小さなひなた(仮)

@poro-q

同じ苗字のアイドル

やっぱり土日に来るべきじゃなかったな…。

家族連れ、友達同士、カップルといった楽しそうな人々で溢れかえるショッピングモールの中をアキラは足速に通り抜けた。


「キラキラ光る イルミネーション 少し眩しい

君と僕が 初めて過ごす クリスマスの日

ケーキの味 忘れないでね」

騒がしい建物内からやっと外に出たと思ったらこれだよ。やれやれ。どうせまた三流アイドルのイベントでもやってんだろ。

このショッピングモールに4ヶ所ある出入口のうち、ターミナル駅への1番の近道である南側出入口の外には野外ステージが設けられており、週末になるとソロシンガーやアイドル、戦隊ヒーローなどのイベントが開催されることがあるのだ。アキラが遭遇したのはスイート☆ハピネスという女性アイドルグループのイベントだった。ステージの上には色とりどりの衣装を身にまとった7人のアイドルがおり、ステージ下の観覧スペースには50人ほどの人だかりができている。この50人というのが多いのか少ないのかはアイドルに興味の無いアキラには全くわからない。


アイドルには目もくれずにイベントスペースの横をアキラが通り過ぎようとした時だった。

「あなたに光を届けたい☆スイハピのイエロー担当''ひかりん''こと小日向ひかりです」

アイドルが1人ずつ自己紹介をしているのだろう。それにしても俺と同じ苗字のアイドルがいるなんてな。でも小日向ひかりなんていかにも芸名臭い名前だ。

「なんと今日は無料の握手会もあるんです。」

ファンが歓声をあげる。ファンの奴らなんてどうせ事前にネットでその情報は知ってただろうに白々しい。

そう思いつつも自分と同じ苗字のアイドルの顔を見てみたくなり、ステージの方を見た時だった。

「たまたま買い物に来た方、スイハピを初めて見たという方もぜひぜひ握手会に参加してください!」

小日向ひかりが、俺の方を向いてそう言っているように見えた。そして一瞬だけ彼女が驚いた顔をしたように見えた。

いくら俺が元いじめられっ子で根暗のダサ男だからってそんなに驚くことなのか。だいいちアイドルファンの男なんて若いのからオッサン、イケメンからブサメンまで色んな奴がいるだろうに。

無料の握手会とやらに行って直接文句を言ってやろうか。というのはさすがに冗談であるが、小日向アキラが小日向ひかりに興味を持ったのは紛れもない事実であった。

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