After Data.32 弓おじさん、巨獣大激突

 ……まあ、冷静に考えるとアイテムの名前が『巨大化石ビッゲストーン』で、その効果が『巨大化』ならば、やることは1つしかあるまい。

 誰かが巨大化して、合体巨人と戦うんだ!


 おそらく、そこまで厳しい戦いにはならないだろう。

 巨大化した怪人はすぐに倒されると相場が決まっている。

 正直、俺たちの中の誰が巨大化しても勝てる気がする。

 だがしかし、このゲームは特撮ヒーローものではないので、巨大化怪人が本当に強い可能性も十分に存在する。


 ここは一応真剣に巨大化させる対象を考えておくべきだろう。

 まず俺は……向いてないな。

 相手は100メートル級の巨人だが、俺にとって100メートルは攻撃できない距離ではない。

 地上からでも十分頭部を狙ってダメージを与えられる。

 それに巨大化した者同士のバトルというのは必ず格闘戦になる。

 射程極振りの強みが死んでしまうので、やはり俺を巨大化させるのはなしだろう。


 エイティは一応格闘戦も出来るが、やはりそこは『ビッグフットキャノン』。

 本来は後方支援を得意とする種族だ。

 ロボでも『キャノン』と名の付く機体は格闘戦に向いてないイメージがある。

 たまに分厚い装甲を生かして殴りかかるロボとかもいるけど……。


「……うん、ここはネクスが巨大化するのが一番いいかもしれない。武器も刀だし、一番接近戦に向いてると思う」


 真剣に考えるまでもなくこれが答えだったな。

 戦闘経験が少ないネクスでも、この答えには簡単にたどり着いただろう……と、思いきやネクスは何だかうつむきがちでソワソワしている。


「な、なにかマズかったかな……?」


「マズイことは……ないとは言えないが、絶対に無理というわけでも……ない、こともない。いや、その、スカートだから……」


「あっ……!」


 俺はなんてデリカシーのない提案をしてしまったんだ……!

 スカートの女の子が巨大化なんて出来るわけないだろ!

 くぅ……! 何が真剣に考えるまでもなくこれが答えだ……だ!

 真剣に考えれば真っ先に捨てるべき答えだった……!


「すまない! 今の提案はなし!」


「いいや! 勝つために必要なら甘んじて受け入れるぞ! 赤いタイツをはいているから、直に見えるわけでもないし……」


「エイティ! 頼めるか!?」


「ヴルル……ッ!」


「よしっ! 巨大化石ビッゲストーン、発動!」


 ネクスの言葉を振り切り、俺はエイティに『巨大化石ビッゲストーン』を使用した。

 すると、みるみるうちにエイティは巨大化!

 あっという間に100メートル級の巨大UMAへと変貌を遂げた!


「頑張れエイティ! 俺も地上からサポートを……」


 ドッゴオオオオオオオオオオオオッ!!


 いきなりの砲撃音!

 エイティが零距離ムーンキャノンをぶっ放したのだ!

 砲撃で接近戦とは恐れ入る……!

 合体巨人はぐらりと態勢を崩し、仰向けに倒れ込む!

 その衝撃で地面が揺れて、俺とネクスの体が宙に浮く!


 エイティはすかさず追撃に入る。

 両足で跳躍し、落下の勢いと体重を乗せて合体巨人を踏みつけた!

 あれは……【スノースタンプ】!

 敵を両足で踏みつけると同時に雪の衝撃波を発生させるスキルだ!


 巨大化中はスキルの効果も巨大化する。

 つまり、雪の波は雪の大波となって俺たちに襲い掛かる……!

 しかし、特別なイベントでもない限り同じパーティの仲間に攻撃は通らない。

 よって俺たちにダメージはなかったが、少しの間雪に埋もれることになった。


 そして、雪の中から脱出した時にはすべてが終わっていた。

 やはり巨大化怪人は即撃破される運命……。

 HPゲージが0になった合体巨人が消滅すると同時に、赤と白の光が俺のもとへと飛んで来た。


 白い光の正体は、雄々しい角が生えた白銀の頭部防具『Aウェンディゴヘルム』。

 赤い光の正体は、脈打つように赤々と輝く鉱石『火成武錬岩かせいぶれんがん』。

 あれ? 防具は全部そろったけど武器はないのか?


 ……いやいや、そんなことはなかった。

 この『火成武錬岩かせいぶれんがん』は使用することでそのプレイヤーが望む種類の武器へと変化してくれるらしい。

 防具はプレイヤー共通でも、武器は人によって全然違うからな。

 これは嬉しい配慮だ。


「俺が望む武器は……もちろん『弓』だ!」


 俺の言葉を受けて、赤い鉱石の形がみるみる変わっていく……!

 そうして出来上がった弓の名は『Vイフリートシューター』!

 第一印象は……まさに燃え盛る炎そのもの!


 荒々しいけど、どこか引き込まれるような温かみのある色合いと形状は、持っているだけで心を熱くさせるような力強さがある!

 風に吹かれて流れゆく雲のような自由さと身軽さを持っていた『風雲弓』とはまた違う自然の力を感じさせる逸品だ!


「どうやら、目的は果たせたようだな」


「ああ、ネクスのおかげさ。もちろん、エイティもね」


 ボス戦が終了したため『戦闘空間』が解除される。

 同時にエイティの巨大化も解除され、普段のサイズに戻ったエイティがホバー走行でこちらに戻ってくる。

 今すぐに勝利を喜んだり、戦利品をチェックしたいところだが、まずは近場の村に向かおう。

 ボスを倒しても通常のモンスターは出てくるし、油断しているところを攻撃されたらたまったもんじゃないからな。


「私も村まで同行しよう。いろいろ話したいこともあるのでな」


「ああ、安全なところに帰るまでが冒険だからね」


 こうして、俺たちは火山と雪山が並び立つ奇妙な双子山の冒険を終え、帰路についた。

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