第11話

「いやいや、そんなわけないでしょ? どちらかと言えば貴方の方が良いわよ」

 つい口が滑った事に京花は顔を赤くして俯いてしまう。

「まぁそう言う事らしいわ。振られて可哀想だけど、何処かに行ってくれないか?」

「信雄(のぶお)さま~ こんなひょろい男決闘で見世物にして倒してしまえばいいのですよ~」

 取り巻きの一人が信雄に身体を密着させて、甘い声を出す。

「そうだな。俺が負ければ身を引くが、お前が負けたらお前が身を引け!」

「だからしないと言っている。そもそも賭けになっていないではないか、勘違いをするな、俺は京花に誘われて今日此処に居るだけだ。特別な関係では無い」

「ななな! なんだと!? そうなのか京花!?」

 信雄は凄く驚いている。

 学園で居る京花は異性の誘いをことごとく断ってきているのに、堂真にいたっては自分が誘って来ている事実に怒りを覚える。

「ねぇ堂真早く次に行きましょう? さすがに学年一位はさすがの堂真でも分が悪いわ」

 この時、すごく俺様な態度に納得する堂真であった。

 信雄はこの学園で一番の強者であり、強い者であれば多数の女子を連れている事に納得も出来る。

「そうか…… 気が変わった。信雄の決闘を受けても良いが、お前が負けたら学園の一位と言う椅子から降りろ、それが条件だ」

「そんな条件で良いのか?」

 ニヤリと信雄は笑う。

 信雄もただの力だけで上がりつめた者では無い。

 現在の学園の中でも群を抜いて一位の座にとどまっている。

 それは子供の頃に塔を上りつめる英雄にあこがれて、誰よりも強くなると決めて、日々鍛錬を怠らない者であったが、学園に入りランキング一位の座について、更に現在は大手ギルドに所属して、最前線で塔の攻略を進めている。

 自分と対等に戦いが出来る学生が少なく、一位になってしばらくすると、性格が少しずつ変わり始めていった。

 大概の事であれば何でもできる。そう言った事で信雄は悪い方向に進み始めて、強ければ何でも手に入ると思い始めて今の状態に陥っている。

 現に信雄の周りに居る女の子達がそうだ。

 自分の容姿が優れるわけでは無いと信雄は思っていた。

 好きな子に告白しても振られるのが普通であったが、ランキング一位の座に着く事によって、今まで好きになった女性より容姿が整った者達が、自分に擦り寄って来るのだ。

 性格がおかしくなっていくのもしかたがない。

そして信雄は今でも学校で一番強く、最前線で攻略をしている。いわゆる自分は強者であると認識をしている。

 そして目の前にいる京花の隣の男である。

 自信にあふれる態度で他の者より強い事は信雄も気がついているが、塔の攻略をしていると、強い者は自然と有名になって行く。

 あっちこっちの公園や施設で優れた冒険者は誰が作ったのかわからない塔の内部を撮影するモニターに映る事で存在が広まって行く。

 今までに信雄もモニターを見る事は沢山あったが、堂真を見るのは初めて見ると言う事は最前線組でも無い中堅クラスの冒険者なのだろうと解釈して、決め手は京花が言った分が悪いから他の場所に行こうと言った事で信雄は勝てると思いこんでいた。

「それで良いだろう。俺様が負けたらランキング一位の座をお前にやる」

「別にそんな座はいらない」

「面白い事を言うな。まぁ俺様が負けるわけがないが」

 二人は決闘をする武道会の用かフィールドに上がろうとすると、アナウンスが流れ始める。

「これより10分後にCフィールドで学園一位の信雄選手と我らが学園アイドル京花様の良い人の決闘が始まります。京花様をと学園一位を賭けた勝負は果たしでどちらの者に勝利は微笑むのか!!」

 放送が流れた後の京花は隣に居るマイクを持った女性の肩を前後に大きく振っていた。

 赤い髪が特長で活発そうな女性で美香であった。

「美香なんていう放送をしてくれたのよ! 人が沢山来ちゃうじゃない!」

「あはは、面白そうな事が始まっていたからついね」

 ペロリと下を出す。

「京花の知りあいか?」

 フィールドの上から堂真が声を掛ける。

「新宮 美香と言います。京花様のお友達をしています。京花様の良い人は凄い美形ですね」

「俺は赤崎 堂真だ。まぁ色々とあって、今は京花にお世話になっている者だ。まぁ俺が言うのもあれだが、京花の事をよろしく頼む」

「はい勿論ですよ。それより決闘が終われば一緒にお茶なんてどうですか? おごりますよ?」

「それは楽しみだね」

 と言い残して堂真はフィールドの中央付近まで歩いて行き、決闘が始める数分を待機する。

「京花様の良い人、意外とチャライ人ですか?」

 不安そうに美香が聞いてくる。

 まぁ京花が居る目の前で他の女性のお誘いに乗ると言う事に大丈夫かと思ったのである。

ただ現実は女性に対して堂真はただ押しに少し弱いと言うだけであった。

「さすがに私の友達だから行くと言っただけではないですかね?」

 京花も堂真のプライベートの事はあまり知らないので、何とも言えないのであった。 

 堂真はこの世界に来てからと言うもの屋敷から出る時は大概塔に籠っているイメージしか持っていない。

 堂真の話で盛り上がっていると、残り開始一分と迫った時に、校内全域に警戒音の様なブザーが鳴り響く。

 このブザーの意味は試合が間もなく始まる意味と、学園の上位者の戦いが始まると言う特別なブザー音でもあった。

 放送を聞き逃して居る者等でもすぐにわかる様になっているのである。

 なので、この試合は現在校内に居る9割程の人間が会場で観戦する者やモニターの前に集まり観する者で溢れかえっている。

 信雄も学園の一部では嫌われているかも知れないが、強さで言えば皆の憧れでもある者である。

 学生と言う身分で最前線に加わる実力が世間では賑わっている。

 過去に信雄程の学生が居なく、それで人気がでているのだ。

「長らくお待たせしました! これより学年一位の信雄選手と京花様の良い人、堂真選手です。学園一位の座と京花様を掛けた勝負はどちらに微笑むのか!?」

 いよいよ試合の始まる時間である。

 二人は中央に集まり試合の開始の合図を待つ。

 決闘と言っても基本的に一対一であれば何をしても問題はない。 

 そしてゲームの決闘と同じでHPが0になっても死ぬ事が無い。

 ランク戦を決める時に死人が出るではと言う話をした時に京花が教えてくれた話である。

 なので、冒険者も決闘システムを意外と使い賭け事で使う事もあると言う事である。

 試合が始まる寸前で会場が、少し騒がしくなる。それは戦う前に簡単なプロフィール的なものが、モニターに映し出されるのだ。

 選手の名前と職業とレベルが表記されるのである。

 信雄はレベル55の拳闘士で学園内の二位とのレベル7も開いている。

 そして、堂真はレベル37のブレイドダンサーとなっている。

 レベルが上がる事によって能力やスキルが増えていく世界ではレベルの差が勝利の鍵を握ると言われている。

 それなのに18もレベルが開いていると言う事は勝負にならないと言う事である。

 珍しい職業であっても、その差が埋まる事は無いと思われているのであろう。

 ただ、それは普通の者の考えである。

 レベルは低くても最終職でスキルレベルはゲームの時と同じレベルであり、防具も85レベル以上でないとペナルティーをくらう装備であるが、それを装備しているのだ。

 負ける要素が全くないに等しいのである。

 レベルだけを見れば負けであるが、堂真の能力は公になっていないので、観客は信雄が勝つとしか思っていないのだろうと堂真は思っている。

 ついに試合が始まる。

「クックック、これで京花は俺の物だな! たかがレベル37で俺に勝負を挑んだ事に称して、一撃だけ攻撃を受けてやる」

 挑んだと言っているが、勝負を吹っかけて来たのはそっちだろうと内心思っている。

「そうかい? 有難く一撃で仕留めてやるよ」 

 拳闘士は攻撃、素早さが特化しており、持ち前の攻撃と素早さで手数と火力の攻撃で敵を殲滅していくスタイルである。

 もちろん対人等では非常に優れている職業であり、スキルと通常攻撃を組み合してコンボを出して、ダメージを出していく。

 上手いプレイヤーが使うとコンボ一つでHPを全削りする事も可能な職業で、かなり人気が高い職業であったが、防御と魔法耐性が非常に悪く、紙装甲という難点があった。

 廃人となると回避とクリティカルを上げるオプション付きの武具を激選する事によって高難易度ダンジョンをソロで回れるようになったりもする。

「京花、ブレイドダンサーの一部を見してやろう」

 と京花に言うと堂真は二本の武器を構えるとその場でステップを優雅に踏み始める。

「ダンスオブギア」

 ステップを踏み終えると堂真の足元に緑色の魔法陣が一瞬現れる。そのまま堂真はステップを踏み続ける。

「ダンスオブソード」

「ダンスオブクリティカル」

 赤、紫と堂真の魔法陣が浮かび、ドンドンと堂真の火力が強化される。

 短い間だが、堂真が披露したステップはまるで剣舞の様に軽やかで美しく、観戦している皆をくぎ付けにしていた。

「じゃーな、信雄さんよ!」

 地面を蹴った堂真はダンスオブギアで移動速度が上昇していて、並の人間では目で追いかけるのもやっとと言ったレベルの速度である。

 防御態勢をとっている信雄であるが、ダンスオブソードとダンスオブクリティカルで能力を上乗せされている攻撃の前では無力であり、たった一振り地面が剣圧で切れ目を入れる程の攻撃の前では信雄のHPを一瞬で削り取り、あっけなく試合は終了した。

 HPが0になった信雄は場外で復帰しているが、何が起こったのかわかっていない様子であった。

 それは見ていた観客も同じである。

 試合が終わったと言うのに歓声も無くシーンと静まり返っている。

「「「おぉぉ!!」」」

 あれ程のレベル差であった勝利に観客は激しく高ぶって空気が震えているのではと思う程の歓声であった。

「おぉっと! 勝利を掴んだのは堂真選手です。レベル差を感じさせない程の一撃で信雄選手を一撃で削り切りました! 何が起こったのか、司会の私にもわかりません! 一度リプレイ動画を流します」

 試合会場に先ほどの試合の録画が流れる。

 通常より再生速度を下げて、ゆっくりと流れる動画を負けた本人も食いつくように見ている。

 堂真が最後のステップを踏み終えると、十メートル程の距離を即座に走り終えると、二本の剣を信雄の左肩から斜めに斬りおろす。

 たったそれだけの事である。

 普通に見ただけでは早く敵の前に行き斬りおろすと言う行動にしか見えない。

 なぜレベルが低い堂真が勝つ事が出来たのか、不思議に思っているが、戦う前に踊っていた事を思いだして、あれが自分の能力を上げると言う事はわかったが、あれほどの火力が出たのかわからなかった。

動画を見終わった信雄は堂真の方に歩いて来る。

「すまなかった! 学園一位と言う称号に満足をしていたみたいだ。お前に負けて何かスッキリとしたようだ。次は負けないからな」

 信雄が右手を堂真の前に差し出す。

「あぁ。少し慢心をしていたみたいだな。良い職業に就けているのだからもっと頑張れよ」

 勝者らしい言葉を述べ堂真は信雄と握手を交わして、京花に申し訳なかったと頭を下げる。

 この時に信雄は公にランキングの一位と言う坐を降りると公言する。

「さぁ勝利の祝杯をあげに行こうではないか」

 京花と美香の腰に両手を回して、そのまま会場を後にする。

 

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