第1話「予感」

 ――ゴゥンゴゥンゴゥン


朝から非常にやかましい機械音が僕の部屋にまで響いていた。正直この目覚め方はあまり好きではない。


「……ん、じいちゃんが1階で何かしているのかな……」


僕はそう思うと学校に行くにはまだ気持ち早い時間だが自分の部屋を出て階段を下りていった。


「ん?ノエルか?起こしてしまったか。すまんな」


じいちゃんは自分のせいで僕が少しはやく起きてしまったことを少し申し訳なさそうな顔をしていた。


「いや…いいよそれよりそれは何をしているの?」


僕にはよくわからないがじいちゃんの部屋には何に使うかもわからない機械が転がっていた。


「あぁ、これか。今度学会で実験の研究を発表するんでそのための準備じゃよ」



――僕の名前はノエル・クスガミ16歳。このフィールランド連合王国の首都「ダリア」で1軒家に僕の祖父である機械工学の研究者のウィリアム・ゼーべックことじいちゃんと2人暮らしをしている。

両親とは小さい頃仕事の都合で僕の面倒が見れなくなったので、じいちゃんに引き取られて今はじいちゃんの家で2人で暮らしている。もうずっと何年も会っていないので両親と一緒に暮らしていた記憶があんまりない。でもたまに何で僕を置いていってしまったんだろうとか思うときもあるし、全く寂しくないと言えば嘘になる。授業参観の日にみんなお父さんお母さんが来ているのに僕だけ来ないなんていうのはいつものことだった。そんな時じいちゃんは仕事の忙しい中合間を縫って僕の授業参観や運動会に来てくれたときは嬉しかった。


「ちょっと早いが朝飯にしようか。ちと片付けるから待っていなさい」


そう言うとじいちゃんはスイッチらしきものを切り、部屋を出て行き台所へ向かった。

じいちゃんはパンをトースターに入れ朝食の準備を始めた。僕はその間洗面所に行き顔を洗いに行った。



「ノエル朝食が出来たぞ。顔を洗ったらこっちに来なさい」


「うん。」


僕はいつものように返事をし、ダイニングに向かうといつものように朝食がテーブルに並べられていた。


「ノエル、今日はわしはちょっと仕事で帰りが遅くなると思う。夕食は適当に済ませておいてくれ。外食するならいつもの場所に財布を入れておくからそこから使っていいぞ」


「うん。わかった」


じいちゃんは機械工学の研究を行っている他に大学で講師も兼任しているので結構忙しい身だ。なのでこうやって一緒にじいちゃんと朝食を一緒に取れるというのは結構貴重な時間であり嬉しいひとときでもある。


「ノエル、そういえばもうすぐ中間テストが近いと思うのだがちゃんと勉強はすすんでいるのか?」


「う……んまぁ……ぼち…ぼちかな……?」


僕は少しバツが悪そうにそう言うと


「その様子だとあんまりすすんでいないようだな。まぁ学校の勉強がすべてではないがやっておかなければ自分の将来の可能性を閉ざしてしまうこともある。それに学生の本分は学業だ。」


「うん、わかってるよ」


「ゲ-ムに熱中するのもいいが、ほどほどにしとくんじゃぞ。まぁ夢中になれることがあるというのはいいことじゃがな」


じいちゃんはゲームに対して普通の親と違ってそこまでゲ-ムに嫌悪感というのはない。自分の研究している分野の一部の技術がゲ-ムにも使われているからかな?と思ったりもする。


「さてじゃあわしは仕事に行くから後のことは頼んだぞ。戸締りはしっかりな」


そういうと自分の食べ終わった後の食器をシンクに持っていった。


「いってらっしゃい」


僕がそういうといつものようにスーツに着替えて家を出て行った。


「さてまだ学校までの時間があるな。ちょっとゲ-ムでもやろうかな?」


僕はそう思うとおもむろに電源を入れゲ-ムを始めた。


ゲ-ムをやり始めてから1時間ぐらい経ち


「あっもうこんな時間か…そろそろ行かないと…でもまだキリが悪いしなぁ…しょうがない続きは学校でやるか。携帯ゲ-ム機だし、バレなきゃ問題ないだろ」

そう思うと僕は電源を切りゲ-ム機をカバンに入れ着替えて、戸締りをチェックして家を出た。



家を出ると僕は1体のご近所さんのヒューマノイドドール に挨拶をされた。


「オハヨウゴザイマス、ノエルサン今日モ天気ガイイデスネ」


「あっおはようございます」


ヒューマノイドドールとは、いわゆる王国間戦争の戦後に普及した完全自律型2足歩行機。いわゆるロボットである。元々は軍用のものを民間用に改造、転用し人間に代わって掃除や老人の介護など様々な場所で活躍している。特に王国間戦争の後は戦争の影響で人口が激減し、人手不足で中々進まなかった戦後復興に大いに貢献した。また軽い日常会話程度なら普通にできるのも特徴だ。今ではかなりの数が家庭でも普及しており、まだまだ高級品だが、まさに1家に1台になりつつある。


「じゃあ行ってきます」


「ハイ、イッテラッシャイマセ」


僕はその場を後にした。



僕の通っているフィールランド国立高等部は家から徒歩で15分ぐらいのところにある。遠方から電車で2時間ぐらいかけて来る人もいるので僕はかなり恵まれてる方だ。

しかし問題なのはいつもこの学校の前にある心臓破りと言われるこの急な坂だ。運動はまぁ超得意な方ではないが、そんなに悪いというわけでもない。そんな僕でさえもこの坂を登るのはちょっと嫌だ。運動部の人なんかは朝練に使うのにはちょうどいいみたいな感じで言っているけど普通の学生達にはちょっときつい。そう思っている中、坂を優雅に登っていく黒塗りの高級車があった。

ガチャっと前ののドアが開き、黒いスーツを来たSPらしき人が後部席のドアを開けた。


「クレア様どうぞ」


「ありがとうございます。」


そういうと車の中から気品に満ちた美しい女性が一人出てきた。


「ここまで大丈夫です。ありがとうございますわ」


「ではまた、下校時間になりましたらお迎えに上がります」


そう言うと黒塗りの高級車は校門から去っていった。


「ごきげんよう、みなさん今日もよろしくお願い致しますわ」


愛想よくまわりに挨拶しているこの気品溢れる女性、フィールランド連合王国の第二王女のクレア・フィールランド王女殿下である。つまりはこのフィールランド連合王国の王族である。と言っても今のフィールランド連合王国の政治体制は立憲君主制であり、絶対君主制ではないため王族にはほとんど政治的権力はない。


「クレア様、おはようございます」


「ごきげんよう」


クレア王女のまわりにはいつも人だかりができる。容姿端麗、文武両道、それになんと言っても気取らなく誰にでも気さくな優しい性格で学校でも随一の人気を誇るのだ。


「相変わらず、すごい人気だなぁ…」

その人だかりを横目に僕は学校に入っていった。


「おっす!ノエル」


自分の教室に入ると一人の男子生徒に声をかけられた。僕と同じクラスで友達のアレックスだ。僕と同じゲ-ム好きで話がよく合う。


「やぁアレックス、おはよう」


「ノエル、お前昨日のクエスト終わった?」


「いや実はまだなんだよね…今朝やってたんだけど時間がなくて…」


僕とアレックスが話してるのはMMORPGというもので一緒に冒険してモンスターを倒したりアイテムを集めたりするゲ-ムだ。


「俺もまだなんだよね。一緒にやろうぜ。お前持って来てる?ゲ-ム機」


「うん、もちばっちり!」


「おっさすが!今レアアイテム報酬期間だからやっぱクエストは終わらせないとなぁ」


「でもさ…クエスト更新が昼の12時だから、昼休みだと間に合わないんだよね…」


「今日の2時限目カ-ネル先生の歴史だろ?その時間にやろうぜ。どうせ教科書読んでいるだけで後ろなんか見てないぜ」


「う~ん、なるほど、じゃあそうするか」

少し不安ではあったが僕とアレックスは2時限目に一緒にゲ-ムをやる約束をした。

そんな話をしているうちに予鈴が鳴り、担任のユミール先生が来た。


「はい、みんな席についてホームルームを始めます。まずは今日の連絡事項から…」



HRと1時限目の数学が終わり、目的の2時限目がやって来てカーネル先生が教室に入ってきた。


「みなさん、おはようございます。では席に着いて、今日は教科書の24ぺージからやっていきたいと思います」

僕は先生が話している最中に机にノートと教科書を出して授業を聞いているカモフラージュをしてゲ-ム機に電源を入れた。


「おっアレックス発見」


向こうも僕を見つけて一緒にパーティーを組みさっそく一緒にフィールドに出た。

アレックスとは席が離れているため、授業中は話せないがゲ-ムの中でチャットをやり取りした。


「ん?なになに、俺、金色の卵を3つ入手せよっていうクエストがあるから手伝って…か。なるほど」


「オッケー、じゃあ僕も…レッドオ-クを倒せっていうクエストがあるから手伝って…と」

アレックスもオッケーとのことなので早速目的の場所に移動した。


授業開始から20分ぐらいが経った頃であろうか。僕がゲ-ムに夢中になっている時、隣の席に座っている女子のメリッサが急に小声で声をかけてきた。

「ノエル君、まずいよ。先生こっち睨んでいるよ…」

僕はきょとんとした。

「ん?」

確かに前を見ると視線が合いカ-ネル先生が僕を睨んでいた。


「クスガミ君…今、私が説明したところもう1回言ってみてください!!」


「いや……あのすいません…聞いてませんでした……」


「全く…授業中ゲ-ムをやるぐらい余裕だと思ったら…。後でちょっと職員室に来なさい」


「はぁ…すいません…」


一緒にゲ-ムをやっていたアレックスのほうを見るとばつの悪そうな顔しながらジェスチャーで謝っていた。

今日はどうやらついていないらしい…。



授業が終わった後、僕は職員室に軽い説教をされた。その後、放課後カ-ネル先生の授業で使う資料をコピーを頼まれた。まぁ仕方ないかと思い承諾したのだが、これがかなりの枚数でかなりめんどくさそうだ。


「ふぅ…やっと終わった……」


大量のコピーが終わった頃には下校時間を過ぎてしまった。途中コピー機の紙が詰まったりしてかなり大変だったがなんとか出来た。がすでにまわりは暗くなっている。下校時間をとっくに過ぎて他の先生に帰るように言われたが、事情を説明して特別に居残らせてもらった。


「カ-ネル先生…終わりましたよ、ここに…あれ…いない」

職員室には誰もいなく、カ-ネル先生の机には書置きがあった。


「ん…なになに?終わったらこの机の上に置いといてくれたまえ。私は先に帰ってる。byカ-ネル…何だそりゃ……」

まぁ自分が悪いとは言え先に帰られるとは思わなかった。

「まぁとりあえず終わったからここに置いておくか…」

コピーした資料を先生の机の上に置き、僕は誰もいない職員室を後にした。廊下はかなり暗くなっていておばけでも出そうな雰囲気だった。

「はやく…帰るか…」


そう思うと、僕は自分の教室に向かいカバンを取りとっとと教室を出ようとした。

ふと僕は暗くなった教室の窓の外を見た。


「何だあれ……?」

僕の教室の窓からは結構見晴らしがいい。なので気付いたと思うが、変な格好をした集団を目撃した。まるで軍隊の特殊装備だ。サバイバルゲ-ムでもしているのかと思ったがどうもそういう風には見えない。


「……何だろう気になるな…学校の関係者なのかな……?」

思えば違和感はあった。誰もいない職員室に鍵がかかってないことを。普通は職員室は誰もいなければ最後に鍵を閉めるのがルールなのだが、なぜか閉まっていなかった。まぁ誰かが閉め忘れたといえばそれまで何だろうが、普段閉まっているだけに偶然とは思えなかった。


「あそこ……4号館の裏の方か…ちょっと近くまで行ってみるか…」


僕はまだ、この妙な好奇心がこの先の自分の日常が変わることをまだ知らなかった……

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