第13話

 金治からはしばらく世間は堂真の話で持ちきりなるので、外に出る時は人の視線に注意するように言われる。

 まぁすでに公爵家の敷地の外ではマスコミの様な人が数名であるが、見張る様に隠れていると言う話であった。

 面倒くさい事に巻き込まれたくなければ、護衛をつけて移動するか、しばらくは屋敷から出ない方が良いと言われたが、じっとしておくのは嫌だったので、堂真は塔にしばらく潜る事を伝える。

 すると、現在35階まで攻略をしている京花も一緒に同行したいと言い始め、許可が下りれば良いと伝えると、金治を脅す勢いで京花は部屋に突入する。

 しばらくすると疲れ切った金治が堂真の部屋に来て、娘を頼むと一言残して部屋を出る。

 京花は何を自分の父親に行ったのだろうと少し恐怖を覚える。

 現在、京花のレベルは42である後8で二次転職出来る。

 二次転職に向けてしたい事もあったので堂真は次の日から塔に潜る事を京花に伝えると、準備をしてくると言い、一日屋敷の中をうろうろとしていた。

 

 次の日準備が整ったと朝早くに京花に起こされた堂真は眠たい目を擦りながら起床する。

 日ごろの普段着と違い白銀のライトアーマを装備している。女性用に作られ胸の部分は膨らみがあり、下半身は膝上ぐらいのスカート型になっている。

 かなりの額が使われている装備だとわかるほどである。

 ひと目見ただけでやる気十分だなと堂真は思う。

 あれよあれよと京花に引っ張られながら、塔の入り口に来る。

 堂真が攻略している塔は30階を攻略しているので31階からスタートである。

 京花は少し下がった階層からスタートになるが、堂真と塔に来られたのが久しぶりで、堂真の話を聞いているのと思う程まで浮かれている。

「京花は聖騎士になりたいと言っていたよな?」

「えぇ、希望はそうだけど……」

 そう言うと堂真はアイテムボックスから一つの指輪を京花に差し出す。

「この指輪は?」

「あぁこれは、ヒールをおぼえる指輪で装備している者は回復魔法が使える品物だ」

 これもまた高価な物であるが、京花も慣れてしまったのか、堂真から渡された物を素直に指にはめる。

「ヒール!」

 京花はダメージも負っていないのに魔法を使い、本当に使えるのか試してみる。

 京花の周りにキラキラとしたエフェクトが出る。

 回復量はわからないが、実際に使えるとわかった途端に年齢相応な喜びをしていた。

 もしこれがゲームと同じ条件であれば京花は間違いなく聖騎士が解放される。

「ねぇ堂真早くダメージを負いなさいよ!」

 それほど嬉しいのか探索し始めてから、ずっと同じ事を言っている。

「まぁダメージを負ったらその時は頼むよ」

 堂真も言っているが、実際敵が出て来ると、タンカー役の京花は盾を上手い事使い魔物の攻撃をいなしている。

 その隙に堂真がトドメを刺す形である。

 思った以上に連携出来ているので、二人とも攻撃を受ける前に戦闘が終わっている。

 堂真も新しい銀の剣を購入してからは鉄の剣より切れ味が良く、調子が良い。

 そして通路の先には念願の大部屋があり、そこには蜘蛛、蛇、狼の魔物が合計で10体以上が部屋の中をうろうろとしている。

 聖騎士の職業解放の条件に回復系魔法を戦士が覚えている事と魔物10体以上の囮を実行して職業が解放される。

「さて、聖騎士になるための試練が次の部屋で出来るが、どうする? それが解放の条件なのか不明だが、俺が居た世界では聖騎士のクエストの一部でもあったぞ」

 堂真が言う世界はもちろんゲームの世界の話である。

「それは本当!? もちろん挑戦をするわよ。どんな内容でも」

 京花の赤い瞳は熱血の様に赤くユラユラと揺らめいている。

「部屋の中に居る魔物全部を京花に敵意を向けさせろ」

「それが聖騎士になる事が出来る可能性があるならやるわ!」

「戦士のスキルの挑発を使って敵を全部釣る事が出来れば俺が待機している場所まで戻って来てくれ、殲滅は俺がする」

「敵を倒すのは任せるわよ」

 京花は大部屋の前で一呼吸置くと部屋の中に突入する。

 本来ではこういった大部屋では数匹釣っては通路まで出して、小分けにして倒すのが正規の仕方である。

 わざわざ無理をして倒す必要は無いのだ。

 京花が魔物を挑発で釣るのを確認すると堂真は部屋の角で京花が戻って来るのを待つ。

 角に居ると魔物も京花に向かって走って来るので、自然と魔物は密集して、まとめて狩るのが楽になるのだ。

 全部の部屋の敵に敵意を向けさせた京花は堂真に向かって走って戻って来る。

「上手いぞ、京花、俺の後ろに隠れていろ」

 思った以上のプレッシャーで京花は数分走っただけなのに息を切らしている。

 魔物からの10体ほどの殺気は意外ときついようだ。

 堂真の真後ろに隠れた京花であるが、敵意は京花にあるので、正面に居る堂真の直線上に魔物が集まり出す。

「ダンスオブソード」

「ダンスオブクリティカル」

 バフを掛けるとギリギリになるまで堂真は武器を構えて攻撃をすぐに出せる態勢で待つ。「パワースティング!」

「ツインスラッシュ!」

 最初のスキルで力いっぱい振り切ると、手前の数匹を切り裂き、ツインスラッシュに繋ぎ、余計なモーションを入れずに次の攻撃に繋ぐ。

 シュンシュンと空気を斬るような音を出し、ゲームと同じ攻撃かと思うと、ツインスラッシュのスキルに斬撃が付いているのか、斬撃を放ち残りの魔物もまとめて切り裂かれる。

 ゲームでは気がつく事が無かったが、ブレイドダンサーが敵を数匹まとめて攻撃を当てるスキルには斬撃が飛んでいると言う事に気がつく。

「本当にあなたは規格外ね。まさかあの数を一瞬で倒すなんて……。今まで一人の時もあの倒し方をしていたの?」

「纏めて狩る方が効率いいからな」

「他にも冒険者は居るのだから気をつけてよ」

「それはぬかりなし」

 魔物を行為等で擦り付ける事は重罪であり、見つかれば即処刑と重い罪になる。

「それにしてもバフスキル? 自身だけかと思っていたら味方にまで付与されるのね」

 その後、堂真のバフの恩恵を受けた京花は驚く程まで能力が上がっていて、一人で黙々と倒しながら進んでいく。

 ついタンクと言う役目を忘れて、ゴリゴリと進んでいくのだ。

 それから二人は、一つの階を攻略すると塔からでて屋敷との往復を習慣の様に繰り返す。

 それが一カ月程続く頃には二人は40階まで到達しており、京花のレベルは50に到達し、堂真も40に到達していた。

 さすがに経験値ブーストがついている京花のレベルの上り幅は大きく、早いうちに85レベルまで上げる事が出来そうである。

 堂真の部屋で京花はステータスウィンドを開き堂真も京花の能力を見ている。

 そのウィンドーには職業転職と言う項目が増えている。

その場所をタップすると、自分が転職できる職が出てくるのである。

転職ボタンを人差し指で何時でもタップ出来る状態であるが、緊張をしている京花は指先が震え思いとどまってしまう。

 憧れの聖騎士と言う職業になれるかなれないかと言う分岐でいるのだ。

 ゲームであえばサブキャラを作れるけど、この現実世界ではこの一回だけしかないのだ。

 そんな京花を見ている堂真も緊張がうつったのであろう。そわそわとし始める。

「早くタップしなよ」

 見ているのがツラくなってきた堂真は京花に言う。

「だって緊張して手がこれ以上進まない……」

 何時も凛としている京花でも人生で一回になると少し弱気になってしまう様である。

 堂真はそっと京花の手首を掴む。

「俺も一緒に押してやるから安心しろ、きっとなれるはずだ」

 京花は堂真を見るとコクリと小さく頷く、どうやら覚悟を決めたようである。

「いくぞ」

 ウィンドーをタップすると、次の画面に移り変わる。

 上位の戦士職は複数あり、その中から聖騎士の項目を探すと、聖騎士の枠が光っている。

 と言う事ははれて聖騎士になれると言う事である。

 聖騎士をタップすると、自分の職が聖騎士と名前が変わっている事を確認すると、京花はあまりの嬉しさに堂真に飛びつく勢いで抱きしめる。

「ありがとう! 堂真のおかげで私は聖騎士になる事が出来たわ!」

嬉しさと感動で涙ぐむ京花を更に強く抱きしめる。

「条件が一緒で良かったよ」

自分から言い出した事もあり、もし表記されていなかったらどうしようかと思っていたが、とりあえずは一安心である。

ワクワクとしながら京花は聖騎士が覚えるスキルを確認している。

パッシブスキルはディフェンスとパリィが新たに増えていて、物理攻撃に対する耐性を身に着けて、常に防御力が上がる。

パリィは敵の攻撃を一定で受け流し物理ダメージを軽減する。

よりタンクとして活躍が出来る能力である。

通常スキルは防御体勢を取って敵の攻撃を備えるガードスキル、挑発の上位互換ポロポーグ、周囲の敵を怒らせて、範囲内の敵の攻撃対象を受ける。

最後にガーディアンは周囲の味方のダメージを肩代わりすると言うタンクならではのスキルをおぼえる。

そのスキルの京花は大喜びをしている。

はやくスキルを使いたいのか、塔に行きたくてうずうずとしているのが伝わってくる程に挙動がおかしいのである。

そんな京花の姿に堂真は笑う。

日ごろ令嬢として淑女の様に振る舞う様子を見ているせいで、可笑しく感じるのだろう。

「明日が楽しみですね!」

 ルンルン気分で京花は堂真の部屋から出ていく。

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