第7話

 塔に着いた堂真は階段では無く、行専用のゲートに行きたい階数を思い浮かべながら潜ると、その先は3階の入り口で昨日帰りに使ったゲートのある場所であった。

 堂真は大きく背伸びをした後に深い息を吐きだして、気合を入れる。

 剣を抜いたまま3階の探索を始める。

 基本的に魔物の種類は変わらず、敵と遭遇する確率がと魔物の量が増えただけだ。

 難なくと4階の階段を見つけて、堂真は攻略を進めて行く。

 はっきりと言えば、引き継いでいるスキルの能力の高さのせいで、安物の剣を使っていてもサクサクと倒せるので、少しでも強い所に行き経験値を早く集めたいと思ったからである。

 その後、5階に到達した堂真はボス部屋の前にいる。

 この塔は5の倍数でボス部屋がある。 

 ある程度育った冒険者は一度倒せたボスを周回して経験値やレアドロップを狙う者が多く、5階と低い層でも駆け出しの冒険者では良い練習になるので複数のグループが待機している。

「なんだ? お前ひとりでボスに挑むのか?」

 前列に並んでいる男性が声を掛けてきた。

「えぇ。そうですよ」

「一人で塔を上る奴は初めて見たな。 あれだったら、俺のパーティーに入るか? 今はパーティーを組む事が出来ないがギルドに戻れば組み直せるからな」

「ありがとうございます。今日はたまたま一人ですが、待っている者がいるのですよ」

「おぉ。そうだったのか、悪いな邪魔をしたみたいで俺の名前は晶(あきら)だ。よろしくな」

「私は堂真と言います。外で会った時はゆっくり話しましょう」

 晶と言う冒険者は堂真をあまり見かけない顔だったので声を掛けたのだ。

 新人冒険者と間違いはないが、話をしている間堂真の事を見ていたが、あまりの余裕の言葉と表情に中堅冒険者が、個人の練習で下層に降りて来ていると勘違いをしたのだ。

 まぁ、普通の私服に見える服を着て、今から冒険をする格好とかなりかけ離れているのだ。

 重装備を着ている晶は壁役としての装備をしている。

 大きな盾を持っている。

 ゲームの壁役も実際だとこんな大きな盾だったのかと堂真は思っていた。

 その後ろに大剣、弓、杖と基本のパーティー構成であると言う事が推測できる。

 少し会話をした所で、晶のパーティーの順番が来て、上の階層で待っていると、冗談をほのめかして扉の中に入って行く。

 それからしばらく待つと閉まっていた扉がゆっくりと開く。まるで次の獲物を待っていると言う様に大きな口を開いている。

 武器を握っている手に力が入るのがわかる。

 ゲーム等でも緊張をしてコントローラを強く握る現象に良く似ている。

 だが、堂真の足取りは軽く扉の奥に消えていく。

 ドーム状の場所に出る。

 そこは只々広くサッカーや野球を余裕で出来そうな程に広い。

 その中心付近まで歩いていくと、床に魔法陣が広がる。 

 その中から、大きな巨体で肥満体系であり何より目立つ豚鼻にオークだとわかる。

 ゲームの初めてのボスもオークロードであった事を思い出し、このオークもそうなのだろうと思う。 

 堂真はブレイドダンサーの職専用スキルを覚えていないので、すぐにスキルを使いオークを倒す。

 この間数秒の出来事である。

 プレイヤーレベルや武器が弱くても、堂真のスキルレベルと防具のオプション効果である程度までの階層は余裕なのである。

アタックビートのスキルを二回使う程度で終わり、奥の扉が開かれて上層に上がる階段が出てくる。

本当にゲームの中のダンジョンのようだ。

6階に上がると、先に入って行った晶のパーティーメンバー達は隅の方で腰を下ろして休憩している。

「よっ!」

 堂真は無言で通るのも失礼になるかと思い軽く声を掛けて、目の前を通り過ぎる。

 チラッと見えたが、晶達のメンバーの表情が皆同じ様に驚いた表情をしていた。

 ボス部屋をソロで攻略をする人はいるが、堂真の様にパーティーより早く討伐して出てくる事が異常なのである事に本人は気がついていない。

 まぁ現在の最前線を攻略しているメンバーであれば、もしかしたら堂真と同じ事が出来るかもしれないが、そういった者達はここまで低い下層に来る事は無い。

 それに、そんな人が来れば有名なので、冒険者をしている者であれば気がつくはずなのだ「彼は一体何者なのだ?」

 晶の言葉は堂真には聞こえず、背中をただ見ているばかりである。

 それからと言うもの堂真は6階から10階までかなりのペースで駆けあがる様に高速で攻略をして行っている。

 順調にクリアーをして行っている。

この時、外の時間ではすでに3日程経っている事に堂真は気がついていない。

塔の中では外の時間を計る時計類は時間が狂い正確な時間が把握できない。

なので、冒険者は塔に入ってからは感覚で過ごしている。

そんな事を知らない堂真は眠くなると一日と考えていたが、堂真は前の世界と能力が違い、数日は寝なくても平気な体になっている事がわからなかったのだ。

そのせいで花右京家は少し慌ただしくなっていた。


「お父様! 堂真さんが全く帰って来ないのですがどう言う事ですか!」

 金治から堂真は塔に出かけたと言う事だけを聞いていたので、すぐに帰って来るだろうと思って一日目を待っていたが、二日三日と過ぎたあたりで、何かがおかしいと思い金治に詰め寄っている状態なのだ。

 真っ赤な瞳が金治を睨みつける。

 さすがの金治も娘の形相に少し、しどろもどろになりながら、黄色い瞳がキョロキョロと泳ぐ。

 何かを隠している事が一発でわかる程であった。

「何を一体隠しているのですか!?」

 問い詰めようとしている京花であったが、部屋が賑やかなせいで、たまたま外を歩いていた菜々が、二人の部屋にカンガルーに良く似たぬいぐるみを抱きかかえながら入って来る。

「何かあったのですか?」

 キョトンとした表情で菜々が京花に聞く。

「堂真さんが帰って来ないのですが、お父様に聞いてもはぐらかされるのです」

「堂真お兄ちゃんならお父様に言われて塔に向かいましたよ? 何でも70階を目指すと言っていました」

 聞いた事を菜々が京花に話すと、京花の表情は見る見る険しくなる。

「お父様! どう言う事ですか!?」

「いや、何と言うか……」

「ハッキリとおしゃいなさい!!」

 バン!と机に手のひらで勢いよく叩く。

「すまない! 堂真君が死の国の調査に行きたいと言うので、諦めてもらうつもりで70階層に到達する事が出来た時には行っても良いと約束をしたのが、そもそもの間違いだった。まさか一人で塔に挑戦するとはおもわなかったのだ」

 この世界での塔の攻略は3~5人のパーティーを組んで行うのが、基本のスタイルであり、ソロで攻略を目指す者はまずいない。

 一度攻略した階層を訓練所としてソロで向かう人は上位ランカーにはいるが、堂真の様に一人で攻略していく者はいない。

 とくに1~10階までは初心者区と言えど、攻略する者も初心者である。

 自殺願望のある者は別かもしれないが。

 苦虫を潰した様な顔をした京花はそそくさと部屋を出て堂真が向かった塔に向かう。


 その頃、10階のオークジェネラルのボスを倒してレベルが12となり、ダンサー職専用のスキルを1つ覚える。

 ダンスオブギアと味方全員の速度を上昇させるものであるが、スキルレベル1なら12%程だが、50まで上げているお蔭で45%と増えている。 

「ダンスオブギア!」

 そう唱えると、体が勝手に3ステップ程踏むと、緑色のエフェクトに一瞬包まられると、能力が上がった事が感じ取れる。 

 ゲームの中では移動場所にクリックをしてただ移動する速度が上がるだけだが、今は自身で操作をしている様ので、走る事はもちろん跳躍などアクロバティック行動も楽々にできる優れものになっていた。

「マジか、これは使い勝手がいいな」

 感激にあふれている状態で、堂真は速度を上げて更に攻略を進めて行く。

 堂真の安否を確認するため京花が堂真を探しに塔に来ている事も知らずに。

 攻略スピードが上がっても今までの階層とダンジョンの中が広くなっていて、一階を攻略するのに半日程度の時間を費やしてしまうが、堂真はその事に気がついていない。

 むしろレベリングの楽しさに狂気を感じる程夢中になっていて、部屋にいる魔物をから部屋の角に集めまとめ狩りをしている。

 こんな戦い方をする冒険者は堂真以外の者はいない。

 幸い他の冒険者に堂真の狩を見られていないが、見られたドン引きレベルである。

 更に5日目が過ぎる頃には18階まで登っている。

 レベルも21となり二つ目のダンスオブファイヤー、自身と味方の火力を上げるスキルをおぼえて着々を強くなってきている。

 だが、ここに来て食糧が尽き、一旦塔から出る事を決めて、堂真はゲートから地上に戻る。

 塔から出ると、すがすがしい空気に大きく深呼吸をしてギルドに戻る。

 冒険者ギルドの自動ドアを通過して、香の受付に向かう。

 香りは堂真を見るなり目を見開き大きな声で呼ぶ。

「堂真さん!! 生きていたのですね!」

 自分が少しいない間に何があったと首を傾げる。

 堂真の間隔では3回しか寝ていないので3日ほど経っているだけで大げさだなと思い、自分は無事だとアピールしながら香に近づいていく。

「何かあったのですか? 俺はこの通元気ですよ?」

「さすがに新人がいきなり8日も戻ってこないと不安になりますよ?」

「8日? えっそんなに経っているのか? 3日程だと思っていたが、夢中になり過ぎていたのか……」

「ちょっと待っていてくださいね。京花様も心配になって毎日の様に此処に来られていたので連絡を入れてきますね」

「すまない」

 後で心配をかけた事で謝っとかないといけないなと思うどうまであった。

 しばらくして香りが戻って来る。

 ギルドカードを香に渡すとパソコンの様な機械にカードを入れて何かを打ち始めると、香の表情が困った表情や驚いた表情ところころと変わる。

「堂真さん…… 突破階層が17となっていますが……」

「うむ。間違いない。18階まで上がった所で戻ってきた」

「一人で攻略を?」

「そうだ。何か問題でも?」

「問題と言うか前代未聞ですよ…… 一人で攻略をしている者なんていませんよ? てっきり同じ階層でレベル上げをしていのだと思っていましたのに」

 呆れて物言えぬ香は大きなため息を漏らしていると、入り口付近で堂真の名前を大きく叫ぶ京花の声が聞こえた事に堂真は振り向くと、無表情でカツカツと歩いて来る。

「どれだけ皆に心配を掛けたら気が済むのですか!」

 心配をかけた事は間違いないが、何故こんなにも怒っているのかが理解できない堂真は香に助けを求める様に目で合図を送るが、香は笑みを浮かべたまま顔を軽く横に振る。

 話の最中に他所に向いたのがいけなかった堂真はますます京花を怒らせるはめになる。

「イタ! イタタ! 京花何をする!?」

 堂真の耳を引っ張って冒険者ギルドの外に向かう。

 この時、痛くて抵抗が出来ない堂真は少し中腰になりながら、京花の後をついて行く。

 ギルド内でこの出来事は多くの人に見られ、次に来る時にはほとんどの冒険者に知れ渡っている事だろう。

 嵐が去った後の静けさを語るギルド内は少しの間静まり返り、皆が京花と堂真が車に乗せられるまで見送る形となる。



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