第10話 地球進行

 統一歴173年6月14日 日本宇宙観測所


 いつもは穏やかな時間が流れている施設だが、今日はそんな余裕はなく緊迫とした空気が辺りを漂っていた。


 それもそのはず、今まで一切観測されていなかった小惑星が唐突に現れ、地球に向けて接近中なのだ。


「アメリカの方はなんて言ってる」


「こちらも確認した。現在軍に小惑星の破壊をすることを協議中。だそうです」


「やはり、軍か」


 所長にはあるひとつの可能性に思い立った。


 今接近している小惑星は敵の何かしらの攻撃ではないかと、空想の話になるが惑星間弾道爆弾が地球にいくつも落とされ、地球の表面は完全に人が住める状況ではなくなり、人々は地下へ逃げて反撃の気を伺う暮らしを続ける。そして、その時が来た時に反撃すると言う話だ。このようなことになってしまってはなんの対策もしていない今の人類にとってこれはまずいことなのではと。


「私達も軍にこの小惑星の破壊を申し出る」


 その言葉を聞いてすぐに、職員達は自分の持ち場につき、小惑星の観測を開始した。所長も軍に小惑星の破壊を破壊するように働きかけた。


 破壊が決定するのはそれほど時間はかからなかった軍も小惑星が敵の攻撃ではないかと考えていたからだ。軍は直ぐに行動を移し、最初に月付近にいる攻撃型人工衛星による原子分解爆弾の投擲、月第203主力艦隊の砲撃と、地球圏では攻撃型人工衛星が数個の原子分解爆弾の投擲を行う、地球外縁艦隊第1主力艦隊いわゆる宇宙最後の砦となる艦隊が小惑星に向けて艦砲射撃を行い、地球の各地に配備されている80cm大型電磁砲が対空射撃を行う、徹底的に、この小惑星をうち落とそうと言うのだ。


 統一歴173年6月20日 月外縁HG-2E


「作戦開始」


 この号令に合わせて攻撃型人工衛星HKF-100による原子分解爆弾も投擲が始まった。六角柱型の爆弾がいくつも小惑星の近くで爆発する。しかし小惑星は健在だった。それどころか傷一つ着いていなかった。この時点で協商宇宙軍はこれが敵の攻撃であることを確信した。その攻撃は第2ステップへと移行する。地球協商宇宙軍最新戦艦である、アマテラス級戦艦の12番艦オーケアノス、13番艦テュール、14番艦キュープロスを主軸とする第203主力艦隊による一斉射撃が始まった。アマテラス級の主砲には電磁砲レールガンが搭載されており、圧倒的な貫通力を持つ戦艦だ。この射撃は20時間にも及んだ、だが小惑星はいくつかのパーツらしきものを落とす程度のダメージしか与えることが出来なかった。小惑星は攻撃を行う協商の艦ふねを横目にゆうゆうと通過して行った。


 統一歴173年6月23日


 小惑星はなおも地球へと接近を続けていた。


 第3ステップへ地球圏での防衛戦が始まった。


 第1ステップと同じく原子分解爆弾の投擲を行いダメージを与えていく。だがやはり大きなダメージ見受けられない、そして最後の砦である地球主力艦隊と地上からの80cm大型電磁砲の攻撃が始まった。


「全艦攻撃開始」


 一斉に新旧型戦艦を含めた艦隊が小惑星に対して全火力を集中し始めた。


 砲弾だけでなく、ミサイルも惜しみなく使っての全力攻撃だ、攻撃を初めてから数分後、地球から大きな鉄の塊が飛んできた。その鉄の塊は小惑星に命中した、地上からの80cm電磁砲からの攻撃だ。この攻撃により小惑星は大きなダメージを受けた。いくつも破片を撒き散らしながら小惑星は地球へと近づいて行った。そして、小惑星は不完全な形で地球に落ちることとなった。




 作戦は失敗に終わった小惑星の進行を阻止出来なかった。小惑星は大きな弧を描きながら落ちていった。その姿は地球の太平洋沿岸の地域に住むほとんどの人々が目撃した。


 その時、大気圏突入に起こる高温の摩擦熱により、


 協商軍が破壊しきれなかった小惑星の岩石のような表面が剥がれ落ちていき、その中からひとつの装置が姿を表す。装置は姿形を少しづつ変え最終的には円錐状に似た形へと変化し、そのまま太平洋へ着水し、沈んで行った。淡い紅い光を放ちながら。

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