第9話

二人は美人であり将来はもっと綺麗になると約束をされている容姿の持ち主である。

 そして、公爵令嬢として地位が高く、京花はすでに色々な人から婚約候補としてお見合いが殺到していた。

 その内の大半は公爵と言う地位と容姿が目的な者ばかりである。 

 そんな者に京花を嫁ぎに行かせたくない。

 それなら堂真に嫁がせるのも一つの案かもしれない。

 過去から来たと言う不思議な者であるが、公爵家に対して悪は無く、気さくな男性であり、じつの息子と思える様に最近は見ていた。

「私は、気さくに話しかけてくれる堂真さんに無意識のうちに好いていたと言う事を気がつきました。塔に入ってから音沙汰無かった時に、気がつかされました。堂真さんが居ない不安と、悲しさが日に日に強く感じました」

 京花の顔はすでに恋をする顔になっていて、恥ずかしそうに自分の指をモジモジとさせていた。

 まさか、男性に興味を示さなかった娘のこんな表情を見るとは思わなかった。

 隣の渚はあらあらと口元に手を当てて、めったに見られない娘の行動を目に焼き付けている。

「それにしても京花は薄々気がついていたけど、まさか、菜々も好意を寄せていたとはね」

 堂真に貰ったアクセサリーを眺めている菜々に話す。

「そうでしょうか? 容姿も性格も良く、魅かれない女性など居るのでしょうか? それに堂真お兄ちゃんはこれまで成せなかった偉業を成功させてしまう様な気がしますよ?」

 確かに堂真の能力が今まで未到達の場所まで行ってしまうかもしれないのは確かである。

 そんな偉業を成し遂げると、相手が平民であろうと、貴族は結婚をする事が可能になる。

 まさか、10歳程度の子がそこまで考えていたのかと、少し娘に恐怖を覚える。

「まぁ二人の意思はわかった。堂真君には事をしばらく伏せておくが、良いかな? まぁすぐに気がつかれて騒ぎ出して気がつかれると思うが、今は彼の為にも伏せておこう」

 と言うのは、堂真はまだ過去に戻れると思っているので、その邪魔にならないようにするための配慮でもある。

 実際に戻ってしまう可能性もあるし、娘の事で渋々この世界に残ってもらうと言う事を避けたい事であるが、それまでに隠し通せる事は不可能に近いが、今言うべきではないと金治は思っている。 

 その事には二人は同意してくれた。

 二人が部屋から居なくなると金治は椅子にもたれ掛りながら息を吐きだす。

「ふぅ~」

「大丈夫ですか?」

「あぁ、まさか娘二人がね……」

「まぁ良いじゃないですか? 二人が政略結婚では無く恋愛婚をしてくれるなら私はそれでいいですよ? あれなら3人目も頑張りますか?」

 渚の3人目と言う言葉に、金治も言葉が詰まる。

 どう返せばいいのかと。

 この世界の日本は現代日本の様に大陸が統一されているわけでは無く、3つの国によって分かれている。

 その二つの国にも天空の塔が存在している。

 一つは北海道でもう一つは九州の方にある。

「そうだな、こうなると堂真君に頑張ってもらうしかないな」

 堂真の知らない所で、話は進んでいく、そんな事を知らずに堂真は熟睡していたのだ。

 

 次の日、京花は堂真の部屋を訪れたが、疲労のせいか堂真は起きる事なく京花は部屋を後にして学校に向かう。

「おはようございます」

 教室に入ると美香と茜に挨拶をすると二人は挨拶を返して来る。

「「おはようございます」」

 二人は男爵家と子爵家の娘であり、日ごろから仲良くさせてもらっている。

 そのお蔭で二人は京花の異変に気がつき、何かを物色するように京花を見る。

「どうしたのですか?」

 首を傾げながら二人の奇行に首を傾げる。

「何時もと何処かが違う様な気がして……」

 赤髪を揺らしながら京花の周りを調べる美香に対して、黄色い瞳の茜は京花一部をじっと見つめている。

 それは京花が鞄を持っている手に注目をしていた。

 京花は席に着くと鞄を机に引っかける場所があるのでそこに掛ける。

 この時、昨日まで付いていなかった指輪に茜は気がつく。

 女性が日常で指輪やネックレスをしていると言う事は、異性の贈り物を受け取った事になるので、街中で声を掛ける男性は女性が、そう言ったものを付けていないかを見て声を掛ける様になっている。

「きょきょきょ! 京花様!?」

 令嬢であるまじき声を上げる茜を筆頭に、クラス中の人が声の発生源を見る。

「なにかしら?」

「えっ? 昨日まで指輪を付けていなかったですよね?」

「えぇ、そうね」

 茜と美香は何かを言いたそうにしていたが、タイミング良くチャイムがなり席に戻るが、茜の言葉で、クラスの人に指輪の事が知れ渡って、その日一番の噂として広がって行く。

 休み時間等も京花が本当に指輪を付けているのかを確認する者まで現れて、本当に指輪をしている事がわかると、男性陣はその場で項垂れる。

 美香と茜はその日一日誰から貰ったのかと色々と聞いてくる。

 もちろん他の女性も同じである。

 ある程度は噂になるだろうと京花も思っていたが、まさかこれ程までとは本人も思っても見なかった。

 しかたがないので仲の良い二人にはこっそりと教えるが、この事は内密でと言う事を了承して言う。

「まぁ! やはり噂の殿方からなのですね!」

 祈る様に手と手を合わせてうっとりとした表情で茜は京花を羨ましがっている。

「でも、彼は女性に日ごろ身に着ける物を渡す行為をプロポーズとは知らないのよ。だからくれぐれも本人に気付かれないようにして頂戴ね?」

 茜はコクコクと首を上下に振るが、美香は何故か腑に落ちない表情をしている。

「でも、変じゃない? 誰でも知っている様な事を知らないとは、不思議な人なのね」

「そうなのよ。あまりにも戦いに身を置きすぎて、一般の常識が少し欠けているみたいなのよ。いつかはモニターに姿が映ると思うからその時は応援してあげてね」

 友達二人に嘘を吐いた事や、堂真を常識の欠けた人と言ってしまった事に少し罪悪感が溢れるが、しかたがない事だと言い聞かせて、その場をやり過ごす。

 しばらくの間、学校では京花の婚約者騒動は収まらないまま時間は経過していく。

 それから2カ月たった頃、堂真は色々と調べものをしたり塔の攻略をしたりと時間を費やしていった。

 この日本の大陸は現代日本と違いはさほどないが、北と南に九(く)城(じょう)王国と北斗(ほくと)王国と存在しているらしい。

 現在、日本帝国にはこの3つがあり、その間には様々な領もあるが、昔の地名を取った領や、家名の領と存在している。

 そして、堂真も気になっていたが、この世界では黒目黒髪は珍しく部類に入ると言う事である。

 堂真が生きていた時代から正確にはどれだけの年数が経っているかわからないが、何千年と言う長い時間が過ぎて居ると言う事が記されていて、今では過去の文明は明かされていない状態であり、魔法の存在が強く、化学より魔法の研究が盛んとなっている。

 そんな本人にはMPと言う概念はあるが、魔道師が使う様な魔法を使う事が出来なくて、がっかりと落ち込んでいた時期がある。

 魔法を使える者はそもそも魔法関係の職業だけが使えると言う事らしい。

 それ以外で魔法をおぼえるとなると、ダンジョン等で落とすアイテムのみと言われている。

 その情報を手に入れた堂真は塔にまた何日も潜りどうにかアイテムを手に入れようとしたが、惨敗であった。

 そして自分のインベントリに癒しの指輪と言うものがあり、付けている間は下級回復魔法を使える。

 と言う事はジョブ解放条件がゲームと同じであるならば京花は聖騎士のジョブになれると言う事である。

 まぁ二次転職の時に京花に渡して試してみようと考えていた。

 そんな事を考えていると、堂真の部屋の扉をノックする音がする。

「堂真さん。居ますか?」

 凛とした京花の声が聞こえる。

「あぁ、居るよ。入っておいで」

 扉を開けて入って来る。

 今日は土曜日で学校は休みのはずなのに京花は制服を着ていた。

 この世界も365日で週7と堂真の世界と変わりのない数え方をする。

「どうしたの? 今日は学校休みじゃなかった?」

「今日は学園際があるのですが、一緒に行きませんか? この世界に来てから堂真さんは何時も何かをして、もっと街に行って遊んでも良いとおもうのですが……」

 確かに堂真はこの世界に来てから、過去の事や元の世界に帰れる方法や塔の攻略と、街に出かける事や遊ぶと言う行為をしていなかった。

 それを見かねた京花が誘いに来てくれたと言う事なのであろう。

「そうだな、一緒に行くか」

 せっかくの好意を無駄にするのもあれだし、京花が通っている学校と言うのも気になっているのもある。 

 普通に文学の勉強だけではなく、戦闘訓練なども行っている話を聞いていたので興味はあった。

 堂真の返事に京花は華やかな笑顔で堂真の手を引いて、玄関先に止めている車に乗り込む。 

 堂真は最近になって異様に京花が積極的だなと思う。

 久しぶりの空中ドライブで日ごろ見ていなかった光景が良く見える。

 ビルとビルの現代日本の様な場所に鎧やローブとコスプレと思える人達が一般人と混ざって歩いている光景や、西洋風の大きなお城とアンバランスな光景を見ていると、違う世界だと実感する。

「そういや、京花の学校の学園祭はどんな事をしている?」

「基本は飲食ですね。喫茶店や屋台が多く、後は部活で出し物をしているかんじですかね? 裁縫部等は戦闘に使える軽装やローブの販売、鍛冶部は武器等を販売していますよ」

「そうか……」

 ちなみにお化け屋敷など娯楽と言った物の出し物はなく、基本戦闘に関する物が多いと言う事であった。

 むしろお化け屋敷を知らない京花に驚く堂真であった。


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