After Data.45 弓おじさん、風雲神竜
見える景色すべてが白になる……!
雲の中ってもっと荒れてるイメージがあったが、意外と穏やかだ。
ただ、白がずっと広がっていて方向感覚が狂う。
近くにいるはずのエイティの姿すら見えない。
それでもアルテミス号は風に導かれ進んでいく。
そして、ふいに視界が開けた。
「これが繭の内部……!」
白い雲の壁で覆われた球体状の密室空間。
例えるなら、卵を殻の中から見た感じ……だろうか?
外と違って風はほぼほぼ吹いていない。
これならアルテミス号も自由に飛行出来る。
「繭がデカいだけあって内部も相当な広さだな。それで……どこにいる?」
パッと見た感じ繭の中には何もいない。
ただ小さな雲がいくつも漂っているだけだ。
しかし、何もないということはない……。
俺には確信めいたものがあった。
「……上か?」
繭の中で一番高い場所……。
そこからまん丸い雲が降下してくる。
いや、雲ではない……!
よく見ると、表面にきめ細かい羽毛のようなものが見える。
あれは雲のように純白な翼に覆われた……竜だ!
キョオオオオオオォォォォォォーーーーーーッ!!
竜が翼を開く!
金属のような光沢を持つウロコ、長くて太い尾、スカイシップすら握りつぶせそうな前足と爪、すべてを見通すような目、鋭い歯が並ぶ巨大な口……。
そして、天使を思わせる6枚の翼!
以前戦った風雲竜の面影は感じられるが、この大きさ、威圧感……比べ物にならない!
どうする? どう戦う……!?
この『風雲神竜』と……!
スオオオォォォォォォォォォ…………!!
竜は大口を開け、空気を吸い込み始めた。
マズイ……。これは圧縮した空気を吐き出す『空気のブレス』の前兆だ。
空気だから目に見えず、攻撃範囲もわかりにくい。
「エイティ! とりあえず、船を動かし続けるんだ!」
止まっていては的になる。
アルテミス号は風雲神竜と最大限距離を取りつつ、その周囲を回る。
さらにランダムな上昇と下降を行えば、ある程度攻撃を回避することが出来るだろう。
しかし、アルテミス号の速度は決して速くはない。
空気を吸い込むという溜めの動作があるブレス攻撃は回避出来ても、あの爪を使った近接攻撃までは回避出来ない。
誰かが風雲神竜を引き付けて、アルテミス号から遠ざけなければ……。
「まあ、俺しかいないんだが!」
甲板から近くを漂っていた雲に跳び移る!
うん、やはりこの雲は以前の戦いの時と同じく、足場として使うことが出来る!
しかも、俺の意思1つでトランポリンのような弾力を得たり、逆に普通の雲のようにすり抜けることも出来る!
まるでアクションゲームの足場のように!
「エイティは船の回避行動に集中。攻撃は余裕のある時だけでいい。逆にガー坊はガンガン風雲神竜を攻撃するんだ」
「ヴルル……ッ!」
「ガー! ガー!」
ユニゾンたちに船を預け、俺は雲から雲へとジャンプ。
体1つで風雲神竜に戦いを挑む!
大丈夫、出来るはずだ。
風雲竜と戦った時より、プレイヤースキルは大幅に上がっている!
「ツインジェットスチームアロー!」
強敵との戦いは、いかに攻撃を回避するかにかかっている。
俺はあくまでも射程特化であり、防御面は通常プレイヤーより劣っている。
ボス相手ともなれば、一撃でキルされてもおかしくはない。
少しでも危ないと思った時は、グッと攻撃を我慢し回避に専念する。
そして、隙を見つけた時には素早く撃つ!
攻撃と回避、シンプルな二択の連続で正しい方を選び続ける……。
地味に思えるが、それこそが必勝法だった。
少なくとも以前の戦いに関しては……!
「挨拶代わりだ! アグニの矢!」
紅色の矢が蒸気の力で撃ち出される!
奥義【アグニの矢】はヒットした場所を中心とした火柱を生み出す。
つまりモンスターにヒットさせれば、そのモンスターを炎の中に閉じ込めることが出来る。
これで動きが止まってくれれば万々歳だが……そうもいかない。
矢自体は当たった。火柱も出た。
しかし、風雲神竜は6枚の翼を羽ばたかせ火柱から脱出すると、こちらに向かって突進を仕掛けてきた。
融合奥義を食らってノーダメージというわけではない。
ただ、こういう特別なモンスターはHPゲージが表示されないし、HPを削っても動きが鈍らないどころか、より攻撃が激しくなる。
だから、戦っていても攻撃の手ごたえを感じにくい。
それでもプレイヤーに出来るのは、確実に勝利に近づいていることを信じて攻撃を続けることのみ!
「うおりゃっ!」
雲から雲へ大ジャンプ!
突進はあくまでも直線移動だから、大きく横に回避すれば当たることはない。
注意すべきなのは、突進の当たり判定は竜の体より一回り大きいということ。
体にまとっている風が、周囲の物体を切り裂くのだ。
だから、ちょっと大げさかなと思うほどに大きく避けると安心だ。
そして、この突進攻撃の後は竜に大きな隙が生まれる。
攻撃のチャンスをものにするためにも、無駄なダメージを食らってはいけない……!
「よし、突進はやり過ごせ……えっ!?」
風雲神竜は俺の横を通り過ぎた後、ギュイッと小さなカーブを描いて方向転換!
再び俺に向かって突進を仕掛けてきた!
まずい……! 攻撃するつもりだったから、回避ルートを考えていない!
どの雲に跳び移る……!?
くっ、相手は風雲竜の上位モンスターなのに、風雲竜と同じように考え過ぎたか……!
「ワープアロー!」
蒸気の力で撃ち出される矢は速く、風雲神竜の突進が来る前に俺は安全な雲へとワープした。
そうだ、思い出した……!
あの時、まだロクに装備もスキルも揃っていなかった俺が風雲竜に勝てたのは、奥義送りにされる前の【ワープアロー】があったからだ。
MPがある限りいくらでもワープし放題ということは、雲から雲へ移動し放題だし、落下したって簡単に復帰出来る。
まさに空中戦の申し子とも言えるスキルだった。
でも、もう【ワープアロー】はスキルではなく、3分間のクールタイムが存在する奥義だ。
乱発出来ない以上、空中での機動力はあの頃の俺よりも劣っている。
突進を連発されると苦しい戦いになるな……。
それでも今はとにかく攻撃を……!
「なっ!? また戻ってくるのか!?」
風雲神竜はさらに方向転換!
ぐう……っ! 間に合うか!?
その時、突如飛来した黄金と紅蓮の物体が風雲神竜の横腹に直撃した。
風雲神竜はうめき声をあげながら吹っ飛び、雲の繭を突き破って外へと消えた。
「ガー! ガー!」
ガー坊が近くの雲に着地する。
さっきの紅蓮の物体はガー坊の【
そして、黄金の物体はエイティが発射した【ムーンキャノン】!
そうだ、俺は1人で戦っているわけじゃないんだ。
確かに【ワープアロー】が奥義になったのは見過ごせない点ではある。
でも、それを考慮しても俺はあの頃の俺とは比べ物にならないほど強い!
10倍……いや、100倍と言っても過言ではないかもしれない。
だって、あの頃はレア装備やユニゾンは当然として、奥義すら持っていなかったのだから!
何を弱気になっていたんだろう。
なぜ回避することばかり考えていたんだろう。
今の俺なら……俺たちなら、正面から風雲神竜とぶつかり合えるのに。
「仕切り直しだ。ここからは強気でいくぞ!」
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