After Data.33 弓おじさん、紅白装備完成
「ふー! ここまで来てやっと一安心だなぁ」
無事火山を下山した俺たちは、山から一番近い村に入った。
村や街にモンスターが入ってくることはない。
文字通り安全地帯まで帰ってくることが出来たというわけだ。
「それにしても、かなり厳しいボス戦だったな。地形が安定していない火口付近からのスタートなのに、そこから逃げるともう1体のボスと衝突してしまうなんて……。今回は3人いたから勝てたけど、ソロだったら今まで戦ったボスの中でも屈指の難易度になったと思う」
「そもそもあの仕様のボス戦は3人以上のパーティにしか発生しないからな」
「えっ!? そうなの……?」
「そうだ。2人以下のパーティだと火山でイフリート、雪山でウェンディゴと個別に戦うことになる。戦闘空間もそれぞれの山の範囲までに限定され、背後からの奇襲を気にせず戦うことが出来る。まあ、両方の山の山頂まで登る必要があるから、同時に戦うより少し移動時間が必要になるが、難易度はグッと下がるだろうな」
「なるほど……」
聞いた瞬間は少しビックリしたが、冷静に考えると納得の仕様だな。
あの2体を1人や2人で相手をするのはちょっとしんどすぎる。
それより、俺は今の会話の中で気になる点があった。
「ネクスって、その情報を含めた敵の情報を知りながら、あれだけ上手に知らないフリをして戦ってたのかい? なんか急激に演技力が上がったような……」
「いや、戦闘の段階では知らなかったぞ」
「あっ、つまり、戦闘後にデータを読み込んだのか」
「それも少し違うな。私は戦う前からデータを知っていたが、戦う時はそれに関するデータを思考からスッパリと排除して、戦闘終了後に再び読み込むようにセットしていたのだ。我々はAIなのだから、人間と違って考えないようにするべきことは、本当に考えないように出来る。その利点を生かしてみようと思った。ふふっ、これくらいのこと……他のAIはすぐに思いついて実行しているのだろうがな」
「そうだとしても、自分で考えて答えにたどり着いたことに意味があると思う。昔のAIは与えられたデータを覚えて学習するのが普通だったけど、この大VR時代のAIは勝手に学んで成長するような子が多いみたいだからさ」
「自己学習、自己進化くらい出来ねばAIは務まらん……か」
ピピピピピピ……ッ!
その時、ネクスからアラーム音が聞こえた。
「おっ、運営からの呼び出しだな」
「ま、まさか、俺が何かまずいことをネクスにさせてしまったとか……?」
「違う違う。事前に決まっていたミーティングがもうすぐ始まるという合図だ。実装間近の新要素と構想段階の新イベントについてのミーティングがな……!」
「それは……プレイヤーに言ってしまっていいの?」
「あ、うーむ、新要素の方は告知が出ているので問題ないし、構想段階の新イベントというのも問題は……ない! 運営なのだから常に新イベントの構想くらいしているとみんな知っているだろうからな。重大なネタバレはしていない!」
「確かに……!」
「では、私はここで失礼する。今回の冒険……大変良い経験だった。楽しかったぞ」
「それは良かった。楽しさこそゲームで最も喜ぶべき経験さ。また機会があれば一緒に戦おう」
「ああ、ありがとう」
ネクスは炎に包まれて消えた。
相変わらずこの特殊ログアウト演出はカッコいい。
プレイヤーにも特殊なログアウト演出を実装してくれないか、今度頼んでみよう。
「さて、残された俺がやるべきことは1つだ……!」
戦利品のチェック……!
今回の冒険ではイフリートから『Vイフリートシューター』、ウェンディゴから『Aウェンディゴヘルム』をゲットしている。
早速、その性能を見ていこう。
◆Aウェンディゴヘルム
種類:頭部<ヘルム> HP:90 MP:40
武器奥義:【雪崩力充填】
【
この奥義発動後に行われる最初の攻撃に属性『雪崩』を付与し、その攻撃の威力を50%上昇させる。
クールタイム:3分
『属性『雪崩』は属性『氷』の上位属性です。属性『氷』にとって不利な属性相性をすべて無効化し、有利としている属性へのダメージは3倍になります』
ふむ、ステータスはMPよりHP寄りという点以外特に注目すべきところはない。
武器奥義の【
気になる点といえば……装備のデザインだ。
デカイ……! とにかくデカイ鹿のような角が生えている!
頭部から上に向かって伸びているので視界を遮ることはなく、弓を撃つ動作に干渉することもないが……これはちょっと存在感がありすぎる……!
あと、結構重い!
首が痛くなりそう……というほどではないし、見た目のゴツさの割には軽い方だと思う。
しかし、俺が今まで装備してきた頭部の防具は、風のように軽い襟巻だった。
そっちと比べてしまうと、金属製の西洋兜にデッカイ角を生やした物はどうしても重く感じてしまう……!
「何とか角だけでも小さく出来ないものか……」
そうつぶやいた瞬間、頭が少し軽くなった。
ヘルムを外してみると、角がかなり小さくなっていた!
これでも街中を歩けば目立つ気はするが、十分常識の
そういえばネココも戦闘時以外は武器の爪を短く引っ込めていたような……。
案外こういう融通の利く装備は多く存在するのかもしれないな。
「伸びろっ!」
命令一つで角は元に戻るようだ。
この伸びる勢いは攻撃にも使えそう……と思ったけど、この角で戦わないといけない状況って思いつかないな……。
気を取り直して、次はいよいよ弓をチェックだ!
◆Vイフリートシューター
種類:両手武器<弓> 攻撃:180 射程:40
武器奥義:【ツインジェットスチームアロー】
【ツインジェットスチームアロー】
発動時、弓を2つに分離させて両腕に装備する。
30秒間蒸気の力で爆発的に加速する矢を何度でも放つことが出来る。
クールタイム:2分
やはりVシリーズは攻撃寄りのステータス……!
わかりやすくて結構なことだ!
逆に武器奥義はよくわからないぞ……!
発動後に弓が2つに分離する……?
30秒間矢を何度でも放つことが出来る……?
なんだか、今までの奥義とは仕組みが違うようだ。
とりあえず、わからないスキル奥義は実際使ってみるに限る。
でもその前に……もう1つ新しいものをチェックしなければならない。
それはシリーズ装備のセット効果によって与えられる『新たなる何か』だ!
かつて風雲装備をすべて装備した時に奥義【裂空】を授かったように、今回もシリーズ装備をすべて装備した時に『何か』が与えられる可能性は高い。
そう思って俺はまだ『Vイフリートシューター』を正式に装備スロットにセットしていない。
だが、心の準備は整った……!
「これで紅白装備の完成だ!」
俺は武器スロットに『Vイフリートシューター』をセットした!
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