After Data.44 弓おじさん、雲の繭
シャアァーーーーーーーーーーーーッ!!
「うおっ!?」
雲の繭を目指すアルテミス号の真横を何かが通り過ぎた。
速い……! 速すぎてその正体がまったくわからない!
何者かからの攻撃なのか、それともモンスターなのか……。
ただ、あの速度でバルーンに衝突されたら確実に大穴が空く……!
シャアァーーーーーーーーーーーーッ!!
まただ。繭の方から何かが飛んで来ている……!
相変わらずかなり速いが、飛んでくることがわかっていればギリギリ目で追える。
それに飛んでくる方向がハッキリしたのも大きい。
目を凝らすべきは……正面だ!
「むっ! 風神裂空!」
放たれた超高速の矢が、船の正面に飛んで来ていた何かを貫いた。
その正体は……小型の竜『ダーツ・ドラゴン』!
まさにダーツのごとく突進し、尖った頭で対象を貫くモンスターのようだ。
ただ、HPや防御は相当低いようで、急所を貫かないと大きなダメージが出ない【風神裂空】をしっぽに当てただけで撃破出来た。
これならもっと簡単に仕留める方法がある……!
「ガー坊、
「ガー! ガー!」
奥義【
口から放たれる電気によって船全体を守る『電気のカーテン』を生み出す。
難しい命令だったが、ガー坊は理解してくれたようだ。
耐久力が低いダーツ・ドラゴンは電気に触れた時点で大きくHPを削られる。
いくら高速で飛んでこようが、ゲーム側のダメージ計算より速いということはない。
ちゃんと1匹残らずアルテミス号に衝突する前に撃破されていく。
電気のカーテンはMPの消費が激しいから長くは維持できないが、その前に雲の繭に到着すれば問題はない。
「エイティ、最大船速だ!」
「ヴルル……ッ!」
加速するアルテミス号。
しかし、その進路を阻むようにまた新たなドラゴンが現れた。
今度はダーツ・ドラゴンより大きい中型種『ストーム・ドラゴン』だ!
ブオォォォーーーーーーーーーーーーッ!!
ストーム・ドラゴンは体に対して異常に大きな翼を羽ばたかせ、暴風を巻き起こす。
そのすさまじさ……アルテミス号が前に進めなくなるほどだ!
いや、それどころか吹き飛ばされる危険性もある!
「エイティ、ブリザードブレス!」
エイティの口から吐き出される吹雪がストーム・ドラゴンの暴風とぶつかる!
しかし、これだけでは不十分! 俺も加勢する!
「ブリザードストリーム!」
両腕の『Aイエティガントレット』から発生する吹雪がエイティのものと混ざり合い、ストーム・ドラゴンの暴風を押し返す!
ストーム・ドラゴンは吹雪の中に囚われ、その大きな翼が凍りついていく!
もはや風を起こすどころか、飛ぶことも出来まい!
後は適当に攻撃をぶつけて撃破完了!
「なんとか対応出来てるとはいえ、なかなか厄介なモンスターが多いな……」
これが中ボスならまだしも、ストーム・ドラゴンはただの通常モンスターだろう。
スカイシップを守りながら戦わなければならないことを考えれば、下手な中ボスよりもここのドラゴンたちの方がずっと厄介だ。
ただ、強いモンスターはそれだけ良いものを落とす。
以前、入道鮫と戦った時のように、甲板にはドロップアイテムを収納する宝箱が現れた。
その中に入っていたのは『ウィンド・メタル』と『ウィンド・レザー』。
どれも風雲装備を修理するために必要なのに、なかなか見つからなかった風属性の素材だ。
やはり……いるのだろう。
あの雲の繭の中には、風雲竜を超える何かが……!
そして、ドラゴンたちはそれを守る守護者だ。
彼らを倒すことでも風雲装備の修理に大きく近づく。
「目標は変わらず雲の繭だ!」
近づけば近づくほど、ダーツ・ドラゴンやストーム・ドラゴンも増えてくる。
ダーツ・ドラゴンは早めに発見し、完全に加速しきる前に矢で撃ち抜く。
ストーム・ドラゴンは翼が大きいから目立つし、これもまた近づかれる前に撃破を心がける。
存在するであろう強敵の前に、俺の弓の腕は冴えわたっていた。
「いよいよ、といったところだが……」
雲の繭は眼前に迫っていた。
大きい……! 空中要塞なんて比じゃない!
中に城でも入ってるんじゃないか……という冗談は置いといて、ここまで接近したのに中から何も出てこないのが気がかりだ。
前の時は風雲竜が勝手に繭を突き破って出て来たからなぁ。
もっとギリギリまで接近すれば、何か動きがあるのだろうか?
「エイティ、もう少し繭に寄せてくれ」
「グルル……グゥッ!?」
エイティがうめき声を上げる。
さっきまで自由自在に動かせていた操舵輪が、まったく動かせなくなったようだ。
同時に強い風が吹き始め、アルテミス号全体がガタガタと揺れる……!
「風だ……。風に捕まった! どんどん雲の繭に引き寄せられてる……!」
戦いたければお前の方から入ってこい……ということか。
相手の土俵で戦うのは本来好ましくないことだが、思えば前の戦いだってそうだった。
虎穴に入らずんば虎子を得ず……。
竜の力を得たくば竜の巣に入るしかない!
「このまま風に船を任せる! 全員戦闘配置だ!」
アルテミス号は雲の繭の中に吸い込まれていった。
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