第5話 自らに向けられる視線の意味が大きく変わったことを感じた日 Part3

胸のざわつきを感じながら、私は状況の打開策を考え始めた。その時は、「在宅勤務の頻度を増やす」という希望を叶えることだけに偏重して思考していたように思う。


焦って冷静さを失っていた。あるいは、不眠によって思考が鈍っていたのだろうか。偏重した思考の中で私は大きな愚を犯した。


私は、件のメールに返信する形で上長に不眠であることを伝えてしまった。ただ、あくまでもライトに。「少々眠れない日々が続いているので、病院で薬をもらった」というような形で、あくまでも大ごとではないということを強調して。


あぁそうだ。おそらく私は不眠という”免罪符”によって、在宅勤務を認めてもらうことができると思ったのだろう。我が事ながら確信はないが、おそらくそういう理由だったのだと思う。


しかし、この選択は間違っていた。


メールの返信後、上長から電話があった。当初話題となったのは、現在進行中の案件に関するものだったが、その後に不眠についても話をされた。


「不眠的な感じがあるのであれば、今度任せようと思っていた新しい案件についても、ちょっと大丈夫かなって思ってる」


そんな内容だった。至極当然だ。至極当然なことだ。不眠であると言われたら、管理者としてそのように感じるのは至極当然なことだ。そんなことはわかっている。だから、私は自分を責めた。このタイミングで、不眠であることを上長に伝えるという愚を犯した自分を。


仮に運用ルールが厳しくなっても、在宅勤務が認められる可能性は大いにあった。そして、在宅勤務の頻度を増やしてメンタル面が改善され、不眠が治れば、上長にはその事実を伝える必要がないままその先の日々を過ごすことができたのだ。


しかし、愚かにも私は不眠に悩んでいるという事実を伝えてしまった。そして、電話口から聞こえる内容、声のトーンで、私に向けられる上長の視線の意味が、また1段階変わったことを感じた。


在宅勤務の件で1段階。

そして、不眠の件でさらに1段階。


明らかに、上長の私に対する不信感や懸念が強まってしまった。


それからというもの、私は、今この瞬間もこの後どうすべきかに思い悩んでいる。ただでさえ、メンタル面が弱いと思われてきた。クライアントからの押しに弱いと思われてきた。そういった印象が、不眠という情報を加えたことによってさらに強くなってしまう。


・面倒くさいやつ

・メンタルが弱いやつ

・息抜きが下手なやつ

・重要な仕事は任せられない頼りないやつ

・人を使って仕事をすることができないやつ

・人の上に立つことができないやつ


上長の中で、そういう評価が強まってしまったに違いない。


あぁ、明日からまた、いや今まで以上に生きづらい日々が続いていく…

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