第6話

 柔らかい感触に女性だと感じた堂真は慌てて断りを入れる。

「堂真君どうしたの? 深く悩んでいたみたいだけど? 私で良ければ相談に乗るわよ?」

 聞きなれた声に顔を上げると、ニコニコと笑顔を絶やさない渚の姿、女性の甘い匂いが鼻につき、気持ち的に少し落ち着く。

「すいません。死の国と言う場所に行きたいのですが、どうやって行けば良いでしょう?」

 腰より長いブロンドヘアーの渚か前髪を軽く触りながら死の国の発言に渚は驚き京花と似た赤い瞳が揺らいでいる。

「なぜ? その様な場所に行きたいのですか?」

「本の内容から調査はあまり進んでいないようなので、もしかすれば過去に繋がる何かがあるのではないかと考えました」

「そう……」

 というと渚は堂真の手を掴み引っ張って何処かに歩いていく。

「ちょちょ! 渚さん!? いきなりどうしました!?」

 慌てる堂真を気にしないで歩き続ける。

 途中すれ違うメイドや執事達はさっと道を開けて頭を下げる。途中に出くわした菜々も渚を見るとさっと通路の端に避ける。

 そのすぐ後ろで引っ張られるように移動している堂真を見ると、菜々は何をしたのと首を傾げて、興味本位で着いてくる。

 その様子に堂真は苦笑いをする。

「貴方!」

 勢いよく渚は金治の居る部屋を開ける。

「なっ! 何事じゃ!?」

 流石の金治も自分の部屋が勢いよく開けられたことに驚き、近場にある剣を取れる様に手を伸ばしている。

 この世界では銃刀法の所持は認められている。だが、冒険者が力の無い一般人に刀や銃を使い脅す行為は重罪であり厳しい罪になる。

 それこそ死の国の調査隊に組み込まれるのだ。

「渚と堂真君、そして菜々まで…… いったいどうしたのじゃ?」

「堂真君の事なのですが…… 死の国の調査を行いたいと話を先ほど聞きまして」

「なんだと!? 堂真君は何故死の国に行きたいのだ?」

 突然の金治の言葉に堂真は何が起こっているのかわからない。

「いったい…… なにが? 何を言っているのですか? 僕はただ死の国について調査をしたいと思いまして、もしかしたら元の世界に戻れる手がかりがを見つけたいと思っただけなのですか」

「そう言う事か…… 堂真君は本で死の国を知った事でいいのかね?」

 神妙な顔をして聞いてくる。

「そうですね。先ほど歴史の本を見て知りました」

「なるほど、死の国の調査隊は、昔は現在の冒険者等が財宝目当てに行っていていたが、あそこに存在する敵は、塔に出てくる魔物と比較できない程強い魔物がはびこる場所なのだよ。今も表向きは調査隊と名乗っているが、ほとんどは重罪を起こした者達が前線に組み込まれている。犯罪者たちには財宝を1つ見つけてくるだけで刑を緩くすると餌をぶら下げて、送り込む場所なのだよ。100近く何かを持って帰って来た者は居ない。君ならこの意味がわかるよね? 多分堂真君が見た本は大昔にどうにか生還出来た者の話で、現状では罪人がおくられる場所だぞ?」

 そう、調査に出された犯罪者達は全滅しているということである。

 ある意味死刑場といえるだろう。

 そんな所に行きたいと言えば自殺志願か、頭のネジが外れている者だけだろう。だから金治と渚はあの時驚き、先ほどの状態になったと言う事に堂真は気がついた。

「そう言った場所だったのですね。でも、申し訳ないですが、僕は行きたいと思います。死の国と呼ばれる場所は、昔では四国と呼ばれていました。僕の生まれた故郷であり、育った場所だったのです」

 この話を聞いた3人は昔あの場所は人が住める土地であった事に驚いている。

 どの本を見てもあの島は人が住める環境で無かった事を現在まで語り継がれているのだ。その様な場所が昔は大勢の人が住んでいたと言う話を信じられるのかと言いたい所であるが、堂真は過去から来た者であり、信用するのに値するのだ。

「あの場所が…… まさか、いや、でも堂真君が言うのなら本当なのか……」

「信用しろとは言いませんが、確かに僕はあそこで住んでいました。なので、どうしても行きたいです」

「ふむ…… 今すぐは無理だ。 知りあいをわざわざ死地に行かす事はしたくないからね。そうだな君が塔の70階まで到達する事が出来ると許可をだそう」

 過去に死の国を探索でき生きて戻ってきた者は塔の攻略を70階まで行っていたと言う事が書かれている。

「70階ですか? もしそれを破って行ったとしたらどうしますか?」

「君なら守ってくれると信じているが、破ると言うなら王族の血縁の力を使って君を全土の指名手配をするつもりだよ」

 机に両膝をつき顔の前で手を組み睨むように見てくる。

 威圧的な空気が部屋を包む。

「大丈夫です。約束は守りますよ。見知らぬ僕をこれ程見てくださっているのですから、そんな人たちを裏切りたくはないですからね」

 というが、本心は超ビビっていた。

「ちなみに死の国に行くのには最低でも50階に到達しないと国から許可は出ないぞ? と言っても、許可が下りるだけだ。過去に生還した者がいるが、その者は70階層まで到達したものであったが、帰還した時には大怪我を負っていたと言う話だ」

堂真は70階と言われるが、それがどれほど強い者なのか理解できていない。

 塔のモニターやテレビ等で放送されているのを見ていたが、味方との連携は取れているが、それはあくまで一般の目線である。

 堂真から見ればガバガバだと思っていた。

 レイドと言う強敵に戦うのにヘイト管理は甘いし、スキルの使い方甘いということだ。

 まぁ現実世界では無謀な冒険を避けるのでゲームの世界の様に限界を攻めにくいと言う事もあるのだろう。

 多分今の手持ちの装備だけで現在最先端を攻略している者達までは追いつく事は可能だと堂真はテレビを見ていただけでもわかる。

「わかった。70階に到達したときには調査の方をおねがいします」

「その時は我が花右京家力を貸す事を約束しよう」

 堂真は金治に頭を下げて部屋を出る。

「貴方、本当によろしかったのですか? 堂真君は本当に70階を目指すつもりですよ?」

「いや、私も驚いている。どちらかと言うと諦めて欲しかったのだがな…… 彼は急ぎ過ぎている。もっと周りを見て、仲間を見つけて欲しかったのだが」

 そう堂真はこの世界に降り立ってから、何かに追われている様に急いでいるように見えるのだ。

「でも、堂真お兄ちゃんは強いのでしょ?」

 菜々が金治に問いかける。

「あぁ、京花の話でも彼は近いうちに彼の名前は街に知れ渡るだろう。でもな、個人の力は非常に脆くてな、何かあれば、それで終わってしまう。もし仲間がいれば助かる命も助からないのだよ」

 金治は菜々の頭を優しく撫でながら、堂真が出て行った扉を見ている。


 その頃、学校で勉強をしていた京花は昼休みになっていて、学園の友達を食堂で仲良く話しながら食事をしていた。

「そうそう、昨日街中で京花様が見知らぬ男性と居たのを私は見ましたの!」

 真っ赤と言う程ではないが赤色の髪の活発そうな女の子は京花にズズイと顔を寄せて誰なのかを聞いてくる。

 周りに一緒にご飯を食べている女の子達も黄色い声を上げながら京花に目線を注ぐ。

「そうなのですか? 美香さん? どういった殿方でしたか?」

 ピンク色の髪のほんわかとした少女も気になるのか、話に夢中になる。

「それがね。物凄いイケメンでしたよ! あの龍司様が擦れて見える程でしたよ!!」

 龍司と言うのはこの学園の王子様的なもので学園一と噂される程である。

 それ以上にイケメンと言う事に皆は堂真の知らぬ所で話題になっている。

「たまたま知り合っただけですよ」

 口を少し尖らして京花は答えるが、京花も学園でマドンナ的存在あるのに、異性とのやり取りの話が一切なく、振られた者も数知れない。

 そんな京花が街で男性と歩いているのだ。

 周りで聞き耳を立てている男性達は気になってしょうがないみたいである。

「是非とも会ってみたいですね!」

「茜もいい加減にしないと怒るわよ? 周りに迷惑ですよ?」

 静かに話しかける京花は美香と茜は怒らしてしまったと、少しばかり後悔をするが、京花もそこまでは怒っていない。

 まぁ年頃の少女ならではの会話であるが、自分の口から堂真の事を言う様な事はしたくなかった。

 そんな話で盛り上がりつつ、昼休みと言う休憩の時間は終わる。

 

 その頃、堂真は屋敷の玄関先で菜々に声を掛けられていた。

「堂真お兄ちゃん! 何処かにお出かけをするのですか?」

「少し塔に行こうかと思ってね」

「それはお父様との約束を達成するためですか?」

「そうだね……」

「お父様は言っていましたよ。70階は過去で最も高い場所に登った人の記録で、その人も生還をしたけど、命からがら生還しただけで大怪我を負っていたそうですよ」

 堂真も金治が出した約束は不可能なものに近い課題を出されていると言う事には堂真も気がついている。

 現にいま最も高い場所の攻略が50階なので、無茶な事はわかっているが、今は一部であるが、ゲームの物を引き継いでいる状態である。

なので、不可能と言う事は無い。

「無茶な事を言われているのは知っていよ。それでも俺はいかないと」

 堂真の言葉に菜々は堂真に抱きつき涙目で見上げてくる。

 将来は確実に美人になるとわかる程の可愛らしい容姿にくらっと来てしまいそうになる。

「私と約束をしてくれませんか? 絶対に屋敷に戻って来ると……」

「こんなに可愛らしい子に帰って来いと言われると、何があっても帰って来ないといけないな」

 軽く笑いを混ぜながら、堂真は菜々の金髪に手を乗せて優しく撫でると菜々はうっとりと目を細める。

「これを菜々ちゃんに預けておくよ。俺のとても大切な物だ」

 と手渡したのは堂真と一緒にこの世界に来た携帯と財布である。

大事そうに両手で胸元に抑える様にして持つ菜々に少し堂真は罪悪感が湧いていた。

 戻って来ると約束をしているが、何か本人に起こった時に、紛失してしまうよりも公爵の手によって色々と有利に使ってくれると思い菜々にわたしたのだ。

 携帯の写真には、現在では見られない物が沢山あり、失われた日本の文化を少しでも知ってほしいと思い渡したのである。

 そして堂真は玄関をあけて後ろ向きで手をひらひらと菜々に振る。

「行ってらっしゃい」

 少し寂しげな声が聞こえる


 使用人に頼んで冒険者ギルド前まで送ってもらった堂真はお礼を言って、建物の中に入る。

 ずらりと並ぶカウンターには人が並んでいる。

 たまたま香の場所が空いたので、堂真は香の場所に向かう。

「あれ? 堂真さん。今日は京花様と一緒では無いのですね」

「そうだね。京花は今日から学校行っているみたいで、しばらくはソロで回ろうかなと思っていてね」

「そうなのですか? パーティーを組んだ方が一人よりも安全ですよ?」

「色々と検証をしながら戦いたいので、一人の方が助かるのですよ」

「なるほどです」

「それで、何日か塔で籠りたいので、食糧を調達しときたいのですが、何処か良い場所をしらないですか?」

「それなら、二階にあるギルドが経営しているお店が沢山あるので、そちらで集めると良いですよ」

 ここのビルの階層によって様々な店があると言う事を香から聞く。

 大体の物は揃うと言うらしい。

 例えば冒険者にもギルドがあるのと同じで武器、防具、雑貨等を扱う専門ギルドが存在する。

 ビルの中に存在するギルドは階層が低い場所に構えている店は有名なギルドが持っていて、中堅や無名な者は階層が高い位置にある。

 ビルの賃金は低い場所になればなるほど場所代が高いため、資金を沢山あるギルドが使うのである。

 そう言った情報を聞いた堂真はとりあえず食料を買うだけなので、近場の店で食料を買う。

 昨日狩った魔物の魔石と階数突破報酬と少ないお金であるが、手持ちがあったのでギリギリまでお金を使い食料を買い込む。

 軽く他の店の前を通ると、見た目が良さそうな武器や防具が並べられている。

 その金額はとても高くおいそれと手を出せる品物ではない。

 まぁ買うことも無いと思いながらダンジョンの入り口を目指す。


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