第12話
喫茶店をしている教室に入る。
先ほどの試合を見ていた者も大勢いたらしく、堂真の事をチラチラと見ている。
「いらっしゃいませ~」
ピンク色の髪が腰まで伸びている女性が注文を取りに来る。
「やっほ~ 仕事しているかい?」
美香は茜に話しかける。
「いくら学園祭と言っても口調が砕け過ぎよ? あなたも令嬢なのよ?」
メッと美香の額に人差し指を押し付ける。
「あら? 京花の良い人ですか? 私は北条 茜と言います。よろしくお願いします」
おっとりとした表情の茜だが、堂真の顔を品定めするように見てくる。
「どうも、赤崎 堂真です。 良い人の意味が良くわからないが…… よろしく」
「先ほどの試合を見ていましたが、まさか学園一位の信雄さんに勝ってしまうなんて、すごい人なのですね!」
有名人の様に握手を求められた堂真は素直に応じる。
コーヒーを3つ頼むとパタパタと歩き茜は注文伝えに行く。
「そうそう堂真は何故そんなに強いの?」
堂真のレベルでは、その辺に沢山居るレベルと変わりがない。
「ん? まぁ職業のおかげと言っておこうか」
「職業?」
絶妙なタイミングで茜がコーヒーを持ってくると、何故か茜まで席に座る。
どうやら休憩の時間と言う事で、せっかく皆が居るから此処で休憩をする様である。
「あぁ、バフ職だからな」
「「「バフ?」」」
3人は仲良く首を傾げる。
「そうだ、バフと言うのは能力上げるスキルの事だ」
「という事は支援職業という事ですか? 上位の回復職が味方の能力を上げるようなという事ですか?」
「そうだな。回復職が覚える支援スキルは大体仲間を守る能力が多いが、俺のは攻撃に関する能力上げが多いな」
気になる事はまだまだあるが、とりあえずは納得する。
「ブレイドダンサーと言う職業を聞いた事が無いのですが、レア職ですか?」
「いや、剣士系の最終職だ」
「「「……」」」
これは深く聞いたらダメなやつだと感じた3人は目で合図を送り、少しぬるくなったコーヒーに口をつける。
それからしばらく会話を楽しみ茜と美香は自分の持ち場に戻る。
日が落ちる頃には二人は学園際を楽しんでいる最中であったが、世間では無名の選手に負けた信雄の事で持ちきりであった。
そんな話が広がっている事を知らない二人は学園際を楽しみ帰路につく。
そんな次の日、春先の陽気な日の光を浴びながら堂真はグッスリと寝ている。
「ん?」
何かに当たった事に目を覚ました堂真はモゾモゾと脳が回っていない状態で、何があるのかを確認する。
布地を触っている事はわかるが、とても柔らかくひと肌と似た体温が手に伝わってくる。
勢いよく上体を起こして布団の中身を確認すると、そこには寝間着姿の菜々が居る。
ピンク色ネグジェにうっすらと下着が見える程布地が薄いく、魅力的な女性が着ていたら誘っているのかと勘違いを起こしてしまいそうな姿であった。
「なっ! 菜々ちゃんなんて恰好をしているのだ!?」
近くにあった布を菜々に露出を隠す様に被せる。
「おはようございます! 堂真お兄ちゃん!」
何故菜々が堂真の布団の中に潜りこんでいるのか、不思議でならない。
「なぜ? 菜々ちゃんが布団の中に?」
「気持ちよさそうに寝ていたから?」
なぜ菜々が疑問形で答えるのか不思議であったが、何時までも菜々の格好ではいけないと思い、着替える様に言う。
「そんな理由で俺の隣に入って来たのか…… もしかしたら菜々ちゃんを襲っていたかもしれないのだぞ?」
「堂真お兄ちゃんなら良いですよ? 責任さえ取ってくれれば?」
コテンと首を傾げなら問う菜々である。
「まぁ服を先に着なさい」
ともかくそんな薄着で部屋に居られても困るので服を先に着てもらう事にする。
ベッドから降りた菜々は服を脱いだ場所に立ち止まると、堂真から貰った布を取る。
見てはいけないと思うが、幼い割に体のラインが出来あがって、将来魅力的な体つきになるだろうと思える程である。
まぁさすがに中身が30近いオッサンが10代前半の肌を見ても何も思う事は無いが、タイミングを見て来たかのように扉がノックされて、普通に返事をしてしまう堂真であった。
あっと思った時には遅くガチャリと扉が開くと、一人のメイドが目を見開いて堂真と菜々を見る。
丁度菜々はネグジェを脱いでおり下着姿の状態を見られたと言う事である。
「失礼しました」
一度開いた扉をパタンと閉めるメイドを見て堂真は慌ててドアを開けてメイドに理由を離そうと慌てて移動したが、廊下に出た時にはすでにメイドの姿は見えなくなっていた。
「堂真さんと私の仲がメイドに知られちゃいましたね」
舌をチロリと出して可愛さをアピールする。だが、堂真は顔に出していないが、かなり慌てて居る。
客として屋敷に泊めてもらっているのに、まさか屋敷の娘に不埒な事をしたと思われては屋敷に居づらいと言うか、追い出される程度で住めば良い方である。
この世界では堂真の居た日本とは違い、死刑が行なわれていると言う事もあるし、暗殺の類も貴族ならではの事件も起こっているのである。
家主である金治の怒りを買えば暗殺や拷問と言った類の事が起きかねない。
菜々の着替えが終わると重い足を進めて、皆が待っている部屋に向かう。
上座に金治が座っていて、その両側に渚、京花と座っている。
京花の隣に堂真が座り、渚の隣に菜々が座る。
出された料理は美味しそうに見えるが、今の堂真では少し辛いはずの料理の味が全くしない程に緊張をしている。
どのタイミングで話を切り出そうかと悩んでいる間、普段ならもう少し話をするのだが、今日に限って話を全くしない。
広い部屋にカチカチとフォークとナイフが擦れる音が良く耳に入って来る。
「堂真君……」
ぼそりと金治が呟く。
「はっはい!」
あまりの緊張で返事が少し裏返り、渚と京花はキョトンとした表情で堂真を見てくる。
「信雄選手と戦って負かしたようだね」
「どうしてそれを知っているのですか?」
いずれ耳に入ると思っていたが、あまりにも早すぎる事に不思議に思う。貴族なら情報集めは優れていると知っているが、これ程までなのかと思う。
「これを見てくれれば早いかな」
金治はリモコンを壁に向けて押すとニュースが流れ始める。
映った場面は昨日の試合が始まる所であった。
堂真が自身にバフを掛け斬りつけるまでのシーンであった。
まさかテレビで放送される事なんて思って見なかった堂真は額に手をやる。
試合に負けた信雄がインタビューを受けている様子まで放送されている。
「信雄選手にお話しを伺いますが、堂真選手に油断をしすぎで負けたのでしょうか?」
選手に油断をしすぎて負けた等と聞いていいのだろうかと思うが、マイクを向けられた信雄は淡々と答える。
「あぁ確かに俺はレベルが低いと言う数値で堂真の事を負ける事が無いと思っていた事は事実である。だが、油断をしていない状況であっても俺は負けていただろう」
自分が油断をしていなくても負けたと信雄は公で言う事により、堂真の興味は国民から目を集める存在になってしまう。
「それはなぜですか?」
「簡単な事だろ? 堂真も余裕を見せていたからだ。堂真見ているか!? 俺は今まで学園の頂点で胡坐をかいていたが、これからはお前を追う存在だ。俺が次の勝負を挑むまで絶対に負けるなよ!」
まるで堂真が見ている事がわかっているみたいに指をさして来る。
「実に愉快だ。まさかこれ程まで早く有名になるとはね!」
朝からワインを飲むほど気分が良いのだろう。
この機に菜々の事を言うか悩む。
「菜々の事を気にしている様だが、気にしないでくれ娘が忍び込んだ事なのだろう」
「知っていたのですか?」
「あぁ、むしろ本人が私に言って来たからな」
もやもやとした物がスッキリと取れたと言う感じである。
「それにしても何故あのような事を止めなかったのですか?」
自分の10代前半の娘が男性の部屋に乗り込んでくる事なら親なら普通は止めるはずではないかと堂真は考える。
「まぁ君が普通の人間なら止めたよ。はっきり言うと君には価値がある。その価値を共有できるのであれば私は娘でも差し出すつもりだよ。恋愛なんてものは貴族の中では上辺だけと言う事はよくある事だ」
「政略結婚のような事ですか?」
「あぁそうだね。基本は政略結婚が多いだろう。恋愛で結婚できるのは下級貴族ぐらいだろう。それは娘達も理解している。そんな結婚で嫁ぐと大体が窮屈な生活になるだろう。私も娘を窮屈な生活をしてほしくないと思っている」
「確かに貴族の生活は窮屈かもしれませんが、なぜ俺が関係するのですか?」
貴族が目の前にいるのに堂真はこの生活が窮屈と言い切った事に金治の眉が下がる。
自分が言った事ではあるが、まさか面と向かって言うとは思っても無かったのだろう。
「簡単な話だよ。冒険者でも貴族になれると言うわけでは無いが、武功によっては階級を与える事になっていてね」
「1~5階級まであってね。1に近い程権力があると思ってくれればいい。これは貴族の男爵から公爵と同じ数で作られていてね。権力も同等であるが、冒険者の階級は自分にしか無いから、たとえば自分の子供に階級は無いって事だよ」
「その階級と俺とどういった関係があるのですか?」
「それはね。最年少で最前線を攻略している信雄君を倒したのだよ? あの子は5階級持ちで、期待の星の逸材を瞬殺できる程の実力者が現れるとなるとね」
信雄はああ見えて階級持ちである。
というか最前線組はほぼ5階級を持っている。
ただ5階級は男爵と同じなので発言力や権力は少ないが、冒険者であれば、冒険に必要なアイテムや宿等の割引や爵位が無いと入れないような場所が入れるようになる。
ただ貴族の様に変なしがらみは無いが、3階級までになると王と謁見や社交パーティー等に出なくてはならなくなるが、この頃には冒険者はいい歳になっていて冒険をするより新人冒険者の育成などを国に貢献をする事になっている。
まぁ堂真本人はあまり興味が無いのか話は聞いているけど、軽い返事で流す。
「まぁ結果で言えば君の階級が上がると娘達を君に嫁を出す事が可能だと言う事だ。今後娘を頼むぞ」
最後の最後でぶっちゃける金治である。
「いやいや、俺よりも良い人沢山居るでしょう? 俺なんて戸籍なんて無い怪しい者ですよ? からかうつもりならもっと気がつきにくい事を言うべきですよ」
確かに堂真は現状では戸籍は無い。
子供が知っている事ですら知らない人間に誰が信用できると言うものである。
ゲームのしすぎで恋愛系にかなり疎い堂真は二人の気持ちを知らずであった。
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