第2話

「これが、堂真さんが居た時代の風景なのですね。今とあまり変わらない建物がありますが、自然が今より豊かそうですね」

「田舎に行けば自然や見られるだろう?」

「今の日本帝国は自然が少ないですよ? 未開拓地に自然はありますが、この様に写真を取れる場所は少ないですよ。 それは後に話す事にして、今は堂真君の事を考えないといけませんからね。今は住所不定で日本の国籍すらない状態ですからね。見つかったら大変な事になりますよ?」

 確かにと堂真は思う。

 別の時代とはいえ日本と言う事に安心をしていた様だ。

 何かによってこの時代に来たと言う事は堂真を知っている者は居ないし、国籍や住所など無い怪しい人物であるのは確かである。

「まぁ確かに、見つかると大変な事になるが…… まぁ、なるようになるしかないよな」

 何処か諦めている様な雰囲気で何度か頷き、考えながら出されていた紅茶を口にする。

「美味いな、この紅茶は」

「堂真さんは意外とお気楽な性格だね」

 クスリと笑う京花の表情に少し見とれていると、何やらビルの外が騒がしくなっていた。

「やけに外が騒がしいな」

 堂真は部屋の窓から外を眺めると、大きな広場に大勢の人が集まり、空中に大きな画面が幾つも浮いていて、画面の中で武器を持った者達が魔物と思われる者と戦っている光景が見える。

「あれは何だ……」 

「あぁ、あれはですね。天空の塔で現在戦っている者達のライブ中継ですよ」

「天空の塔?」

「そうです。ここからも見えると思いますが、あれがそうですよ」

 京花の指を指す方向を見ると名前どおりに天に向かって伸びている塔がある。

 名前負けをしていない程に天に向かって伸びている。

「あの中で現在戦っている者達の勇姿を見る事が出来ます。まぁモニターに映る事が出来るのは上位に入る者達だけですよ」

 長い年月をへて日本はかなり変わっていると堂真は思った。そもそも自分が生きていた日本と同じなのかと言う疑問が浮かぶ。

 魔物や天空の塔などと言うものは無く。

 いたって平和な世界であったが、窓から広場に集まっている者を見るとスーツ姿の人や私服の人、中には武器を背負ったコスプレをした人が見られるが、モニターで戦っている者を見るとあの武器は本物なのかと思う所もある。

「近くまで行ってみますか?」

 京花の提案に堂真は頷く。 

ゲームの世界でない現実あろうこの世界で、ゲームの様に生身に人間が武器を持ち魔物と戦っているのだ。

 これがゲーマーであるならば興奮しないわけがない。

 浮き足が立つ中、堂真は京花とビルから広場に向かう。

 

 広場に着くと、屋台など食べ物屋が数店舗並び、それなりに賑わっているが、一番モニターを見ている者達の熱気がすごかった。

 そんな中でも京花と言う存在は目立つのか、近くに居る者は目を見開くように京花を見てくる。

 周りには京花が着ている学生服と思われる薄い水色の服に黒のスカート、そして学校の紋章が入った服が目立つのだろう。

 目立ちはするが、誰も声をかけないし、少し距離を開けてみているだけであった。

 そう京花が通う学校は全国で一番有名で、座敷がとても高い学校である。

 貴族だから入れると言うわけでは無い。

 天空の塔を攻略する事を目標にしている学校であり、常に戦力を求める学校である。

 そして京花の学生服の胸元に刺繍されている。盾に鷲の紋章が記されていて、その色が金色である。

 学校ではブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと階級がわかれている。

 ブロンズは入学した時に皆に与えられる。それから塔の攻略や、街で行なわれる大会等でこう成績を残すと昇格する事があり、色々な行事で階級が上がって行く。

 京花のゴールドと言えば学校の中でも数十人と少なく学校や、街の人からの憧れもある。

 プラチナと言う階級は学校内で行われるランク戦で上位3名に与えられ、その紋章だけで特別な存在となれる。

 生徒はプラチナの階級をめざし日々鍛錬するのである。

 京花は他人の視線をものともせず、モニターの前まで堂真とやって来る。

 堂真は大迫力の映像に手汗を握る。

 自分も攻略がしたくてうずうずとしているのであった。

「なぁ京花?」

「何でしょうか?」

「俺も塔に入れるか?」

「そうですね。堂真さんに戦うスキルが備わっていれば塔に入る事が可能です。屋敷に戻った時に調べてみましょう」

「頼む」

 と一言残して、食い入るようにモニターを見続ける。

 モニターの中では大剣を持っている者や槍を持っている者と複数の人間が移っている。そして皆が持っている武器はゲームで存在していそうな形がこった武器が多くみられる。

モニターを見ていると不意に京花から声が掛る。

「堂真さん迎えが来たので帰りましょう。そして能力を計りましょう」

 京花の言葉でモニターから目を離して、迎えが来たと言う車を探すが、京花が呼んだで、あろう車はとても目立ちひと目でわかった。

 黒塗りで普通の車と違い車体が長いのであった。

 そしてその車もタイヤと言うものが付いていなく、地面から少し浮いているのだ。

 車のドアの前ではメイドが立っていて京花が見えると、ドアを開けて何時でも入れるようにして待っている。

「お帰りなさいませ、京花様」

 京花に向かって深々と頭を下げるメイドを見ると本当にお嬢様だったのだと思える。

「お迎えありがとうございます。こちらは堂真さんです。分けあってしばらく屋敷で住む事になると思いますので、よろしくお願いしますね」

「畏まりました。堂真様も車の中にどうぞ」

 メイドが堂真を車の中に誘導する。

 車に座った堂真は車の座り心地が良く体を預けて、窓から外を見る。

 隣に京花が座りドアが閉まると、エアーが抜ける様な音と共に地面からみるみる車が離れていく。

「マジか……」

 黒塗りの車は空を飛ぶように発進していく。

「驚きましたか?」

 ニコニコとしながら京花が聞いてくる。

 堂真もまさか自分が空を飛ぶ車に乗るとは想像もしていなかった。

 なので、純粋に驚き好奇心が勝り、京花が話しかけていたが、外を見る事に夢中になっていた。

 じっくりと外を見れば見る程、堂真の知っている日本とかけ離れている事に気付き、本当に転移したと言う実感に襲われる。

 それと同時に過去に残された親や妹の事が心配になっていた。

 2018年の自分はどうなってしまったのか、行方不明となったのか、何らかの理由で死亡になったのか気になる所だが、今では調べようがない。

 そんな事よりも今はどうやってこの時代を生き残るかを考えないといけない。

 知っている日本であって日本で無いこの場所に。

 

 そうしばらく窓の外を見ながら考え事をしていると、車の速度が遅くなり徐々に地面に近づいてくる。

 どうやら京花の家に着いたみたいだ。 

メイドが車の扉を開けると京花から車から降りる。

堂真も続いて車から降りると、正面にはとても大きな屋敷がある。

 後ろに振り向き先ほど門を潜った場所はとても小さく見える。

 あまりの大きさに唖然としていると京花が声を掛けてきた。

「どうしました?」

「あぁ。あまりにも大きな屋敷だな」

「一応公爵家ですから、周りには負けないように大きく作られたとか、昔に聞いた事がありますよ。そんな事よりも中にどうぞ」

 京花の案内で屋敷の中に入る。まるで高級ホテルのエントランスの様に綺麗で清潔感があり、俺が入っても良いのかと一瞬思わせる。

「では、堂真さん後ほど伺いますので、お部屋の方で待機をお願いします」

「あぁ。わかった」

 というと、一人のメイドがこちらですと堂真を連れて部屋を案内する。

 ただの一般人なのに、すれ違うメイドや執事に合うと皆が足を止めて、一礼をしてくれる。 

 それにつられ堂真も軽く頭を下げながら、メイドの後ろをついて歩く。

「堂真様、こちらがお部屋の方になります。中の物は基本自由に使ってもらって大丈夫です。あとベッドの近くにある呼び鈴を鳴らせば、私達が用事を聞きに来ますので、ごゆるりとおくつろぎ下さい」

 頭を下げたメイドは堂真が部屋の中に入るのを確認してから、その場を後にする。

「めちゃ広いな」

 ぼそりと呟く、一人部屋としてはあまりにも広すぎる。

 見た事も無い家電に目がいったりもするが、あまりの環境の変化に堂真はベッドにそのままダイブするような形で倒れ伏す。

 また後で部屋に来ると言っていた京花の言葉を思い出すが、あまりの状況の変化に疲れと、ふかふかな布団の魅力に勝てなく、堂真は深い眠りに入る。

 

 その頃、京花は自分の部屋に戻り部屋着に着替える。

 昔の貴族の様に重いドレスでは無くワンピースの様な軽いドレスである。

「堂真さんはこの格好を見て驚くかな?」

 鼻歌交じりに服を着替える。

「本日のお客様に好意を持たれたのですか?」

 お付のメイドが京花に聞く。

「今は好意とかはないですが、とても魅力的な男性ではありませんでしたか?」

「あの容姿は卑怯ですよね。 今までイケメンだと思っていた人が擦れて見えてしまいますよね」

 京花とメイドは堂真の話で楽しくなっていた。

堂真本人はゲームキャラと言う認識のままであるが、この世界では人間として見られる。

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