第15話

 強化10と言う良い物を見た香はウキウキとした足取りで堂真の腕を組み引っ張って行くようにビルの外に出る。

 冒険者ギルドに居る事を忘れている香は、二人の光景を遅い時間と言え多数の目撃者が居る。

 基本冒険者の活動は朝からが多いが、塔の攻略にいたっては時間など関係ない。

 そう言った人達は羨ましそうに香達を見ているのだ。

 香りはモテないと言う事は無い。

 ギルドの中でも美人の部類に入るが、意外と過保護な頑鉄に恐怖している冒険者が多く香をデートに誘う事ができなかったのだ。

 頑鉄は、鍛冶師と言う生産職であるが、中堅上位の冒険者程の能力があり、おいそれと香を誘う事が出来ないのだ。

 案の定、香の後ろから走って追いかけてくる頑鉄を見た冒険者はアイツ死ぬなと思ったであろう。

 昔、香に手を出そうとした冒険者が半殺しにされた事件は有名である。

 まぁそれは嫌がる香りを無理に誘おうとしたのが原因であった。

 頑鉄がビルの外に出ると、堂真達が振り返る。

 面白そうな事には敏感な冒険者は堂真達を見ているが、まさか堂真の肩に腕を回して、3人が笑いながら街の中に消えていく姿を唖然としながら見送るのだ。

「おっおい! あの頑鉄が笑いながら男と肩を組んでいたぞ…… 頑鉄に認められたのかアイツ……」

 この事は次の日に冒険者とギルドにすごい速さで広まって行くのであった。


「頑鉄ってシャツを着ると違和感しかないな」

先ほどまで上半身裸の頑鉄しか見ていなかった堂真は率直な質問を投げる。

「俺だって裸の方が楽だ。だが外であんな恰好していると捕まるだろう」

まぁ確かにそうだ。

 どんな世界でも、上半身裸の人間がそこらへんで歩いているのは不気味なものである。

「そりゃそうだ」

「ほんとお兄ちゃんは昔から外に出る以外は上半身裸過ごしていましたからね。昔その恰好で塔に挑もうとしていたのですよ。さすがに止めましたけど……」

 先ほどまでの話を聞いていたら本当の事なのだろうと思い笑い飛ばす。

 頑鉄の案内で見上げる程の高層ビルの中に入って行くと、迷う事なくビルの中を歩く。

 エレベーターに乗って目的地に着く。

 店の中はバーの様な作りになって比較的落ち着いている曲が流れている。

 頑鉄の見た目にそぐわない場所である。

 頑鉄であれば酒場の様な人ががやがやとしている場所がとても似合っていると思うのだ。

 店の中に入ると初老ぐらいの人がカウンターでお酒を出している。

 執事の様な黒いスーツ姿が良く似合い、白髪交じりの金髪に渋みを出している。

 マスターと頑鉄が声を掛けると、初老の男性は軽く頭を下げると、近くに居た女店員に指示を出す。

 すると女店員が頑鉄達を別の場所に案内する。

 個室に案内される。

 中はゆったりと座れて、個室であるが、狭く感じる事は無い。

「すまないが、エールを3つ頼む」

「かしこまりました」

 店員が部屋を出て、さほど時間が経たないうちにエールを三つ持ってくる。

「今日は堂真に出会えた事に感謝を込めて乾杯!」

 頑鉄はガラス容器のコップを堂真と香のコップにキンと軽い音を鳴らして、口に運ぶ。

 堂真もエールと言うものを初めて口にする。

 それはビールと味は凄く似ている事に驚く。

「久しぶりだな、この味は……」

 軽く口をつけたと思うと、勢いよく飲み始める。

「ぷはぁ~! くっ~! この味だわ。生き返る!」

「良い飲みっぷりじゃねぇーか!」

 頑鉄は堂真の飲みっぷりに機嫌が良くなり、隣の香は少し心配そうにしていた。

 序盤からペースが速いと後々にアルコールが回りはじめると、酷い酔い方になる可能性があるからである。

「それにしても今日は堂真のおかげで色々と助かった! まさか見た事のない強化アイテムがあると思わなかったし、強化値10と言う数値を見る事もできたからな! 今日は好きなだけ飲むと良いぞ!」

「アザマーズ」

 頑鉄のおごりと言う言葉に堂真は空になったエールを再び頼む。

「飲み過ぎには注意よ?」

 香りが一応釘を刺す。

「あぁ。きっと大丈夫だ」

 

 3人が楽しそうに飲んでいる頃、花右京家はと言うと。

「堂真さんは何処に行ったのですか?」

 部屋を訪ねに行った所、部屋の中には堂真が居なく京花は探していた。

「堂真様なら街に2時間前程に出かけましたよ」

 堂真の事を知っているメイドは街に向かったと行先を教えると、京花は少しむくれた表情をする。

 それは菜々と同い年の子供がするような無垢な表情であり、淑女として育てられた京花が、そう言った表情をするのは珍しい事であった。

「それなら迎えに行きましょう!」

 車を用意するようにと、京花はメイドに言う。

 さすがに成人している男性を夜に迎えに行くにはいかがなものかと思うメイド達である。

「お嬢様、堂真様も成人した男性です。察してあげるのもよろしいかと思いますよ」

 成人した男性が美人と一つ屋根の下で暮らしているのだ。

 溜まる事もあるだろうと思っている。 

「それは他の女性と遊んでいると言う事ですか!?」

 屋敷の使用人の前ではあまり感情を上下させない京花の行動に驚きと戸惑いが現れるが、堂真が他の女性と遊んでいると嫌だと思う京花の嫉妬にメイド達は少し嬉しくも思う。

 京花これまで好意を寄せる男性の面影が無かったので、嬉しくも思うのだ。

 そんなやり取りをしていると、堂真が帰って来たと報告を受けると京花は早歩きで玄関先まで行く。

 玄関先に着くと、一台のタクシーが止まっている。

 その中から京花も知っている冒険者ギルドの受付嬢の香が降りて来ていた。

 堂真の腕を首に回して、寝ているのかおぼつかない足どりの堂真は香と体を密着させる状態であった。

「堂真さん! 一体何をしているのですか!?」

 つい感情が高ぶった京花は堂真に怒った口調で話しかけるが、本人は京花の声が聞こえていないのか、無反応であった。

 堂真に近づいた京花は二人からアルコールの匂いが放っていた。

 嗅ぎなれない匂い眉を顰める。

「お酒を飲んで来たのですか?」

 担いでいる香に話しかける。

「そうですね。今日は私の兄と3人で食事をしていましたよ。少しハメを外し過ぎたようですが、あまり怒らないでください」

 前に金治が大量にお酒を飲んできた時に京花は聞いた事があった。

 なぜ、そんな状態になるまで飲むのかと、その時に介護していた渚は言っていたのだ。

 人は楽しくなると加減をわすれる事、嫌な事があると忘れたくて飲んでしまうと言う事を。

 この時、京花は知らない世界に一人になってしまっている堂真を少し憐れむ。

 残してきた家族や友達と二度と会えないかもしれないと言う事が頭を過る。自分ならそんな状況が耐えられるのかと考えると、先ほどまでの怒りが収まってくる。

 周りの人に気がつかれない程に小さなため息を漏らして、堂真の空いている手を肩にまわして、二人がかりで屋敷の中に運ぶ。

メイド達が代わろうとしてくれたが、大丈夫と言い二人で運びこむ。

 屋敷の中に入ると、金治、渚、菜々と堂真が酔いつぶれている姿を目撃していた。

 金治は自分自身が酔いつぶれて帰って来る事が多々あるので自分の姿を見ているようで少し引きつった表情をしている。

 自分もあんな風になっていたのかと。

 渚は金治で耐性がついており、あらあらとニコニコと笑顔を作っている。

 菜々はぐったりとしている堂真を不安そうに見ている。

 そんな状況下の中で堂真は少しながら意識が戻る。

 明るい場所に目を細める。

「ここは……」

「気がつきましたか? 今は屋敷に着いた所なので、今から部屋に向かいますよ」

「何故京花かが此処に? あぁ、そうだこれを渡さないといけなかったな」

 インベントリから騎士のペンダントを取り出すが、上手く掴む事が出来ずに床に落ちる。

 落ちた事にも気がつかない堂真はボソリと聖騎士おめでとうと一言言い残すと、死人に様に深い眠りに入る。

 騎士のペンダントを代わりに金治が拾う。

 先に送って来なさいと目で合図を送ると、二人は堂真の部屋に送り届ける。

 成人男性を一人と言えど、力が入っていない者を運ぶのは一苦労である。

 香りと京花は背筋を軽く伸ばす体操をする。

「香さん、今日は迷惑をかけてすみませんでした。夜分遅い事ですし泊まっていきませんか?」

「そうね。さすがに疲れたからお願いしようかしら」

 すぐに指示をメイドにだし空き部屋を用意する。

 その間、今日の出来事を金治と渚を含め4人で部屋に集まる。

 この時菜々が居ないのは夜が遅いため部屋に戻ったのだ。

 

 その夜騎士のペンダントの入手を香から聞く事によって、堂真が強化値0の状態から作った事を知られ、金治を含む家族は頭を悩ませる。

 規格外も良い所と言う事だろう。

 これで金治の悩みの種はまた一つ増える。

 最近では金治の兄、現国王も堂真の存在をこの前の学園祭の決闘をテレビで見て存在をしり、興味を持っている。

 決闘のアナウンスがあんな事もあり、公爵家とつながりがあるとわかって、合わせて欲しいと連絡が来ていたのだ。

 何度か国王と金治は説明を求められるが、理解できない事が詳しくは説明できていない。

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