第8話

 屋敷に連れ帰った京花は車の中で一言も話すことは無く戻って来る。

 屋敷の中に戻ると一番に菜々が堂真に気がつきやって来きた。

「堂真お兄ちゃん、お帰りなさい!」

「ただいま」

 堂真が無事戻ってきたことに安どの表情を浮かべる菜々の頭を撫でる。

「貰っていた物を返すね」

 カンガルーの様なぬいぐるみのお腹のポケットから物を取り出そうとする。

「それは菜々ちゃんにしばらく預けておくよ」

「わかった」

 菜々は出そうとしていた物を戻して、堂真の横にくっ付いている。

「それは、貴方の大事な物でしょ? 菜々に渡していて良いの?」

 京花も何を渡しているのかわかっているようだ。

「あぁ、今の俺に必要はないな。元の世界に戻れば買い直せるからな」

 堂真はまだ戻る事を諦めてはいない。

 何かの理由でこの世界に飛ばされたと言う事は事が終われば戻れる可能性もあると言う事である。

 なので、帰れないとわかるまでは、帰り方を探す方針である。

 金治の部屋に着いた3人は中に入ると、金治と渚が席に座って待っていた。

「ただいま戻りました」

 堂真の顔を見るや、二人はほっとした表情を浮かべる。

「「お帰りなさい」」

 席に座りなさいと金治に言われた堂真は、黒服を執事に席を案内され座る。

「堂真さん、塔に行ったと聞きましたが、どうでしたか?」

 渚が少しワクワクとした表情で話しを振って来る。

 渚も意外と冒険と言うものが好きなようである。

「そうですね。食糧が尽きたので戻ってきましたが、現在は18階止まりですね」

 金治は黒服の男性と目を合わす。

「一人で攻略を?」

 金治が聞いてくる。

「パーティーの組み方を知らないですし、今は仲間と攻略をするより一人で攻略する方が、効率がいいのでしばらくは一人で行くつもりですよ」

「塔は基本複数で攻略をする事が前提である。君はそれを一人で攻略を続けると言うのか……」

「そうですね。ハッキリと言えば現状の階層の人と組む事は自分に得が無いというべきでしょうか、もちろんパーティーを組む事に異論はないですが、俺の速度で攻略を進めると、パーティーから外れた途端に仲間たちは魔物に負ける可能性が大きいと言う事です」

 腕を組み金治は考える。 

 堂真の自信たっぷりな言葉に。

「だと言うなら君は強いのか? 攻略のペースが異常に早いが、君は無理なくついていけるのか?」

「そうですね。この前、50階のボス攻略をモニター越しに見ていましたが、はっきりと言えば50階層のボスを一人で倒す事は可能ですよ」

堂真の言葉に部屋にいる4人は驚きを通り越して唖然としている。

もちろん小さい菜々ですら理解が出来る様な話なのである。

「さすがの私も騙されませんよ? さすがに現役の攻略メンバーが攻略している場所ですよ? 一人では無理な話ですよ?」

さすがの冒険者でなくてもわかる事を堂真は突拍子無く言うのだ。信用したくてもさすがに無理な話である。

「さすが堂真お兄ちゃん! サインを今のうちに貰っとこうかな」

 唯一堂真の言葉を受け入れてくれる菜々。

 そう言えば他人のステータスが見られると言う事は、武器防具の能力を見せれば早いのではと思った堂真は、自分のステータス画面を開いて、今着ている防具の能力を公開する。

 堂真の反対の席に4人が集まり食い入るように見ている。

「なんだ…… この馬鹿げた能力上昇値は……」

 金治は堂真の防具の能力に夢では無いかと何度も目を擦る。

 菜々以外は皆同じ思いである。

 この世界で発見されている最高峠の防具で一部位に3つしか見つかっていないが、堂真の神龍シリーズは一部位に5つついている。

 ゲームの世界では一部位で5つオプションがついているのは意外と多く高レート取引をされているが、この世界ではどんな店に行っても2つが限界である。

 そんな防具を一式持っているのだ。

 50階の火竜の攻撃も痛くない程である。

「堂真君! この装備はどうしたのだね!? 国宝の装備をはるかに上回っているよ!」

 金治はこの装備の事について詳しく聞いてくる。

「神龍シリーズの防具ですよ。前の世界で集めた物ですよ」

「そうか…… 堂真君が居た世界でも戦いはあったのだな。いやはや物凄いものを見せてもらったよ」

 取得が可能なら何としてでも欲しかったのだろうが、そもそも堂真はゲームの世界の事を言っているので、現実では不可能な事である。

「一つ言えばもう一式がインベントリの中に入っていますが、買いますか?」

 女性用の装備をたまたま揃えているが、堂真では装備する事が出来ないので、あげても良い程度で思っているが、装備レベルに身近の人は到達していないので着る事は出来てもレベルペナルティーを受けて能力が下がってしまう。

 これはゲームの中でのペナルティーなので、この世界ではどうなのかは知らない。

 それにしてもこの世界に来た時、堂真のレベルは1に戻っていたのに武器と防具はレベルが足りていないのに装備できるし、何よりブレイドダンサーとレベル85にならないと転職できない職業であった事に不思議に思うが、今では助かったと思っている。

「本当なのか!? いや……」

 金治は言葉を詰まらす。

 オプション3つで国宝級である。

 その武器の金額すら決められない状態であるのに、それの更に二段階上の防具を一式となると国の金庫を空にしても買えないだろう。

それこそ国が傾く程の大金が必要と言うわけである。

この世界のお金のやり取りが仮想通貨の様にデジタルで行なわれているとしても買えない。

 もちろん硬貨を合わせても足りないのだ。

「まぁ、この装備が前衛職の女性限定装備でレベルを85まで上げないと装備が出来ないのですよ。なので、京花が装備できるようになったら譲ってあげますよ」

「それは本当に行っているの? 高額で売って一生遊んで暮らせる物をタダ同然で渡すと言うの?」

 京花は凄く怪しんでいる。

 まぁ国が買えない物を決められた条件を達成するだけでくれると言うのに不信感を抱くのは普通である。

 と言っても堂真の条件は超難関でもある。

 記録に残っている者で生涯を通して73と書かれていると言う事は、余程無理な挑戦をしないと到達する事が出来ない。

 死の危険が増す様な事を金治や渚が許すはずもない。

「京花、無茶な条件は飲まなくていいですよ。無理な事をして死んでしまっては元も子もないですから」

「あぁそうだぞ、確かに魅力的な物であるが、無理はいけない」

「達成できるかわからないですが、目標を持っている事ぐらいはいいですよね?」

 あくまで挑戦をすると言う形でおさめるつもりであるが、京花本人は何時になるかわからないが、絶対に達成してやると言う意思が伝わってくる。

「それなら京花にこれをあげよう」 

 インベントリの中にあるアイテムと一つ取り出して京花に渡す。

 京花は堂真の指輪を見て、しばらく何かを悩み小さな声でお受けいたしますと言葉に下後、薬指に嵌める。

 渚が何かを言いそうになっていたが、その前に堂真が京花に伝える。

「その指輪の効果に経験値5倍の効力がついているからレベルはあげやすくなると思うよ」

 経験値増加のアイテムなんて聞いた事も無かったが、京花は装備をして能力を確認すると本当に5倍の効力が確認できた。 

「本当に君には何者なのだ? 見た事も無いアイテムばかり……」

「渡り人ですかね?」

 堂真は笑い飛ばす。 

 もはや金治は驚きの連続で疲れが見え始めていた。

 そんな中元気な菜々は堂真の顔をじっと見つめている。

「菜々ちゃんどうしたの?」

気になった堂真は菜々に声を掛ける。

「お姉ちゃんばかりずるい……」

ぷっくりと頬を膨らます菜々を見て、何か良さそうな物を探して見ると、丁度良い物があったので、それを菜々に渡す事にする。

「菜々ちゃんこっちにおいで」

堂真は手招きをして菜々を自分の元にこさせる。

それを正面から菜々の首に手を回して、首元につける。

シルバーのネックレスでその先に天使の羽がついている。

円満な笑みを浮かべて喜ぶ菜々はありがとうと堂真の頬にキスをする。

妹と思っている堂真は菜々の好意をスキンシップなものと思い、菜々の頭を撫でる。

「そのアイテムには運が上昇する効果があるから、菜々ちゃんには幸せが多く訪れるかもしれないね」

と言うと、幸せは今十分に来ていますと言う。

そんな安物のアイテムで少しでも幸せを感じてくれているのなら嬉しいとおもった。

「これでしばらくの間は一人で塔に潜っても問題ないですよね?」

 本来の話に戻すと金治は仕方なく頷く。

「そうじゃの、これほどの物を見せられると、無理だとは言えないな」

「もちろん金治さん達が心配するような無茶な事はしないようにしますよ」

「あぁ、そうして欲しい。君に何かあると悲しむ者が此処に居ると言う事だけは覚えておいてくれ」

「わかりました」

 長く引き留めて悪かったと金治は言いながらメイドを部屋に呼び、堂真を部屋から連れ出してもう。

「さて、京花、菜々、本当に彼で良いのかい?」

 金治は真剣な眼差しを娘達に向ける。

 この世界では、男性が女性に体に常に身に着ける物を渡すと言う事は、プロポーズと同じ意味がある。

 なので、あの時に京花はお受けいたしますと答えたのだ。

 もちろん興味のない男性なら断る事は可能であるが、短い間とはいえ、京花は堂真の事を気になり始めていたのだ。公爵令嬢と生まれてからは色々の人と話す事があるが、堂真の様に気軽に話してくれる人は居なかった。

 堂真はそんな事を気にせずいつも通り接してくれる事に興味が出てきていたのだ。

 菜々も堂真から貰ったと言う事はお付き合いを前提にと言う事はこの世界で生きてい居るのならだれでも知っている事なので、京花が貰ったから自分も貰うと言う考えは無い。 

 なので、少なからず堂真の事を好きなのだとはわかっているはずである。

 まぁ今更何を考えても二人とも物を貰っているので、金治は今後の事を考えないといけない。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る