなんかやたら甘いのが多かった。中身の比率を見てみると甘いのが8割で残り2割ぐらいが野菜や玉子であった。


(なんか甘いトーストばっかであんまり昼食を食べてる感じしないなぁ…)


チョコやジャムなどばかりで、口の中が甘ったるくなってしまった。水筒のお茶で口の中の甘さを流す。


「ぷはぁ~おいしい」


「なんかノエル君おじいちゃんみたい…ふふ」


「え、そう?じいちゃんと2人暮らしだから移っちゃったのかな?」


「何それ~」


メリッサと楽しく会話をして昼休みは終えた。そして午後の最初の授業は歴史だ。


(んー…なんか胃がずっと甘い感じがする……甘いのは好きだけど昼は普通に食べたかったなぁ)


そう思っていると隣の席でアレックスがずっとニヤニヤしている。


「へへへ…」


「何かアレックスずっとにやけているけど」


「気持ち悪いわね」


メリッサは結構キツイことを言い放った。


「お前これがニヤニヤせずにいられるかよ。あんな美人な先生の授業とか楽しみでしょうがねぇよ」


「あきれた…」


「俺だけじゃねぇぞ。他の男子も見ろよ、みんなにやついているぜ」


「確かに…」


「あ~あ、怒られて放課後に2人きりで秘密の居残り授業とかやってくれねぇかな~」


「あんたどんだけ妄想激しいのよ…」


メリッサはやれやれとした感じの顔だった。


そしていよいよベルが鳴りファルシュ先生が入ってきた。


ガラッ!


「えーみなさん、午前中のHRでも自己紹介をしたと思いますが改めて。今日からしばらくみなさんのクラスで歴史を教えることになったファルシュ・ツヴァインと申します。みなさんと楽しく授業を出来たらいいなと思っているのでよろしくお願いします。では授業を始めて行きたいと思います」


「よろしくお願いしまーす」


男子の声が特に大きかった気がする。


「えー早速ですが、すいませんカーネル先生はどこまで進めたのか教えてくれると助かります」


すると1人の男子が答えた。


「教科書の26ぺージまでやったと思います」


「ありがとう」


「いえ…そんな…へへへ」


お礼を言われた1人の男子生徒が照れていた。


「では教科書の26ページからやっていきたいと思います…」


そして淡々と授業が進められた。みんないつもと違って真剣に聞いている。いつものカーネル先生じゃこうはいかない。やはり美人というのは偉大だ。


そして時間はあっという間に経ち…授業の時間が終わる5分前…


「それでは少し早いですが、今日の授業はここまでとします…けど少し時間が余ってしまったので、みなさんとの交流時間にしたいと思います。何か先生に質問があればどうぞ」


クラスが一斉に沸き立った。


「はいは~い俺質問ありま~す」


「はい、じゃあどうぞ」


「先生って彼氏はいるんですか?」


いきなり大胆な質問だった。


「ウフフ…そうですね、今は特定の付き合っている異性の人はいないわね」


「どんな男性がタイプですか?」


「んー包容力があって頼れる人かな」


「好きな食べ物は何ですか?」


「パスタかな」


「年はいくつですか?」


「26よ」


質問が次々と怒涛のように続いた。中には答えずらい質問も難なくと答えていった。そしてそろそろ授業が終わる頃。


「では先生からもみんなに質問良いかな?」


「良いですよ~」


「じゃあ聞いちゃうわね…」


「は~い」


「…2日前にこの学校の立ち入り禁止区域で何かあったらしいけど、何か知ってたら先生に教えてくれる人いない?」


なんだか今の質問をしてきた瞬間先生の雰囲気が少し変わった気がした。背中がぞくっとした感じが寒気が走った。


(え…!?)


僕はかなりドキっとした。ファルシュ先生が何でそんなことを聞いたんだろうと。


「なんか危ないから入っちゃダメってなって金網張られて通れなくなっちゃったし、事故が起きた時間はもうみんな下校時間過ぎてたからみんな何も知らないと思いますよ。」


1人の生徒がそう答えた。


「そう…」


そう言うとファルシュ先生は黙った。


キーンコ-ンカーンコーン


「それでは今日の授業は終わりたいと思います。それではまたよろしくお願いします」


「ありがとうございました」


そう言うと先生は教室から出て行った。


そしてアレックスが声をかけてきた。


「いやーファルシュ先生の授業良かったなぁ。美人だし教え方もうまいし言うこと無しだな。もうカーネル先生ずっと入院してて欲しいぐら……ん?どうしたノエル」


ノエルの顔が少し強張った感じの異変にアレックスは気付いたようだ。


「い、いや…別に何でも。そ、そうだね、うん…僕もファルシュ先生の授業すごい良かったと思うよ…ハハハ」


「お、おう…だよなぁ」


「もう男って美人に甘いのはみんな一緒なのね」


クラスの女子が愚痴をこぼした。


(あの最後の先生からの質問…あれは何の意図があったんだろう…)

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