第10話

学園前に車が着くと、すでに人の出入りは多く賑わっていた。

 前世の学園祭と比べ規模の大きさが全然違うと言うか、学校その物が、ちょっとした町の様に大きかったのだ。

 はぐれたら迷子になる自信しかない堂真は京花から極力離れないようにしようと思った。

 学校の門を潜ると正面の校舎までは遠く、グランドや別館が多くあり、その大きさに圧巻してしまう。 

「在校生って何人ぐらい居るの?」

「一万人程ですよ?」

 多いと思ったが、学校の数は人口の割に件数が少なく必然的に人が集まるので、この世界の学校では普通の枠に入る。

 格式の低い学校などはもっと沢山人が集まるらしいとの事である。

「最初に何処か行きたい所ありますか?」

 京花は持っていたパンフレットを堂真に渡す。

 堂真は軽く目を通して気になる場所を探して見る。

 東側は生産の出し物が多く、西側のグランドがある場所は戦闘に関する物が多い。

 戦闘系は実際に武器を持ち在校生同士の戦闘を観戦したり実際に戦闘に参加をしたりと、面白そうな事をしているが、せっかくなので生産職を堂真は見に行きたいと思った。

 それは今自分のインベントリにあるアイテムの質を確認したいと言う事もあった。

 これまで塔でアイテムを使う事が無く、この世界とゲームの世界のアイテムとどれ程の差があるかを確認したいと思ったからなのだ。

「生産科を見に行くか」 

「てっきり戦闘科の方に行くと思っていましたわ」

「おれは戦闘狂では無いぞ?」

「どの口が……」

 クスリと笑うと周りの目線が京花に集まる。

 不思議な感じに思う堂真であったが、京花は気にしていないので、日常でも見られる事が多いのだろうと勝手に思っていた。

 まぁ京花の学生服についているゴールドで刺繍がされている学校のシンボルマークは戦闘科でランク戦があり上位の象徴である事を知っていたので、そちらを見ているのだろうと思っている。

京花と東館の建物に入ると、教室の前に看板を出して、わかりやすいようにされていた。

「え~と、ポーション系はと……」

 パンフレットを見ながら目的の場所に歩いていく。

「ここですね」

 ガラリと扉を開けて中に入る。

「いらっしゃいませ~」

 制服の上に白衣を着た女性が声を出す。

 緑髪に長い髪をくくり、メガネをかけていて知的な感じを出している。

「あれ? 京花様じゃないですか?」

 京花の友達なら挨拶をした方が良いだろうと思い一歩前に出て、女性に挨拶をする。

「初めまして、赤崎 堂真と言います」

 軽く頭を下げる。

「はっ初めまして! 高瀬(たかせ) 美(み)弥(や)と言います! よろしくお願いしますであります!」

 何故かあわあわと慌てながら美弥や握手を求める様に手を差し出して来るので、堂真は握手を求められたと思い手を握る。

 男性の免疫が少ない美弥は堂真の様な美形に声を掛けられた事で軽いパニック状態に陥っていただけだった。

 更に手を握られた事に顔を真っ赤にして下を俯いてしまう。

 大丈夫かと声を掛けるが美弥は両手で顔を覆い隠したままである。

「この子は異性に免疫が無くてこうなってしまうのよ。気にしないであげて」

 また例の症状が出たのかとため息を漏らす京花であった。

 教室の中は意外と人が多く、来客している者は防具をつけた冒険者が多いように見える。

 こういった場所位は普段着で着てこいよと思った堂真であるが、見た目は黒のシャツとズボンだが、中身はガチガチの防具だと言う事を忘れている。

 そんな堂真は並べられているアイテムを見てみると、下級、中級のポーション類は置いてあるが、それ以上の物は無かった。

 超特級ポーションを大量に持っているが、これの価値がどれほどの物なのかわからずじまいである。

 まぁ高額と言う事だけはわかっている。

 その中で、匂い玉と言うアイテムを見つける。

 それを使うとある程度の魔物が寄って来なくなるアイテムであった。

 これはゲームの中では存在しないアイテムなので堂真は手に持って色々の角度から眺める。

「匂い玉が気になるのでありますか?」

 今更だが美弥の言葉に違和感を覚えるが、他人の事なので口出しはしない。

「こういった匂い玉があるが、寄せ付ける匂い玉もあるのかい?」

 魔物を寄せ付けるアイテムがあるとしたら経験値稼ぎに便利なのではと考えていた。

 隣の今日かは手を顔に当てて首を振っていた。

「作る事は可能ですが…… 何故お求めになるのですか?」

 普通の人なら魔物を寄せ付けると言う行為は自殺行為に近いので求める物はまずいない。

 不思議に思った美弥は首を傾げていた。

「まぁレベル上げに便利そうだしな。作れるのなら作ってほしいが、値段にもよるな」

「作れない事はないでありますが、本当にいいのでありますか?」

 美弥はチラッと京花を見る。

「本人が欲しいと言うので、作れるのならお願いするわ」

 やれやれと言ったかたちで京花も自分に使えそうなアイテムを探す。

 しばらく見ていたが、これ以上欲しいものが無いと思った堂真は京花の肩を叩いて合図する。

 教室を出ようとすると、美弥が客と話している声が聞こえて来た。

「魔力飢餓を直せるアイテムありますか?」

「魔力飢餓って何?」

 何のことかわからない堂真は京花に聞く。

「魔力が持続的に減る病気ですよ。人は魔力が0になると死にます。なので、定期的にマナポーションを飲まないといけないのですが、服用しすぎると効果が減って行き、いずれは中毒が発生してまったく回復しなくなります。現在で治す事は不可能と言われています。直す事が出来るとなれば、聖女様の回復魔術かエリクサーと言う状態異常を治すアイテムしかないと言われています」

「聖女なんて居るのか、それならさっさと聖女に直してもらえばいいのでは?」

「16年前に初め人類に聖女という職業が現れて未知な事が多く、あまり表には出てこないのです。稀に教会が開く祈りの会で聖女様が数十名の怪我を無償で治す時にしか会える日が無いのですよ。それが次何年後なのかはわかりません」

 ある日突然、聖女と言う職業が現れて、帝国では騒ぎになっていた。

 回復特化の職業と言う事はわかっているが、聖女のスキルは謎に包まれている事が多く、今では教会で居るらしい。

「そうなのか……」

 一度拝める日が来る事を楽しみして、堂真は美弥が相手している客の肩を叩く。

「えっ! はい!? どなたですか?」

 ビクリと肩を震わせた女性はフードを被っており、あまり顔が見えなかった少し紫色の瞳が覗き込んでいた。

「これをあげるよ。病気が治るといいね」

 堂真はインベントリからポーションを取り出して、その女性に渡すと、その場を後にした。

長い廊下を歩いていると隣の京花が何を渡したのか聞いてくる。

「何をわたしたのですか?」

「ん? リカバリーソーマSって言う俺が居た場所のアイテムだ。体力、魔力、状態異常を瞬時に全回復するポーションだ」

 しゃべりながら歩いていると、隣に居た京花の足は止まって少し後方いる。

 具合でも悪くなったのかと思った堂真は京花に大丈夫かと一言言うと、京花はキッと堂真を睨めつける。

「貴方って人は! どうしてそうポンポンと貴重な物をあげるのですか!?」

「えぇ~」

 まぁ京花の言う事はごもっともである。

 日本と言えど、今の日本帝国は貴族社会である。

 堂真が持っている物は権力者から見れば非常に独占したい者である。現在では堂真を知っている人は少ないが、現在の戦闘能力を見るだけでも近いうちに頭角を出して来るのは間違いない。

 そうなると公爵家の後ろ盾を受けていない場合はどこぞの貴族に攫われるたり、色々な事件に巻き込まれる可能性はある。

 最悪の場合は他国に連れて行かれ、戦力として戦争に参加されるとたまったものでは無い。

 なので、何としても巻き込まれないように後ろに公爵がついているとアピールをするため学園際に呼んだ事も3割ほどある。 

「まぁ今更何を言っても遅いようですよね」

 ため息を吐きながら次に行きましょうと再び歩き始める。

 此処は学校内通路であると言う事を忘れて京花は普段より大きめな声でしゃべってしまっていた。

 周囲に居た学生を含め一般人は公爵家である京花の事を知らない者は少ないだろう。

 そんな京花が学校では見せない感情を出して、隣に居た堂真と少し言い合いをしているのだ。

 皆は堂真の事を見た事も無いので誰なのか、もしくは京花の良い人なのかと、京花が考えていた公爵家が後ろに居るぞと言う別の意味で人々に広がって行くのであった。

 

東棟から出た堂真は次にグランドの方を見に行く。

 そこには少し離れた位置で剣を振って的を壊すパフォーマンス的な事をしている。

 確か戦士系の職業でとれる事は知っていたが正確な職業までは覚えていないが、今剣を振っていた者は二次転職を終えた者だと言う事はわかる。

 弓、槍、杖とそれぞれ得意分野のスキルを使い冒険者で無い者、またこれから冒険者になろうとする者の為の出し物である。

 日ごろ冒険者を近く見る事は出来るが、街中で武器を抜く事は禁止されているため、こういった時ではないと近くで見られないのだ。

どの職を見に行っても人が多くごった返している。

 そこから少し離れた位置では対人戦が行われていて、モニター越しや、フィールドのすぐ近くで見学をする事も可能な施設があり、とても賑やかであった。

「へぇ~ 対人も出来るのか……」

「対人に興味ありですか?」

 京花が聞いてくる。

「興味ないな」

 そっけなく答える。

 京花は横目で試合を見ている堂真を見るが本当に興味が無いと言った無表情で見ていた。

 対人に興味が無いと言うわけでは無く、ゲームの対人と見比べてレベルの低い戦いに興味を失っていただけであった。

 前衛系はフェイントやキャンセル技を使うことなく、スキルを使っているだけだし、魔道師は棒立ちでスキルを使い、攻撃してくださいと言う様な位置でスキルを使っている。

 まぁもっと強い者であればきちんとした動きをするのだと思うが、この様な遊びに参加したいとは思う事は無かったのだが、突然堂真は肩を掴まれて、後ろを振り返る。

「ん?」

「お前が京花の男か?」

 そこに居たのは2メートルほどあるのではないかと思う屈強な体の人物が居た。

 何を食べればそれほど大きくなのだと思う程であった。

 体を鍛えるかれた外国人の用である。

 空手の様な道着を着ていて、そこから見える肉体はガチガチに鍛えぬかれていた。

 そんな男が堂真の肩を掴んでいる。

 振り返った時に思わず英語で話しかけてしまいそうになる。

 堂真を見る瞳は何かに燃えている様な赤い瞳に思った以上に似合わないショートの金髪はワックスでもベタベタに付けているのかと思える程ツンツンとしている。

「男? 俺が女に見えるのかい?」

 転生前の堂真なら一目散に逃げるレベルであったが、今の堂真は防具等のおかげでそれなりに身体も強くなっているので、つい強気で答えてしまう。

「そうか…… ならば決闘だ!!」

 取り巻きぽい女性達が黄色い声をあげる。

 まぁ人のタイプは人それぞれである。

「えっ? やだよ。面倒くさい」

「ならば京花を渡せ! その女は俺の物だ!」

「人のタイプに文句を言うつもりは無いが…… 俺様系はちょっと……」

 京花もこういったタイプが好きだったのかと思いながら見ると、首がとれる勢いで左右に振っていた。

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